「なんだか最近疲れやすくなったな……」
そんな悩みをお持ちの⽅は多いのではないでしょうか?
昔と⽐べて徹夜の作業ができなくなったり、よく寝たはずなのに次の⽇の朝が⾟かったり、朝起きたときに「まだ⽊曜⽇なのか?」と感じて週末まで体⼒がもたなかったりと、さまざまな悩みがあるかもしれません。若い頃に⽐べて疲れやすい⾝体になったと感じている人も多いことでしょう。この記事では、疲労と老化の特徴(Aging Hallmarks)の関連性についてご紹介します。

疲労とはなにか?

NOMON株式会社では2022年11⽉9⽇、「頭の疲れ・もやもやをすっきり!ビジネスパーソンのためのパフォーマンス講座」というオンラインセミナーを開催しました。国⽴研究開発法⼈理化学研究所 ⽣命機能科学研究センター チームリーダーの渡辺恭良先⽣によると、疲労は「作業能率の低下状態」と考えることができるそうです。渡辺先生は、「疲労は、⾝体から休めと命じる重要なアラーム情報です。ストレスが重積して陥る状態で、多数の病気の原因を引き起こす要因となります。疲労や倦怠感はプライマリーケア(⾝近なお医者さんに相談する内容)での主訴のうち、2番⽬に多い項⽬としても知られています。疲労は⾝体が発する何かのSOSであると考えてよいでしょう」と、疲労を軽視しないよう注意喚起しています。

疲労の顕在化

渡辺先生によると、疲労は以下の4つのイベントで顕在化します。

  1. ⾃律神経の乱れ(特に副交感神経の乱れ)
  2. 睡眠の質の低下
  3. 取れない疲労
  4. 意欲低下、抑うつ傾向、アレルギーなどの免疫系の不調といった⾝体の不調

睡眠の質の低下や身体の不調などは、思い当たる節がある⼈も多いかもしれません。

疲労の原因

さらに、疲労の原因には次の3つのステップがあります。

  1. 酸化ストレスの発生
  2. 酸化ストレスによって傷ついた細胞や組織を修復するためのエネルギーの低下
  3. 炎症

エネルギーを産⽣する上でどうしても発⽣してしまうのが、1の酸化ストレスです。さらに、炎症によっても酸化ストレスは増加します。3の炎症を放っておくと1の酸化ストレスを放出することにつながるため、疲労の3ステップが進んでしまう悪循環に陥ります。

慢性炎症は⽼化の原因、Aging Hallmarksのひとつ

Aging Hallmarks

NOMONでは、この疲労を引き起こす3つのステップに着目しました。特に3つ⽬の「炎症」の慢性化が、⽼化と疲労の関係を考える上で重要な組み合わせだと考えています。
2023年にアップデートされた12のHallmarks of Agingのうち、慢性炎症に関する記述を抜粋し、和訳したものをご紹介します。※1

Aging Hallmarks 11 慢性炎症

⽼化に伴い、炎症が増加する(「炎症⽼化」ともよばれる)。全⾝的な症状だけでなく、動脈硬化、神経炎症、変形性関節症、脊椎椎間板変性など、病理学的な局所表現型でも炎症が増加する。そのため、⽼化とともに炎症性サイトカインやバイオマーカー(CRPなど)の循環濃度が増加する。⾎しょう中のIL-6濃度の上昇は、⽼化した集団で全死因予測バイオマーカーである。炎症の増加と関連して、免疫機能は低下し、患者およびマウスの⾎液中の⾻髄細胞とリンパ球の⾼次元モニタリングによって捉えることができる現象となる。

Aging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

炎症と他の⽼化の特徴との関連

炎症⽼化は、他のすべてのAging Hallmarksから派⽣する複数の異常によって発⽣します。いくつか例をご紹介します。

Aging Hallmarks 1 ゲノムの不安定性

老化の特徴のひとつに、ゲノムの不安定性があります。DNA修復機構によるゲノムの安定性が崩れることで老化が促進されると考えられています。ゲノム不安定性は、血液細胞で不確定な潜在性のクローン造⾎(CHIP)という現象を促し、しばしば炎症をもたらす⾻髄細胞が増えやすくなります。これによって、例えば⼼⾎管の⽼化が推進されることがあります。

Aging Hallmarks 3 エピジェネティックな変化

エピジェネティックな変化(遺伝⼦のオン・オフの変化)に異常が起きたり、細胞内のタンパク質全体のバランスが崩れたり、またはオートファジーが機能不全に陥ったりすることで、炎症性タンパク質が増えすぎて炎症を誘発します。

Aging Hallmarks 5 オートファジーの機能低下

炎症は、核DNAやミトコンドリアDNAが細胞質に移動することで引き起こされます。通常であれば、細胞質に移動したDNAはオートファジーによって除去されます。しかし、オートファジーの機能が低下すると、細胞質にあるDNAを除去できなくなり、DNAセンサーが刺激されて炎症を引き起こします。

