2024年2月6日に放送された日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」では、『若い人に増える「なんかダルい」は脳の炎症!?脳&ツボ疲労回復法』と題し、慢性疲労や脳の炎症について取り上げられました。※1

近年、若い人の間でも、慢性的な心身のダルさを感じることが増えているようです。最近の研究では、慢性的な疲労の原因が脳にあることがわかってきました。番組で紹介されていたさまざまな知見について、関連する論文で補足しながら解説します。

慢性疲労と脳の炎症の関連性

慢性疲労と脳の炎症の関連性

番組ではまず、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授・日本疲労学会理事長である渡辺恭良先生が登壇し、「慢性疲労の原因は脳の炎症」ということが紹介されました。慢性疲労に悩んでいる人の脳は、セロトニンという脳内物質を分泌する中脳に炎症が起こしている傾向があるといいます。セロトニンは幸福ホルモンともよばれており、減少すると痛みを感じやすくなったり、睡眠の質が低下したりして、さらに疲労が進むという悪循環となります。※1

体の状態が一定範囲の状態を保てるよう、休息を必要としている状態を「疲労」とよびます。また、いわゆる「だるさ」を感じている状態を「倦怠感」とよんでいます。※2

このような疲労や倦怠感は休息によって自然と回復するものですが、休息によっても回復しない、疲労や倦怠感を感じるほどの動きがなかったにもかかわらずこれらを感じてしまう場合には、病的なものとして考えなくてはなりません。また、こうした疲労や倦怠感は身体的なものに限らず、精神的(心理的)なものにも関連していることがわかっています。疲労が6ヶ月以上続き、社会生活に支障をきたしている場合は、「慢性疲労症候群」という疾患です。慢性疲労症候群では、身体・精神いずれの活動が悪化し、具体的には、筋肉痛、筋力低下、不眠、思考力・集中力低下などがみられます。※2

近年、慢性疲労症候群には脳の炎症が大きく関係していることがわかってきました。この問題を解決できれば、慢性的な状態に至る前段階で疲労や倦怠感を解消できるのではないかと考えられ、大きく注目されています。

ブレーンフォグとは

続いて、番組では「ブレーンフォグ」について紹介されました。
ブレーンフォグは新型コロナウイルス感染症の後遺症のひとつとして広く知られるようになった症状で、頭に霧(フォグ)がかかったようにすっきりせず、ぼーっとした状態になります。記憶力や集中力に影響を及ぼすため、それまで簡単にできていたことができなくなり、日常生活がままならなくなります。具体的には、言葉がうまく出てこない、人の話が頭に入ってこない、活動的になれないといった影響が表れます。このブレーンフォグも、慢性疲労症候群の症状のひとつといわれています。※3

脳の炎症の原因:活性酸素

渡辺先生は番組のなかで、脳に炎症が起こる原因は「活性酸素」であると紹介しています。※1

細胞をはたらかせるためには、エネルギーが必要です。呼吸によって取り込まれた酸素と食事から摂取した糖質をもとに、ATP(アデノシン三リン酸)が作られます。ATPは体内のさまざまなエネルギー源となりますが、副産物として活性酸素も生成されます。活性酸素には体内に侵入した病原体を殺菌・分解するというはたらきもあり、生命維持には欠かせません。しかし、量が増えすぎると私たちの体にある細胞を攻撃してしまうため、この活性酸素をどうにか減らそうと脳が過剰にはたらき、結果的に炎症を起こしてしまうのです。※1、4

疲労には身体的なものと精神的・心理的なものがありますが、そのどちらにも活性酸素が関与しています。どちらか一方だけが疲れているということはありません。筋肉の動きや心拍などの調整といった指令を出す脳はずっとはたらき続けており、結果的に疲労はたまっていくのです。※1

ミクログリア

ミクログリア

抗炎症薬によって慢性疲労症候群の症状が改善することも期待されていますが、抗炎症薬による炎症の治療は、慢性疲労症候群の根本的な解決にはなりません。そこで現在注目されているのが、脳内の免疫系の細胞のはたらきを司り、脳内のマクロファージともいわれる「ミクログリア」という細胞です。ミクログリアには、M1(神経障害性ミクログリア)とM2(神経保護性ミクログリア)の2種類があります。炎症を起こして異常が起こっていることを知らせてくれるのがM1で、炎症を修復してくれるのがM2です。理論的には、M2の量が増えれば慢性疲労の回復が早くなると考えられています。近年、M1をM2に変換させる物質の存在が明らかになっており、研究が進み新たな薬剤などの開発が期待されています。※1、5

6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート(6-MSITC)

本わさびに含まれる6-MSITC(6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート)という成分には、抗酸化力の活性化や炎症抑制などの作⽤があるといわれています。さまざまな薬理作用のある6-MSITCは、慢性疲労症候群に対しても有効であることが、臨床研究によって確認されています。

6-MSITCについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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疲労の解消法

疲労の解消法

番組では最後に、今起こっている疲労を解消させる方法がいくつか紹介されました。一般的には疲労解消に良いとされているけれども、科学的な根拠によると注意が必要なものもあります。

