!

昨今は40代の⼥性の出産も珍しくないほど医療が発達していますが、出産の年齢を気にされている⽅も⾮常に多いのが現状です。加齢に伴い出産が難しくなるのはヒトだけでありません。
⾚ちゃんを産むための能⼒のことを、妊孕能(にんようのう)といいます。⾚ちゃんを授かるためには、男性と⼥性どちらの妊孕能も⽋かせません。しかし、妊孕能は哺乳類の幅広い種において、加齢により低下しやすい能⼒であることがわかっています。
実験動物であるマウスやラットも、ヒトと同じように⽉齢とともに産仔数が低下することが知られています。マウスの寿命は2年から2年半程度ですが、6ヶ月齢を過ぎた頃から出産する産仔の数が低下し、1年を経過すると顕著な繁殖成績の低下がみられます。
この現象は種差があまりなく、⾔い換えるとマウスやラットの基礎研究がヒトに応⽤されやすい分野でもあるといえます。Aging Hallmarksの視点から、今回は特に女性の妊孕能に注目し、卵子の老化について考えてみましょう。

卵巣と卵⼦の⽣理学

卵⼦の数は産まれながらに決まっています。⾚ちゃんとして誕⽣した際にすでに⼀⽣涯分の卵⼦は卵巣の中に存在し、必要とされるまで⻑い間休眠状態にあると考えられています。
卵巣は、卵胞とよばれる、卵⼦⼀つとそれを保護する細胞が集まった塊の集合体でできています。卵巣はホルモンによって⼤きく影響を受けます。

卵胞の発育

卵胞の発育は、原始卵胞(primordial follicle)から一次卵胞(primary follicle)、二次卵胞(secondary follicle)、すなわち前胞状卵胞(preantral follicle)と胞状卵胞 (antral follicle)を経て、成熟卵胞(mature follicle)であるグラーフ卵胞 (Graafian follicle)となり、排卵の準備が整います。※1

FSH(卵胞刺激ホルモン)

FSHとは、脳の⼀番下にぶら下がった下垂体という部分から分泌されるホルモンで、卵胞を⼤きくする作⽤があります。

エストロゲン(卵胞ホルモン)

⼤きくなった卵胞から出てくる⼥性ホルモンであるエストロゲンの作⽤が脳に到達すると、FSHの分泌が抑えられます。加齢とともに⼥性ホルモンが低下するとFSHの濃度が⾼まることが知られています。

LH(黄体形成ホルモン)

LHとは排卵を促すホルモンで、FSHと同じく脳の下垂体から分泌されます。卵胞が⼗分に成熟するとその刺激が脳に伝わり、LHが⼀過性に⼤量に分泌されます。このときに⼀番⼤きい卵胞から卵⼦が放出されます(排卵)。

プロゲステロン(黄体ホルモン)

排卵後、卵胞は維持されたままもう一つの女性ホルモンある⻩体ホルモンが分泌されます。⻩体ホルモンは⼦宮に作⽤し、⼦宮の内膜を肥厚させるなど受精卵が着床しやすいようなはたらきをします。受精卵がこなかった場合は⻩体ホルモンの分泌が少なくなり、⼦宮内膜が⾎液とともに⾝体の外へ排出されます。これが⽉経です。

この卵胞形成過程によるホルモン分泌の⼀連のサイクルは、エストラスサイクル(性周期や⽉経周期)とよばれています。
マウスやラットでは排卵後の卵胞は消失し、⻩体は妊娠しない限り作られることはありません。そのためエストラスサイクルは4⽇から5⽇と、⾮常に短い周期になります。
これらのホルモンの動きは、脳の深い部分にある視床下部によって制御されています。

女性ホルモンの仕組み

この命令系統は「HPG軸(視床下部-下垂体-性腺の軸)」とよばれています。脳は、卵巣からのホルモンの分泌量を視床下部で検知し、下垂体を使って卵巣へと指令を送ります。この命令系統が、⾝体のホルモンを絶妙なバランスで⽇々調節しています。絶妙なバランスであるからこそ、ちょっとしたことでも影響を受けやすく、加齢の影響を受けやすい機構となっています。

Aging Hallmarksと卵⼦の⽼化の関係性

Aging Hallmarks

卵⼦の⽼化は、⼥性の加齢とともに進⾏する現象で、卵⼦の数と質が低下します。卵⼦の元となる原始卵胞は胎児期にすでに存在しており、新しく作り出されることはないため、年齢とともに数が減少し質も低下します。また、年齢とともに卵⼦のDNA修復能⼒も低下し、DNAの不安定性が増すとされています。

