心理学をバックグランドにしています、と言っても、心理学の中にも様々な専門領域や特徴があります。

「学生時代は、どんな研究室にいたんですか?」と聞かれることがあります。

心理学って、どんな学問かわかるようでわからない、イメージしづらいところがあるのかな、と思います。

 

大学生のときは、主に、マインドフルネスをはじめとする認知行動的なアプローチを研究する研究室に所属していました。

マインドフルネスは、日本でもこの10年ほどよく名前が聞かれるようになった注意のトレーニングなので、耳にしたことがある方も多いと思います。

うつ病や不安障害の治療や、ストレスマネジメントの方法として、また、創造性や注意集中力を高める効果があることから、ビジネスの世界でも注目されています。

当時(2005年頃)は、まだ注目される前で、「歩行瞑想」といった名前で研究がされていたので、「あの研究室はちょっとアヤシイことをやっている」なんて言われた不遇の時代でした。

まさか、ここまで注目されて、多くの方の知るところになるとは想像もしていませんでした。

マインドフルネスは、「今ここでの経験に『評価』や『判断』を加えることなく、能動的に注意を向ける」という注意のあり方のことを指します。

私たちは普段、「良い・悪い」、「役に立つ・立たない」といった評価や判断をしながら生活をしています。

だから生活していける、という面もあるのですが、時にその判断が過剰になりすぎると(「絶対にうまくいかない」、「必ず失敗する」など)、私たちの可能性を狭めてしまうことがあります。

なので、マインドフルネスでは、いったん、目の前で起きていることや、それに連動して生じる自分の思考や感情、感覚を、ただありのままに観察していきます。

 

大学院のときのことについて聞かれたときには、「ちょっと変わったポジティブ心理学の研究室にいました」と答えることにしています。

ポジティブ心理学は、それまで心理学が研究のテーマとしてきた、不安やうつ、ストレス、攻撃性や劣等感などの人間の心のもつ弱点や問題点ではなく、喜びや嬉しさなどのポジティブ感情や強みなどのポジティブな特性を研究する学問です。

1998年に創設された比較的新しい学問領域です。

ポジティブ心理学で研究対象となるのは、先ほど挙げたようなポジティブ感情や強み、楽観性や希望を持つことなどです。

では、「ちょっと変わった」とは、どういう意味かというと、私がいた研究室では、「一見ネガティブに見えること」のポジティブな側面を研究している人が多かったのです。

 

例えば、「あれこれ考えて心配しすぎる」という性質について。

「自分はいつもあれこれ悩んでしまう。心配性で嫌だなぁ。もっと楽観的になれたらいいのに。」

そんな風に悩んでいる人も多いかもしれません。

けれど、視点を変えてみると、心配性のいいところもあるのです。

細かいことにも思いを巡らせて心配することで、「ああなったらこう対応しよう」、「こうならないために手を打っておこう」と事前に対策をしておくことができます。

そして、大きな問題やトラブルにならずに済んだり、うまく物事を運べたりします。

こんな風に、ある先輩は、「悲観的であること」のポジティブな側面を研究していました。

学術的には「対処的悲観性」という概念で、研究の結果では、対処的悲観性が高い人は、パフォーマンスも高いことがわかっています。

 

私はというと、いわゆるネガティブ感情のポジティブな側面を研究していました。

不安や落ち込み、怒りや悲しみといった、出来れば感じたくないような、ネガティブとされている感情にも適応的な側面があります。

5年間、研究する間に私が学んだことのひとつに「生きる」ことの中心には「感情がある」ということがあります。

なぜ私たちが、スポーツ観戦するのか。

そこから得られる感情の変化を体験したいから、ではないでしょうか。

勝敗に一喜一憂したり、素晴らしいプレーに興奮したり、審判のジャッジがアンフェアだとすごく腹が立ったり、応援しているチームが勝つと満足感で満たされたり。

映画を観たり、小説を読んだりすることもそうです。

主役の1人になりきって感情的に入り込んで、時には恐怖を感じたり、絶望に打ちひしがれたり、逆に、喜びでいっぱいになったりする。

私たちがエンターテイメントを楽しめるのは、悲しいこともないけれど、喜びもない、という平凡な毎日ではなく、感情豊かな人生を求めているからなのではないかと思っています。

そう、私たち人間は、たとえネガティブな感情だったとしても、それを味わえる力があるのだと思います。

 

大学生時代にはマインドフルネスを通じて評価や判断のない世界を学び、大学院生時代には、ネガティブな現象のポジティブな側面に注目する視点を学び、これらの経験を通じて、目の前のことを単純に「ポジティブ-ネガティブ」と捉えない癖がつきました。

もちろん、この記事の中でもそうだったように、便宜的に、「ポジティブ」、「ネガティブ」といった言葉を使うことはあります。

けれど、「ポジティブ-ネガティブ」の軸にとらわれずにいたい、といつも思っています。

皆さんも、目の前の一見ネガティブに見えること、ポジティブに見えることに対して、いったん「ポジティブ-ネガティブ」の軸から離れて見てみませんか。

そこには、新しい可能性、新しい世界が広がっているかもしれません。

 

【参考文献】

Hosogoshi, H., & Kodama, M. (2005). Examination of defensive pessimism in Japanese college students: Reliability and validity of the Japanese version of the Defensive Pessimism Questionnaire. Japanese Health Psychology, 12, 27-40.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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