加齢とは、生まれてから死ぬまでの時間の経過を表す言葉で、誰にでも平等かつ同様に起こります。しかし、加齢とともに私たちの細胞は小さくなったり数が少なくなったりして、細胞そのものの機能や、細胞の集合体である臓器の機能が低下していきます。この記事では、加齢が進んだ高齢者の体について、その特徴や変化を見ていきます。

高齢者の身体的特徴

高齢者の身体的特徴

現在の日本の高齢者は、10~20年前と比べるとまだまだ若くて活動的な人が多いといわれます。しかしながら、加齢による体の変化は確実に現れてきます。
高齢者の身体的特徴としては、次のようなものが挙げられます。※1

1.外見上の変化:白髪や禿頭、皮膚のシミ・シワ、老人環(角膜周辺部が輪状に白濁した状態)
2.体の予備能や恒常性保持機能の低下、運動時の呼吸機能低下と心拍出量の増加
3.感染防御能(免疫力)の低下:リンパ球数やT細胞数の減少と機能低下
4.体全体に起こる減少性の変化:骨量の低下、筋肉量と筋力の低下、細胞内液量の減少
5.血管の硬化性変化:血管の弾力と内腔の減少、血管内腔への脂肪沈着、易血栓性の増加
6.乾燥性による変化:毛髪水分量の減少、皮膚弾性の低下
7.感覚器の変化:聴力の低下、視力の低下、視野の狭窄、暗順応の低下、味覚の低下
8.運動機能の低下: 瞬発力の低下、柔軟性の低下、歩行速度の低下

老化には「生理的加齢変化」と「機能的加齢変化」がありますが、生理的な老化現象は外見的な変化を指すことが多く、必ずしもヒトの体にとって有害なものとは限りません。また、これらの変化は誰にでも起こりますが、その変化の兆候が現れる時期や、変化していくスピードには個人差があります。※1

こうした変化がみられるようになってくると、今度は体の内部でもさまざまな変化が起こります。
例えば、予備力が低下することで、病気になりやすくなったり、治りにくくなったりします。また、体の内部環境における恒常性維持機能が低下するため、環境の変化に適応する能力が低下します。※2

●体温調整機能が低下し、外気温が高いと体温が上昇することがある
●水と電解質のバランスが崩れ、発熱、下痢、嘔吐などによる脱水を起こしやすくなる
●加齢とともに血圧が上昇する傾向にある

複数の病気にかかったりさまざまな症状が現れたりする人や、何らかの病気の症状が教科書通りに現れない人も増えます。※2

また、視覚や嗅覚が低下し、味覚の鈍化も起こります。ヒトはしょっぱい味から鈍化していくといわれており、塩分の高いものや過剰に甘いものを好むようになるという変化も起こります。さらに、消化液の分泌量低下、消化管の運動機能の低下などが重なると、食事摂取量も減少します。すると体を維持するエネルギーが足りなくなり、結果的に運動量も低下します。※2

加齢に伴う身体の変化

加齢に伴う身体の変化

前述のように、体全体でみると加齢に伴いさまざまな変化が起こっていることがわかります。次は、体のそれぞれの部位において実際にどのような変化が起きているのかを見ていきましょう。

骨と関節

骨には、新しい骨を作る骨芽細胞と、古い骨を壊す破骨細胞があり、相互のバランスにより骨が大きく丈夫になっていきます。しかし、加齢とともに細胞のバランスが崩れて骨芽細胞よりも破骨細胞が多くなると、骨の細胞を支えるコラーyゲンも減り、脆く壊れやすい骨へと変化します。関節の動きを滑らかにするコラーゲン等が減ることで動きが悪くなり、炎症や変形を起こしやすくなります。※3

骨の加齢変化としてよくみられるのは、骨量の減少と骨折のしやすさです。骨量は、男女とも30代で最大になります。その後、男性はゆるやかに減少し、女性は特に閉経後数年間で明らかに減少した後、ゆるやかに減少します。これは骨量が減少する部位や量のバランスにも男女で異なるためです。骨量の減少に加え、ビタミンDの吸収・産生の低下、運動量の減少、ホルモン分泌の低下など、さまざまな要因によって骨粗鬆症が進み、骨折しやすくなります。※4

