週末の朝にマインドフルネスのオンラインセッションを主催し始めて1年半が経ちます。

始めるきっかけになったのは、新型コロナウイルスの影響が広がり始めたことでした。

新型コロナウイルスの影響下では、感染拡大に応じて柔軟な対応が求められる状況が続いています。

先の見通しを立てづらく、不安になりやすくなったり、思い通りに事が運ばず、落ち込むことが増えたり……。

そんな中で、不安や落ち込みに振り回されず、穏やかな心を持ち続けるために、マインドフルネスを始めるきっかけづくりや継続のサポートできたらな、という想いで始めたのでした。

マインドフルネスのプログラム

2020年4月11日に第1回を開催してから1年後の今年の4月10日には、ちょうど50回目の開催を迎え、参加してくれる皆さんのおかげで、今なお、続けられています。

1カ月のプログラムを次のような目安で考えています。

 

第1週:マインドフルネスの定義を体験的に理解するワーク

第2週:呼吸や身体感覚に一点集中する集中瞑想のワーク

第3週:呼吸、身体感覚、思考、感情、記憶などを観察する観察瞑想のワーク

第4週:日常に取り入れやすいマインドフル・イーティングなどのワーク

第5週:思いやりや感謝など少し発展したテーマのワーク

 

ふらっと時々参加しても、初めて参加しても大丈夫なようにしていますが、毎週欠かさず参加してくださる方には、少しずつ難易度が上がったり、普段の生活で活用しやすいようにとプログラムを組んでいます。

 

週末のセッションでも、ときどき話をするのですが、マインドフルネスの状態を目指して行う瞑想は大きく2種類に分けられます。

集中瞑想(Focused Attention)

ひとつは、集中瞑想(Focused Attention)と呼ばれるもので、呼吸など一つの対象を決めて、注意を一点集中する方法です。

途中で呼吸以外のところに注意が向いたり、別のことを考えていたり、注意がそれていることに気づいたら、気がついたところから、呼吸に注意を戻していくように教示します。

注意を持続させること、そして、注意をシフトさせるトレーニングとも言えます。

仏教の世界ではサマタ瞑想と呼ばれているそうです。

サマタ瞑想を実践する僧侶の脳画像を調べた研究では、前頭前野の活動が広い範囲で抑えられる中で、注意制御に関係する前帯状回の背側部だけは活動を続けていることがわかっています。

 

観察瞑想(Open Monitoring)

もうひとつは、観察瞑想(Open Monitoring)と呼ばれるもので、そのときどきの呼吸、身体感覚、外界で起こることに反応して出てくる思考、感情、五感を含む知覚など、その瞬間瞬間あらわれる心の動きを評価も判断もせずにただ観察し続ける方法です。

こちらは注意を分割するトレーニングとも言うことができて、さまざまな対象にまんべんなく注意を向けていくので、最初はかなり難しく感じられます。

仏教の世界ではヴィパッサナー瞑想と呼ばれているそうです。

最終的に目指していくマインドフルネス状態は、日常の生活の中での観察瞑想の実践で、さまざまな出来事を経験しながらも(時に不安になるようなことや落ち込むような出来事が起きたとしても)、自分の心の動きを観察し続けられるようになることです。

ヴィパッサナー瞑想を実践する僧侶の脳画像を休息時の脳画像と比較したときに、前頭前野や前帯状回に変化があまりみられないという研究結果が出ているのも、観察瞑想が日常生活での実践と近いためと考えられます。

 

ちなみに、スリランカ出身の僧侶アルボムッレ・スマナサーラによると、ヴィパッサナー瞑想に必要な3つの条件として、ノンストップで実況中継し続けること、スローモーション、身体の感覚を感じることが挙げられているそうですが、これは私の実感ともピタリとはまります。

マインドフルネスに取り組み始めて実感している効能には、不安になったり落ち込むような出来事があっても落ち着いて対応できるということに加えて、幸せな時間が「あっと言う間ではなくなった」というものがあります。

まさにスローモーションのように、時間が過ぎていくのです。

ひとつの瞬間に味わう体験の密度がみっしりとして豊かだからでしょうか。

こんな隠れた効能もあるマインドフルネス。

取り組んでみたい、トレーニングを続けていく、という人は、この2つの瞑想法の違いにも着目して、日々の実践を行ってみるのもおすすめです。

 

【参考文献】

Manna A, et al. (2010). Neural correlates of focused attention and cognitive monitoring in meditation. Brain Research Bulletin 82, 46-50.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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