肌は私たちの身体の一番外にある器官であり、日夜温度変化や湿度変化、紫外線やさまざまな物理刺激を最も多く受けています。加齢に伴う変化が見えやすく、私たちの年齢が特に現れやすい部分といえます。そんな皮膚ですが、他の臓器とは老化の原因が少し違っています。皮膚の老化を引き起こすのは、光(紫外線)によるダメージ、つまり「光老化」が最も大きな原因と考えられているのです。今回は、肌の老化に対して有効とされている最近注目の成分、ナイアシンアミドについて紹介します。
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シワの予防や改善効果があるナイアシンアミドとは
最近、テレビやネットのCMで話題の抗老化成分としてナイアシンアミドの名前をよく見かけるようになりました。ナイアシンアミドは、細胞を元気にする作用のほか、コラーゲンの産生を促すことでシワを予防する作用も知られています。その他にも黒色の色素でくすみの原因であるメラニンの産生を抑えたり、炎症を抑えたりするはたらきがあるといわれています。ナイアシンアミドは別名ニコチンアミドやニコチン酸アミドともよばれ、ビタミンB3の一種です。ニコチンと記載がありますが、タバコに含まれるニコチンとはまったく関係がありません。
ナイアシンアミドの美容効果①:シワの改善
ナイアシンアミドは比較的小さい分子で皮膚を透過すると考えられています。そのためナイアシンアミドは皮膚に塗っても皮膚を透過し、皮膚の幹細胞までたどり着く可能性が高いと考えられています。
ナイアシンアミドを含む保湿剤を使うと、皮膚のシワを改善する効果があるということが、いくつかの臨床試験で報告されています。ナイアシンアミドによって肌に含まれる線維芽細胞でコラーゲン合成量が増え、細胞も増えるためと考えられています。※1
2018年には、シワ改善有効成分としてナイアシンアミドを含むクリームが医薬部外品として販売されました。
ナイアシンアミドの美容効果②:美白・シミ予防
私たちの肌の色を決める色素のなかでも重要なものが、メラニンです。メラニンは表皮の最も奥にある基底層という場所に存在する、メラノサイトという細胞の小器官であるメラノソームで合成され、ケラチノサイトへ渡ります。複雑な経路をたどり、赤色・茶褐色から2種の黒色の色素に変換され、この2種が混ざり合って肌の色になります。※2
色素沈着が原因であるシミは、メラニン生成が過度に進行することによって起こるとされています。その要因として大きく関係しているのが、紫外線などの刺激です。紫外線を浴びると、メラノサイトを刺激する複数の物質がシグナル伝達され、メラニン生成が過剰となります。さらに、メラノソームの受け渡しが促されることでメラニンが増え、色素が皮膚に沈着します。※2
肌の美白対策に役立つものとして、2007年、医薬部外品に配合される美白有効成分としてニコチン酸アミド(ナイアシンアミド)が厚生労働省に承認されました。ナイアシンアミドは、メラノソームがメラノサイトからケラチノサイトへ移ることを抑制するはたらきがあり、シミや美白に対しての効果(色素沈着を抑制する効果)が期待されています。※3
ナイアシンアミドの美容効果③:肌荒れ・ニキビ予防
肌を守る役割を担うのは、表皮の角層です。角層では角質細胞が層になって重なっており、その間にある角質細胞間脂質の主な成分は、セラミド、コレステロール、脂肪酸です。※4
これらの成分が不足すると皮膚のバリア機能を損なうため、肌荒れを引き起こします。
ナイアシンアミドには、セラミド合成系の酵素の遺伝子発現ならびに酵素の活性化を促進するはたらきがあります。さらに、セラミドとその前駆体の合成を促進し、コレステロールと脂肪酸の合成を促進するはたらきがあることが分かってきました。このようなメカニズムにより、ナイアシンアミドは肌のバリア機能の改善と角質層のはたらきを向上させる効果が期待でき、肌荒れやニキビ予防に有効と考えられるのです。※4
このような背景から、ナイアシンアミドにはアンチエイジング効果が期待されており、最近ではさまざまな機能性化粧品にナイアシンアミドが配合されるようになりました。
ナイアシンアミドの摂取量と多く含む食品
ナイアシンアミドは、ビタミンB3であるナイアシンの一種です。ナイアシンとは、ナイアシン(ニコチン酸)とナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)の総称です。※5
細胞内ではナイアシンはピリジンヌクレオチドとして存在しています。調理や加工の過程でピリジンヌクレオチドは分解され、植物性食品中ではナイアシンとして、動物性食品中にはナイアシンアミドとして存在しています。※5
ナイアシンは食品中からも摂取できますが、私たちの体内でも合成できるビタミンです。必須アミノ酸のひとつ「トリプトファン」から合成されます。※5
トリプトファン60mgから1mgのナイアシンが作られるとされ、摂取量(食事摂取基準)においては「ナイアシン当量」という単位で表されます。ナイアシン当量は、体内で合成されるナイアシンの量も含めて設定されています。※5
ナイアシン当量(mgNE)=ナイアシン(mg)+1/60 トリプトファン(mg)