この卵⼦の⽼化過程の詳細は、”Aging Hallmarks”という⽼化の特徴を⽰す概念に基づいて考えると、より理解が深まるかもしれません。Aging Hallmarksは、2013年に初めて提唱された9つの特徴から始まり、⽼化研究が盛んになるにつれて基礎から応⽤研究まで幅広い知⾒が蓄積されてきました。その10年間の蓄積をもとに2023年にアップデートされたのが、12のAging Hallmarksです。

12のAging Hallmarksのうち、卵⼦の⽼化に関連している可能性がある項目を5つピックアップして説明します。※2

ゲノム不安定性 Genomic instability

卵⼦のDNA修復能⼒の低下とDNAの不安定性の増加は、この特徴に関連しています。この世に⽣まれた後は、卵子は細胞分裂により新たに⾃分⾃⾝を作り出すことができないため、DNAの損傷の影響を受けやすいといえます。DNAの損傷は、遺伝子変異や他のDNA配列の変化を引き起こし、最終的に卵⼦の質の低下につながる可能性が考えられます。

エピジェネティックな変化 Epigenetic alterations

⼥性の年齢とともに卵⼦の品質が低下するのは、主に卵⼦のエピジェネティックな変化によるものと考えられています。エピジェネティックな変化とは、遺伝⼦のオンやオフを制御するメカニズムのことで、DNA配列⾃体は変化しないものの、その機能が変わることがあります。卵⼦のエピジェネティックな変化は、卵⼦の成熟と初期の胚発⽣において重要な役割を果たします。しかし、年齢とともにこれらのエピジェネティックな修飾が不適切になると、卵⼦の品質と発⽣能⼒が低下します。※3
結果として、妊娠や出産に関連するリスクが増加します。

ミトコンドリアの機能不全 Mitochondrial dysfunction

ミトコンドリアは細胞のエネルギー⽣産の中⼼であり、その機能不全は卵子も含めた細胞のエネルギー⽣産の低下と⽼化を引き起こします。
卵⼦のミトコンドリアは、卵⼦のエネルギー供給と初期胚発⽣を⽀えるために重要な要素です。ところが、ミトコンドリアの機能は⼈間が年齢を重ねるにつれて低下し、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異が蓄積します。また、ミトコンドリアの品質管理が年齢とともに低下することが、変異の蓄積に寄与している可能性もあります。※4
これらの機能が年齢とともに低下すると、卵⼦の品質と⼥性の⽣殖能⼒が低下すると考えられています。※5

細胞間コミュニケーションの変化 Altered intercellular communication

細胞間のシグナル伝達が乱れると、組織の機能が低下します。細胞間シグナル伝達の代表例はホルモンであり、組織から⾎流に分泌され、別の組織へと伝わり作⽤します。そして、このホルモンが卵⼦の質を保つ上でも重要な役割を担っていることは前述のとおりです。⼥性ホルモンをはじめ、⾝体のホルモンバランスは加齢により変化しやすく、細胞間コミュニケーションの変化は卵⼦の⽼化を引き起こす主要な原因のひとつと考えられています。

慢性炎症 Chronic inflammation

体内の慢性的な炎症反応が持続すると、組織の損傷や機能低下を引き起こします。
全⾝性に起こる慢性炎症により卵巣の環境が悪化する可能性も⾼いと考えられます。また、炎症性サイトカインの刺激や酸化ストレスの増加はDNAの損傷やミトコンドリアの機能不全に繋がり、⻑期間休⽌状態にある卵⼦の質に⼤きく影響する可能性が考えられます。

この他のAging Hallmarksと卵⼦の⽼化については詳しいことはまだわかっていませんが、今後もその詳細なメカニズムについて精⼒的な研究が遂⾏されていくものと期待されます。

参考資料

※1 公益社団法人 日本産科婦人科学会 3.妊娠まで 卵胞発育、卵の成熟、排卵、受精、着床
※2 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※3 Zhao-Jia Ge, at al. (2015). Oocyte ageing and epigenetics. Society for Endocrinology Open Access, 149(3): R103–R114.
※4 Daniela Bebbere, et al. (2022). Oocyte aging: looking beyond chromosome segregation errors. Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 39, pages793–800
※5 Meina He, et al. Mechanisms of Oocyte Maturation and Related Epigenetic Regulation. Front Cell Dev Biol, 2021; 9: 654028.

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

この記事をシェア

編集部おすすめ記事

人気記事ランキング