最近、全粒穀物(全粒粉)からできたパンやパスタを目にする機会も増えています。日本人になじみ深い玄米も、全粒穀物のひとつです。近年のいくつもの研究結果から、全粒穀物の摂取を増やすことで健康寿命を延伸させられることが明らかになっています。例えば、世界195ヶ国で寿命と健康寿命に影響を与える食事スタイルを調査した研究によると、健康寿命にもっとも影響を与えるのはトランス脂肪酸でも砂糖でもなく、塩分摂取量および全粒穀物の摂取量でした。※1
今回は、全粒穀物のさまざまなメリットを紹介し、全粒穀物を使ったパンと小麦粉のパンの栄養成分について比較しながら解説します。
全粒穀物とは
全粒穀物(ぜんりゅうこくもつ、英:whole grains)とは、米や小麦などの穀物の外皮や胚芽が取り除かれてないもののことです。食用の穀物には、米や小麦以外にも、大麦、燕麦、ライ麦、トウモロコシ、キビ、ライ小麦など多くの種類があります。全粒穀物は層になっており、いちばん外側の層が外皮、中間層が胚乳、内側の層が胚芽です。外皮とは、米であれば糠(ぬか)、小麦であればふすまとよばれる部分です。実は、穀物に含まれる栄養素のうち、ビタミンやミネラル、食物繊維などのほとんどは外皮や胚芽に含まれています。つまり、外皮や胚芽を取り除くための精白・製粉という過程を経ることで、でんぷん質の胚乳だけが残ることになります。なお、米においては全粒穀物を玄米、外皮を除去したものを胚芽米、外皮も胚芽も除去したものを白米とよんでいます。※2、3
外皮、胚芽に含まれる栄養素と主なはたらき
前述の通り、精製の過程で除去されてしまう外皮や胚芽には、さまざまな栄養素が含まれています。それぞれの栄養素の役割は以下の通りです。※3
栄養素名 | 健康効果 |
---|---|
ビタミンB群 | 代謝を助ける、神経機能を保つ、赤血球形成など |
マグネシウム | 歯や骨の形成、代謝を助ける、正常な血液循環の維持など |
銅 | 代謝を助ける、貧血予防など |
鉄 | 全身の組織細胞への酸素運搬、貧血予防、疲労回復など |
亜鉛 | 代謝を助ける、細胞成長促進、免疫反応調整、脳活性化など |
食物繊維 | 便秘解消、腸内環境改善、食べ過ぎ防止、血糖値上昇の緩和など |
オートミールとは
ここ数年で広く知られるようになったシリアル食品に、オートミールがあります。オートミールは、精白処理が行われていない全粒穀物を加工したものです。オートミールの「オート」は、原料であるOatsに由来します。日本語名では、燕麦あるいはオーツ麦ともよばれています。オーツ麦の原産地は中央アジアといわれており、紀元前1000年頃から中央ヨーロッパで栽培が始まったようです。イギリスでオートミールが開発されると、その後アメリカへと伝わり朝食の定番となりました。日本へは、明治時代にオートミールが伝わったとされています。※4
オートミールに人気が集まる理由のひとつは、その栄養価の高さです。原料であるオーツ麦は小麦に比べタンパク質や脂質が多く、ビタミンやミネラル、食物繊維といった栄養素も多く含まれています。日本では、ロールドオーツという加工法で処理されたものが多く販売されており、スーパーなどで簡単に手に入れることができます。ロールドオーツはクイックオーツともよばれており、オーツ麦の外皮を除去、精白した後に、蒸してからローラーでつぶして平たく加工されているため、調理しやすいのが特徴です。※4
オートミール以外にも、栄養価の高いさまざまな全粒穀物があります。例えば、スーパー大麦「バーリーマックス®」は食物繊維が非常に豊富なだけでなく、鉄分などさまざまな栄養価も他の雑穀と比べて豊富に含んでいます。
バーリーマックス®について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:全粒穀物で腸内環境を整えて、健康維持・健康寿命の延伸を<スーパー大麦>バーリーマックス®
なお、食物繊維を豊富に含むスーパー大麦は、歯ぎしり改善にも役立つことが明らかとなっています。2024年7月16日に放送された日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」において、『日本人の睡眠をさまたげる 歯ぎしりを改善する?夢の食材』 という特集が組まれました。番組中で行われた検証により、1日30gのスーパー大麦を1週間摂取し続けることで、歯ぎしりに改善の傾向が見られたのです。※5
