私たちが生きていく上で欠かすことのできない「食べ物」について、現代の栄養学の常識を根底から覆す、大胆で挑発的な1冊を紹介したい。

PBWF(プラントベース・ホールフード)が様々な病気の予防や治療になるという事実を伝えた「The China Study」の著者であり、ここ100年で最も影響力の大きな栄養学者と言われるT・コリン・キャンベル博士による、科学的に裏付けされた衝撃の真実は、現代の私たちが人間として生きる上で最も知らなければならないことの1つであると言っても言いだろう。

たんぱく質摂取にこだわっている多くの現代人にとって、動物性たんぱく質の摂取や、個々の栄養素に焦点を当てる現代の栄養学がもたらす健康への深刻な不利益についての真実を受け入れるには少し時間がかかるかもしれない。

しかし、食べ物と健康について、私たちの理解がどのように脱線し、どのような対策ができるのかについて、奥深くもシンプルに示している力強いこの本を読むと、健康や食べ物、科学、医療についての考え方や意思決定を変えざるを得ないことに気付く。

 

キャンベル博士の新しいパラダイムが示されたこの本は、先進国唯一上昇を続けている日本人のがん罹患率、生活習慣病の若年化の進行など、今まさに日本人が向き合うべき健康について、多くの人々の生活の改善と、巨額の医療費の削減につながると信じられる1冊である。

食べ方を変えるだけで、薬や外科治療より効果的に自分の健康を手に入れることができる

病気の治療に大金が使われているものの、私たちの健康は改善されておらず、さらには、DNA検査の結果、将来的に乳がんになる可能性があると予言された娘の母親が、まだ若い娘の胸を切り落としてしまうような悲劇的な解釈が導かれるケースがあるのが現代の医療の一部である。

しかし、健康状態の獲得、維持、回復には、医学的なブレイクスルーや遺伝子操作は不要であることが多くの研究者の半世紀にわたる研究結果から示されているようだ。

研究結果を端的にまとめると、私たちの健康を決定づける要因として、DNAや化学物質の大部分よりも、私たちが「日々何を食べるか」の方がずっと大きな影響力を持つらしい。
食べ物を選ぶことで、がん、心臓病、2型糖尿病、脳梗塞、黄斑変性、片頭痛、ED、関節炎など多くの病気の予防が可能であり、これらの症状の多くを改善させることさえできるという。

現代人の健康意識や健康行動は年々高まっているはずなのに、なぜ今このような本が出版され、話題を呼んでいるのか。生活習慣病予防をはじめ、食事の重要性について我々は、ある程度認識しているように思うのは私だけではないはずである。
どうやら、健康であると思っている私たちの根本が間違っているらしいのだ。

それでは、何をどのように食べるべきなのだろう。
キャンベル博士はこの本の中で、研究の結果導き出された理想的な人類の食事を明示してくれている。
まず、植物由来の食べ物を、できる限り自然の状態に近い形、すなわち「ホールフード」で摂取をし、多種多様な野菜、果物、生のナッツや種、豆類、全粒穀物を食べること。そして、加工度の高い食品や動物性食品は避け、塩、油、砂糖は使わず、カロリーの80%を炭水化物から、10%を脂質、10%をたんぱく質から摂ること。

この本の中ではこれを「プラントベース・ホールフード」(plant-based whole food、植物由来の自然食)、略してPBWFと呼び、PBWFこそが、がんとあらゆる生活習慣病を予防するためのキーワードとなっている。

体内の酸化を修正するPBWF食

なぜ、PBWF食が人間にとって最も健康的な食べ方なのだろうか。
これまでの研究からPBWF食が、間違った方向に進んだ酸化を修正する効果があることがわかっているらしい。

酸化によって生成されるフリーラジカルは、老化、がんの進行、脳卒中や心臓発作を引き起こすプラークの破裂の原因として知られているが、植物はフリーラジカルの産生に対抗する一連の化合物を有しているとのこと。そのためPBWFにより、植物の中に含まれる抗酸化物質が食品フリーラジカルから守り、細胞の老化の進行を遅らせてくれるそうだ。

ちなみに、ベジタリアンやヴィーガンとPBWFは同じではないとのこと。ベジタリアンの大半は乳製品や卵、過剰な油、生成された炭水化物、加工食品を摂取しているし、ヴィーガンは動物ベースの食べ物をすべて排除しているものの、添加油脂、精製された炭水化物、塩、加工食品を摂取していることもあるためだという。

GoogleやFacebookも社内カフェテリアでPBWF料理を提供しているというから、日本の企業やレストランでPBWF料理を見かけるようになることも、そう遠くはないのかもしれない。

PBWFへの転換は少々大変そうに感じてしまうものの、キャンベル博士は、「ただ様々な種類の植物性の食べ物をたくさん食べればよいのです。細かい計算は、体のほうが全てやってくれる。」という。
これは科学者や専門家からすると物足りないメッセージかもしれないが、私のような非専門家からすると、とても端的でありがたい。