また、高齢者の関節に起こる変化としては、軟骨成分の老化や軟骨細胞が酸化ストレスによって傷つきやすい状態となることなどが挙げられます。関節表面を覆っている軟骨は、網目のような形状のコラーゲンと、保水性に優れたプロテオグリカン、水分などで構成されています。関節をスムーズに動かすための衝撃を吸収する役割をもつ軟骨には血管がないため、いったん傷ついた関節や軟骨を組織自体が修復する作用は十分でないといえます。※5

筋肉と体脂肪

筋量は老化とともに減少します。性差や部位の差、個人差はありますが、特に下肢の筋量減少が進むと、歩行速度の低下や段差での歩行困難がみられます。※3

筋力のピークは一般に20~30代とされています。そこからは減少が始まり、低下の割合が高くなるのは50代、80代では30~50%ほど低下します。なかでも中高齢女性の下肢筋力、特に股関節外転筋力の低下が著しいことが報告されています。股関節外転筋は、歩くことや日常生活の活動量に強く関わる筋肉なので筋力低下によって安定して歩くことが難しくなり、活動量の低下や行動範囲の縮小につながります。また、加齢によって瞬発的に筋力を発揮する能力が大きく低下することもわかっています。こうした能力の維持向上は、転倒防止対策になります。※6

体脂肪は20代前半から65歳頃まで徐々に増加し、筋肉や骨、内臓に蓄積します。特に、加齢によって基礎代謝が減っている状態で運動習慣や食事量に変化がない場合、体脂肪の増加は顕著になります。さらに問題視すべきは、蓄積された脂肪が内臓器官や腹部に再分配され、骨や筋肉にも広がる点です。加齢によって体脂肪や体重は増加するにもかかわらず、筋肉や骨組織は減少していくことが、健康的な生活を脅かす要因になっています。※7

眼には大きく2つの変化があります。ひとつは、角膜や水晶体での屈曲力の変化です。もうひとつは、視細胞の受容体の減退です。いずれも視力低下の原因となります。また、水晶体に濁りが生じると、眼鏡を使用してもよく見えない状態となります。※3

眼でものを見るときは、角膜と水晶体が外界からの光を屈折させ、網膜で像を結びます。水晶体は弾性力によって厚みを増減させ、屈折力を変化させます。この 調節力が低下することによって起こるのが老視(いわゆる老眼)です。近くのものが見づらくなる屈折力の低下は、加齢によって水晶体の弾力性が低下することが原因とされています。※8

加齢は、水晶体だけでなく視細胞にも影響を与えます。視細胞には、明るい場所で色を識別する錘体細胞と、暗い場所で明暗を識別する桿体細胞の2種類があります。網膜上で光を最も集めるのは、黄斑とよばれる部分です。その中央部(中心窩)には錐体細胞だけが密集しており、ここでの視覚が視野の中心部となります。黄斑部には老廃物を処理するはたらきがありますが、加齢によって衰えていきます。その結果、老廃物が蓄積されていき、視細胞や組織に異常な状態を引き起こすのが加齢黄斑変性症です。また、加齢のため黄斑の上に膜ができてしまう黄斑上膜という病気もあります。いずれも視力低下の原因となります。※9、10

音を聞くために、耳と脳は連携しています。まず、外耳(外から見える、いわゆる「耳」の部分)で音を集め、その振動は耳の奥にある「鼓膜」に伝わります。鼓膜がとらえた音の振動を、その奥にある「耳小骨」が増幅させ、カタツムリのような形をした「蝸牛」の中にあるリンパ液が振動します。それから、「有毛細胞」とよばれる細胞が音を電気信号に変換して、神経を通じて脳に伝わります。脳はその電気信号を受け取ることで、何の音かを判断します。この一連の仕組みのどこかに不調が起こると、音をとらえて脳に届けることができなくなります。これが、聴力が悪くなった状態、いわゆる「難聴」です。※11

聴力は老化に伴い悪化します。その変化は50代で大きく、54歳までは比較的ゆるやかに悪化し、55歳以降は比較的急に悪化するとされています。70代になると、聴力の悪化はほぼ横ばいになります。※12

口と鼻

口からのどまでの機能について「食べる」ことに注目すると、捕食(食べ物を取り込む)、咀嚼、食べ物を口の奥に送る、嚥下(飲み込む)といった機能があります。同時に、味覚や触覚も感じ取っています。※13

しかし、加齢に伴い口の中では、舌にある味蕾の減少と乳頭の萎縮が起こります。味覚に関する神経経路の老化と相まって、味を感じにくくなります。また、唾液の分泌量低下により、口の中が渇きやすくなります。※3