体内でのナイアシンアミドは、酵素のはたらきを助ける補酵素して機能し、エネルギー産生、脂質やアミノ酸の代謝などに関わっています。不足すると欠乏症として、皮膚炎や下痢などの症状が現れます。※5
欠乏症を予防できる最小摂取量を元に定められているのが、推定平均必要量です。ナイアシンはエネルギー代謝に深く関係している栄養素であるため、数値はエネルギー摂取量あたりで設定されています。成人の値を参照値として年齢区分ごとに算定し、さらに妊婦と授乳婦については付加量も設定されています。※5
ナイアシンを多く含む食品には次のようなものがあります。※6
(可食部100gあたりのナイアシン当量)
穀類 | 黒米 | 8.2g |
玄米 | 3.6g | |
赤米 | 6.9g | |
発芽玄米 | 6.4g | |
精白米(うるち米) | 2.6g | |
そば(生) | 5.4g | |
魚介類 | たらこ(生) | 54.0g |
とびうお(焼き干し) | 29.0g | |
びんながまぐろ(生) | 26.0g | |
ごまさば(焼き 切り身) | 24.0g | |
かつお(生) 春獲り | 24.0g | |
かつお(生) 秋獲り | 23.0g | |
肉類 | 若どり むね肉 皮なし焼き | 27.0g |
若どり ささみ 焼き | 25.0g | |
豚[大型種肉] ヒレ 赤肉(焼き) | 21.0g | |
豚[大型種肉] もも 皮下脂肪なし(焼き) | 16.0g | |
牛[和牛肉] もも 皮下脂肪なし(焼き) | 12.0g |
ナイアシンアミドを摂取するにあたっては、「ナイアシンアミドは水溶性である」という点に注意が必要です。※5
食品を洗ったり茹でたりすると、ナイアシンアミドは水に溶け出します。揚げ物であれば揚げ油に、汁物や煮物であれば煮汁などに溶け出します。ナイアシンアミドを摂取するときは、調理法や摂食法を工夫し、無駄なく摂取するよう意識するのがよいでしょう。
ナイアシンアミドはNAD+の減少を防ぎ老化症状の改善に役立つ
ナイアシンアミドは、細胞の中でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)へと合成されます。NAD+は、加齢に伴いヒトの皮膚で低下することが報告されている補酵素です。
2012年に発表されたある論文において、NAD+がヒトの皮膚で減少すると同時に酸化ストレスが増え、遺伝子の傷を治す酵素のはたらきが弱くなっていることなどが示されました。※7
補酵素であるNAD+は、身体の中のエネルギー産生や傷ついた遺伝子の修復など、さまざまな場面で使われています。細胞が健康に生きていく上で欠かすことができません。
このNAD+が減少することが、身体の老化症状が引き起こす原因であると考えられています。
ナイアシンアミドの作用機序を考えると、ナイアシンアミドにより皮膚のNAD+が増加することで、皮膚の老化症状であるシワが改善している可能性が考えられます。
ナイアシンアミド以外のNAD+前駆体も重要
ナイアシンアミドは、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を作り出すときにも必要です。
NMNには、長寿に関係があるとされるサーチュインというタンパク質を活性化したり、古くなった細胞や異常になった細胞を分解・再利用するオートファジーという仕組みを促進したりする効果があり、さまざまな組織における抗老化作用が報告されています。
老化の特徴とNMNとの関係性については、こちらの記事もご覧ください。
関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性
なお、ナイアシンアミドからNMNを作り出す酵素はNAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)といい、加齢に伴って量やはたらきが低下することが知られています。NAMPTが少なくなると、せっかくナイアシンアミドを取り入れても効果が出にくくなってしまう可能性は十分に考えられます。そんなときはナイアシンアミド以外のNAD+前駆体によって、NAD+を補ってあげるのもよいでしょう。
ナイアシンアミドのアンチエイジング効果に期待
以上、ナイアシンアミドのアンチエイジング効果について述べてきました。ナイアシンアミドによって皮膚におけるNAD+の減少を防ぐことで、皮膚へのアンチエイジング効果が期待できるというのは、科学的にも納得のいく話です。シワの予防や改善を目的として機能性化粧品を選ぶ際には、成分表を確認し、ニコチン酸アミド(ナイアシンアミドの別称)という成分が含まれているかどうかを見てから選択するのもおすすめです。また、NAD+やNMNの老化予防効果にも注目し、研究が進むことを期待しましょう。
参考文献
※2 田中浩. (2019) 美白製品とその作用. 日本香粧品学会誌 Vol.43, No.1, pp. 39–43
※3 関東裕美. (2020) 光老化の最新知識 老化対策外用薬や化粧品による皮膚の有害事象. BEAUTY#24 Vol.3, No.11
※4 杉山義宣. (2008) 化粧品のバイオサイエンス-2 皮膚の機能防御とスキンケア. 化学と生物. Vol46, No.2