2024年8月1日、日本でも、インサイド・ヘッド2が公開されました!
インサイド・ヘッドは、2015年にピクサー・アニメーション・スタジオが制作したアニメーション映画です。

この映画では、11歳の少女ライリーの頭の中の感情(喜び、悲しみ、怒り、恐れ、嫌悪)の様子が描かれています。
ヨロコビ(喜び)、カナシミ(悲しみ)、イカリ(怒り)、ビビリ(恐れ)、ムカムカ(嫌悪)の5つの感情がキャラクターとなって出てきます。
常々、感情についてもっと多くの人に知ってほしい!と活動している身としては、心からおすすめする映画であり、個人的にも大好きです。
その続編ということで、公開を楽しみにしていました。

続編は、来年高校1年生になるという思春期のライリーが描かれており、新たに、大人の感情として、シンパイ(不安)、イイナー(妬み)、ダリィ(倦怠感)、ハズカシ(恥ずかしい)が登場します(2度ほどナツカシ(懐かしい)も出てきます)。
早速、観てきましたので、知るともっと映画を楽しめる!登場する感情たちの解説をしてみたいと思います。
(ネタばれはないので、ご安心を!)

1作目から出ていた感情たち

まず、1作目から出ていた感情たちから。

ヨロコビ(喜び)

ヨロコビ(喜び)は、目標を達成したり、何かを手に入れるなどポジティブな経験をしたときに感じる感情です。いつでもライリーを喜びでいっぱいにしようと奮闘しています。悲しくなるようなことがあっても、すぐに切り替えて、喜びを取り戻そうとあの手この手を使います。

カナシミ(悲しみ)

カナシミ(悲しみ)は、私たちが大切なものを失ったときに感じます。ヨロコビからすると、ちょっと邪魔で疎ましい存在ですが、悲しみに寄り添うことで、私たちは人にやさしくなることができます。また、悲しみを見せることで、他者からのサポートを引き出します。

イカリ(怒り)

イカリ(怒り)は、私たちの大事なものが傷つけられたときに生じます。私たちの大事なものを守る役割を担っています。映画の中では、ときどきブーン!と爆発してしまいますが、傍から見ると、ぐーっと我慢し続けるよりも、いっそ爆発するほうが、見ていて痛快なシーンでもあります。

ビビリ(恐れ)

ビビリ(恐れ)は、危険や脅威に対する反応です。危険を回避するための行動を促す生存のための大事なメカニズムです。車が近づいてきた、とか、先生にあてられそう、など具体的かつ現実的な脅威に対して出てきます

ムカムカ(嫌悪)は、私たちの生存に直結しています。まずいものを口に含んだときに、ぺっと吐き出したくなる、あれがまさに嫌悪です。毒などから私たちの身を守ってくれます。食べ物以外に対しても、同様に、異質なものや道徳に反することなどへの反応として生じます。

「大人の」感情たち

そして、今回新たに登場した「大人の」感情たち。

シンパイ(不安)

シンパイ(不安)は、未来のことでわからないことがあるときに生じます。ビビリ(恐れ)とは違い、不確実で未知のことに対する反応です。私たちに、「わからないことがあるから、何か対策をとったほうがいいですよ」と教えてくれます。映画の中のシンパイもライリーのために、あれこれ戦略を立てます。非現実的なことまであれこれ心配しすぎるとうまく機能しなくなってしまいます。

イイナー(妬み)

イイナー(妬み)は、他の人の優れているところ・持っているものに注目したときに生じます。友達と一緒にいて楽しそうでイイナー、とか、スポーツが上手でイイナーとか。他者との競争心を刺激して、自己改善(もっとうまくなろう、など)の動機として働きます。

ハズカシ(恥ずかしい

ハズカシ(恥ずかしい)は、社会的な失敗や周囲の期待に反する行動をとったことに対して生じます。他の人からどう見られているんだろう、と他者評価が気になるようになると出てきます。社会的な規範に従うことを促すので、他者と協調するのに役立ちます。

ダリィ(倦怠感)

ダリィ(倦怠感)は、刺激がないことや日常が単調なことに対する反応です。新しい経験や自分の興味を探求する動機になります。

思春期に入ると、高校に入ってから、その先のことなど、思いをはせる未来の時間軸が長くなります。
不確実で曖昧で未知のことを考え始める……そこでシンパイ(不安)が登場するのです。
また、親など家族から心理的に独立して、友人関係が大事になっていく時期でもあります。
社会的な交流がぐっと広がりを見せ、重要度を増します。
誰かと自分を比べてイイナーと思ったり、周りから浮くような行動をとったときにハズカシいと感じたりします。
この2つは、社会性ならではの感情たちです。

また、倦怠感も思春期に特徴的なものでもあります。
ダリィーとただ寝転がって何もしていないように見えるこの感情ですが、思春期のジェットコースターのような激しい感情状態とバランスをとってくれています。

おまけにナツカシ(懐かしい)についても触れておきましょう。
ナツカシ(懐かしい)は、喜びと悲しみが混ざった複雑な感情です。
昔のことを思い出しつつ、肯定的な気持ちになれるのですが、そこには一抹の「あの時代はもうこない」という悲しみが含まれています。
この映画を観る多くの大人が、自分の子ども時代を思い出して感じる感情でもあります。

映画の中では、どの感情も、ライリーの幸せを心から願って奮闘します。
私たちの中にいる感情たちも同じように、私たちの幸せを願って働いてくれているんだな、そんなことにも想いをはせながら、楽しんでもらえたら嬉しいです。
後編では、ほんの少しのネタバレを含みながら、インサイド・ヘッド2から学ぶ「感情とのつきあいかた」について解説したいと思います。
あわせて、ご覧ください。

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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