また、口には食べる・飲むといった機能だけではなく、会話など人とのコミュニケーションに関する機能もあります。※13

口を動かしたり舌の形・位置を変えたりすることで任意の音を作ることを、「構音」といいます。のどの奥から空気が口の外に出るときに「声帯」を通ることで、音(声)として聞こえるようになります。しかし、加齢とともに空気の流れを音に変える機能が低下することで、高齢者特有のしわがれた声になったり、音の高低が 変化したりします。※14

鼻にはにおいを感じる「嗅覚」があり、食べ物の風味を感じ取るだけではなく、においによって気分を落ち着かせたり、逆に危険を感じ取ったりすることができます。しかし、嗅覚は加齢とともに機能が低下することがわかっています。※15

しかし、加齢によって鼻の中にあるにおいを感じ取る嗅覚玉と嗅神経が萎縮することで、においがわかりにくくなります。アメリカで行われた調査によると、65歳以上女性のおよそ9%、65歳以上男性の20%以上で、嗅覚の低下が認められたといいます。※3、15

皮膚

皮膚には、体の外からさまざまな異物が侵入するのを防ぐほか、体内の水分蒸発を防ぐ「バリア機能」があります。主に、角質層やその表面を覆う皮脂膜によりバリア機能を発揮します。皮膚の表面に皮脂があることで皮膚がコーティングされ、その内側にある角質層からの水分蒸発を防いでいます。また、角質にある保湿因子が体内の水分をひきつけ、角質の細胞の隙間にある脂質が体内からの水分蒸発を防いでいます。※16、17

しかし、加齢とともに皮膚を構成する各層での変化が起こります。外界からの刺激に絶え間なくさらされることで、皮膚がもつバリア機能や発汗・体温調整機能、皮脂分泌機能が低下します。その結果、皮膚全体の薄化、シミ・シワ、弾力性の低下を伴うたるみ、皮脂分泌の低下、皮膚の乾燥がみられるようになります。※18

脳と神経系

脳は運動や感覚、記憶といった知的な活動をコントロールするほか、生命を維持する大事な臓器です。脳は大脳、小脳、間脳、脳幹の4つに大別されます。頭の外から順に頭皮、頭蓋骨、髄膜で守られており、髄液という液体の中に浮かんでいる状態にあります。脳を構成しているのは、神経細胞とグリア細胞であり、それぞれが電気信号をやり取りしながら脳機能を維持しています。※19、20

ところが、加齢とともに脳を構成する細胞の減少、神経細胞の接点であるシナプスの減少、神経細胞機能の低下が起こります。脳には、運動や感覚など外部との入出力に関する機能と、思考や記憶など情報を統合して処理する機能がありますが、これらの機能が全体的に低下します。※3

その結果、体が動かしにくくなったり、感覚が鈍くなったりなどの変化が起こります。さらに、認知機能の低下によって、記憶力、注意力、言語能力、判断力、遂行力なども低下します。※21

心臓と血管

心臓は、生まれる前から死ぬまで絶え間なく動き続ける臓器です。心臓から送り出された血液は体全体に酸素と栄養を供給する必要があるため、体の成長に合わせて心臓も成長しています。若い頃は、心臓を動かす筋肉(心筋)は柔らかく弾力に富んでいますが、加齢とともに心筋と心筋との間にある組織の線維化が進み、固く弾力性が失われた状態になります。その結果、成人以降は心臓の大きさは変わりませんが、高齢になると心室容積が減り、心房容積が増大する傾向があります。※22

さらに、心筋の肥厚や間質の 線維化、心臓弁の石灰化等に伴う心筋収縮力の低下が起こり、刺激電動系の線維化により規則正しい動きができなくなります。※3

また、動脈硬化も心臓の肥大と関連しています。動脈硬化には、血管の中にコレステロールや線維化した組織などのプラーク(粥状物質)がたまる状態と、血管壁そのものが硬化して弾力性が失われた状態があります。いずれも加齢とともに起こる変化であり、元に戻ることはありません。動脈硬化が進むと、充分な量の血液を送るために血圧が上昇する傾向があります。※23

肺と呼吸筋

肺には大きく3つの変化があります。肺の弾性・収縮力の低下、胸郭コンプライアンスの低下、横隔膜筋力の低下です。肺は常に外気と接しているため、肺胞壁の変化がなくても末梢気腔や呼吸細気管支の拡大が みられます。こうした変化が起こった肺を「老人肺」とよびます。※3

