世界の長寿地域ブルーゾーン。今回は、イタリアのサルディーニャ島を見てみましょう。実はサルディーニャ島は、ブルーゾーン発祥の地とも呼べる地域になります。

2000年代初め、医師でもある人口統計学者ジョバンニ・ぺスが、サルディーニャ島中部のいくつかの村の死亡率が非常に低く、平均寿命が非常に高いことを見つけました。地図上で各村の場所に印を付けていくうちに、青い印の集合体ができ、その地域を「ブルーゾーン」と名付けたのです

その後、ナショナルジオグラフィックフェローのダン・ビュイトナーが、世界の他の長寿地域を発見し、現在は5つの地域がブルーゾーンとして認定されています。

サルディーニャ人の長寿は遺伝か?

彼らはなぜ長寿なのでしょう。サルディーニャは、アイスランドに次いで、遺伝的に濃い地域です。

サルディーニャ人の遺伝的ルーツをたどると、スペインのあるイベリア半島にたどり着きます。これは、Y染色体にあるM26遺伝子マーカーを追うことで分かりました。今から1万1千年前、バスク地方付近の一握りの人々が、地中海を渡りサルディーニャにやってきたのです。その後、フェニキア、ローマ、アラブ、ヨーロッパ人の度重なる侵略により、サルディーニャ人は乾いた高地に追いやられてきました。

それでも彼らの血統は希釈されず、ブルーゾーンの80%以上の住人は、最初のサルディーニャ人の子孫であり、彼らの40%以上がまだM26マーカーを持っています。

その一方、彼らの長寿は遺伝的なものでは20~25%しか説明できず食生活や社会生活習慣といったことも重要であることが分かってきました。

兄弟姉妹に100歳の人がいる人よりも、配偶者が100歳の人の方が、長生きするのです。それでは、彼らの暮らす島、サルディーニャ島は、どんなところでしょうか。

サルディーニャ島の場所↓

サルディーニャ島の風景

ローマから飛行機で50分、フランス領コルシカ島の南12kmにサルディーニャ島はあります。シチリア島に次ぐイタリア第二の島で、自治州となっています。山、森、平野、ほとんど無人の領域、小川、岩の海岸、長い砂浜といった多様な生態系があり、ミクロ大陸と呼ばれるほどです。

産業は牧羊が盛んで、1平方キロあたり135頭の羊がいます。これは1平方キロあたり116頭のニュージーランドより多いほどです。また、ペコリーノ・ロマーノチーズのほとんどを生産していて、多くを海外に向けて輸出しています。日本で買えるチーズも、サルディーニャ島の産物かもしれません。

ここで人々は、いったいどんな暮らしをしているのでしょうか。

サルディーニャ島の暮らし – 10のポイント

1. 植物ベースの粗食で肉はアクセント程度

サルディーニャの食事は、全粒パン、豆、庭の野菜、果物からなります。島の一部の地域ではマスティックオイルも使用しています。マスティックには抗菌作用があり、虫歯や歯周病の予防の他、胃がんの原因であるピロリ菌を抑える効果も報告されています。

サルディーニャ人はまた、牧草で育った羊から作られた、ペコリーノ・ロマーノチーズを食べています。これは、オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいます。オメガ3脂肪酸レベルの高い人は、低い人に比べて死亡リスクが約33%低くなるという研究もあります。

その一方、肉は控えめで、日曜日や特別な日のためとなっています。

<参考> 保険指導リソースガイド, 2018年4月4日
魚の「オメガ3脂肪酸」が死亡リスクを低下 「食後高脂血症」に注意

2. 全粒パン

全粒パン

サルディーニャの100歳以上の人の食べ物は、47%が全粒穀物で、26%が乳製品、12%が野菜です。パンをたくさん食べ、300種類以上のパンがあります。彼らのパンは、乳酸菌を含むサワー種で作ったパンで、酸味があるのが特徴です。普通のパンは、食べるとほぼすぐに糖が放出され、血中インスリン濃度が上昇します。しかしサルディーニャ島のパンは、食後の血糖値とインスリンの濃度を25%抑制できるのです。これは脾臓の保護に役立ち、肥満や糖尿病のリスクを低下させます。

<参考> National Geographic, 2019年12月30日
100歳以上の男性の人口密度が最も高い「長寿島」

3. 豆

5つのブルーゾーンの食生活には、意外にも違いがあります。前回見た同じ地中海のイカリア島は、野菜と果物が53%と多く、穀物は1%と少なくなっています。2つの地域で共通しているのが、実は豆なのです。研究によると、1日に20グラム(大さじ2杯分)で、死亡率が8%低下するそうです。