実際に、岡山大学の外山直樹氏らの研究グループが2023年に行った研究により、食物繊維の摂取量が、若年成人の睡眠の質に関係している可能性が示されました。この研究では、日本人大学生143名を対象に、睡眠時の歯ぎしりと質問票によって調べた栄養素摂取量の関連性を調べました。その結果、睡眠時に歯ぎしりをするグループでは食物繊維摂取量が少ないことが報告されたのです。※6
全粒穀物のメリット
全粒穀物にはさまざまなメリットがあります。
豊富な食物繊維
全粒穀物の特徴のひとつは、食物繊維を豊富に含んでいることです。
食物繊維の定義は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」です。私たちが摂取した炭水化物・脂質・タンパク質などの栄養素は、消化の過程で消化器官から分泌される消化酵素の影響を受け、分解されて小腸から体内に吸収されます。しかし、食物繊維はこの消化酵素の影響を受けないため、小腸では消化吸収されずに大腸まで達します。そのため、便を軟らかくしてかさを増やしたり、便の通過を早めたりすることで、便秘解消や便秘予防に役立つとされています。また、食物繊維は腸内細菌に利用されたり、腸内細菌自体を増やしたりすることで、腸内環境を良くすることがわかっています。※7
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があります。これまでの研究により、水溶性食物繊維は代謝性疾患の予防や改善に、不溶性食物繊維は腸疾患の予防や改善に有効であることが明らかとなっています。さらに近年の研究によって、不溶性食物繊維を多く含む全粒穀物にはさまざまなメリットがあることが報告されています。※8
ところが近年の調査によると、日本人の食物繊維の摂取量は1日14g程度という報告もあり、1950年頃に比べて減少傾向にあるといいます。これは、食物繊維を多く含む穀物、イモ類、マメ類などの食品を食べる量が少なくなっていることが要因だとされています。※7、8
厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18~64歳の男性は21g以上、女性は18g以上が食物繊維の1日あたりの目標量※として定められていることからも、食物繊維の摂取量は不足傾向にあることがわかります。※9
食物繊維を多く含む植物性の食品を積極的に摂取するほか、三食のうち一食の主食を食物繊維が多く含まれる全粒穀物に置き換えるなどの方法で、効率的に摂取することができます。
※目標量……生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量
関連記事:食物繊維とは?種類やメリット・効果、1日の推奨摂取量、食物繊維を多く含む食品について解説
心血管疾患、がん、糖尿病などの死亡リスク減
2016年、全粒穀物やそれを使った食品を多く食べる人は、心血管疾患やがんなどによる死亡率が低下するという研究結果が発表され、注目を集めました。インペリアル・カレッジ・ロンドンのDagfinn Auneらによるこの研究では、全粒穀物などの摂取量と、心血管疾患、がん、糖尿病などの死因別死亡リスクとの関連をまとめた前向き研究45件(64論文)を元にデータの分析が行われました。その結果、1日のうちで全粒穀物をより多く食べる人の方が、食べない人よりも総死亡率は低くなり、心血管疾患、がん、脳卒中、糖尿病の各疾患による死亡リスクも低くなることがわかりました。特に糖尿病においては、1日90g程度の全粒穀物を食べる人は死亡リスクが半減するという結果になりました。全粒穀物90gは3食分に相当し、例えば、全粒粉のパン2枚と全粒穀物のシリアル1ボウル分などが目安です。※10
また、2019年にはドイツ・ハインリッヒ・ハイネ大学のManuela Neuenschwanderらが、食事要因と 2 型糖尿病の関連性についての前向き観察研究を行いました。この研究報告によると、全粒穀物の摂取は2型糖尿病の発症率との逆相関があり、エビデンスの質も高いと評価されています。具体的には、全粒穀物の摂取量が1日あたり30g増加すると、調整済み要約ハザード比が87%、つまり2型糖尿病の発生リスクが13%低下したといいます。※11
