「医食同源」という言葉は、漢字の並びから何となく食や健康に関係しそうだというイメージが思い浮かぶかもしれません。規則正しくバランスの良い食事が、病気の予防や健康にとって重要であることを示す言葉といえます。
今回は、「医食同源」という言葉の意味や、その由来である「薬食同源」、これらの根本に共通する「五味」について詳しくお伝えします。
医食同源とは
食や健康に関係しそうな「医食同源」という言葉を、メディアなどで見かけたことがある人も多いかもしれません。広辞苑によると、医食同源とは「病気をなおすのも食事をするのも、生命を養い健康を保つためで、その本質は同じだということ」と記されています。
漢字の並びから、中国の古い言葉が日本に伝わったように思われがちですが、実はこの言葉は日本で生まれた造語です。1972年、臨床医であり料理学校の校長でもあった新居裕久氏がテレビ番組で紹介したのが、日本での「医食同源」という言葉の始まりでした。「薬(生薬)も食も同じ源、日常の食事で病気を予防、治療しましょう」という思いからこの言葉が使われたといいます。※1、2
一方、古代中国の考え方としても「食」を重要視していたことは、当時の医師の序列を見ると明らかです。周王朝時代の習慣や制度について述べた『周礼』という書物によると、4つある医師の位のなかで、調理や食事の管理を行っていた「食医」が最高ランクだったそうです。つまり、古代中国では食事による治療を大切にしていたと考えられます。なお、食医に次ぐのは内科系医師である「疾医」、次いで外科医である「瘍医」だったといいます。※2
医食同源のもととなった薬食同源
医食同源という言葉を生み出した新居裕久氏は、「薬食同源」という言葉の「薬」を化学薬品と誤解されることを避けるために「医」に変えたといわれています。※3
「薬食同源」という言葉には、体を健やかに保ち、命を養うためには、薬も食も源は同じ、つまり健康な体の根本は食であるという考えがあります。「食養生」といえばわかりやすいかもしれません。※4
食べ物には特有の性質があり、それがもたらす作用があるというのは、漢方にも共通する考え方です。漢方に興味のある方はご存知かもしれませんが、ここでいう作用には、冷やす「寒」、温める「温」、冷やしも温めもしない「平」があります。例えば、お酒を飲み過ぎたときの酔い覚ましとして、梨や柿を食べることがあります。これは「温」であるお酒を飲み過ぎたのに対し、「寒」である梨や柿を対応させたということになります。※4
そしてもうひとつ、季節に合った食材を食べるのがよいという考え方もあります。つまり「旬の食材を食べること」であり、春は芽、夏は葉、秋は実、冬は根の食材がこれに当たります。※4
春ならタラの芽やタケノコ、夏はレタスなどの葉物野菜、秋は果物、冬はダイコンやレンコンなどがよいでしょう。その季節に旬を迎える食材を食べると、体にとって良い効果がもたらされるといわれています。
薬膳という言葉の由来
医食同源と同じくらいよく知られている言葉に「薬膳」があります。現在の日本で浸透している薬膳は、長い歴史のなかで認められてきた食材や香辛料などの効能を応用した料理を指します。中国の古い文書にも「薬膳」という言葉の記録はありますが、当時は現在とは異なり、煎じた薬を配膳する意味として使われていました。現在のような体に効き目のある料理という意味で使われるようになったのは、1982年に出版された料理レシピ本が始まりだったようです。※5
医食同源と薬食同源の根本にある「五味」
薬食同源や医食同源に共通する根本的な考え方に「五味」があります。五味とは食べ物の持つ味と性質を、すっぱい(酸)、にがい(苦)、あまい(甘)、からい(辛)、しおからい(鹹)の5つに分類したものです。五味にはそれぞれ体に対する作用があり、「五臓を補う」とされています。それぞれの味が対応する体の部位は下記の通りです。※4、6
五味 | 体に対する作用 | 五臓 |
---|---|---|
酸 | 収斂作用 | 肝臓、胆嚢、目 |
苦 | 消炎・堅固作用 | 心臓 |
甘 | 気持ちの緩和、滋養強壮作用 | 脾臓、胃 |
辛 | 発散作用 | 肺、鼻、大腸 |
鹹 | 和らげる作用 | 腎臓、膀胱、耳、骨 |
この五味に、旬の食べ物が持つ性質を組み合わせて生薬や日々の食事に用い、健康な体を作ろうというのが「五味論」です。