老人肺では、肺機能検査において一秒率の低下や肺活量の低下、残気量の増加などが確認されます。運動時では肺の動脈圧が高くなることがわかっており、睡眠時の呼吸障害や気道過敏性の上昇などがみられます。こうした変化には、背骨の湾曲やるい痩(やせ)、その他のさまざまな病態が関係するといわれています。一方、安静時の動脈血に含まれる酸素と二酸化炭素の分圧は加齢による変化はあまりみられないことから、高齢者では「肺の障害に対する予備能が低下している」状態にあると考えられます。これらの加齢による変化は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による呼吸機能低下の要因にもなっており、高齢者の肺炎の増加や、肺炎の重症化・長期化の要因にもなっています。※24

消化器系

消化器は、部位によりさまざまな変化があります。唾液分泌量の低下による口腔内の乾燥、粘膜・粘膜筋板・筋層の萎縮による蠕動運動の異常や内圧の異常、粘膜萎縮による分泌能の低下などです。また、肝臓では重量や血流量が減少し、肝代謝の低下なども起こります。※3

加齢による消化器系の変化がもたらす影響として、食欲不振、低体重や低栄養、それらに伴うADLの低下などがあります。国立長寿医療研究センターの松浦俊博氏らの研究チームが行った、高齢者の低栄養の要因と消化機能異常についての研究では、消化管ホルモンのバランスの崩れや炎症性ホルモンとよばれる物質が複雑に関係しながら、食欲不振を招いていることがわかりました。一方で、消化管の運動機能や吸収能力は、高齢になってもある程度機能が維持されていることもわかりました。ただし、加齢に伴う変化のひとつである動脈硬化によって、小腸などの血流量が減少し、栄養の吸収能力が低下して消化管全体の機能低下を招くと考えられています。他には高齢者の心理状態も関連しているとみられており、環境の変化などのストレスが食欲低下を招く可能性も示唆されています。※25

腎臓と尿路

加齢により、糸球体の硬化や腎臓内の動脈内腔の狭小化・閉塞が起こります。それに伴い腎臓内の血流量が減り、尿の濃縮力が低下します。※3

腎臓には、絶え間なく血液をろ過して不要物を尿とともに排泄する機能があります。体の成長とともに腎臓も成長しますが、40歳頃をピークとして、その後は腎臓の質量や体積(容量)は減少=萎縮していきます。その変化は腎臓の一番外側にある皮質部でより顕著といわれていますが、ここにも加齢に伴う血管の変化が関係しています。腎臓そのものを栄養する小動脈で血管内腔が狭くなり、腎臓への血流量が減少するため、腎臓を構成する組織での虚血が起こるためです。

腎臓だけでなく、膀胱や尿路も加齢によって変化します。膀胱容積や膀胱進展が減少し、排尿筋の無抑制収縮や尿道閉塞圧の低下などにより、排尿障害が起こります。※3

さらに、加齢によって尿を作りだす糸球体のろ過能力が低下し、血液中の老廃物や塩分を十分にろ過できなくなります。糸球体で作られた尿には栄養素なども含まれるため、尿細管で再吸収されますが、尿細管機能が低下するとナトリウム(Na)の再吸収に時間がかかるようになり、夜間の尿量が増加します。※26

生殖器

生殖器の変化は男女により異なりますが、いずれの場合も性ホルモンの分泌量減少によって起こる体の変化であることから、この時期を「更年期」といいます。

男性の場合、精巣から分泌される男性ホルモンであるアンドロゲンが減少することにより、性機能の低下や前立腺の肥大などが起こります。※27

一般的には、男性の更年期は40歳以降いつでも起こりうるもので、その期間には終わりがないとされています。男性ホルモンの分泌量のピークは20歳前後であり 、そこから徐々に分泌量は減少します。変化のスピードはゆるやかですが、関節や筋肉の痛み、発汗、疲れやすさ、肥満、頻尿、イライラ、不眠、EDおよび性欲低下などの症状がみられます。※28

女性の卵巣には卵母細胞がありますが、その数は有限です。老化や肥満に伴い、排卵時の卵母細胞の放出は無秩序となり、生殖能力(妊孕性)が低下します。※29
女性の場合、多くは45歳前後で閉経となり、その前後10年間くらいが「更年期」とされています。※28

実際には閉経後5年ほどで更年期の症状は落ち着きますが、頭痛やめまい、のぼせ、発汗、全身のだるさ、動機や息切れ、のどの違和感、頻尿など体の症状のほか、不安やイライラ、意欲の低下、物忘れなどの症状がみられます。※30

