⾚ちゃんを授かるための能力は、妊孕能(にんようのう)とよばれています。男性であっても女性であっても、加齢によって妊孕能が低下しやすいといわれています。妊孕能とNAD+やNMNの関係については、以前にこちらの記事で最新の論文情報を紹介しました。

関連記事:NMNが卵子の質や卵巣の加齢性変化の改善に与える影響に関する論⽂情報

今回はその続編として、日々更新され続けているNMNの研究のうち、妊孕能に関する最新の論文を4つご紹介します。NMNの妊孕能への影響に関する研究はマウスで始まりましたが、現在はヒツジやブタなどさまざまな動物種へ研究対象が広がっています。それぞれの研究内容をみていきましょう。

論文紹介① オスブタを用い、NMN摂取が精子の質を向上させる可能性を検証した論文

まずご紹介するのは、ブタを使って男性側の妊孕能に対するNMNの効果を検証した論文です。この論文では、オスブタの餌にNMNを混ぜて投与し、精子の質に対するNMNの効果を検証しています。

論文タイトル Supplementing Boar Diet with Nicotinamide Mononucleotide Improves
Sperm Quality Probably through the Activation of the SIRT3 Signaling Pathway.
著者 Zhang H, Chai J, Cao C, Wang X, Pang W.
掲載誌 Antioxidants (Basel). 2024 Apr 24;13(5):507.
DOI doi: 10.3390/antiox13050507.

食肉用の一般的なブタであるランドレースという品種が使われました。ブタの体重をおよそ250kgとして、NMNを1日あたり約2g、約4g、約8 g投与する3つの用量を設定し、9週間にわたって試験が行われました。現在、ヒト用に販売されているサプリメントに含まれるNMNの量は125 mgや250 mgのものがほとんどなので、ブタに投与した1日数gという量は多めかもしれません。なお、この研究における精子の質とは、精液の量、精子濃度、精子の運動、正常な精子の割合を指します。
研究の結果、次のことが明らかとなりました。

  • 4g、8gのNMNの用量では、精子の量・質ともに顕著な改善効果が認められた。2gでは、精子の質の改善は認められたが量の増加は認められなかった
  • 4g、8gのNMN投与により、血液中と精子中のNAD+量が増加
  • 血液中の男性ホルモン値は、2gのNMN摂取から増加
  • 血液中の酸化ストレスレベルは、2gのNMN摂取で低下。4 g、8 gと摂取量が増加するにつれてその低下度合いが大きくなることから、NMNの抗酸化作用の用量反応性が認められた

以上の結果から、NMNが精子の質や量に良い影響を与える可能性が示されました。本研究はブタで行われているため、ヒトでも同じことがいえるのかについては今後の課題です。とはいえ、ブタはマウスよりも生理学的および解剖学的にヒトに近い動物です。この報告は、男性の妊孕能の改善効果を示唆する結果として、非常に興味深いといえます。

論文紹介② NMNを添加することで低温保存時のヒツジの精子の質を向上させる可能性を検証した論文

続いて紹介するのは、ヒツジの精子を低温保存するときに、保存液にNMNを添加することで精子に対しどのような効果があるかを調べた論文です。

論文タイトル β-Nicotinamide mononucleotide improves chilled ram
sperm quality in vitro by reducing oxidative stress damage
著者 Zhu Z, Zhao H, Yang Q, Li Y, Wang R, Adetunji AO, Min L.
掲載誌 Anim Biosci. 2024 May;37(5):852-861.
DOI 10.5713/ab.23.0379

畜産業界では精子の保存性の良さから、ブランド牛の生産の際などには凍結精子が利用されています。人間の不妊治療の際にも凍結精子を使うことがありますが、凍結精子を融解するときに質の低下が懸念されています。今回の論文では、凍結保存ではありませんが、オスのヒツジから採取した精液を冷やす際にNMNが添加されています。
この研究を通して、次のようなことが明らかになりました。

  • NMNの添加により、精子の活動性が上昇し、精子の先端、細胞膜が健康な状態で維持されていた
  • NMNの添加により、精子の酸化ストレスが低減し、抗酸化能が増加
  • 60μMのNMN濃度が最適であり、それよりもNMN濃度が高くても低くてもNMNの効果が落ちてしまう

以上のことから、採取した精子を低温保存するときにNMNを添加すると保護的に作用する可能性が明らかとなりました。

論文①でご紹介したオスブタの論文結果と合わせて、オスの妊孕能に対してNMNはポジティブな影響を与える可能性が示されています。事前にNMNを摂取するだけでなく、採取した精子の保存液にNMNを添加することで、精子の質をより高められる可能性が考えられます。

