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老化とは、ヒトであれば誰にでも訪れる変化です。1960年代に細胞老化の概念が提唱され、その後1990年代には線虫や酵母において「寿命に関する遺伝子」が発見されました。現在に至るまで、老化や寿命に関する研究は数多く行われています。

今回は老化に関する最新の研究をご紹介するとともに、私たちの体に起こる「老化による変化」をお伝えします。

老化とは

老化とは

どのようなヒトであっても、生まれ落ちたその瞬間から向かう先は決められています。その道筋のなかでも避けたいと思う方が多いのが「老化」ではないでしょうか。近年、「アンチエイジング」という言葉も一般的になってきました。誰でも簡単に情報を収集して、さまざまなアンチエイジングを気軽に試せるようになっています。老化は決して避けることはできない現象ですが、老化に抗い、できる限りその変化を遅らせることは可能になってきています。長い人生をより健康で美しく生きるためにも、老化とはどのような現象なのかを知ることが重要といえます。

老化の定義

まずは、言葉としての「老化」を考えてみましょう。
辞書によると、人体における老化は「年をとるに従って、肉体的、精神的機能が衰えること」とされています。これが一般にイメージされる老化ではないでしょうか。

続いて、医学的な老化の定義を見ていきましょう。広義では、老化は「生殖、発生、成熟衰退、死亡にいたる全過程」と定義されますが、通常は狭義での意味「成熟期(成長期)以降、すべての個体に起こる、加齢に伴う進行性の生理機能の衰退現象」を指します。※1

さらに、老化は生理的老化と病的老化に分けることができます。生理的老化は、加齢によって誰にでも起こる変化をいい、いわゆる「天寿を全うする」人にも起こります。例えば、ちょっとした物忘れ、耳が遠くなる、就寝中にトイレに行く回数が増えるといった変化が、この生理的老化にあたります。一方、病的老化とは、病気やストレスなどにより老化の過程が短くなり、命を終える時期が早まることをいいます。病的老化は、誰にでも起こるわけではないという特徴があります。※1

老化は何歳から

老化は何歳から

前述のように、老化とは成長期以降に起こる加齢に伴うさまざまな体のはたらきの衰え(機能の低下)といえます。ヒトは20歳頃から細胞が減少しはじめるといわれており、これにより脳の前頭葉や側頭葉の老化が始まると考えられます。シミや白髪など、40歳代から目に見える変化として現れる老化もあります。

ただし、体の機能を低下させる要因は、生活、遺伝、環境などが複雑に関連しあっており、臓器や細胞レベルでの変化をもたらすため、老化の進行速度には個人差があります。40歳でシミや白髪が目立つ方がいたり、60歳でシワが目立たず黒髪の方がいたりするのはこうした理由です。※2

また、老化には明らかな性差がみられます。男性は30歳代からゆっくりとしたスピードで老化が進みますが、女性はもう少し遅く、50歳を過ぎる頃から急速に進んでいきます。これは、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンが大きく関わっています。特に女性は、エストロゲンが十分に分泌されている時期は体のさまざまな機能が調整・維持されていますが、閉経によってエストロゲンの分泌量が大幅に減少します。この時期を境に、多くの機能の調整・維持ができなくなり、急速に老化が進みます。※2

加齢と老化の違い

老化とよく似た言葉に「加齢」があります。加齢とは、単に生まれてから死ぬまでの時間の経過をいいます。つまり、暦年齢のことを指しています。加齢が終わるとき、つまり命が尽きるときの時間が、いわゆる「寿命」です。同じ生年月日の方は同じように加齢し、誰に対しても同じ速度で進んでいくため、前述の「老化」のように個人差はありません。加齢のなかで起こる変化のひとつが老化であり、加齢と老化は同義ではありません。※3

臓器や器官は細胞で構成されており、その細胞もいくつもの成分で構成されています。加齢が進む=年齢を重ねると、細胞の成分に何らかの悪い変化が起こり、細胞のはたらきが悪くなっていきます。これにより細胞そのもののサイズが小さくなったり、細胞の数が少なくなったりすることで、臓器や器官が萎縮を起こし、はたらきが低下します。そして、臓器や器官の機能低下がヒト個体に変化を与えます。これが老化の基本的な仕組みです。※3

老化の原因と特徴

Aging Hallmarks

老化のメカニズムの大枠がわかってきたところで、近年注目されている老化に関する最新研究「Aging Hallmarks」についてご紹介します。

老化の最新研究:Aging Hallmarks

2013年、スペインの生化学者Carlos Lo´pez-Otı´nらが『Cell』に「Hallmarks of aging(Aging Hallmarks)」についての論文を発表しました。この論文では、老化を「徐々に年齢を重ねると、老化の症状が現れ、時間とともに心身の健康が減少し、死に至る過程」と捉え、科学的には「ゆっくりと起こる生物機能におけるシステム全体の衰退」と定義しました。このときは老化の9つの特徴を挙げた論文でしたが、2023年には最新の基礎研究や臨床研究の知見を取り入れ、12のAging Hallmarksにアップデートされています。12の特徴の概要を見てみましょう。