内分泌系

体の中には、さまざまな「ホルモン」がごくわずかに存在しています。ホルモンがさまざまな臓器から分泌されることで、それぞれが相互に調和しながら私たちの生命維持や体の正常な機能を維持するためにはたらくことを、内分泌代謝といいます。そして、ホルモンを作り分泌する機能を内分泌機能といいます。

加齢による内分泌系の変化には特徴があります。生体の発育や生殖に関わる内分泌腺は老化とともに縮小し、ホルモン分泌量も減少します。一方、生命の維持に関わるホルモンの分泌は、生涯にわたって分泌量の大きな変動はないといわれます。※3

ただし、ホルモンの分泌量や作用性は、老化によって変化します。例えば、副腎は重量としてはわずか5g程度ですが、アルドステロンやコルチゾール、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、DHEAに硫酸分子が結合したDHEA-Sなどのホルモンを分泌します。しかし、加齢によってコルチゾールは分泌量が増加し、アルドステロン、DHEA、DHEA-Sは分泌量が低下します。こうした変化は高齢者における認知機能低下、うつや不安、不眠、インスリン抵抗性、骨形成抑制(骨粗しょう症の原因)などを招き、内臓脂肪蓄積や筋肉量の減少もみられます。結果的に、フレイルや糖尿病、高血圧、免疫機能の低下などにつながります。※31

造血系

赤血球、白血球、血小板といった血液細胞は、骨髄や胸腺にある造血幹細胞で作られます。この造血幹細胞の老化により、正常な血液細胞を作る造血能が低下します。※3

造血幹細胞は、加齢によって内因的・外因的なさまざまなストレスにさらされます。すると、造血幹細胞を構成する細胞一つひとつも質的・量的に劣化し、結果的に造血幹細胞および造血機能も低下します。さまざまな原因が考えられますが、内因性としてはDNAが受けたダメージの蓄積、酸化ストレスの蓄積、代謝異常、ミトコンドリアの異常などがあります。外因性としては、骨髄で造血を行うごく小さな環境の構造的・機能的変化、炎症などが考えられています。※32

加齢とともにこうした変化が細胞レベルで起こることにより、正常な血液細胞が減少する一方で機能不全の幹細胞が増え、貧血につながります。※33

免疫系

ヒトの免疫能を司る細胞のうち、胸腺で作られるT細胞は複数の機能をもっています。しかし、老化に伴い胸腺が萎縮するとT細胞は作られなくなり、古いT細胞を限界まで増殖させるため、結果的にT細胞のもつ免疫力が低下します。※34

この古いT細胞のことを、老化関連T細胞(SA-T細胞)といいます。京都大学医学研究科特定助教の福島祐二氏および服部雅一氏らの研究グループが行ったマウスでの実験によると、SA-T細胞は若年の固体にはみられず、マウスの加齢とともに増加することがわかっています。SA-T細胞は正常なT細胞とは異なり、増殖や活性化といった反応がみられない代わりに、「炎症に関係する因子」を大量に作り出すこともわかっています。正常なT細胞には、免疫機能の発動(免疫応答)、抗体産生、病原体排除といった機能がありますが、SA-T細胞はこれらのはたらきができず、感染しやすくなるほか、炎症の慢性化や自己抗体の産生などの変化がみられます。自己抗体産生が進むと、いわゆる自己免疫疾患の可能性が高まります。※35

まとめ

現代の高齢者は、10~20年前と比べると、加齢に伴う⾝体機能や⼼理機能の変化が表れる時期が5~10年ほど遅延しているといわれています。若く活動的な人が増え、いわゆる「若返り」現象が⾒られます。この傾向はこの先も続き、さらに10年経てばもっと元気な高齢者が増えるでしょう。※36

それでも、加齢による変化は着実に進んできます。今の生活のままで加齢による変化を受け入れるのか、あるいは何かを変えることで加齢による変化のスピードを遅くするのか、今が人生の分かれ道かもしれません。