すべての栄養について、摂取した量と体内で使用される量との間に比例関係はない

リダクショニズム(細分主義)では、栄養は個別の栄養素が持つ効果の算術上の足し算でしかないにも関わらず、私たちの文化にはリダクショニズムの概念が根強く浸透してしまっている。
例えば、「カルシウムは骨を強くする」とか、「ビタミンEにはがんと闘う抗酸化作用がある」にはじまり、カロリー計算をする人、たんぱく質の摂取を気にする人、食品パッケージの栄養成分表のパーセンテージに注目する人、トマトにリコピンが含まれているからとフライドポテトにケチャップを沢山つけて食べる人などは、リダクショニズムの典型例とのこと。

これには少し戸惑ってしまう。なぜなら日本においては、ごく当たり前に、むしろ健康への意識が高い人ほど、そして医療機関をはじめとする専門領域でのスタンダードな栄養との関わり方であるからだ。
この常識を覆すには相当の覚悟が必要だが、納得のいく説明と根拠が示されているこの本を読むと、私たちの根本を変えざるを得ないようにも思えてくる。

ちなみに、1回の食事で摂取する栄養素の量と、それが作用する体内の箇所まで実際に届く量との間には、直接の関係性がほとんどないという事実も明らかにされている。
仮にビタミンCを1回目の食事で100mg、2回目の食事で500mg摂取したとしても、ビタミンCが作用する組織まで届く量は2回目の食事で5倍にはならず、これは全ての栄養と関連化学物質において同様であることは確からしい。よって、栄養素を何ミリグラム摂れば良いかを正確に知ることなどできないという。
これは、不確定性を嫌うリダクショニストが最も嫌う真実であるが、しかと受け止め、考えていくべき事実だと言える。

まるごとのリンゴが持つ驚くべき抗酸化作用からみえる「WHOLE」の凄み

リンゴに限ったことではないようだが、ここでは西洋の格言「リンゴを1日1個食べれば医者いらず」でも名高いリンゴの研究を用いて「WHOLE」の意義深さを示している。

キャンベル博士の同僚かつ友人であるリウ博士のチームが行ったリンゴの研究では、生のリンゴ100gのビタミンCと同じ抗酸化活性を調べてみたところ、1500mg分のビタミンCに相当することが分かったそうだ。
ちなみに、これは一般的なビタミンCサプリメントの約3倍の量というから驚く。
さらに驚くのは、100gのリンゴをまるごと科学分析にかけてみてもビタミンCはわずか5.7mgで、まるごとのリンゴから見つかったビタミンC類似の活性は、分離されたビタミンCが持つ力の263倍に相当していたという事実である。

どうやら、リンゴの中で起こっているビタミンCと同じような活性作用全体のうち、ビタミンCと私たちが呼んでいる特定の化学物質が占める割合は1%をはるかに下回り、残りの99%以上がリンゴの中の他の化学物質によって引き起こされている作用ということらしい。
すなわち、ビタミンC単体の潜在的な能力は、リンゴ全体という背景があるときでなければ、それほど大きな効果は発揮しないということになる。

このように、栄養のプロセスは大変ホーリズム(全体主義)な仕組みになっていて、特定の栄養素が体内でどのように使われるかは、一緒に摂取する他の影響次第ということは確からしい。
私たちはこの栄養の複雑な仕組みと、「脇役たち」の存在をしかと認識する必要があるのかもしれない

長年の査読済みの証拠に裏付けられた、添加物としての油、塩、砂糖や小麦粉などの精製炭水化物を最小限に抑え、プラントベースの食べ物をホールで摂るというシンプルな食べ方こそが健康を作るという結論は、様々な意見や捉え方があるかもしれない。

特に動物性たんぱく質の利益を信じてきた私にとって、それらの食品が実はとても不利益であるかもしれないという事実を認めることは勇気がいるものの、試さざるを得ない強い根拠とメッセージであった。

私たちが今持っている考え方を疑い、社会全体としての変革を目指すべきときがきていると感じざるを得ないのは、私たちが自然栽培の植物をPBWFで食べることが、自分たちの健康だけではなく、自然を守り、人間が生きていくために必要な地球環境を守ることでもあると理解できるからであろう。

特定の栄養素を分離するのではなく、毎食食べるホール(丸ごと)の植物性食品が持つ数多くの栄養素が体中の組織に行きわたることで健康が作られることを示した著書「WHOLE」は、私たちの食べ物と体についての理解を正し、毎日の食事の選択を優れたものに変えてくれる1冊になるはずである。

執筆

大西安季

 

理学療法士。筑波大学大学院人間総合科学研究群在籍。理学療法士として、就労世代から高齢者まで、幅広い世代の健康づくり・健康教育に関わっています。介護予防、疾病予防、健康寿命延伸といった取組みに特に興味があり、世の中にある沢山の情報を多くの人と共有し、より良い生活の一助となることを目指して活動中です。

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