今では、ひろく一般の方にも知られることになった「マインドフルネス」と私が出会ったのは、2005年のことです。
大学生時代に所属した研究室の専門分野だったのです。
教授は、マインドフルネスの専門書の翻訳を手がけ、大学院生の先輩たちはマインドフルネスを研究テーマにしていました。
当時は、日本では無名のマインドフルネス。
研究協力の依頼などすると、むしろ「ちょっとアヤシイ」と言われてしまうポジションでした。
それがいまや、企業の教育プログラムの中に取り入れられ、リーダーシップ発揮のためのトレーニングとして活用されたり、手軽に取り組むためのアプリ開発も進み、セルフケアのひとつとして実践する人も増えました。
今回は、そんなマインドフルネスが心理学の世界で、どのように位置づけられているのか紹介してみたいと思います。
マインドフルネスは「第3世代」のアプローチ
マインドフルネスは、心理療法の世界の中では「第3世代」のアプローチと位置づけられることがあります。
では、第1世代と第2世代は、どのようなアプローチなのか、みていきましょう。
第1世代は「行動」にアプローチする
第1世代は「行動」にアプローチする心理療法です。
行動療法と呼ばれ、私たちが病気になったり、問題が生じるのは、不適応行動が原因だととらえ、その行動を変化させることを目的としています。
たとえば、「人前で話すのが怖い」という場合には、人前で話すのに必要な行動を身につけられていない、もしくは不適切な行動をとっているために問題が起きていると捉え、コミュニケーションスキルを身に着けたり、ロールプレイやシミュレーション、グループでのセッションなど少しずつ難易度を上げながら、人前で話す機会を増やして練習し、適切な行動を身につけていきます。
第2世代は「認知」(思考)にアプローチする
第2世代は「認知」(思考)にアプローチする心理療法のことです。
認知療法や認知行動療法と呼ばれ、うつ(落ち込み)や不安といった感情をコントロールするために、思考を変化させる方法です。
たとえば、私たちが「仕事でミスをした」ときに、強い落ち込みを感じたり、ずっと落ち込みを引きずってしまうのは、「自分はいつもミスしてばかり」、「次もうまくいかないに違いない」など決めつけてしまう思考の影響だととらえ、「ミスすることもあるがうまくいくこともある」、「今回のミスを次に活かそう」など、思考を変化させることで気分を改善させます。
マインドフルネスは「注意」にアプローチする
では、第3世代と呼ばれるマインドフルネスは?というと、「注意」にアプローチする心理療法です。
マインドフルネスの定義を改めて紹介すると、「今ここでの経験に、評価や判断を加えず、能動的に注意を向けること」というものです。
マインドフルネスでは、行動も、思考も、感情も、ただ注意を向ける観察の対象としていきます。
私は、第1世代・第2世代と、第3世代の間には大きな違いがあると思っています。
第1世代・第2世代は「コントロールしようとする」アプローチであるのに対して、第3世代は「コントロールしない」アプローチです。
第1世代と第2世代が、行動を変えればよくなる、思考を変えればよくなる(感情を変えられる)、と捉えているのに対して、第3世代は、行動も思考も、そして感情もただ「観察の対象」とします。
言ってみれば、第1世代や第2世代は、行動や思考にはそれだけの影響力がある、パワーをもった存在である、ということを認める前提に立っています(図1)。
なので、行動や思考を変えよう、コントロールしようとします。
それに対して、第3世代は、観察の対象、それ以上でも以下でもない(行動や思考に影響力をもたせない)という前提に立ち、コントロールしようとしません(図2)。
第3世代のマインドフルネスは、行動や思考、感情と、影響を与えるもの-影響を受けるものではなく、中立的な新しい関係を築くアプローチだと思うのです。
皆さんも、行動や思考、感情をコントロールしようとしない代わりに、影響を受けることもない、新しい関係を試してみませんか。