1.ゲノム不安定性(Genomic instability):細胞が老化するにつれ、ゲノムが不安定になること
2.テロメアの短縮(Telomere attrition):染色体の末端にある「テロメア」という部分が細胞分裂を重ねることで短くなること
3.エピジェネティックな変化(Epigenetic alterations):DNAの塩基配列が変わらなくても、後天的な要因でその使われ方が変わること
4.タンパク質恒常性の喪失(Loss of proteostasis):細胞の老化に伴い、細胞内のタンパク質の安定性などが失われること
5.オートファジーの機能低下 (Impaired autophagy):古くなった細胞や異常になった細胞を分解し、その成分を再利⽤するオートファジーという機能の低下
6.栄養感知の制御不全(Deregulated nutrient sensing):時間の経過とともに起こる、代謝と代謝産物による細胞の損傷
7.ミトコンドリアの機能異常(Mitochondrial dysfunction):細胞のはたらきをコントロールするミトコンドリアの機能が失われていくこと
8.細胞老化(Cellular senescence):細胞が受けた損傷などにより、細胞の分裂や成長が停止すること
9.幹細胞の枯渇(Stem cell exhaustion):新しい細胞を生み出して補充する能力をもつ幹細胞が枯渇すること
10.細胞間コミュニケーションの変化(Altered intercellular communication):老化した細胞が他の細胞を損傷させるシグナルを増加させ、組織の健全性を低下させること
11.慢性炎症(Chronic inflammation):加齢に伴い、⾝体の免疫系、組織、全⾝的な代謝や内分泌系などにさまざまな変化が引き起こされること
12.腸内細菌叢の変化(Dysbiosis):栄養の消化・吸収や病原体からの保護、必須代謝物の⽣成などに関わる腸内細菌叢の変化

これらの特徴は、Primary(プライマリー、最上位)、Antagonistic(アンタゴニスティック、拮抗的)、Integrative(インテグレイティブ、統合的)という3つのカテゴリに分類することができます。※4

Aging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

加齢に伴う体の変化

加齢に伴う体の変化

ここからは、加齢に伴いどのような変化が体に起こるのか、具体的にみていきましょう。

骨と関節

・骨が脆く壊れやすくなる ※5
・コラーゲンの減少により、関節が動きにくくなり、炎症や変形を起こしやすくなる ※5

筋肉と体脂肪

・筋量の減少 ※5
・特に、下肢の筋量減少による歩行速度の低下や段差での歩行困難 ※5
・20歳代前半から65歳頃にかけて体脂肪が徐々に増加し、筋肉や骨、内臓に蓄積する ※6

筋肉と老化について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

・角膜や水晶体での屈曲力の変化 ※5
・視細胞の受容体の減退 ※5
・水晶体の混濁 ※5
・これらに伴う視力の低下 ※5

・聴力の悪化 ※7

口と鼻

・舌にある味蕾の減少 ※5
・乳頭の萎縮や味覚に関する神経経路の老化 ※5
・これらに伴うによる味覚の鈍化 ※5
・唾液分泌量低下による口渇感 ※5
・鼻の中にある嗅覚玉と嗅神経の萎縮による嗅覚の鈍化 ※5

皮膚

・外界からの刺激の蓄積による皮膚の機能低下 ※8、9
・シミやシワ、ハリの減少、乾燥肌など ※8、9

脳と神経系

・脳細胞とシナプスの減少 ※5
・神経細胞機能の低下 ※5
・運動や感覚など外部との入出力に関する機能の低下 ※5
・思考や記憶など情報を統合して処理する機能の低下 ※5

心臓と血管

・心室容積の減少 ※5
・心房容積の増大 ※5
・心筋の肥厚や間質の線維化、心臓弁の石灰化等による心筋収縮力の低下 ※5
・刺激電動系の線維化による心臓の不規則な動き ※5
・全身の血管が固くなることによる血圧の変動 ※5

肺と呼吸筋

・肺の弾性・収縮力の低下 ※5
・胸郭コンプライアンスの低下 ※5
・横隔膜筋力の低下 ※5
・末梢気腔や呼吸細気管支の拡大(いわゆる「老人肺」) ※5

消化器系

・唾液分泌量の低下による口腔内の乾燥 ※5
・粘膜・粘膜筋板・筋層の萎縮による蠕動運動の異常や内圧の異常 ※5
・粘膜萎縮による分泌能の低下 ※5
・肝臓の重量や血流量の減少による肝代謝の低下 ※5