論文紹介③ デカブロジフェニルエーテルの悪影響をマウスで検証した論文

これからご紹介する2つの論文は、現代社会の日常生活でありふれている化学物質の悪影響に対して、NMNがどのような保護作用を示すかについて調べられています。妊孕能は加齢だけでなく、有害な化学物質の影響を受けやすい能力です。NMNが有害物質から妊孕能をどのようにして守ってくれるのかについてみていきましょう。

論文タイトル ROS suppression and oocyte quality restoration:
NMN intervention in decabromodiphenyl ether-exposed mice.
著者 Jiang Y, Cheng R, Zhou H, Pu Y, Wang D, Jiao Y, Chen Y.
掲載誌 Ecotoxicol Environ Saf. 2024 Jun 7;280:116557.
DOI doi: 10.1016/j.ecoenv.2024.116557.

デカブロモジフェニルエーテルは、現在は規制の対象となっていますが、以前は難燃剤として広く使用されていた化学物質です。規制前はプラスチック、繊維製品、接着剤、シール材、コーティング剤およびインクなどに 利用されていました。デカブロモジフェニルエーテルは極めて安定性が高い物質で、自然環境で分解されにくく生物蓄積性も高いため、世界的に 規制されるようになっています。健康被害に関する懸念も高まっています。

このデカブロジフェニルエーテルの妊孕能に対する悪影響と、NMNがどのような保護作用を示すのかをマウスで調べた研究が、今回の論文です。研究の結果、次のようなことが明らかとなりました。

  • デカブロジフェニルエーテルにより低下した卵子の数や質がNMNにより改善
  • デカブロジフェニルエーテルにより低下した卵子のミトコンドリア機能がNMNにより改善
  • デカブロジフェニルエーテルにより増加した卵子の酸化ストレスがNMNにより低減

以上のことから、デカブロジフェニルエーテルによる卵子への悪影響に対して、NMNが保護的に作用する可能性が示されました。

論文紹介④ リン酸トリクレジルの悪影響をマウスで検証した論文

最後に紹介するのは、先ほどのデカブロジフェニルエーテルと同じような難燃剤であるリン酸トリクレジルの悪影響に対するNMNの保護作用を調べた論文です。

論文タイトル Nicotinamide mononucleotide maintains cytoskeletal stability and
fortifies mitochondrial function to mitigate oocyte damage induced by Triocresyl phosphate.
著者 Meng F, Zhang Y, Du J, Li N, Qiao X, Yao Y, Zhao T, Wu D, Peng F, Wang D,
Yang S, Shi J, Liu R, Zhou W, Hao A.
掲載誌 Ecotoxicol Environ Saf. 2024 Apr 15;275:116264.
DOI doi: 10.1016/j.ecoenv.2024.116264.

リン酸トリクレジルは農業用のビニルフィルムに使われるほか、ガソリン添加剤や建材関係など幅広い用途で使用されています。リン酸トリクレジルは健康被害を引き起こすことが知られており、神経毒性や妊孕能への悪影響が指摘されています。

今回の論文では、リン酸トリクレジルの卵子への悪影響に対してNMNがどのような保護作用を示すか調べられました。
その結果、次のようなことがわかりました。

  • リン酸トリクレジルによって卵子が死んでしまうのをNMNが抑制
  • リン酸トリクレジルによる卵子のミトコンドリア機能障害をNMNが改善
  • リン酸トリクレジルによる卵子の異常な細胞分裂をNMNが正常化

論文③および論文④の内容から、環境中に存在し、妊孕能に悪影響を及ぼす化学物質に対してNMNが保護的に作用を示す可能性が考えられます。

加齢による妊孕能の低下や化学物質による健康被害に対してもNMNは有効である可能性

これまで私たちNOMON研究所では、NAD+が加齢に伴い低下することが老化の一因であり、NAD+の前駆体であるNMNがNAD+を増加させ、NAD+低下を防ぐことで健康増進効果を示すと考えてきました。今回紹介した論文により、現代社会の日常にありふれた化学物質によって引き起こされる健康被害にもNMNが有効である可能性が明らかとなりました。妊孕能は加齢によって低下しやすく、化学物質の影響も受けやすいとされていますが、NMNによって改善できる未来が見えてきたのかもしれません。次々に明らかになるNMNの効果と妊孕能への影響に関する研究内容について、今後も最新情報をお届けする予定です。

NAD+の役割や低下のメカニズム、NMNの作用についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:NAD+低下のメカニズムと細胞老化の関係

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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