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目標を達成しようとしているとき。

仕事で難しい場面にぶつかったとき。

くじけてしまいそうなとき。

何か失敗をしたとき。

 

皆さんは、どうやって自分に声をかけていますか?

私はつい、こんな風に声をかけてしまうことがありました。

 

「いったい自分は何やってるんだ? もっと頑張れ!!」

「そういうところがダメなんだ!」

「もっと〇〇すべきだろう!」

 

責めることで、奮い立たせて、頑張らせる。

自分で自分の鬼コーチ役をやっているような感じです。

 

けれど、数年前に、「セルフ・コンパッション」という考え方に出会って、気づいたのです。

 

責めることでは人は変えられない。

行動変容は受容からしか始まらないのではないか。

 

セルフ・コンパッションは、ここ数年、ストレスマネジメントやメンタルヘルスケアの領域で注目され、研究の進んできた手法のひとつです。

免疫機能の回復を促すことや抑うつや不安を下げること、幸福感やポジティブ感情を増やすことがわかってきています。

セルフ・コンパッションは、直訳すると、自分への思いやり、もしくは、自分への慈しみ、となりますが、ぴったりとした日本語をあてることが難しく、日本でもそのまま、「セルフ・コンパッション」と呼ばれ、研究されています。

セルフ・コンパッションには、3つの構成要素があります。

1つ目は、「自分への優しさ」という情緒的な反応の部分です。

自分に対して厳しく批判的な態度をとらずに、優しく思いやりのある態度をとることを指しています。

 

2つ目は、「共通の人間性」という認知的な理解の部分です。

人間は、本来、周りの事象によって生かされている存在であることに気づき、周りと同化して苦しみを共有して緩和することを指します。

自分が完璧でなくとも、多くの人も同じように完璧でないことにも思いをはせる、といった感じです。

 

3つ目は、「マインドフルネス」という注意の向け方の部分です。

不快な考えや感情が浮かんだとしても、それに捉われずに、目の前で現実に起きていることに集中することを指します。

 

ハードルの高い目標に向かっているとき、失敗してくじけてしまいそうなとき、自分にやさしく、思いやりのある言葉をかけるところがイメージできますか。

 

「自分にやさしくなんて、それでは頑張れない」

「甘えてしまいそうな気がする」

 

そう思われた方もいるかもしれません。

 

2つの場面をイメージしてみてください。

まず、1つ目は、自分が親しくしている人が困って苦しんでいる、という場面です。

恐らく、その人を批判したり、責め立てたりするのではなく、その人の苦しい気持ちや落ち込む気持ちに寄り添って、慰めたり励ましたりしようとするでしょう。

この、少しでも相手の苦痛をなんとかしたい、苦しい気持ちを和らげてあげたいと自然と湧き起こってくるこの気持ちこそ、コンパッションなのです。

 

次に、自分が困ったり、苦しんでいるときに、親しい誰かが、先ほどイメージの中で自分がしたのと同じように、苦しみに寄り添って、言葉をかけてくれるところを想像してみてください。

なんとか苦痛を取り除こうとしてくれている、その気持ちに触れるだけで、苦痛が少し和らぎ、もう少し頑張ってみようかな、とエネルギーが湧いてくるのを感じませんか。

「なんで、できないんだ!」と責め立てられるより、コンパッションの気持ちで接してもらったときのほうが、うまくいかないことや自分の失敗を、より近くから見る勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

 

私たちは、「人に優しくしなさい」と言われて育ちますが、「自分に優しくする」ことは、ほとんど習うことがありません。

むしろ、「自分には厳しくしなければいけない」と思い込んで育っている部分もあるかもしれません。

過ちを犯したときにも、人を許すように、と諭されますが、自分のことは許そうとはせず、むしろ強く責めようとしてしまいます。

 

人は罰したり、脅さないと頑張らない、という思い込み。

本当にそうでしょうか。

 

まずは、自分の弱いところや失敗を責めて、自分で自分を傷つけるのではなく、受容するところから始めて、親しい人に接するときと同じように、自分に思いやりの気持ちを向けること。

そうすることで、私たちは自分の失敗や自分自身をより近くから見て、次に向かう勇気をもらうことができるのです。

 

私には、ひそかな野望があります。

それは、「世の中から自責をなくす」こと。

自分を責めて、鞭打って頑張らせる、そんな自分とのつきあい方がなくなれば、私たちは、自分以外の誰かのことも、責めて頑張らせたり、変えさせようとすることもなくなるのではないか。

そんな風に考えています。

一緒に、そんな世界に飛び込んでみませんか。

 

【参考文献】

Rockliff, H., Gilbert, P., McEwan, K., Lightman, S., & Glover, D. (2008). A pilot exploration of heart rate variability and salivary cortisol responses to compassion-focused imagery. Journal of Clinical Neuropsychiatry, 5, 132–139.

Pauley, G., & McPherson, S. (2010). Experience and meaning of this compassion and self compassion for individuals with depression and anxiety. Psychology and Psychotherapy, 83, 129–143.

Neff, K. D., Rude, S. S., & Kirkpatrick, K. L. (2007). An Examination of Self-Compassion in Relation to Positive Psychological Functioning and Personality Traits. Journal of Research in Personality, 41, 908-916.

Leary, M. R., Tate, E. B., Adams, C. E., Allen, A. B., & Hancock, J. (2007). Self-compassion and reactions to unpleasant self-relevant events: The implications of treating oneself kindly. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 887–904.

 

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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