サルディーニャの人は、スープやシチューでソラマメやひよこ豆を食べ、たんぱく質と食物繊維を摂り入れています。豆の入ったミネストローネが代表的で、日本でも作りやすい料理となっています。

<参考>

The Wall Street Journal
長寿と健康の秘訣は「村中みんなで」 そして豆も

4. ヤギ乳

ヤギ乳には、心臓病やアルツハイマー病などの、加齢による炎症性疾患を保護する可能性のある成分が含まれています。ヤギ乳の脂肪は、総コレステロール値を下げるため、心臓病の予防に最適な食品になっています。

また、ヤギ乳は人乳に似た組成のオリゴ糖を多く含んでいます。これらは消化されずに大腸に届き、そこで有益な細菌のエサとなり、病原性細菌の増殖を抑制します。

5. グラス1~2杯の赤ワイン

赤ワイン

サルディーニャ人は、適度にワインを飲みます。バーでワインを注文すると、ボトルにラベルの貼られていない、地元のワイナリーのワインが出てきます。グラスワインを飲む際は、友人に1つ購入し、その友人が別の1人に購入し、誰かがあなたに購入する。そのサイクルが続きます。

サルディーニャのカンノナウワインは、他のワインの3倍のフラボノイドを含んでいます。フラボノイドは、動脈硬化を予防する効果があると見られています。

6. 散歩

サルディーニャの羊飼いは、1日8km歩いています。マラソンのような負担はなく、心臓血管系の機能を鍛え、筋肉と骨の代謝にプラスの効果があります。サルディーニャ島では骨折事故の件数が、イタリア平均の半分となっています。

7. 男性が長寿のサルディーニャ

サルディーニャ島は長寿の男性が多く、100歳以上の男性の人口密度が世界で最も高い地域です。100歳以上の男女の比率が、1:1となっています。大半の欧米諸国ではこの比率は1:4で、女性の1/4となっているのが普通です。

<参考>

CNN

100歳越えの住民多数、伊サルデーニャ島の長寿の村を訪ねる

一つには、彼らの社会が、女性が家庭のストレスの大半を引き受ける、母系文化であることが影響しているかもしれません。家事、子育てから財産まで、家の中のことは女性が管理するのが彼らの文化です。男性はその分、ストレスが緩和されるでしょう。

8. 家族第一

また、仕事と家族に対する考え方も、家族優先となっています。仕事のためにどこまでも邁進する、という考え方はありません。昼は自宅に帰り、家族とともに昼食をとります。そのまま昼寝をとることもあります。週に何日かは午後に会社に戻りますが、その他は昼までの仕事となっています。その分朝は早くから朝食をとっています。

9. 友達と笑う

サルディーニャの男性は、ユーモアのセンスで有名です。英語で”sardonic”という言葉は、皮肉なユーモアという意味ですが、サルディーニャ(Sardinia)に由来しています。彼らは毎日午後に通りに集まり、笑います。笑いはストレスを減らし、心血管疾患のリスクを低下させます。

10. 長寿を祝う

高齢者が老人ホームに住んでいる日本とは異なり、サルディーニャには長期介護の施設はありません。通常、同じ世帯に2~3世代の家族が住んでいます。

いつ種をまくのか、干ばつや害虫にどう対処するのか、高齢者は知恵を持っています。高齢者も、知恵を授けるだけではなく、可能であれば家族全員と同じように働きます。庭や家の掃除をしたり、料理をしたり、子供の面倒を見たりします。

研究者は、遺伝や食生活は25%ずつしか影響していない、と言います。自然なウォーキングに加え、自分ができることを知恵や行動で示し続けていること。またそれを期待されていること。それが高齢者の生きがいとなって、長く生きる原動力となっているのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしょう、サルディーニャ島。100歳以上の男性の人口密度が世界で一番多い地域。女性重視の家庭生活や、リラックスした職場生活が背景にあるかもしれません。

食生活では、特徴的な酸味のあるパンと、イカリア島と共通する豆も見逃せません。ユーモアのセンスと、自分ができる知恵と行動を示す点も見習いたいところです。次回は、アメリカの中にありながら、平均寿命が10歳長い街、カリフォルニアのロマリンダを見てみましょう。

 

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執筆

sakura15

 

サイエンスライター。大学院にて生物情報を研究後、半導体開発や遺伝子解析ベンチャー企業に携わりました。 趣味は海外トレッキングで、ネパールを横断するグレートヒマラヤトレイルを歩くのが夢。 生物から理学まで幅広く見ながら、分かりやすく書くことを心がけています。

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