本わさびに多く含まれるわさびスルフォラファンは、抗酸化作用を高める効果があるとして、今注目されています。抗酸化作用だけでなく、高齢者を対象に記憶力の向上を検討した臨床試験も報告されています。今回は、わさびスルフォラファンの概要と、記憶力に関する効果について解説します。

わさびスルフォラファン(6-MSITC)とは

わさびスルフォラファンは本わさびの根茎に多く含まれている成分です。別名6-MSITCとよばれており、細胞の抗酸化・抗炎症の司令塔であるNRF 2を活性化させる作用があります。※1

野菜の中でも本わさびがもつ強い抗酸化・抗炎症作用は、わさびスルフォラファンによるものと考えられています。

わさびスルフォラファンと抗酸化作用について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:細胞の抗酸化作用を高めるわさびスルフォラファンとは?抗酸化物質ビタミンCとの違いも解説

わさびスルフォラファンはすりたての本わさびにのみ含まれており、市販のチューブわさびに多く配合されている西洋わさびにはほとんど含まれていません。また、わさびスルフォラファンは不安定な物質で、抽出するためには本わさびを急速冷凍するといった特殊な製法が必要不可欠です。

わさびスルフォラファンと記憶力に関する臨床試験

「近頃、物忘れが激しくなった」
「ちょっとしたことが思い出せない」
「この漢字はどうやって書くんだった?」
など、年とともに記憶力の低下を感じることは、誰しも身に覚えがあると思います。
最近の研究により、記憶力の低下を防ぐ方法のひとつとして、わさびスルフォラファンの長期的な摂取が効果的であることがわかってきました。

わさびスルフォラファンが記憶力や認知機能に対してどのような効果があるのかを調べた臨床試験をご紹介します。この臨床試験は、人間環境大学の野内類教授と東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授を中心とする研究グループにより実施されました。成果の詳細は、2023年10月30日刊行の科学雑誌「Nutrients」において、論文として発表されています。※2

この試験では平均65歳の健康な高齢者が集められました。試験の前に認知機能検査を実施し、記憶力を測定しました。最初の検査後、36名ずつの2つのグループに分け、一つのグループにはわさびスルフォラファンが入ったカプセルを、もう一つのグループにはわさびスルフォラファンが入っていないプラセボカプセルを渡しました。12週間、毎日このカプセルを摂取してもらい、摂取後に再度認知機能を検査しました。※2

ブラインドテスト

その結果、物語を聞いた後、少し経ってからその内容を思い出しながら話すなどの方法で測定される「エピソード記憶」の成績が、わさびスルフォラファンの摂取により改善する可能性が示されました。加えて、読み上げられた数字を逆唱するなどの方法で測定される「作業記憶」の成績についても、わさびスルフォラファンの摂取により改善することが明らかとなりました。※2

エピソード記憶や作業記憶について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:記憶のメカニズムとは?短期記憶と長期記憶の違いについて解説

6-MSITCの抗酸化機能と抗炎症機能が海馬における記憶機能の向上に有効か?

このような記憶機能の改善が見られた仕組みについて、論文の筆者らは、脳の海馬という部位における酸化物質や炎症と関連づけて考察しています。※2

海馬とは、エピソード記憶や作業記憶を司る脳の部位です。6-MSICTが有する抗酸化作用と抗炎症作用によって、海馬における酸化・炎症レベルが低下し、脳の損傷が保護されると考えられます。その結果、海馬における脳活動や神経活動が維持され、記憶能力の改善につながった可能性が示唆されています。※2

ただし、本研究では抗酸化物質や炎症性物質などについては測定していないため、より詳細なメカニズムの解明にはさらなる研究が必要であると筆者らは述べています。※2

規則正しい生活習慣にわさびスルフォラファンをプラスして記憶力を維持しよう

わさびスルフォラファンを用いた臨床試験の結果から、高齢者の記憶力維持にわさびスルフォラファンが有効である可能性が示されました。認知機能を維持するためには毎日栄養のあるちゃんとした食事を摂り、十分な睡眠や運動のほか、日常生活を豊かに、アクティブに過ごし続ける必要があります。それらに加えて、わさびスルフォラファンを含むサプリメントなどの力を借りることで、より効率的に認知機能や記憶力を維持し続けることができるかもしれません。

参考資料

※1 Keita Mizuno, et al. (2011) Glutathione Biosynthesis via Activation of the Nuclear Factor E2–Related Factor 2 (Nrf2) – Antioxidant-Response Element (ARE) Pathway Is Essential for Neuroprotective Effects of Sulforaphane and 6-(Methylsulfinyl) Hexyl Isothiocyanate. Journal of Pharmacological Sciences. 115(3). 320-328.
※2 Rui Nouchi, et al. (2023) Benefits of Wasabi Supplements with 6-MSITC (6-Methylsulfinyl Hexyl Isothiocyanate) on Memory Functioning in Healthy Adults Aged 60 Years and Older: Evidence from a Double-Blinded Randomized Controlled Trial. Nutrients. 15(21). 4608

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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