寝る30分前の長風呂はNG

生活リズムの関係で1日の終わりに入浴する方、ゆっくりと長い時間をかけて入浴する方も多いかもしれません。実際に、番組が行ったインタビューでも、疲労回復の方法として「入浴」を挙げる方が少なくありませんでした。しかし、渡辺先生は就寝の30分前に長風呂をすることについて警鐘を鳴らしています。※1

これまでの研究では、就寝前の長風呂によって睡眠までの時間が短縮し、睡眠の質も向上させることがわかっています。しかし、これは睡眠の1.5~2時間前に長風呂で体の深部体温を大きく上昇させることで得られる結果です。※7

また、別の研究によると、寝る前30~60分前までの入浴では、シャワー浴よりも全身浴の方が交感神経活動は活発になるという結果が出ています。一般的に、強い眠気を起こすのは副交感神経なので、交感神経が活発になっている間は眠気が起きにくいことになります。※8

つまり、就寝前の長風呂によって短時間で深い眠りにつくことはできますが、実際に眠るまでには少し時間がかかります。そのため、就寝の直前ではなく、目標とする就寝時間の1時間以上前に全身浴でしっかりと体を温めておく必要があるのです。

寝だめはNG

良い睡眠は、起きている間に蓄積した疲労を回復できることがわかっています。※9

しかし、時間のあるときにまとめて睡眠をとる、いわゆる「寝だめ」では、本当の意味での疲労回復にはならないといいます。※1

私たちの体にはいわゆる「体内時計」があり、本来は、エネルギー摂取、身体活動、覚醒が日中に起こるようにできています。前述のように強い眠気を起こすのは副交感神経であり、日中の活動は交感神経が担っています。交感神経は朝の光を感じることで活発になり、夜になって体を休める時間になると副交感神経が活発になります。これら2つの自律神経のはたらきにメリハリを持たせることが、良い睡眠を誘発してくれるのです。※10

甘いものやビタミンは種類や摂取方法に注意が必要

その他にも、番組内では甘いものやビタミン摂取について紹介されていました。

疲れを感じたときに甘いものを口にするという方も多いかもしれません。甘いものに含まれている糖質は、私たちのエネルギーのもとになるため、ある程度の摂取であれば問題ありません。

ただし、食事中のショ糖を人工甘味料に置き換えると、エネルギー摂取量が有意に低値になることから、人工甘味料はエネルギー源にはならないことがわかっています。※11

疲労回復を目的として甘いものを摂取するときには注意が必要です。

また、ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンDには疲労回復効果が期待できます。
特に、糖質からのエネルギー産生に関わるビタミンB1は、日本人が食事から摂取する量では足りておらず潜在的に欠乏しているため、積極的な摂取が勧められます。ただし、水溶性でありすぐに体外に出てしまうため、日に何度か摂取するよう心がけましょう。※12、13

疲労を溜めないためにスケジュール管理も重要

渡辺先生は最後に、そもそも疲労を溜めないためには日頃のスケジュール管理も大切であると締めくくりました。人は、自分自身が想定できることを行っているときは疲れを感じにくく、反対に突然のトラブルや予想外のできごとなど想定外のことには疲れを感じやすいからです。生活習慣の改善や抗炎症薬の適切な使用などの疲労解消法を知っておくことはもちろん、きちんとスケジュールを立て、何事にも準備をしっかりして疲れを溜めないことも重要です。

参考資料

※1 日本テレビ. OAまとめ. 脳 血流 ツボ 疲れとカラダの関係性とは?最新科学で疲れない体を手に入れる.
※2 吉原一文. (2017) 疲労・倦怠感および 慢性疲労症候群の病態. 心身医学. 57(3). 282-289.
※3 佐々木信幸. (2022) LongCOVIDに伴うbrainfogと反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)を用いた治療的介入. JpnJRehabilMed. 59(3). 277-284.
※4 厚生労働省 e-ヘルスネット 活性酸素と酸化ストレス
※5 佐栁友規, 髙坂 新一. (2017) 脳内ミクログリアの機能. 日本生物学的精神医学会誌. 28(2). 69-75.
※6 日本医療研究開発機構 プレスリリース 慢性疼痛からの自然回復に必要な細胞を世界で初めて発見!―ミクログリア細胞の驚くべき変化―
※7 Takafumi Maeda, et al. (2023) Effects of bathing-induced changes in body temperature on sleep. Journal of Physiological Anthropology. 42(20).
※8 大平雅子, 山田雄大. (2019) 運動後の入浴方法の違いが睡眠の質に及ぼす影響. 日本健康開発雑誌. 40. 31-38.
※9 厚生労働省 e-ヘルスネット 眠りのメカニズム
※10 Christopher M. Depner, et al. (2019) Ad libitum Weekend Recovery Sleep Fails to Prevent Metabolic Dysregulation during a Repeating Pattern of Insufficient Sleep and Weekend Recovery Sleep. Current Biology. 29(6) 957-967.
※11 斎藤雅文, ほか. (2013) 人工甘味料と糖代謝 ―2000年以降の臨床研究から―. 日本栄養・食糧学会誌. 66(2). 69-75.
※12 東京医科大学 公衆衛生学分野疲労改善研究班. 疲労回復のヒント 慢性的に疲れているあなたへ
※13 渡辺恭良. (2019) 科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復 第6回. エルダー. 41(11) 52-53.

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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