生きる上で欠かせない生体内成分であるNAD+は、加齢に伴い量が減少します。しかしながら、その前駆体であるNMNを摂取することで、NAD+の減少を防ぐ効果があることがわかっています。日本国内で購入できるNMNサプリメントには125 mgや250 mgの配合量のものが多く、最近では500 mgや1,000mgなどの高含有量のNMNサプリメントも増えてきました。今回は、NMNを大量摂取した場合の安全性と、品質の低いNMNサプリメントを摂取することのリスクについて解説します。

NMNはNAD+の減少を防ぐ

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、ビタミンB3から合成される生体内成分であり、生きていく上では欠かせないものです。近年の研究により、NAD+について次のようなことがわかっています。

  • NAD+は、ミトコンドリアがエネルギーを作る際に全身の細胞で使われている
  • 年をとると身体の中のNAD+の量が減ってしまう
  • NAD+の減少は、糖尿病やアルツハイマー病などの加齢関連疾患と関わっている
  • NAD+の減少が老化や病気を引き起こす原因となっている可能性がある

NAD+の役割や合成経路、NAD+が低下した際に細胞でどのようなことが起こるのかについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

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NAD+は、身体のほとんどの細胞の中において、主にNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)から作られます。近年の研究では、NMNを摂取することでNAD+の減少を防ぐ効果が示されており、老化やさまざまな病気に対する改善効果が期待されています。

NMNを大量摂取した場合の安全性とは

現在、日本では、NMNをサプリメントとして購入して摂取できます。サプリメントとして売られているNMNは、1カプセルあたり125 mgや250 mgの量で配合されているものが多くあります。最近では、1日あたりの推奨摂取量が500 mgや1,000mgなどのNMNサプリメントも増えてきました。サプリメントで一度に多量の成分を摂取する場合、健康上のリスクは気になるところです。NMNは、1日あたりどのくらいの摂取量が安全と考えられているのでしょうか?

そこで、ヒトを対象とした臨床研究において1日あたりどれくらいの量のNMNが摂取されており、安全性が確認されているかについて調べました。

2024年10月現在、学術論文検索サイトであるPubMedでNMNを経口摂取した際のヒト臨床試験に関する論文情報を検索した結果、19報ほどの論文を収集できました。各論文で1日あたりのNMN摂取量の論文中の最高摂取量を解析し、各摂取量における論文数をグラフにしたのが下の図です。


1日あたりのNMN摂取量

調査の結果、2024年10月現在のヒト臨床試験においては、NMNの摂取量として250 mgを用いた論文が最も報告数が多いことがわかりました。また、ヒトでは最大2,000 mgのNMNを摂取する臨床試験が行われています。特筆すべき点として、いずれの論文でもNMNの安全性を懸念するデータは示されませんでした。今のところ、NMNは1日あたり2,000 mgまでの摂取であれば安全といえそうです。

ただし、このグラフでは投与期間を考慮できていません。NMNの安全な最大摂取量について最終的な結論を出すには、今後のさらなる研究が必要といえます。

品質の低いNMNサプリメントに注意

その一方で、品質の低いNMNサプリメントに関する情報が報告されていることにも注意が必要です。シンガポール国立大学のE. Sandalova氏らの論文において、海外で出回っている一部のNMNサプリメントにはNMNが含まれていないといった研究結果が発表されるなど、警鐘が鳴らされています。※1

NMNが含まれていない、あるいはNMNの含有量が低いサプリメントは、NMNの品質管理自体が十分でない可能性や不純物が含まれている可能性も否定できません。また、NMN自体に副作用の報告はなくても、NMN以外の不純物や予期せぬ成分を多く摂取してしまうことによる健康上のリスクが十分に考えられます。品質管理の行き届いたNMNサプリメントを用いることが、健康リスクを回避する上で重要なのです。

低品質サプリメントのリスク

NMNサプリメントは信頼できるものを適切に摂取しよう

特定保健用食品の場合は、厚労省への申請時に、安全性試験として推奨量の3倍から5倍を過剰摂取する試験が求められています。一方、サプリメントを含む健康食品や一般的な食品の場合は、明確な基準がありません。

サプリメントの選び方や健康食品の種類について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:サプリメントの選び方は?健康食品との違いや摂取するときのポイント、薬との併用についても解説

NMNの有効性に関しては、現在もさまざまな摂取量でヒトでの臨床試験が実施されており、どの摂取量が適切なのかについて研究が進められています。ただし、NMNを最大どの量まで飲んでも大丈夫なのか、大量のNMNを摂取した場合の安全性については、まだ確かな結論は出ていないのが現状です。サプリメントでNMNを補いたい場合は、信頼できるメーカーのものを選び、その製品に記載されている推奨摂取量を守ることが重要といえます。

NMNサプリメントの選び方

参考資料

※1 E Sandalova, et al. (2024) Testing the amount of nicotinamide mononucleotide and urolithin A as compared to the label claim. Geroscience. 46(5). 5075-5083.

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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