古代中国では前述したように、最高位にあった「食医」が王の食事全般を管理していました。食位は、健康増進と食中毒予防を担う医師だったといわれており、特にこの五味論と季節の食材を重視していたとされています。『周礼』には「春には酸を多く、夏には苦を多く、秋には辛を多く、冬には鹹を多く、調うに甘」と記されているほか、食医に次ぐ疾医や瘍医も五味を大事にするようにと記されているそうです。※7
栄養バランスの良い食事とは
現代においては、医食同源・薬食同源や五味をどのように生活に取り入れるのがよいでしょうか。
私たちの体は、私たちが食べたり飲んだりしたものからできています。体を健康に保つためには、体に良いとされる栄養素を1つ(1種類)だけ食べていればいいわけではありません。栄養バランスの良い食事を意識して、規則正しく摂ることが大切です。
五大栄養素とは
私たちの体に必要な栄養素は、五大栄養素とよばれる炭水化物、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンがあります。それぞれのはたらきと主な食材は下記の通りです。※8
栄養素 | はたらき | 多く含む食材 |
---|---|---|
炭水化物 | エネルギー源になる | 米、パン、麺類、いも など |
脂質 | エネルギー源になる | 油脂類(バターやマーガリン) など |
たんぱく質 | 体をつくる | 肉、魚、卵、大豆製品、牛乳、乳製品 など |
ミネラル | 体の調子を整える | 海藻、小魚 など |
ビタミン | 体の調子を整える | 野菜、果物 など |
これらの栄養素のはたらきが複雑に関連しあい、健康が保たれています。うまく組み合わせて食べることはもちろんですが、栄養素が必要十分にはたらくためにも、規則正しく毎日決まった時間に必要な量の食事を摂ることが大切です。なお、過剰に摂取して余分になった栄養素は体の中に溜まっていき、さまざまな病気を招くことにもなりかねません。※9
「食事バランスガイド」の活用
そこで活用したいのが、「食事バランスガイド」です。厚生労働省および農林水産省が平成17年に作成した、「何を」「どれだけ」食べたらよいのかわかりやすく示されているツールです。1日に必要な食事量(エネルギー)を、一つひとつの食材のカロリー計算をせずに、食事全体の栄養バランスを知ることができます。食材ではなく料理の状態で示されているためわかりやすく、1日摂取量目安が多いものから「主食」「副菜」「主菜」「牛乳・乳製品」「果物」の料理区分で示されています。なお、エネルギー必要量は人によって異なり、性別や年齢、身体活動レベルによって3段階で分けられていますので、個々に合わせて活用してみましょう。※10
ただし、食事バランスガイドは健康な人を対象にしていることに注意が必要です。食事管理が必要な方や特定の疾患がある方は、医師や管理栄養士などに確認し、ご自身の体にあった食事を摂るようにしましょう。※11
私たちの体は食べたものでできている
「医食同源」には、医(薬)も食事も源は同じ、いつもの食事で病気を予防、治療する、という意味がありました。そして、食材にはそれぞれの味や作用する体の部位があり、食材の旬を意識すると体にとって良い効果が期待できるのです。
この記事をきっかけに、みなさんが普段の食事を少しでも見直すきっかけになれば幸いです。
参考資料
※1 吉元勝彦. (2009) 日本で生まれた言葉 “医食同源”. NPO法人医師東京臨床糖尿病研究会MANO a MANO. 75.p1.
※2 北里大学北里研究所病院. 漢方よろず相談 漢方医学の基礎Q&A ~漢方のここが知りたい~. 「医食同源」は日本での造語.
※3 真柳誠. (1998) 医食同源の思想-成立と展開. しにか. 9(10). 72-77.
※4 一般社団法人 岐阜県薬剤師会. (2017)薬食同源と漢方の食養生. 薬包紙. 58.
※5 真柳誠. (2016) 医食同源の由来:古典籍にみる論理と歴史. 漢方と最新治療・25(3).
※6 とやま健康パーク. 健康づくり情報 健康ポケットカード. 医食同源.
※7 津金昌一郎(編). (2010). 「医食同源」―食とからだ・こころ. ドメス出版
※8 農林水産省. 実践食育ナビ. 食事バランスガイドと従来の分類法との関連.
※9 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター. 患者の皆様へ. 栄養に関する基礎知識.
※10 厚生労働省 e-ヘルスネット. 食事バランスガイド(基本編)
※11 厚生労働省 e-ヘルスネット. 食事バランスガイド(実践・応用編)