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このところ、こんな風に声をかけられることが増えました。

 

「鬼滅の刃、見ました?まさにマインドフルネスですよ!」

「全集中の呼吸、知ってます?」

 

あまりにも話題にのぼるので、ついにアニメのシーズン1を一気に見てしまいました。

マインドフルネスに通じる全集中の呼吸はもちろんのこと、その他にも、セリフや主人公の心の動きの中に、コンパッションや共感性を彷彿とさせるシーンがちりばめられています。

思わず顔をそむけたくなるような残酷なシーンもありますが、これだけ多くの人が魅了されるのは、もしかしたら、「鬼滅の刃」の世界観の中に、ニューノーマル時代の心のあり方や、求められるものが映し出されているからかもしれません。

主人公炭治郎のセリフに「頑張れ!人は心が原動力だから。心はどこまでも強くなれる!」というものがありますが、このセリフの通り、心のあり方についての要素がさまざまに含まれています。

今回は、「鬼滅の刃」のシーン・セリフから、マインドフルネス、コンパッションをはじめとする人生の困難に立ち向かうのに役立つヒントを見てみましょう。

(ネタばらし要素はないと思いますが、マンガやアニメと合わせると、なるほど!と読んでいただけるかと思います。)

 

まず、全集中の呼吸。

主人公炭治郎を育てた鱗滝さん曰く、「上半身はゆったり、下半身はどっしり構えて、すみずみまで酸素を送り込む」イメージで呼吸に集中します。

マインドフルネスでも、指先まで空気をめぐらせるイメージで呼吸に集中して、意識は鮮明だけれど、身体はリラックスした状態でいることで、パフォーマンスが高まると言われています。

また、マインドフルネスでは、「評価や判断をせず、ありのままを見つめること」を重視しますが、「鬼だから悪者」と決めつけずに、目の前の鬼の背後にある物語や感情をありのまま受け止めていく炭治郎のまなざしにもマインドフルネスの要素をみることができます。

この全集中の呼吸を常に続ける「常中」を主人公が習得するために修行に励む場面がありますが、マインドフルネスでも、常にマインドフルであり続けよう、とトレーニングを積みます。

 

そして、もうひとつの要素がコンパッション。

物語の早い段階で、主人公炭治郎は、育手である鱗滝さんから、「この子はダメだ」と見放されてしまいます。

その理由こそが、コンパッションです。

「思いやりが強すぎて、判断が遅い」と言われてしまうのです。

ただ、この思いやりこそが、炭治郎の強さ・強みになっていきます。

戦う相手である死にゆく鬼たちにも、悪者だから死んで当然、と切り捨てるのではなく、鬼になる前に抱えていた悲しみや苦しみに寄り添って、必ず最後に慈悲の心を向ける姿には、コンパッションがあふれています。

炭治郎と戦いを共にする善逸や伊之助にも炭治郎の共感やコンパッションのまなざしが向けられるのですが、獣に育てられ、慣れていない伊之助は、優しい思いやりを向けられると、「ほわほわ」した状態になり、そのあと、「ほわほわさせるんじゃない!」と怒り出します。

けれど、こうして向けられた優しいまなざしは、伊之助を強くしていきます。

自分自身に思いやりの気持ちを向けるセルフ・コンパッションという心理的なアプローチがあるのですが、伊之助と同じように、最初は多くの人は抵抗を示します。

「自分に思いやりの気持ちを向けたら、自分が弱くなったように感じられて、頑張れなくなってしまう気がする」と。

ただ、実際には、「なんで出来ないんだ!」と自分を責め立てて頑張らせるよりも、コンパッションや思いやりをもった関わりのほうが、私たちに前を向くエネルギーをもたらしてくれます。

「鬼滅の刃」の特徴のひとつに、苦しい戦いのとき、窮地に立たされたときの主人公の心情が丁寧に描かれている、というのがあると思います。

マンガでも多くのコマ数が割かれていますし、アニメでも時間がかけられています。

その心の声に、まさに私たちが困難に立ち向かうときのエッセンスがちりばめられていると思うのですが、代表的なひとつを紹介します。

 

真っ直ぐに前を向け!己を鼓舞しろ!頑張れ炭治郎頑張れ!俺は今までよくやってきた! 俺はできる奴だ!そして今日も!これからも!折れていても!俺が挫けることは絶対に無い!

 

このセリフを聞いたときに、困難な状況の中を生き抜いてきた人たちの特徴をまとめた「ハーディネス」という概念を思い出しました。

3つの要素があります。

1つめは、「コミットメント」で、自らが置かれた状況に距離をとるのではなく、深く関わることを指します。

炭治郎も、炭を売っていたそれまでの生活とは全く別の鬼との戦いの世界に目をそむけるでも、逃げるでもなく、いつも「真っ直ぐに前を向いて」飛び込んでいきます。

2つめは、「コントロール」と呼ばれ、置かれた状況に無力感を感じるのではなく、結果になんらかの影響を及ぼすことができるという信念を持つことです。

「俺はできる奴、挫けることは絶対に無い!」と妹の禰豆子が鬼から人に戻る日がくることを信じ続けられるのです。

3つめは、「チャレンジ」で、人生に起こりうる変化を成長の機会だと捉えるスタンスです。

生活が一変した中でも、「己を鼓舞して」、技を習得し、経験を積んで成長していきます。

 

苦しいときには、このセリフの「炭治郎」という部分を自分の名前に変えて、声に出して、自分に言い聞かせるだけでも、パワーがもらえる気がします。

 

臨機応変な対応が求められる令和の時代。

今ここに集中すること、人が本来持つ思いやりややさしさを自分や人に向けること、そして、自分の心を強くしなやかに保つことなど、私たちが今こそ必要としている心のあり方が描かれている。

それも「鬼滅の刃」の人気の秘訣なのかもしれません。

 

 

関連記事:ないものではなく『ある幸せ』に目を向ける

関連記事:「セルフ・コンパッションという自分とのつきあい方-責めることで人は変えられない-」

 

【参考文献】

Kobasa S.C. Stressful life events, personality, and health; An inquiry into hardiness. Am J of Community Psychology, 1979 ; 37 : 1-11.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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