さまざまな健康増進効果があるとして、今注目されている栄養成分に「わさびスルフォラファン」と「オメガ3脂肪酸」があります。これらの成分は単独でも効果がありますが、わさびスルフォラファンとオメガ3脂肪酸を併用することで、神経細胞に対して相乗効果を発揮することがわかっています。この記事では、わさびスルフォラファンとオメガ3脂肪酸がもたらす効果や、併用したときの相乗効果についてご紹介します。

酸化ストレスは老化を引き起こす原因のひとつ

酸素は私たちが必要な生きる上で欠かせないものですが、酸素は酸化ストレスとよばれる負の側面を引き起こしてしまいます。それ以外にも、酸化ストレスは紫外線や喫煙、排気ガスや飲酒などさまざまな外的要因によって生じます。酸化ストレスはさまざまな身体の部位に影響を及ぼし、シミやシワ、動脈硬化につながる酸化ダメージの原因になります。

また、酸化ストレスは老化を引き起こす原因のひとつでもあります。DNAを損傷してゲノム不安定を引き起こしたり、ミトコンドリア機能を障害して機能不全を引き起こしたり、慢性炎症の原因になったりと、さまざまなAging Hallmarksとの関係性が指摘されています。※1

Aging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

酸化ストレスを抑える作用が抗酸化力です。抗酸化力は私たちの身体自体に備わっていまが、加齢とともに低下することが知られています。※2
年を重ねるにつれて低下する抗酸化力をいかに補うかは、老化に対処する上で重要なアプローチ方法です。

わさびスルフォラファンとは?

抗酸化力を高める効果がある成分として、今、わさびスルフォラファンが注目されています。わさびスルフォラファンは主に本わさびに含まれる成分で、細胞の抗酸化作用の指令塔であるNRF2(Nuclear factor erythroid 2-related factor 2)を活性化します。


活性化したNRF2は、細胞の抗酸化力を高める遺伝子を活性化する指令を出し、その効果は下図右で示すように24時間以上続くと考えられています。また、朝食においてわさびスルフォラファンを摂取した場合の抗酸化作用の推移は、下図左に示した通りです。※3

わさびスルフォラファン

このように、NRF2は細胞の抗酸化システムをフル動員することで、炎症を抑える方向にはたらきます。わさびスルフォラファンのNRF2活性化作用は、加齢に伴い低下する身体の抗酸化力を回復させるのに有効な手段と考えられます。

わさびスルフォラファンとNRF2について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:細胞の抗酸化作用を高めるわさびスルフォラファンとは?抗酸化物質ビタミンCとの違いも解説

わさびスルフォラファンは市販のチューブわさびには含まれていない?

わさびスルフォラファンは抗酸化作用が期待される成分です。ただし、わさびスルフォラファンはすりたての本わさびのみに多く含まれる、とても希少な成分です。特に、本わさびの根茎に多く含まれており、葉や茎、根にはあまり含まれていません。本わさびは栽培が難しく、その生産量は年々減ってきています。

また、市販のチューブわさびの原料としてよく使われている西洋わさびには、わさびスルフォラファンがあまり含まれていません。そもそもわさびスルフォラファンは水やタンパク質に触れると劣化する性質があり、常温のチューブのねりわさびにはほとんど含まれていない点に注意が必要です。

わさびスルフォラファンを安定的に効率よく摂取するためには、本わさびを急速冷凍する特別な抽出方法によって作られたサプリメントなどを活用しましょう。この特別な抽出方法によって、わさび特有の辛味も抜けるので、サプリメントとしても摂取しやすくなります。

オメガ3脂肪酸とは?

認知機能改善などの健康増進効果がある成分として、オメガ3脂肪酸もご紹介します。
オメガ3脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種であり、身体のさまざまな機能にとって重要な栄養素です。サプリメントに使われる成分としても有名なEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、サケやマグロなど脂肪が多い魚に含まれる脂肪酸です。※4

このオメガ3脂肪酸は、人間の身体の中では作ることができない必須脂肪酸なので、食事から摂取する必要があります。魚を刺身で食べる文化をもつ日本人にとっては、摂取しやすく馴染みのある成分といえます。

オメガ3脂肪酸は、細胞を袋状に包み込む細胞膜の必須成分の原料として使われます。また、オメガ3脂肪酸は特に脳の成熟や神経細胞の活動において重要な役割を担っていることが知られています。※5

