「さみしい」の中には「いとしい」がある

 

毎週末、zoomでマインドフルネスの30分セッションを開催しています。

日本でコロナによる最初の緊急事態宣言が出された週末から始めて、間もなく、120回目を迎えようとしています。

コロナ禍のセルフケアをサポートしたいという気持ちと、当時Ready forで募集されていた医療従事者向けの寄付のために、自分の専門性を活かせないかと考えて始めたことでした。

お休みしたのは、娘を出産していた週末を含めて、この2年半で5~6回ほど。

2年以上も毎週末続けられていることに、自分自身が一番驚いています。

自分の力というより、毎週末のように参加してくれる常連さんや、時間を空けてふらりと訪れてくれる人、初めて参加の人など、参加してくれる皆さんによってつくられる「場」の力だと感じています。

30分の短いセッションですが、最後の5分では、参加した人がワークの気づきや感想をチャットでシェアしていて、書き込む・書き込まないは自由なのですが、その時間がまたセッションの魅力になっている気がしています。


大学院で感情の研究を始めてから、かれこれ15年になる私ですが、そのセッションのシェアの中で、感情について、ひとつの発見がありました。

その日は、「感情をカタチにする」という感情をマインドフルに観察するワークに取り組んでいました。

最近感じた感情をひとつ選んで、その感情の形や大きさ、質感、色などをイメージの中でつくり上げて観察していきます。

最後のシェアの時間に、こんな体験を書き込んでくださった方がいました。

 

「寂しい がでてきて 前においたら 愛しいに変わっていきました」

 

その方はご自身の体験を「雲のような形をした虹色の『寂しい』のなかは星がいっぱいでプラネタリウムみたいでした。愛しいと一緒に寂しいが膨らんで、大きなドームのようなキラキラしたものに包まれました。涙が出てきて仕方なかったです。今年も子供たちは帰省できないけど、とてもいとおしい存在だと深く感じました。ありがとうございます。」とつづってくださいました。

 

ポジティブ心理学の興隆によって、ポジティブ感情の研究が進んできています。

ポジティブ感情を経験することが創造的な活動や学習の機会を増加させるといったように、人々の思考や行動のレパートリーを広げる可能性が示されています。

私たちがストレスのある場面に直面したとき、その中にポジティブな意味を見いだすことで、思考や行動のレパートリーが拡大し、ポジティブな資源を手に入れることを可能にし,それがさらなるポジティブ感情を増加させるといった上向きの螺旋を生み出し、結果としてwell-beingや健康の増進をもたらすと考えられています。

今のところ、ポジティブ感情の特徴は、ネガティブ感情との対比によって語られることも多いのですが、私は、先ほどのシェアをきっかけに、ネガティブ感情の中にポジティブな感情が潜んでいることもあるのだな、と気づきました。

怒りや悲しみ、不安や落ち込みなど、避けたくなるような感情であったとしても、そこには、私たちに大事な何かが潜んでいるかもしれません。

 

【参考文献】

Fredrickson, B. L., & Joiner, T. 2002 Positive emotions trigger upward spirals toward emotional well-being. Psychological Science, 13, 172–175.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

この記事をシェア

編集部おすすめ記事

人気記事ランキング