体外受精の成功率向上の可能性
全粒穀物のもうひとつの効果として最近注目されているのが、「体外受精の成功率を上げる可能性」です。ハーバード公衆衛生大学院のAudrey J. Gaskinsらが研究を行い、2016年に発表されました。この研究に参加したのは、マサチューセッツ総合病院において体外受精や顕微授精を受けている18~46歳の女性の273名でした。全粒穀物の摂取量により被験者を4つのグループに分け、全粒穀物の摂取量と427周期の体外受精治療成績との関連性を調べたところ、全粒穀物の摂取量が多いグループほど治療周期あたりの着床率や出産率が高いことがわかりました。全粒穀物の摂取量が1日あたり15.4g(中央値)のグループに比べ、1日あたり70.8g(中央値)のグループの方が、着床率・出産率ともに高かったのです。また、全粒穀物の摂取量が多いほど、胚移植時における子宮内膜の厚みも増していることもわかりました。一方で、成熟した卵の数や受精率には関連が見られなかったことから、全粒穀物の摂取が母体側の子宮内膜の受容能に影響を与えたと考えられています。※12
超加工食品の摂りすぎに注意
これまでにお伝えしてきた全粒穀物は、いわゆる「未精製の穀物」であり、私たちが普段口にすることが多い白米や小麦粉は、「精製された穀物」です。これらの自然からの恵みである穀物に対し、糖分・塩分・脂肪を多く含み、硬化油・香味料・乳化剤・保存料などの添加物を加えて工業的に作られる食品を「超加工食品」といいます。常温でも長く保存できる、インスタント食品やスナック菓子、ファストフードや高カロリー清涼飲料などが含まれます。※13
こうした超加工品と心血管疾患との関連について、アメリカの研究チームが2021年に研究結果を発表しました。この研究では1970年代から続いている心血管系リスクに関する長期的な研究に参加する人を対象とし、1日の摂取カロリーのうち半分以上を超加工品から摂取しているアメリカ人3,003名についてデータを解析しました。その結果、超加工食品が毎日1サービング(=食パン1枚程度)増えるごとに、すべての心血管疾患リスクが5%上昇し、心血管疾患による死亡リスクは9%上昇することがわかりました。※13
シリアルやプロテインバーなど健康的に見える加工食品のなかには、おいしさを追求するために糖分や塩分などを多く加えた食品もあります。栄養表示をよく確認するとともに、超加工食品を摂りすぎないよう注意することが大切です。
地球の生態学的環境と人々の健康を両立する食システムの実現
全粒穀物の摂取は、人の健康のみならず、実は地球環境においてもメリットがあることなのです。
2022年、東京大学大学院医学系研究科の佐々木敏教授らは、オランダのヴァーヘニンゲン大学およびオランダ国立公衆衛生環境研究所とともに、日本人における持続可能性の高い食品群の組み合わせについて発表しました。この研究では、過去に行われた日本人の成人369人を対象とした食事データを分析し、文化的に受け入れられやすく、食事由来の温室効果ガスの排出量および金銭的コストが最も少なくなる組み合わせを算出しました。その結果、清涼・アルコール飲料や牛肉・豚肉・加工肉、調味料類、砂糖・菓子類の摂取量を減らしつつ、そして、全粒穀類や乳製品、豆・種実類、果物類、鶏肉の摂取量を増やすことで、持続可能性の高い最適な食品群の組み合わせになるとしています。このモデルに従って食生活を変えることで、食事由来の温室効果ガスの排出量を約10%削減できる可能性が示されました。※14
全粒穀物のパンと小麦粉のパンの比較
前述の通り、全粒穀物は食物繊維が豊富で、さまざまな疾患による死亡リスクを減らすほか、体外受精の成功率を上昇する効果が期待できます。毎日の食生活に気軽に全粒穀物を取り入れる方法として、「全粒粉を使ったパン」はいかがでしょうか。
例として、全粒粉パン100gと、小麦粉で作られた食パン100gの栄養成分を比較してみましょう。※15
栄養成分 | 小麦食パン(角型パン) | 全粒粉パン |
---|---|---|
エネルギー (kcal) | 248 | 251 |
カリウム (mg) | 86 | 140 |
マグネシウム (mg) | 18 | 51 |
亜鉛 (mg) | 0.5 | 0.4 |
鉄 (mg) | 0.5 | 1.3 |
ビタミンB1 (mg) | 0.07 | 0.17 |