オメガ3脂肪酸を摂取したときに得られる健康増進効果については、さまざまな研究結果が報告されています。例えば、海産物を多く食べる人はまったく食べない人と比較して心疾患により死亡するリスクが低くなることが示唆されています。※6

ただし、オメガ3脂肪酸を含むサプリメントでは心疾患に対する効果が期待できないといった研究報告もあり、サプリメントとして摂取したときの効果はまだまだ研究途上です。※7、8

その一方で、オメガ3脂肪酸を含むサプリメントの摂取は関節リウマチの症状緩和においてある程度有効である可能性も示されています。※4

認知機能に対する効果については否定的な報告もある一方で、オメガ3脂肪酸の摂取により、加齢に伴う認知機能の低下を予防する可能性も報告されています。また、高齢者や認知症の一歩手前である軽度の認知障害をもつ高齢者の認知機能低下などを予防あるいは進行抑制できる可能性も報告されています。これらの効果は、オメガ3脂肪酸の脳機能維持や神経保護作用によるものであると考えられています。※7

オメガ3脂肪酸とわさびスルフォラファンを併用するとどうなる?

抗酸化作用や抗炎症作用が強いわさびスルフォラファンと、神経細胞の材料となって神経細胞保護作用をもつオメガ3脂肪酸を同時に摂取すると、どういった効果が期待できるのでしょうか?

金印株式会社主導のもとで、オメガ3脂肪酸とわさびスルフォラファンを神経細胞に同時に与える実験が行われました。
その結果、神経細胞の成長効果は、オメガ3脂肪酸やわさびスルフォラファンを単独で与えたときと比べ、オメガ3脂肪酸とわさびスルフォラファンを同時に与えたときに最も大きくなることがわかりました。

オメガ3とわさびスルフォラファンDHA相乗効果

このことから、オメガ3脂肪酸とわさびスルフォラファンを同時に摂取することで、神経細胞に対する相乗効果が期待できるといえます。

魚にはできるだけ本わさびを合わせ、必要に応じてサプリメントの活用も検討しよう

ここまでオメガ3脂肪酸とその有効性や、わさびスルフォラファンとの組み合わせについて紹介してきました。
オメガ3脂肪酸の摂取量についていうと、私たち日本人は魚を生で食べる食習慣が根付いています。日本脂質栄養学会によると、欧米の人々に比べて日本人が摂取する魚の量は3~4倍、オメガ3脂肪酸の量にすると6~10倍も多いといわれています。※9
日本食に馴染みのある我々は食事からオメガ3脂肪酸に関しては十分に摂取しているのかもしれません。

オメガ3脂肪酸とわさびスルフォラファンの相乗効果を狙うなら、魚を食べるときにはチューブわさびではなく、できるだけ擦りたての本わさびを使用するのがおすすめです。ただし、わさびスルフォラファンはわさびの根茎を擦った瞬間から分解されてしまう希少成分です。わさびスルフォラファンを十分に摂り、オメガ3脂肪酸との相乗効果を十分に得るためには、サプリメントを活用するという方法もあります。

参考資料

※1 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※2 Y Niwa, et al. (1990) Induction of superoxide dismutase in leukocytes by paraquat: correlation with age and possible predictor of longevity. Blood. 76 (4). 835–841.
※3 Keita Mizuno, et al. (2011) Glutathione Biosynthesis via Activation of the Nuclear Factor E2–Related Factor 2 (Nrf2) – Antioxidant-Response Element (ARE) Pathway Is Essential for Neuroprotective Effects of Sulforaphane and 6-(Methylsulfinyl) Hexyl Isothiocyanate. J pharmacolsci. 115. 320-328.
※4 eJIM 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 コミュニケーション オメガ3脂肪酸について知っておくべき7つのこと
※5 Simon C. Dyall. (2015) Long-chain omega-3 fatty acids and the brain: a review of the independent and shared effects of EPA, DPA and DHA. Front Aging Neurosci. 2015; 7: 52.
※6 US Department of Agriculture, US Department of Health and Human Services. (2010) Dietary Guidelines for Americans2010.
※7 橋本道男, 蒲生修治. (2022) ω3系脂肪酸による認知症予防―Up to Date. オレオサイエンス. 22(7). 327-335.
※8 eJIM 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 コミュニケーション オメガ-3脂肪酸と心臓病の関係について知っておくべき5つのこと
※9 日本脂質栄養学会. オメガ3-食と健康に関する委員会. 若い皆さんへ、もっと積極的に魚を食べてください!

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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