参考資料

※1 鳥羽研二.(2006) 老化の理解と活き活き長寿. 日本老年医学会雑誌2006; 43: 65-67
※2 日本医師会(編) 高齢者の身体と疾病の特徴
※3 一般社団法人日本老年医学会(2013). 「老年医学系統講義テキスト」. 西村書店
※4 岩本潤. (2003) 高齢者のバイオメカニズム―骨の老化―. バイオメカニズム学会誌. 27(1).
※5 高橋謙治. (2011) 関節軟骨細胞の老化とストレス応答を利用した変形関節症治療. 日医大医会誌 7(4).
※6 池添冬芽. (2021) シリーズ「加齢に伴う生体の変化とその理解」連載第3回 加齢に伴う運動機能の変化. 理学療法学. 48(4) 446-452.
※7 Pegah JafariNasabian et al.(2017) Aging human body: changes in bone, muscle and body fat with consequent changes in nutrient intake. Journal of Endocrinology, 234, 37–51.
※8 木下茂ほか. (2004) 第46回日本老年医学会学術集会記録 3. 資格の加齢変化とその予防. 日本老年医学会雑誌. 41(6). 604-606.
※9 佐藤達夫(監修) (2013) 新版からだの地図帳. p29.
※10 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター. 高齢者のQOLを守るための眼科診療と治療(病院レター第88号).
※11 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会. 難聴について.
※12 立木孝 et al.(2002) 日本人聴力の加齢変化の研究. Audiology Japan 45, 241-250.
※13 厚生労働省. e-ヘルスネット. 口腔機能の健康への影響.
※14 児嶋久剛. (1994) 高齢者と気管食道科 高齢者の喉頭(発声)機能. 日気食会報. 45(5) 360-364.
※15 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会. 健康寿命への挑戦 機能を守る耳鼻咽喉科.
※16 独立行政法人 環境再生保全機構. すこやかライフNo.43 子どものアトピー性皮膚炎のための体の洗い方、外用薬・保湿剤の塗り方実践法.
※17 中野区医師会. 上手に使って乾燥から肌を守りましょう -保湿剤-
※18 Sun Hye Shin et al.(2023) Skin aging from mechanisms to interventions: focusing on dermal aging. Frontiers in Physiology, 14.
※19 静岡県立 静岡がんセンター. 学びの広場シリーズからだ編 がんの脳への転移と日常生活. 2 脳の構造と働き(機能)
※20 新学術領域研究「グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態」2015年度第3回冬の公開シンポジウム 神経細胞以外にも脳に必須の細胞がある! グリア細胞の多様な機能.
※21 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療研究センター. 超高齢期の認知機能~百歳までと百歳から.
※22 Ippei Shimizu, Tohru Minamino. (2016) Physiological and pathological cardiac hypertrophy. J Mol Cell Cardiol. 97. 245-62.
※23 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 循環器医がみつめる臓器老化と認知症(病院レター第34号)
※24 山口泰弘. (2014) 特集:超高齢社会と気管食道科 高齢者の気道・肺機能. 日本気管食道科学会会報. 65(5)
※25 長寿医療研究開発費 平成26年度総括研究報告. 高齢者の低栄養状態における発症要因および消化機能異常の関与と その原因の解明に関する研究(25-3).
※26 一般社団法人 日本腎臓学会. 腎臓の病気について調べる 1.腎臓の構造と働き.
※27 Karin Welén et al.(2022) Androgens, aging, and prostate health. SPRINGER LINK. 23, 1221–1231.
※28 一般社団法人 日本内分泌学会. 男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群).
※29 Takashi Umehara et al.(2022) Female reproductive life span is extended by targeted removal of fibrotic collagen from the mouse ovary. Science Advances, VOL. 8, NO. 24.
※30 一般社団法人 日本女性医学学会. よくある女性の病気【更年期女性に認められる症状】.
※31 横田健一 曽根正勝. () 特集 高齢者の内分泌疾患 ホルモンの病気を見逃さないために 3.高齢者と副腎機能異常.
※32 栗林和華子 岩間厚志. (2021) 造血幹細胞のエイジングと骨髄ニッチ. Journal of Japanese Biochemical Society. 93(4). 546-549.
※33 東北大学. 2024年 プレスリリース・研究成果. 加齢造血幹細胞にそなわる代謝の柔軟性を発見―ミトコンドリアの機能向上が生き残りに必要―.
※34 Makoto Kuwahara et al.(2014) The Menin–Bach2 axis is critical for regulating CD4 T-cell senescence and cytokine homeostasis. Nature Communications, 5, 3555.
※35 京都大学. 最新の研究成果を知る. 老化T細胞が自己免疫病や慢性炎症疾患を引き起こすメカニズムを解明―老化関連疾患克服への新しいアプローチー.
※36 厚生労働省「高齢者の身体機能等の現状」

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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