腎臓と尿路

・糸球体の硬化 ※5
・腎臓内の動脈内腔の狭小化・閉塞 ※5
・腎臓内の血流量減少 ※5
・尿の濃縮力低下 ※5
・膀胱容積や膀胱進展の減少 ※5
・排尿筋の無抑制収縮や尿道閉塞圧の低下 ※5
・これらに伴う排尿障害 ※5

生殖器

【男性の場合】
・精巣から分泌されるアンドロゲンの減少 ※10
・それに伴う性機能低下や前立腺の肥大など ※10
【女性の場合】
・卵巣にある卵母細胞の減少 ※11
・排卵時の卵母細胞の放出が無秩序となることによる生殖能力の低下 ※11

生殖能力と老化について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

内分泌系

・内分泌腺の縮小に伴うホルモン分泌量の減少 ※5
・ホルモンの相互作用による体の不調 ※12

造血系

・造血幹細胞の老化による造血能の低下 ※5

免疫系

・胸腺の萎縮によりヒトの免疫能を司るT細胞の増殖停止 ※13
・T細胞のもつ免疫力の低下 ※13

このように、加齢に伴い体にはさまざまな変化が起こります。それぞれの変化についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:加齢による体の変化と高齢者の身体的特徴

老化を抑制するための方法

私たちの体ではさまざまな老化が起こっています。老化していくスピードには個人差がありますが、ヒトは老化という現象を止めることはできません。しかし、そのスピードを遅らせることができるかもしれないのです。

老化を抑制するための方法として、近年、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびその前駆体であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)という物質に注目が集まっています。 ※14、15

NAD+とNMNとは

国内外で行われているさまざまな研究により、NAD+は加齢により体内量が減少すること、そしてNMNを補給することでNAD+量を維持できることがわかっています。さらに、NAD+の成分量を維持することで、老化に伴うさまざまな変化やそれによる疾患(例えば代謝障害、心血管疾患、神経変性など)の発症リスクを軽減できるのではないかということも明らかになってきました。 ※14、15

ヒトへの安全性や将来的な効果など研究の余地はありますが、現在の日本が抱える「健康寿命の増進」という課題に対する、ひとつの解決策になるかもしれません。
NAD+およびNMNに関する研究についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化研究はどこまで進んだのか?最新科学が紐解く老化のメカニズム

老化のスピードを遅くする取り組みを始めよう

2013年に「Aging Hallmarks」が提唱されたのを機に、人々の興味は「老化のスピードを遅くすること」へと移りつつあり、基礎研究や臨床研究が増加しました。この流れが、2023年のAging Hallmarksのアップデートにもつながったといえます。

起きてしまった変化を元に戻すことはできませんが、これから起こりうる変化を止め、老化のスピードを遅らせることが可能な時代になりました。できることから少しずつ、「老化のスピードを遅くする」取り組みを始めてみませんか?

参考資料

※1 鳥羽研二.(2006) 老化の理解と活き活き長寿. 日本老年医学会雑誌2006; 43: 65-67
※2 人事院「健康寿命を延ばすには」
※3 石井 直明.(2011) 基礎医学から見た抗加齢医学. 総合検診, 38, 223-231.
※4 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※5 一般社団法人日本老年医学会(2013). 「老年医学系統講義テキスト」. 西村書店
※6 Pegah JafariNasabian et al.(2017) Aging human body: changes in bone, muscle and body fat with consequent changes in nutrient intake. Journal of Endocrinology, 234, 37–51.
※7 立木孝 et al.(2002) 日本人聴力の加齢変化の研究. Audiology Japan 45, 241-250.
※8 市橋正光 et al. (2018) 皮膚のアンチエイジング Anti-aging of the Skin.オレオサイエンス 18(3),121-129
※9 Sun Hye Shin et al.(2023) Skin aging from mechanisms to interventions: focusing on dermal aging. Frontiers in Physiology, 14.
※10 Karin Welén et al.(2022) Androgens, aging, and prostate health. SPRINGER LINK. 23, 1221–1231.
※11 Takashi Umehara et al.(2022) Female reproductive life span is extended by targeted removal of fibrotic collagen from the mouse ovary. Science Advances, VOL. 8, NO. 24.
※12 Takayoshi Sasako et al.(2022) Deletion of skeletal muscle Akt1/2 causes osteosarcopenia and reduces lifespan in mice. Nature Communications, 13, 5655.
※13 Makoto Kuwahara et al.(2014) The Menin–Bach2 axis is critical for regulating CD4 T-cell senescence and cytokine homeostasis. Nature Communications, 5, 3555.
※14 Lin Yi et al. (2023) The efficacy and safety of β‑nicotinamide mononucleotide (NMN) supplementation in healthy middle‑aged adults: a randomized, multicenter, double‑blind, placebo‑controlled, parallel‑group, dose‑dependent clinical trial. GeroScience, 45, 29–43.
※15 ArastuSharma et al. (2023) Potential Synergistic Supplementation of NAD+ Promoting Compounds as a Strategy for Increasing Healthspan. Nutrients,15,445.

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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