現代の健康志向の高まりとともに、食物繊維の重要性がますます注目されています。なかでも注目されている「イヌリン」は、整腸効果や血糖値コントロールなど多様な効果がある成分です。イヌリンは自然界に広く存在し、チコリやタマネギなどの食品に含まれているほか、サプリメントからも手軽に摂取できます。今回は、イヌリンの基本的な特徴や具体的な健康効果、日常生活への取り入れ方などを詳しく解説します。

イヌリンとは?水溶性食物繊維としての特徴

イヌリンは、難消化性の水溶性食物繊維として知られる成分で、チコリの根、キクイモの根茎、ニンニク、ゴボウ、タマネギなどに含まれています。その歴史は長く、5000年前の古代人も口にしてきたとされています。※1、2

食物繊維は、消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分です。そのなかでも、水に溶けやすい性質をもつのが水溶性食物繊維です。近年は水溶性食物繊維の体内での作用や体に良い効果が広く知られるようになり、その機能性から食品のみならず医薬品などにも多く使われています。※3

イヌリンという成分はあまり耳なじみがないかもしれませんが、世界での水溶性食物繊維市場を見てみると、実はイヌリンが約3分の1を占めています。同じ水溶性食物繊維の成分である難消化性デキストリンは、国内ではよく知られていますが、海外市場ではわずか8%ほどです。世界的に見ると、イヌリンが最も市場に流通している水溶性食物繊維であるといえます。※1

イヌリンの食物繊維としての機能において特筆すべき点は、プレバイオティクスとしてのはたらきです。消化酵素によって消化されないため大腸にそのまま届き、善玉菌の栄養源となることで善玉菌の増殖や代謝の活性を助け、腸内細菌叢の変化に大きく関わります。※2、4

食物繊維について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:食物繊維とは?種類やメリット・効果、1日の推奨摂取量、食物繊維を多く含む食品について解説

他にもイヌリンは、大腸で作用させたい薬剤のコーティングや、薬剤の成分を安定させる保存用保護剤として活用されているほか、ワクチンの効果を高めるアジュバンド効果もあります。※3

また、水に溶けると白いゲル状で脂肪に似た食感になる性質から、脂肪代替食品・低脂肪食品などにも利用されています。※2

イヌリンの主な効果

イヌリンの効果

水溶性食物繊維の一種であるイヌリンには、さまざまな健康効果があります。イヌリンの主な効果について、近年の研究論文をもとに解説します。

腸内環境の改善

腸内環境の改善

イヌリンには、腸内細菌にはたらきかけて腸内環境を改善する効果があります。ヒトおよびラットで行われた研究を4つご紹介します。

粉ミルクで育てられた赤ちゃんに対する天然イヌリンの効果

Korea Food and Nutrition Foundation(現:The Korean Nutrition Society)のSook-He Kim氏らが2007年に公表した論文では、粉ミルクで育てられた赤ちゃんに対する天然イヌリンの効果について報告されています。この研究では、平均月齢12.6週の乳児14人を対象に、0.25g/kg/日のイヌリンを3週間にわたって投与し、腸内細菌叢の組成、便のpH、硬さ、量、排便頻度への影響を評価しました。※5

  • 腸内細菌のうちビフィズス菌と乳酸菌は便中の含有量が増加
  • バクテロイデスと総嫌気性菌数には影響なし
  • 排便頻度は変化なし
  • 便の量は多くなり柔らかくなった

以上より、天然イヌリンは粉ミルクで育てられた赤ちゃんにプレバイオティクス効果をもたらすことが確認されたと結論づけられています。※5

イヌリンによるビフィズス菌増加効果

イヌリンによるビフィズス菌増加効果については、ヒトでの研究も行われています。イギリスのレディング大学のSKolida氏らの研究チームは、イヌリンのビフィズス菌に対する効能について調べるため、19~35歳の健康な男女15名ずつを対象とした二重盲検プラセボ対照試験を行いました。この研究では、イヌリンの摂取量とビフィズス菌の増加に用量依存性が観察され、摂取量が増えるほどビフィズス菌の増加も大きくなる傾向がみられました。※6

