COVID-19について

COVID-19は2019年12末に中国で発生し、2020年3月に世界保健機関(WHO)によってパンデミックが宣言されたウイルス感染症です。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされ、重症度は免疫性炎症に関連していることが散見されています。

ほとんどの場合、患者は典型的な呼吸器症状(発熱、咳、筋肉痛または倦怠感)を示し、重症例では、重度の呼吸困難(呼吸数>30回/分)、RNA血症、二次細菌感染、急性心筋損傷を発症します。重症化リスクが高い人については、60歳以上、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、癌などがあげらていれます。

COVID-19の免疫反応について

SARS-CoV-2が細胞に侵入すると、体液性免疫と細胞性免疫が連続的に活性化され、多くの炎症誘発性サイトカインやケモカインが過剰に放出されます。

それにより、サイトカインストームが発生し、全身性自己免疫反応を引き起こし、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性心筋損傷、多臓器不全に陥ります。高齢者においては、加齢に伴う免疫細胞の障害と炎症誘発性サイトカインの増加によって、全身性炎症反応が制御されなくなってしまうのです。

高齢者の抱える疾病の負担

中国、イタリア、米国で実施された最近の研究では、高齢のCOVID-19患者の増加が死亡率の増加と関連し、80歳以上の死亡率は14%を超えていることが報告されました。

異なる年代間でのCOVID-19による死亡のばらつきは、免疫老化(「免疫系の加齢に伴う機能障害であり、感染のリスクを高める」と定義)または後成的要因のいずれかを示唆している可能性があります。

免疫反応に対する老化の影響

感染症に対する免疫システムの能力は年齢とともに低下し、予防接種の有効性は高齢者で大幅に低下します。老化はDNA損傷の蓄積と関連し、遺伝毒性ストレス、PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)の活性化、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の低下を引き起こし、その後、核とミトコンドリアでそれぞれSIRT1(サーチュイン1)活性が低下します。

SIRT1の低下は、NF-κB(タンパク質複合体)の活性化、FOXO3a(タンパク質)活性の低下、p53タンパク質の活性、ROS(活性酸素種)を上昇させ、炎症の増加とミトコンドリア機能の低下をもたらすのです。

テロメアの影響

染色体の末端の領域のことを「テロメア」と言い、高齢者と子供におけるDNAレベルでの決定的な違いの1つが、テロメアの長さです。

免疫系はテロメアの短縮に非常に敏感で、免疫老化はテロメア短縮によって区別されます。また、白血球テロメア長(LTL)の違いは、性別、人種/民族、受胎時の父親の年齢、および環境に起因すると言われています。先行研究では、短いLTLは肺炎による入院のリスクが高く、感染に関連する死亡リスクが高いことが報告されています。

 

インフルエンザワクチン接種後の免疫反応に関する別の研究では、Bリンパ球のテロメア長が長い個体は、Bリンパ球テロメア長が短い個体と比較して、より強力な抗体反応を示したことが報告されました。

また、LTLに関する疫学データでは、LTLの短縮は、年齢、肥満、男性、白人、アルコール依存症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、感染症、心血管疾患の増加に関連している可能性があることが示されています。

 

テロメアは細胞分裂と酸化ストレスによって短縮し、有糸分裂中のテロメラーゼ酵素とDNA鎖交換によって延長されることや、テロメアの長さがサーチュインによって調節されることがわかっています。加えて、適切なNAD +レベルを維持することでサーチュインが増加し、テロメアが安定することなどから、NAD+は多くの代謝反応に関与する必須の補酵素であると言えます。

 

NAD+と老化

加齢に伴ってNAD+レベルが低下すると、それに続いてサーチュイン活性が低下し、テロメアの短縮、細胞の劣化、細胞分裂の停止などが進み、細胞死に至ります。加齢に伴うNAD +の低下は、聴覚や視力の低下、認知機能障害、自己免疫、免疫反応の調節不全などの疾患や障害の大きなリスクであると考えられています。

よって、サーチュイン活性を増加させ、テロメアが安定化することで、免疫細胞の機能に有益な影響を与えることができるのです。

 

感染症におけるNAD+の役割

NAD +は肥満細胞をブロックし、白血球からのプロテアーゼ放出を阻害することが示されており、テトラサイクリン(抗生物質)と組み合わせることで、特有の免疫反応を調節することができます。

 

ウイルス感染の重要な経路またはCOVID-19の直接の標的のいずれかに関与しているGSK3B、DPP4、SMAD3、PARP1、およびIKBKBに関しては、細胞性抗ウイルス剤で標的にすることができるタンパク質であるため、COVID-19の新たな治療戦略になることが示唆されます。

 

PARP-1は、DNA切断によって活性化されることが多いDNA修復酵素で、重要な抗ウイルスの役割を果たします。PART-1の過剰な活性化は、炎症誘発性サイトカイン産生の増加と、NAD +の過剰な消費、間接的なSIRT1活性の低下をもたらしますが、このPARP-1の過剰活性化のプロセスは外因性のNAD +投与によって元に戻すことができ、NF-kBの活性化を防ぐことができます。NF-kBを調節することによりNAD +は、進行中の炎症状態、免疫系の過剰活性化、サイトカインストームを制御し、重要な役割を果たすことができます。

 

まとめ

高齢者および基礎疾患や既往歴のある人は、年齢、免疫機能低下、併存疾患に関連する病態生理学的変化により、COVID-19の影響を大きく受けやすく、COVID-19の重症化や、深刻な合併症に苦しむリスクが高くなります。

 

加齢に伴うNAD +の減少、それに伴うテロメア長の減少が、免疫反応とCOVID-19の予後に悪影響を及ぼします。よって、高齢患者におけるCOVID-19の免疫調節剤としてNAD +を使用し、正常なNAD +レベルを回復することで、免疫反応の重症化を制御し、症状の改善をもたらす可能性があります。

COVID-19によるNAD +の減少を補う方法としては、サプリメントとしてNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)の使用が試みられ、報告されています。

関連記事:NADとNMNで細胞の老化を遅らせる

これらのことから、SARS-CoV-2感染、免疫老化、加齢に伴うテロメア短縮に対する免疫反応のメカニズムの理解と研究が進み、効果的な予防および治療戦略が開発されるとことが期待されます。

 

<参考>

J Infect Public Health . 2020 Sep

Influence of NAD+ as an ageing-related immunomodulator on COVID 19 infection: A hypothesis

 

執筆

大西安季

 

理学療法士。筑波大学大学院人間総合科学研究群在籍。理学療法士として、就労世代から高齢者まで、幅広い世代の健康づくり・健康教育に関わっています。介護予防、疾病予防、健康寿命延伸といった取組みに特に興味があり、世の中にある沢山の情報を多くの人と共有し、より良い生活の一助となることを目指して活動中です。

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