加齢とは、生まれてから死ぬまでの時間の経過を表す言葉で、誰にでも平等かつ同様に起こります。しかし、加齢とともに私たちの細胞は小さくなったり数が少なくなったりして、細胞そのものの機能や、細胞の集合体である臓器の機能が低下していきます。この記事では、加齢が進んだ高齢者の体について、その特徴や変化を見ていきます。

高齢者の身体的特徴

高齢者の身体的特徴

現在の日本の高齢者は、10~20年前と比べるとまだまだ若くて活動的な人が多いといわれます。しかしながら、加齢による体の変化は確実に現れてきます。
高齢者の身体的特徴としては、次のようなものが挙げられます。※1

1.外見上の変化:白髪や禿頭、皮膚のシミ・シワ、老人環(角膜周辺部が輪状に白濁した状態)
2.体の予備能や恒常性保持機能の低下、運動時の呼吸機能低下と心拍出量の増加
3.感染防御能(免疫力)の低下:リンパ球数やT細胞数の減少と機能低下
4.体全体に起こる減少性の変化:骨量の低下、筋肉量と筋力の低下、細胞内液量の減少
5.血管の硬化性変化:血管の弾力と内腔の減少、血管内腔への脂肪沈着、易血栓性の増加
6.乾燥性による変化:毛髪水分量の減少、皮膚弾性の低下
7.感覚器の変化:聴力の低下、視力の低下、視野の狭窄、暗順応の低下、味覚の低下
8.運動機能の低下: 瞬発力の低下、柔軟性の低下、歩行速度の低下

老化には「生理的加齢変化」と「機能的加齢変化」がありますが、生理的な老化現象は外見的な変化を指すことが多く、必ずしもヒトの体にとって有害なものとは限りません。また、これらの変化は誰にでも起こりますが、その変化の兆候が現れる時期や、変化していくスピードには個人差があります。※1

こうした変化が見られるようになってくると、今度は体の内部でもさまざまな変化が起こります。
例えば、予備力が低下することで、病気になりやすくなったり、治りにくくなったりします。また、体の内部環境における恒常性維持機能が低下するため、環境の変化に適応する能力が低下します。※2

●体温調整機能が低下し、外気温が高いと体温が上昇することがある
●水と電解質のバランスが崩れ、発熱、下痢、嘔吐などによる脱水を起こしやすくなる
●加齢とともに血圧が上昇する傾向にある

複数の病気にかかったりさまざまな症状が現れたりする人や、何らかの病気の症状が教科書通りに現れない人も増えます。※2
また、視覚や嗅覚が低下し、味覚の鈍化も起こります。ヒトはしょっぱい味から鈍化していくといわれており、塩分の高いものや過剰に甘いものを好むようになるという変化も起こります。さらに、消化液の分泌量低下、消化管の運動機能の低下などが重なると、食事摂取量も減少します。すると体を維持するエネルギーが足りなくなり、結果的に運動量も低下します。※2

加齢に伴う身体の変化

加齢に伴う身体の変化

前述のように、体全体でみると加齢に伴いさまざまな変化が起こっていることがわかります。次は、体のそれぞれの部位において実際にどのような変化が起きているのかを見ていきましょう。

骨と関節

骨には、新しい骨を作る骨芽細胞と、古い骨を壊す破骨細胞があり、相互のバランスにより骨が大きく丈夫になっていきます。しかし、加齢とともに細胞のバランスが崩れて骨芽細胞よりも破骨細胞が多くなると、骨の細胞を支えるコラーゲンも減り、脆く壊れやすい骨へと変化します。関節の動きを滑らかにするコラーゲン等が減ることで動きが悪くなり、炎症や変形を起こしやすくなります。※3

筋肉と体脂肪

筋量は老化とともに減少します。性差や部位の差、個人差はありますが、特に下肢の筋量減少が進むと、歩行速度の低下や段差での歩行困難が見られます。※3
体脂肪は20歳代前半から65歳頃まで徐々に増加し、筋肉や骨、内臓に蓄積します。※4

眼には大きく2つの変化があります。ひとつは、角膜や水晶体での屈曲力の変化です。もうひとつは、視細胞の受容体の減退です。いずれも視力低下の原因となります。また、水晶体に濁りが生じると、眼鏡を使用してもよく見えない状態となります。※3

聴力は老化に伴い悪化します。その変化は50歳代で大きく、54歳までは比較的ゆるやかに悪化し、55歳以降は比較的急に悪化するとされています。70歳代になると、聴力の悪化はほぼ横ばいになります。※5

口と鼻

口の中では、舌にある味蕾の減少と乳頭の萎縮が起こります。味覚に関する神経経路の老化と相まって、味を感じにくくなります。また、唾液の分泌量低下により、口の中が渇きやすくなります。※3

鼻の中にあるにおいを感じ取る嗅覚玉と嗅神経の萎縮によって、においがわかりにくくなります。※3

皮膚

外界からの刺激に絶え間なくさらされることで、皮膚がもつバリア機能や発汗・体温調整機能、皮脂分泌機能が低下します。その結果、皮膚全体の薄化、シミ・シワ、弾力性の低下を伴うたるみ、皮脂分泌の低下、皮膚の乾燥がみられるようになります。※6