  • 健康な成人におけるイヌリンのビフィズス菌増殖効果の最小有効用量は5g/日
  • 最も効果的かつ副作用の少ない最適な用量は10g/日

上記のことが報告されました。ただし、20g/日の摂取ではより顕著なビフィズス菌の増加が確認された一方で、同時に軽度の消化器症状も報告されています。※6

イヌリンの重合度の違いによる効果

イヌリンの重合度の違いによる効果を調べたラットの研究もあります。岐阜大学大学院農学研究科の研究チームが行ったこの研究では、下痢を引き起こさないイヌリン添加量は5%であることを特定しました。その後、この飼料下で4週間飼育したラットを解剖し、大腸内発酵産物含量、糞排泄量、脂質含量を調べています。※7

  • 盲腸と糞中の短鎖脂肪酸の組成、特にn-酪酸の際立った増加がみられた

このことから、イヌリンは大腸の機能を高め、健康維持や改善に有用であることが示されています。※7

イヌリンとオリゴフルクトースが腸内のビフィズス菌を選択的に増殖させる効果

オランダの農業・食品関連会社であるSensus社のMeyer D氏が行った研究では、イヌリンとオリゴフルクトースが腸内のビフィズス菌を選択的に増殖させる効果をもつことが確認されました。これらのプレバイオティクスの摂取により、糞便中のビフィズス菌の割合が有意に増加することが示されています。さらに、この効果は用量依存的であり、1日あたり5g以上の摂取で顕著になることが報告されています。※8

便通の改善

腸内環境の改善と関連して、イヌリンには便通の改善効果もあります。

フジ日本精糖株式会社研究開発室の小枝貴弘氏が2015年に発表した論文では、イヌリンの便通に対する影響を、ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験で検証しています。この研究は、健康な若年女性25名を対象に、イヌリンを含む米粉パンまたは対象米粉パンを2週間1日最大2枚摂取し、排便頻度、排便量、排便量への影響を調査したものです。

結果として、イヌリン含有の米粉パンを摂取した群(イヌリン摂取量は7.3g/日)は、プラセボ群(イヌリン摂取量は0.2g/日)と比べ、排便の頻度、回数、量ともに、有意に増加していました。イヌリンを毎日摂取することで排便習慣が改善することが報告されています。※9

血糖値のコントロール

血糖値のコントロール

イヌリンには血糖値の上昇を抑制する効果もあり、糖尿病予防への可能性が期待されています。イヌリンと血糖値のコントロールおよび糖代謝に関する研究を5つご紹介します。

イヌリンと糖尿病患者の血糖コントロールに関する研究成果

イランのタブリーズ医科大学の研究者グループが2013年に発表した論文では、イヌリンと糖尿病患者の血糖コントロールに関する研究成果について述べています。この研究では、2型糖尿病の女性49名を被験者としたランダム化三重盲検対照試験が行われました。10g/日のイヌリン群と対照成分摂取群の2グループに分けて2ヶ月間投与し、血糖コントロールと抗酸化状態を測定しました。※10

  • 対照群と比較してイヌリン群では、空腹時血糖値、グリコシル化ヘモグロビン、マロンジアルデヒドが有意に低下した
  • また、イヌリン群では総抗酸化能、スーパーオキシドディスムターゼ活性が有意に上昇した

以上より、高性能イヌリンの補給が2型糖尿病の女性の血糖コントロールと抗酸化状態を改善する可能性が示されました。※10

2型糖尿病患者対するイヌリンの効果

2型糖尿病患者対するイヌリンの効果について、別の視点から行われた研究もあります。タブリーズ医科大学の別の研究者グループが2014年に発表した論文では、2型糖尿病の女性患者におけるオリゴフクトース強化イヌリン(OEI:Oligofructose-enriched inulin)の効果について述べられています。この研究は、BMI25以上35未満の2型糖尿病の女性患者52名を被験者とした三重盲検ランダム化比較試験であり、OEI摂取群と対照摂取群の2グループに分けて8週間投与しました。※11

  • OEI摂取群では、体重、BMI、血糖値、炎症・抗炎症バイオマーカー、血漿リポ多糖が有意に減少した

この結果は、プレバイオティクスとしてのOEIが2型糖尿病患者の炎症状態と腸内細菌叢関連の代謝異常を改善する可能性を示しており、糖尿病管理における新たな栄養療法の可能性を提示しています。※11

イヌリンを多く含むキクイモの摂取が食後血糖値に及ぼす影響

国内での研究にも、イヌリンを多く含むキクイモの摂取が食後血糖値に及ぼす影響についての報告があります。日本臨床試験協会(JACTA)の研究チームが行ったキクイモに関する研究を2つご紹介します。