その他の原因について

炎症⽼化は、循環リズムの乱れや腸管バリアの機能不全によっても悪化します。

抗炎症、抗⽼化の介⼊

全⾝性炎症は、前述の⽼化に関連する変化と機構的に関連していますが、炎症⾃体も老化の特徴となります。

では、炎症や免疫系に介入することで、⽼化プロセスを促進または遅延させることができるのでしょうか。いくつかの知見を紹介します。

免疫系の⽼化が生体全体の⽼化を促進する可能性

例えば、T細胞においてミトコンドリア転写因⼦A(TFAM)に⽋陥があると、循環サイトカインの増加と関連して、⼼⾎管、認知、代謝、⾝体の⽼化を引き起こします。TNF-α阻害剤エタネルセプトは、こうした老化の⼀部を部分的に逆転させます。また、マウスの造⾎細胞においてDNA修復タンパク質であるERCC1のヘテロ接合体⽋失は、免疫⽼化と⾮リンパ系臓器の⽼化、さらには寿命の減少につながる多くの臓器損傷の徴候を引き起こします。これらの老化は、抗酸化作用や抗炎症作用のあるフィセチンによって軽減されます。
以上の結果は、免疫系の⽼化が生体全体の⽼化を促進する可能性を⽀持しています。なお、TFAMを欠損したT細胞、若いERCC⽋損脾細胞、または⽼化した野⽣型脾細胞を若いマウスに移植すると⽼化を誘導します。その一方で、ERCC⽋損マウスに若い免疫細胞を移植すると⽼化が緩和されます。こうした報告から、免疫細胞が生体全体の⽼化を調節する能⼒がある可能性を⽰しています。

抗炎症薬は老化抑制にも効果があるのか?

抗炎症治療に広範な健康寿命および寿命延⻑効果があるという例は複数あります。例えば、TNF-α阻害剤によって、マウスの筋⾁減少、⽼化に関連する糖尿病、認知機能低下、および動脈硬化に関連する⼼⾎管障害が改善されます。関節リウマチを含むいくつかの⾃⼰免疫疾患を改善するために使⽤されているエタネルセプトは、疾患の改善に伴って⽣活の質も改善します。トシリズマブ(IL-6阻害剤)のような抗炎症薬は、多発性⾻髄腫、関節リウマチ、および全⾝性若年性関節リウマチ(AOSD)などの⾃⼰免疫疾患を治療するために使⽤されますが、これらの疾患の炎症性症状を改善するだけでなく、全⾝的な健康寿命を向上させる可能性があります。

ライフスタイルで炎症や老化を抑えられる?

さらに、炎症を抑制する⾷事やライフスタイルの介⼊も、⽼化の進⾏を遅らせることが⽰されています。例えば、炎症を引き起こす可能性のある⾷品の摂取を制限し、抗酸化物質や抗炎症物質を多く含む⾷品を摂取することが推奨されます。また、適度な運動やストレスの管理、⼗分な睡眠なども炎症を軽減し、⽼化を遅らせる効果があります。

以上のように、炎症は⽼化と密接に関連しており、抗炎症治療や炎症を抑制するライフスタイルの変化が健康寿命を延ばすかもしれません。

6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6MSITC)は疲労=慢性炎症に効果がある

慢性炎症に対処するための方法のひとつとして、「6MSITC」をご紹介します。

6MSITCは6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの略で、本わさびに含まれる成分です。ブロッコリーに含まれるスルフォラファンと似たような構造ですが、スルフォラファンよりも分⼦の形が少し⻑いといった特徴があります。
6MSITCは、酸化ストレスに対抗するために、細胞⾃⾝が備え持つ防御機構を活性化します。この防御機構は、NRF2というマスターレギュレーターによって制御されています。マスターレギュレーターとは司令塔のようなもので、さまざまな抗酸化遺伝⼦を活性化させ、細胞を酸化ストレスから保護するようにはたらきかけます。6MSITCは、司令塔であるNRF2を活性化させることで細胞の抗酸化ストレスを保護したり、炎症を抑えたりする作⽤があるといわれています。

6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6MSITC)

6MSITCの可能性

6MSITCが含まれるわさびスルフォラファンを⽤いた⾮臨床・臨床試験のデータと、ポリフェノールやビタミンCの違いをまとめた表を下記に記載しました。※2

関連記事:慢性疲労症候群に対する6-MSITCの効果~最新の臨床研究結果

このように、6MSITCは酸化ストレスから細胞を守る効果のほか、抗酸化作用や抗炎症作用があります。以上から、6MSITCは慢性炎症への効果も期待され、疲労の軽減にも役立つ可能性が考えらます。

疲労回復・抗疲労に有効な栄養素や成分とは?疲労には今のところ何が⼀番いいの?

疲労回復や抗疲労に効果的な栄養素や成分は他にもさまざまなものがあり、網羅的に対処することが効果的であることが⽰されています。

労回復・抗疲労に有効な栄養素や成分

例えば、DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)やテトラヒドロバイオプテリンは、医薬品として使⽤されているケースもあります。これらは自己判断で⾷事やサプリメントとして摂取することは難しいかもしれません。

⼀⽅で、ビタミンB1、ビタミンC、クエン酸、アミノ酸などの成分は、バランスの取れた⾷事を通して摂取することができます。特に⿂や⾁、果物を積極的に食事に取り入れることで十分に摂取できるといえます。

還元型CoQ10、αリポ酸、アセチル-L-カルニチンは、⾷事からの摂取も可能ではありますが、市販されているサプリメントでの摂取が効果的です。

さまざまな情報の中から、個⼈個⼈にあった⽅法を探し、疲労に対処していきましょう。

参考資料

※1 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※2 Takakazu Oka et al. (2022). Clinical effects of wasabi extract containing 6-MSITC on myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: an open-label trial., Biopsychosoc Med, 2022 Dec 12;16(1):26

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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