脳と神経系

脳を構成する細胞の減少、神経細胞の接点であるシナプスの減少、神経細胞機能の低下が起こります。脳には、運動や感覚など外部との入出力に関する機能と、思考や記憶など情報を統合して処理する機能がありますが、これらの機能が全体的に低下します。※3

心臓と血管

心臓の大きさは加齢によってあまり変化しませんが、心室容積が減り心房容積が増大する傾向があります。心筋の肥厚や間質の 線維化、心臓弁の石灰化等に伴う心筋収縮力の低下が起こり、刺激電動系の線維化により規則正しい動きができなくなります。また、全身の血管が固くなり、血圧が変動します。※3

肺と呼吸筋

肺には大きく3つの変化があります。肺の弾性・収縮力の低下、胸郭コンプライアンスの低下、横隔膜筋力の低下です。肺は常に外気と接しているため、肺胞壁の変化がなくても末梢気腔や呼吸細気管支の拡大が見られます。こうした変化が起こった肺を「老人肺」とよびます。※3

消化器系

消化器は、部位によりさまざまな変化があります。唾液分泌量の低下による口腔内の乾燥、粘膜・粘膜筋板・筋層の萎縮による蠕動運動の異常や内圧の異常、粘膜萎縮による分泌能の低下などです。また、肝臓では重量や血流量が減少し、肝代謝の低下なども起こります。※3

腎臓と尿路

糸球体の硬化や、腎臓内の動脈内腔の狭小化・閉塞が起こります。それに伴い腎臓内の血流量が減り、尿の濃縮力が低下します。また、膀胱容積や膀胱進展が減少し、排尿筋の無抑制収縮や尿道閉塞圧の低下などにより、排尿障害が起こります。※3

生殖器

生殖器の変化は男女により異なります。
男性の場合、精巣から分泌される男性ホルモンであるアンドロゲンが減少することにより、性機能の低下や前立腺の肥大などが起こります。※7
女性の卵巣には卵母細胞がありますが、その数は有限です。老化や肥満に伴い、排卵時の卵母細胞の放出は無秩序となり、生殖能力(妊孕性)が低下します。※8

内分泌系

内分泌系の老化による変化には特徴があります。生体の発育や生殖に関わる内分泌腺は老化とともに縮小し、ホルモン分泌量も減少します。一方、生命の維持に関わるホルモンの分泌は、生涯にわたって分泌量の大きな変動はないといわれます。※3

ただし、ホルモンの分泌量や作用性は、老化によって変化します。例えば、老化によりインスリンの作用が低下することで筋肉量の低下につながるなど、体にはさまざまな変化が起こるようになります。※9

造血系

赤血球、白血球、血小板といった血液細胞は、骨髄や胸腺にある造血幹細胞で作られます。この造血幹細胞の老化により、正常な血液細胞を作る造血能が低下します。※3

免疫系

ヒトの免疫能を司る細胞のうち、胸腺で作られるT細胞は複数の機能をもっています。しかし、老化に伴い胸腺が萎縮するとT細胞は作られなくなり、古いT細胞を限界まで増殖させるため、結果的にT細胞のもつ免疫力が低下します。※10

まとめ

現代の高齢者は、10~20年前と比べると、加齢に伴う⾝体機能や⼼理機能の変化が表れる時期が5~10年ほど遅延しているといわれています。若く活動的な人が増え、いわゆる「若返り」現象が⾒られます。この傾向はこの先も続き、さらに10年経てばもっと元気な高齢者が増えるでしょう。※11

それでも、加齢による変化は着実に進んできます。今の生活のままで加齢による変化を受け入れるのか、あるいは何かを変えることで加齢による変化のスピードを遅くするのか、今が人生の分かれ道かもしれません。

参考資料

※1 鳥羽研二.(2006) 老化の理解と活き活き長寿. 日本老年医学会雑誌2006; 43: 65-67
※2 日本医師会(編) 高齢者の身体と疾病の特徴
※3 一般社団法人日本老年医学会(2013). 「老年医学系統講義テキスト」. 西村書店
※4 Pegah JafariNasabian et al.(2017) Aging human body: changes in bone, muscle and body fat with consequent changes in nutrient intake. Journal of Endocrinology, 234, 37–51.
※5 立木孝 et al.(2002) 日本人聴力の加齢変化の研究. Audiology Japan 45, 241-250.
※6 Sun Hye Shin et al.(2023) Skin aging from mechanisms to interventions: focusing on dermal aging. Frontiers in Physiology, 14.
※7 Karin Welén et al.(2022) Androgens, aging, and prostate health. SPRINGER LINK. 23, 1221–1231.
※8 Takashi Umehara et al.(2022) Female reproductive life span is extended by targeted removal of fibrotic collagen from the mouse ovary. Science Advances, VOL. 8, NO. 24.
※9 Takayoshi Sasako et al.(2022) Deletion of skeletal muscle Akt1/2 causes osteosarcopenia and reduces lifespan in mice. Nature Communications, 13, 5655.
※10 Makoto Kuwahara et al.(2014) The Menin–Bach2 axis is critical for regulating CD4 T-cell senescence and cytokine homeostasis. Nature Communications, 5, 3555.
※11 厚生労働省「高齢者の身体機能等の現状」

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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