2018年に論文として発表された研究では、健常な成人48人を被験者とし、キクイモを含む食品摂取群と対照群に分け、食後の血糖値について評価しました。その結果、以下の項目において有意差がみられました。※12

  • 12週後の食後30分血糖値
  • 12週後の摂取前から食後120分血糖値変化
  • 12週後の食後30分血糖値⊿AUCおよび食後60分血糖値⊿AUC

以上より、イヌリンを含むキクイモ食品摂取によって食後血糖値の上昇が抑制されることが示されています。※12

2020年に論文として発表されたもうひとつの研究では、健康な成人男女をキクイモ摂取群と対照群に分け、6週間にわたって対象食品を摂取し、0週(摂取前)および6週後に糖負荷試験を実施しました。最終的な解析対象者は38名でした。結果として、6週後の時点で、食後60分血糖値および食後0‒90分血糖値AUCで有意差がみられたことから、キクイモの継続摂取による食後血糖値の改善効果が示されています。※13

イヌリンと糖代謝の関係

イヌリンと糖代謝の関係について、1999年に発表された研究についてもご紹介します。レディング大学のヒュー・シンクレア人間栄養学ユニットの研究チームが行ったこの研究では、イヌリンを1日あたり10g摂取した場合の空腹時血中脂質、グルコース、インスリンの変化について調査しています。この研究では4人の健康な中年男女(中程度上昇の総血漿コレステロール値・トリアシルグリセロール値あり)を被験者として、二重盲検ランダム化プラセボ対照並行試験を行いました。被験者は8週間にわたりイヌリンまたはプラセボを摂取し、補給期間前、4週目、8週目、12週目に空腹時血液採取を行い解析しています。

ベースラインと比較した結果、以下のことが明らかとなりました。※14

  • イヌリン群は4週目にインスリン濃度が有意に低下した
  • イヌリン群は8週目にトリアシルグリセロール値が低下した
  • 12週目にはトリアシルグリセロール値がベースラインに戻る傾向があった

群間比較では、8週間の試験期間の空腹時トリアシルグリセロール応答が有意に異なることが示されました。これは、8週目のイヌリン群のトリアシルグリセロールレベルが低かったことによるものです。この変化率は被験者の初期トリアシルグリセロールレベルに関係していることが示されています。※14

ミネラルの吸収促進による骨の健康促進

ミネラルの吸収促進による骨の健康促進

続いて、イヌリンが骨の健康に与える影響について解説します。イヌリンは、ミネラルやカルシウムの吸収を促進し、骨密度の維持や向上に寄与するとされています。近年の研究成果を3つご紹介します。

イヌリンと血中ミネラルとの関係

フランスのオーヴェルニュ人間栄養研究センターの研究チームは、イヌリンと血中ミネラルとの関係についての研究を行いました。この研究では、9名の健康な若年男性を被験者とし、28日間にわたってイヌリンまたは対照繊維成分を補充した同内容の食事を摂取して、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛の吸収とそのバランスを評価しました。その結果、以下のことが明らかとなりました。※15

  • カルシウムの吸収とバランスにおいて、イヌリン摂取群で有意に増加した
  • 対照線維成分摂取では、摂取量とバランスの有意な増加はみられたものの吸収に変化はなし
  • 他のミネラルの吸収やバランスにおいては、イヌリンおよび対照線維成分のいずれも有意な変化はなし

以上より、イヌリンを摂取することで、他のミネラル保持に影響を及ぼすことなくカルシウムのバランスが改善される可能性が示されています。※15

アガベイヌリンによるカルシウム吸収効果

テキーラの原料としても知られるアガベを原料として抽出されたアガベイヌリンによる、カルシウム吸収効果についての研究報告があります。株式会社アガベの研究チームが行ったこの研究では、12名の被験者を以下の3グループに分け、12日間にわたって各対象を毎食前に摂取し(12日間)、カルシウム吸収率とカルシウム体内保有率を算出しました。※16

  • カルシウムのみ群
  • カルシウムに対するアガベイヌリン重量比10倍混合物群(低アガベイヌリン群)
  • カルシウムに対するアガベイヌリン重量比30倍混合物群(高アガベイヌリン群)

研究の結果、以下のことが明らかとなりました。

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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