ビタミンB2 (mg) | 0.05 | 0.07 |
ナイアシン当量 (mg) | 2.6 | 3.7 |
食物繊維総量 (g) | 4.2 | 4.5 |
食塩相当量 (g) | 1.2 | 1.0 |
パンの形態が変われば栄養バランスは多少異なりますが、同じ100gを食べるなら、小麦粉から作られるパンよりも全粒粉パンの方が栄養バランスは優れているといえます。特に、日本人に不足しがちなカリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミンB1 、ビタミンB2、食物繊維は全粒粉パンの方が多く含まれていますし、摂りすぎに注意すべきとされる塩分は少なめです。※15
また、食べた後の糖質吸収度合いを示すGI値も全粒粉パンの方が低く、食後の血糖上昇がゆるやかになるといわれています。※16
栄養価の高い全粒穀物をバランスよく取り入れよう
自然の恵みをそのまま生かした全粒穀物は、その栄養価の高さが評価され、パンやパスタなどさまざまな食品として店頭に並ぶようになりました。全粒穀物のパワーを知り、普段の食生活にもバランスよく取り入れてみてください。
参考資料
※1 Ashkan Afshin, et al. (2019) Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990–2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet. 11;393(10184). 1958-1972.
※2 Oregon State University 微量栄養素情報センター. 全粒穀物.
※3 複十字病院. 栄養科. 2月の給食だより. 全粒穀物を取り入れてみましょう.
※4 わかさ生活. わかさの秘密. オートミール.
※5 日本テレビ. OAまとめ. 知らないうちに加害者に?多様化する令和のハラスメント問題の原因と対策
※6 Naoki Toyama, et al. (2023) Nutrients Associated with Sleep Bruxism. J. Clin. Med. 12(7). 2623.
※7 厚生労働省 e-ヘルスネット. 食物繊維の必要性と健康.
※8 青江誠一郎. (2016) 穀類に含まれる食物繊維の特徴について. 日本調理科学会誌. 49(5) 297-302.
※9 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版).
※10 Dagfinn Aune, et al. (2016) Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. British Medical Journal. 14:353:i2716.
※11 Manuela Neuenschwander, et al. (2019) Role of diet in type 2 diabetes incidence: umbrella review of meta-analyses of prospective observational studies. BMJ. 366:l2368
※12 Audrey J. Gaskins, et al. (2016) Maternal whole grain intake and outcomes of in vitro fertilization. Fertility and Sterility. 105(6). 1503-1510.
※13 一般社団法人日本肥満症予防協会. 玄米や麦ごはんなどの「全粒穀物」が心臓病や脳卒中のリスクを低下 「超加工食品」にも注意.
※14 佐々木敏ほか. (2022) 日本人における持続可能な食事の実現には、全粒穀類の摂取量の増加と 清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉の摂取量の削減が必要 ~温室効果ガス排出、栄養素、食費、文化的受容性を考慮したモデル分析~
※15 文部科学省. 食品成分データベース.
※16 青江誠一郎 ほか. (2018) 小麦全粒粉配合パンの食後血糖値上昇抑制効果. 栄養学雑誌. 76(1). 20-25.