酸素は生物にとって必要なものですが、一方で、老化の原因となる「酸化ストレス」を引き起こしてしまいます。今回は、老化をもたらす酸化ストレスへの対処法として、抗酸化物質であるビタミンCや、細胞の抗酸化能力に関わるNRF2を活性化するわさびスルフォラファンの効果について解説します。

老化の敵となる酸化ストレスとは

私たち人間をはじめ多くの生物は、空気中の酸素を吸い込み身体を動かすエネルギーを作ります。その一方で、酸素は「酸」の「素」と書くように、さまざまなものを酸化してしまいます。これを酸化ストレスとよびます。酸化ストレスは、エネルギー産生以外にも紫外線や喫煙、排気ガスや飲酒などさまざまな外的要因によって引き起こされます。酸化ストレスはシミやシワ、動脈硬化などにつながる酸化ダメージの原因になります。

また、酸化ストレスは老化を引き起こす原因のひとつとしても着目されています。2023年にアップデートされた老化の特徴に関する論文「Hallmarks of Aging(Aging Hallmarks/老化の特徴)」においても、酸化ストレスが言及されています。DNA損傷を引き起こしてゲノムを不安定にしたり、ミトコンドリア機能を障害したり、慢性炎症を引き起こしたりと、さまざまなAging Hallmarksとの関係性が指摘されています。※1

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酸化ストレスへの対処法〜抗酸化力

酸化ストレスに対抗するはたらきが抗酸化作用です。身体自体も抗酸化力をもっているのですが、この抗酸化力は下図のように、年齢を重ねるとともに低下してしまいます。※2

引用:SOD:Superoxide dismutase Blood 1990 76 : 835-841

植物にもビタミンCやビタミンEをはじめ、各種ポリフェノールやフラボノイドなどさまざまな抗酸化物質が存在します。一番有名で身近なものがビタミンCです。ビタミンCはレモンなどの果物にも含まれているほか、食品添加物として食品が酸化されるのを防ぐ目的でさまざまな食品や飲み物に配合されています。私たちは日々の食事からも抗酸化物質を摂取しています。

また、身体は酸化ストレスに対する防御機構を兼ね備えています。ビタミンCやポリフェノールなど食事由来のもの以外にも、細胞自身が抗酸化物質を作り出すことができるのです。この抗酸化物質を細胞に作らせるように命令している司令塔が、NRF2という細胞内タンパク質です。

抗酸化の司令塔であるNRF2とは

NRF2は、細胞が備えている抗酸化システムの司令塔を担う物質です。NRF2が活性化すると、さまざまな抗酸化遺伝子の発現を高めたり、炎症を引き起こすサイトカインの遺伝子発現を抑えたりします。NRF2の活性化によって細胞がより多くの抗酸化物質を自分自身で作るようになり、酸化ストレスによるダメージから細胞を守ります。

このNRF2は、ブロッコリースプラウトに含まれるスルフォラファンや、新鮮な本わさびに含まれる希少成分「わさびスルフォラファン」によって食事由来の成分でも活性化することが知られています。※3

なお、わさびスルフォラファンは安定性の問題から、一般的に販売されているチューブタイプのねりわさびからはほとんど摂取できないため、注意が必要です。
わさびスルフォラファンについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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NRF2を活性化するわさびスルフォラファンと、活性酸素を除去するビタミンC

ビタミンCのような抗酸化物質の摂取と、わさびスルフォラファンの摂取によるNRF2の活性化、どちらが酸化ストレスから身を守るのに有効なのでしょうか?
脳機能の低下を引き起こすと考えられる、脳の炎症を例にとって説明します。炎症を火事になぞらえると、ビタミンCは火事が起きてから火元である活性酸素に直接作用して活性酸素を除去する、いわゆる消火器のようなはたらきをします。使い終えた消火器は消火活動を終えた後に使えなくなるのと同じように、食事から吸収されたビタミンCは、酸化ストレスに対応した後は効果を失ってしまいます。

火事を消すためにはビタミンCを常に摂取し続ける必要があり、3食の食事からビタミンCをバランスよく摂取する必要があります。

一方、わさびスルフォラファンは、身体がもつ抗酸化作用にはたらきかけます。抗酸化作用の司令塔であるNRF2は、炎症の元となる酸化ストレスが発生するのを防ぐという、いわば火事が起きないように監視するはたらきをもっています。火事が起こった場合、司令塔は火災現場に消防車を出動させ、消火活動を活性化するようにはたらきかけます。同様に、わさびスルフォラファンはNRF2を活性化することで、細胞自身が炎症を抑える抗酸化物質を作り出します。細胞自身が火事すなわち酸化ストレスや炎症に対して監視活動や消火活動を行うため、一時的に活性酸素を除去するビタミンCに比べて長期間の抗酸化作用が期待できるというわけです。

ビタミンCとわさびスルフォラファンの両方の効果で酸化ストレスに立ち向かおう

老化を引き起こす酸化ストレスを防ぐためには、バランスの良い食事を意識し、ビタミンCをはじめとする抗酸化物質を取り入れることが大事です。それだけでなく、わさびスルフォラファンによってNRF2を活性化し、細胞の抗酸化スイッチをオンにすることも意識してみましょう。酸化ストレスと抗酸化作用を知ることで、より良い抗酸化ライフが送れるのではないでしょうか。

参考資料

※1 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※2 Y Niwa, et al. (1990) Induction of superoxide dismutase in leukocytes by paraquat: correlation with age and possible predictor of longevity. Blood. 76 (4). 835–841.
※3 Keita Mizuno, et al. (2011) Glutathione Biosynthesis via Activation of the Nuclear Factor E2–Related Factor 2 (Nrf2) – Antioxidant-Response Element (ARE) Pathway Is Essential for Neuroprotective Effects of Sulforaphane and 6-(Methylsulfinyl) Hexyl Isothiocyanate. Journal of Pharmacological Sciences. 115(3). 320-328.

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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