顔は年齢が出やすい部分です。鏡越しに毎日確認する部分でもあり、シワやシミ、薄毛などさまざまな変化をどうしても気にしてしまいがちです。近年、エイジングケアをうたった化粧品をはじめ、インナーコスメの飲む美容液や育毛剤など日々新しい商品を目にします。なかでも注目されている成分が、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)です。今回は、紫外線が皮膚にダメージを与えることで起こる光老化やNAD+の効果について解説し、NMNと美容に関する論文を2本ご紹介します。

紫外線によって起こる「光老化」とは

老化の原因については12個のAging Hallmarksが知られていますが、皮膚だけは少し例外的です。皮膚は身体の外側に位置するため、外部の刺激に常に直接さらされています。皮膚に最も大きなダメージを与えるのは太陽光に含まれる紫外線であり、紫外線をはじめとする光によって引き起こされる老化は「光老化」とよばれています。

紫外線は皮膚の深部にまで到達し、酸化ストレスが生じることでDNAなどを障害します。紫外線のダメージが細胞に蓄積することで、シワやシミなどの皮膚の老化症状が引き起こされます。

その他のAging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

シワに効く成分・NAM(ニコチンアミド)

それでは、シワに効果がある成分にはどのようなものがあるのでしょうか?

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、ビタミンB3から合成される身体に必須の栄養素です。加齢に伴うNAD+の減少をいかに食い止めるかが重要であり、近年、健康食品業界や化粧品業界において、さまざまなNAD+前駆体が注目されるようになりました。

古くからビタミンB3として使用されてきたニコチンアミド(NAM、ナイアシンアミドともよばれる)も、NAD+前駆体のひとつです。NAMは副作用を起こすことはほとんどなく、安全性の懸念も少ないのが特徴です。最近では化粧品などにも配合されるなど、抗シワ効果が期待されています。また、エイジングケア製品にも多く配合されている今注目の成分です。

NAMは、細胞の中でNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)に変換され、その後NAD+へと合成されていきます。

NAD+の役割やNAMからの合成経路について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:NAD+低下のメカニズムと細胞老化の関係

NMNを配合する化粧品は増加傾向にありますが、NMNと皮膚の老化に関する研究報告はそれほど多くないのが現状です。そこで、近年報告された、NMNが皮膚の老化に対してどのような効果を示すのかについての論文を2本ご紹介します。

論文紹介①マウスを用いた紫外線照射時の酸化ストレスに対するNMNの作用を調べた論文

まず紹介するのは、紫外線照射時の酸化ストレスに対するNMNの作用についてマウスを用いて調べた論文です。

論文タイトル NMN recruits GSH to enhance GPX4-mediated ferroptosis defense in
UV irradiation induced skin injury.
著者 Feng Z, Qin Y, Huo F, Jian Z, Li X, Geng J, Li Y, Wu J.
掲載誌 Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis. 2022 Jan 1;1868(1):166287.
DOI doi: 10.1016/j.bbadis.2021.166287.

この研究では、紫外線照射による皮膚損傷モデルマウスに、NMNを体重1kgあたり400mgの量で毎日飲水投与し、これを1週間続けました。この研究を通して、次のことが明らかになりました。

  • 紫外線照射による皮膚損傷は、酸化ストレスと脂質過酸化が主な原因
  • NMNの投与により、NAD+が増加
  • NMNの投与により、抗酸化成分であるグルタチオン(GSH)の産生が促進
  • NMNの投与により、紫外線照射によるマウスの皮膚組織のダメージが軽減

以上より、マウスでの実験結果ではありますが、NMNが紫外線による皮膚のダメージを軽減する可能性が示されました。

論文紹介②マウスを用いて男性型脱毛症に対するNMNとミノキシジルの作用を比較調査した論文

続いてご紹介するこの論文では、NMNが毛髪の成長にどのような作用を示すのか、男性型脱毛症の原因である男性ホルモンによる脱毛モデルをマウスで再現しています。現在、ヒトにおける男性型脱毛症(AGA)の医薬品としては、男性ホルモンが活性化型に代謝されるはたらきを抑える薬と、血流を改善するミノキシジルという薬の2剤が主に用いられています。

論文タイトル β-Nicotinamide Mononucleotide Promotes Cell Proliferation and
Hair Growth by Reducing Oxidative Stress
著者 Xu C, Dai J, Ai H, Du W, Ji H
掲載誌 Molecules. 2024 Feb 8;29(4):798.
DOI doi: 10.3390/molecules29040798.

この論文では、ミノキシジルとNMNの薬効の比較も行われました。火傷によってマウスの背中の体毛を取り除いたところに、5%ミノキシジル溶液または0.5%NMN溶液を200mL染み込ませた布を当て、発毛や組織の変化を観察しています。この研究を通して、次のようなことが明らかになりました。

  • NMNの投与により、抗酸化作用を通じて酸化ストレスが軽減、毛包の萎縮や薄毛を改善
  • NMNの投与により、男性型脱毛症の原因であるジヒドロテストステロン(DHT)による毛包の変化を逆転させる効果がみられた
  • NMNの毛髪への効果は、医薬品であるミノキシジルと同程度の薬効強度であった

こちらもマウスでの実験結果ではありますが、NMNが脱毛症の治療において有望な成分となる可能性が示されました。特に、医薬品として広く使用されているミノキシジルと遜色ない効果がNMNにおいても示されたことには驚きで、今後の詳細なメカニズムの研究が待たれます。

NMNが美容に与える影響について研究が進むことを期待

以上、2本の論文を通して、NMNが外見で重要な部分である皮膚や髪に良い影響を与える可能性についてご紹介しました。あくまでマウスを用いた研究成果であり、ヒトで同じようなことがいえるのかについては、さらなる研究が必要です。とはいえ、今回のマウスの研究では非常に有望な結果が示されており、今後のヒトでの研究成果に期待したいと思います。

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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