老化は誰にでも訪れる変化であり、心身にさまざまな影響を及ぼします。なかでも腸については、老化の特徴や老化抑制の知見をまとめた「Hallmarks of Aging(Aging Hallmarks/老化の特徴)」という論文において、老化に伴う「腸内細菌叢の変化」として言及されています。今回は、腸の老化とAging Hallmarksについて解説し、NMNと腸内環境に関する論文を2本ご紹介します。

腸の老化

生きている以上、老化は誰しも避けては通れない道です。具体的な老化の例として、年とともに顔にシワが増えたり、肌にハリがなくなったりするほか、足腰が衰えたり、物覚えが悪くなったりします。

肌の老化について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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老化の影響は身体の内側にも及びます。お腹の中にあるさまざまな内臓も例外ではなく、腸の機能も年とともに衰えてしまいます。腸管内には無数の細菌が腸内細菌叢を形成し、われわれの健康と密接に関わるように生息しています。この細菌叢の悪い作用が出ないよう、腸管はバリア機能をもっています。

腸管は身体の内側と思いがちですが、実は皮膚などと同じく身体の外側にあたる組織です。腸管は幹細胞により絶えず再生され、ターンオーバーが盛んに行われていますが、腸管のバリア機能は肌と同様に老化によって衰えていきます。そうすると、慢性炎症をはじめ、さまざまな悪影響が起こってしまいます。

Aging Hallmarks 2023の「腸内細菌叢の変化」とは

Aging Hallmarks

2023年にアップデートされた「Hallmarks of Aging(Aging Hallmarks/老化の特徴)」という論文には、老化の特徴や老化抑制に関する知見がまとめられています。このAging Hallmarksのなかに、no.12「腸内細菌叢の変化 (Dysbiosis)」という項目があります。その概要を紹介します。※1

12. 腸内細菌叢の変化 Dysbiosis

腸内細菌叢(いわゆる腸内フローラ)は栄養の消化・吸収だけでなく、病原体からの保護、必須代謝物の⽣成など、⾝体全体の維持に影響を与えることもわかってきました。腸内細菌叢の乱れは、肥満や糖尿病、潰瘍性⼤腸炎、神経疾患、⼼⾎管疾患、がんなどのさまざまな病態に関与する可能性があり、⽼化に伴う腸内細菌叢の変化についても近年基礎研究が進んでいます。

Aging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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NMNと腸内環境

抗老化作用が期待されている成分として近年注目されている成分が、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)です。NMNは、長寿に関係があるとされるサーチュインというタンパク質の活性化や、細胞の分解・再利用に関するオートファジーの促進など、さまざまな組織における抗老化作用が報告されています。また、NMNは加齢に伴い減少するNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の生成を促進することもわかっています。

健康に生きる上で欠かせない生体内成分であるNAD+について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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NMNの抗老化作用についての研究は、世界中で進められています。ここからは、NMNと腸内環境に関する論文を2本ご紹介します。

論文紹介①早老症モデルマウスにNMNを投与し、腸のバリア機能を改善する可能性を検証した論文

1つ目にご紹介するのは、老化が早まる早老症モデルマウスにNMNを投与した研究に関する論文です。

論文タイトル β-Nicotinamide mononucleotide supplementation prolongs
the lifespan of prematurely aged mice and protects colon function in ageing mice
著者 Gu Y, Gao L, He J, Luo M, Hu M, Lin Y, Li J, Hou T, Si J, Yu Y.
掲載誌 Food Funct. 2024 Mar 18;15(6):3199-3213.
DOI doi: 10.1039/d3fo05221d.

この研究を通して、次のようなことが明らかになりました。

  • NMNの投与により、早老症マウスの腸の上皮細胞の損傷が改善し、腸の透過性も改善した
  • NMNの投与により、腸のバリア機能の要であるタイトジャンクションタンパク質の産生量が増加した
  • NMNの投与により、杯細胞の数や抗炎症因子の放出も増加した
  • NMNの投与により、有益な腸内細菌が増加した
  • NMNが、腸の上皮を再生している幹細胞を活性化した

以上の結果から、NMNは早老症モデルマウスの腸のバリア機能を改善し、腸の老化を遅らせる可能性が示されました。

論文紹介②ミトコンドリア変異がマウスの腸の老化を引き起こすメカニズムについての論文

2つ目にご紹介するのは、ミトコンドリア変異をもつマウスの腸管異常に対するNMNの作用を調べた論文です。この論文では、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異が腸の老化を引き起こすメカニズムを検証しています。

論文タイトル NAD+ dependent UPRmt activation underlies intestinal aging
caused by mitochondrial DNA mutations.
著者 Yang L, Ruan Z, Lin X, Wang H, Xin Y, Tang H, Hu Z, Zhou Y, Wu Y,
Wang J, Qin D, Lu G, Loomes KM, Chan WY, Liu X.
掲載誌 Nat Commun. 2024 Jan 16;15(1):546.
DOI doi: 10.1038/s41467-024-44808-z.

この研究を通して、次のようなことが明らかになりました。

  • mtDNA変異の増加により、NAD+が枯渇した
  • NAD+の枯渇により腸の老化が促進され、ミトコンドリアに異常なタンパク質がたまってしまう
  • NAD+を生成するための材料である前駆体のNMNを補給することで、NAD+の枯渇を改善し、腸の老化も防ぐ
  • NMNは、腸の幹細胞の再生を支える細胞内シグナルを回復し、幹細胞を通じて腸の老化を軽減する

1つ目にご紹介した論文と同じように、2つ目の論文でもNMNが腸の老化を改善する可能性が示されています。この作用メカニズムに、ミトコンドリアが関与していることが明らかとなりました。

NMNは腸の老化を防ぐ

これらのマウスを用いた非臨床試験によって、NMNが腸の老化を防ぎ、抗老化作用を発揮している可能性が明らかとなりました。NMNを摂取した際に身体にどのように吸収されるかについては、現在議論が分かれています。しかし、体内に摂取したNMNが最初に接する器官は腸管です。腸管は食べ物や腸内細菌など絶えず外部環境にさらされており、皮膚と同様にターンオーバーが激しい組織のひとつです。絶えずターンオーバーしている組織では、年齢の影響は出やすいといえます。そう考えると、今回ご紹介した2本の論文のように、NMNが最初に接する腸の組織の機能を改善しているというのは理にかなっているといえます。老化に対処するためには、まずはお腹の中から、つまり腸内環境からケアしていくことが重要なのではないでしょうか。

参考文献

※1 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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