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「よし、健康のために運動を始めよう」、「いつもより30分早起きして読書しよう」など、新しい習慣を取り入れようと思ったのに、続けられずやめてしまった……誰でも1度は、そんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。
そして、「ああ、また3日坊主になってしまった」と自分のことを嘆くことになるのです。
私自身にも同じような「3日坊主経験」があるのですが、最近、ふっと腑に落ちる発見があり、「続ける」ことが楽になりました。
今回は、2つの心理的アプローチから得たこの体験を皆さんと共有できたらと思っています。

新型コロナウイルスの影響が出始めてから、毎週、土曜日か日曜日の朝、オンラインで30分のマインドフルネスのセッションを開催しています。
マインドフルネスとは、「今ここでの体験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向ける」状態を指します。
(マインドフルネスについて詳しく知りたい方はこちら)

 

この4月にはちょうど1年で50回のセッションを迎え、今もまだ続けています。
このセッションの中で、ほぼ毎回行っているのが呼吸に注意を向けるマインドフルネスのワークです。
さまざまにバリエーションのあるマインドフルネスのワークの中でも、もっとも基礎的なものです。
理由はシンプルで、呼吸というのは私たちが絶え間なくしている身体活動のひとつなので、呼吸に注意を向けるだけで、自然と「今ここ」に注意を向けることができて、マインドフルネスを実践しやすくなるのです。

この呼吸のワークのときに強調しているのが「注意のシフト」です(図)。
どんなに呼吸に一点集中で注意を向け続けようとしても、どこかで注意がそれる瞬間がやってきます。
周りで何か音がしたり、気がかりなことが浮かんできたり。
そのときに、「ダメだ、集中しなければ」、「ワークがうまくできていない」と考えるのではなく、注意がそれたことに気づいたら、気づいたところからまた呼吸に注意を向けなおせば大丈夫、と説明しています。
これが「注意のシフト」です。
注意がそれたとしても、また注意を向けなおして、「今ここ」を目指し続けること。
呼吸に注意を向けるワークに限らず、マインドフルネスの実践において大事なポイントだと考えています。

もうひとつ、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)という心理療法があるのですが、ACTの中では、自分の人生にとって大事なこと(価値)を見つけて、それに沿った行動をとり続けることを支援していきます。
(ACTについて詳しく知りたい方はこちら)*

たとえば、私にとっての価値(人生の中で大事にしたいこと)のひとつは、「美味しく食事をとること」です。
単純に食べることが好きだから大事、というだけでなく、「美味しいものを美味しいと感じられる身体的にも精神的にも健やかな状態」という意味をこめていて、自分の幸せや満足度のバロメーターのひとつになっています。
「ダイエットして3キロやせる」といった目標と違って、達成したから終わり、ということはなく、生涯目指し続ける軸のようなものです。

ただ、「美味しく食べられる健やかな状態」でいるために食事の適正量を心がけたり、運動しようとしても、食べ過ぎてしまう日が続いたり、悩みごとが出てきたりして、時に、その軸から外れてしまうこともあります。
雨が降っているからランニングできない、といった現実的な障害もありますが、もっとやっかいなのは、「今日くらい食べ過ぎてもいいかな」、「走りに行くのがめんどうだな」といった自分の心の中の障害だったりします。

こんな心の中の障害があるとき、皆さんはどうしますか?
多くの場合、障害を乗り越えるため、打ち勝つために対策を講じようとするのではないかと思います。
ところが、ACTでは全く異なる方法をとります。
障害をどうにかしようとするのではなく、その障害すらも「アクセプト(受容)」します。
そして、再び価値を大事にする行動をとる、ただそれだけです。

この2つに共通しているのは、「外れても、目指し続けること」です。
ここに「続ける」ことの極意があるのではと気づいたのです。
私たちは3日坊主になったとき、「自分は継続することが苦手」、「何をやっても続かない」といった具合に、自分のことを責めてしまいがちです。
責められるとエネルギーが奪われるので、新しいことを始めたり、健康的な習慣を取り入れることに対して、ますます抵抗感が増したり、苦手意識ができてしまいます。
けれど、「外れても、目指し続ければ大丈夫、目指し続けることが大事」という前提に立てると、落ち着いた気持ちで、新しい習慣を始められます。
そして、時に道をそれたとしても、またいつでも、どこからでも、私たちは自分の大事なものを目指し始めることができるのです。

【参考文献】
・Kabat-Zinn, J.(1990). Full catastrophe living: Using the wisdom of your mind to face stress, pain and illness. New York, NY: Dell.
・Hayes, S. C., Strosahl, K., & Wilson, K. G. (1999). Acceptance and commitment therapy: An experiential approach to behavior change. New York: Guilford Press.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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