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⾚ちゃんを授かるためには、男性、⼥性どちらの妊孕能(にんようのう:⾚ちゃんを産むための能⼒)も⽋かせません。しかし、ヒトを含む多くの哺乳類では、加齢によって妊孕能が低下しやすいといわれています。加齢に伴い、卵子の質が低下したり、ホルモンバランスが乱れたりすることで、妊娠や出産に関連するリスクが増加します。
この記事では、近年発表された論文を4つ挙げながら、NMNが加齢に伴う妊孕能の低下にどのような効果があるのかをご紹介します。なお、妊孕能とAging Hallmarksの関連性については、こちらの記事もご参考ください。

関連記事:卵子の老化に関連するAging Hallmarks

論文紹介① 4週間にわたってNMNを飲⽔投与したマウスの妊孕能への影響に関する論文

2020年、アメリカの科学誌『Cell Reports』において、NMNを1年齢以上の⾼齢マウスに飲ませた際のマウスの妊孕能にどのような変化が起こるかを研究した2つのグループから報告がありました。どちらの論⽂でも、⾼齢マウスにNMNを飲ませると、加齢により低下した妊孕能が回復する結果が⽰されています。

まずご紹介するのは、オーストラリアの研究チームが発表した論⽂です。12ヶ月から14ヶ月齢の雌マウスにNMNを4週間飲⽔投与したときに、妊孕能にどのような影響があるかを調べています。

論文タイトル NAD+ Repletion Rescues Female Fertility during Reproductive Aging
著者 Michael J. Bertoldo, Dave R. Listijono, Wing-Hong Jonathan Ho, et al.
掲載誌 Cell Reports, 30(6), 2020, 1670-1681.e7
DOI https://doi.org/10.1016/j.celrep.2020.01.058

この論文では、体内でNMNから作られるNAD+の量が高齢マウスの卵子で低下していることに注目しています。NAD+は、エネルギー代謝、DNA修復、そして長寿に関連があるとされるサーチュイン遺伝子の活性化に関わると考えられている分子です。NMNを投与して、生体内でNAD+に変換されることで、卵子中のNAD+不足を解消しようというアイデアです。

研究の結果、次のことが明らかになりました。
・NMNの摂取は卵巣のNAD+を増加させ、その中の卵⼦のNAD+低下を防ぐ作⽤があること
・高用量よりも低用量のNMNのほうが妊孕能向上に効果があり、妊孕能に関してNMNには最適な⽤量がある可能性
・体外受精卵にNMNを添加した場合、培養液のNMN濃度を増やすごとに胚盤胞という段階まで発⽣する割合が増加しており、受精卵で不足しているNAD+をNMNで補うことで体外受精卵が正常に成長できる可能性

論文紹介② NMN投与による第一極体の放出頻度の改善および受精率・発⽣能⼒の改善に関する論文

別のグループからも2020年に、⽼齢メスマウスの妊孕能に対するNMNの効果について調べた同じような内容が、『Cell Reports』という科学誌において報告されています。

論文タイトル Nicotinamide Mononucleotide Supplementation Reverses
the Declining Quality of Maternally Aged Oocytes
著者 Yilong Miao, Zhaokang Cui, Qian Gao, et al.
掲載誌 Cell Reports, 32(5), 2020, 107987
DOI https://doi.org/10.1016/j.celrep.2020.107987

この研究では、卵子が作られる過程に注目しています。卵子は、一次卵母細胞という細胞が2回細胞分裂した結果作られます。一次卵母細胞が1回目の細胞分裂をすると、第一極体という細胞が放出されます。第一極体が正しく放出されるかどうかが、卵子の発生能の指標になるとされています。この研究を通して、次のようなことが明らかになりました。
・MNM投与により、高齢マウスにおける第一極体の放出頻度が改善
・NMN投与により、高齢マウスの卵子中のNAD+レベルだけでなく、排卵された卵子の数が増加し、卵子の質も改善
・若い個体に比べて老齢マウスの卵子は受精率やその後の発生能が低下するが、NMNを摂取することで受精率や発生能力の低下が改善

論文紹介③ 20週間NMNを投与した場合の性周期、ホルモン、卵胞数の変化に関する論文

これまでにご紹介した論⽂では、10⽇間から4週間と、⽐較的短い期間でNMNを投与していました。次に紹介する論⽂では、20週間の⻑期間にわたりNMNを⾼齢マウスに飲ませたときのマウスの性周期やホルモンバランスに注目して変化を調べています。

論文タイトル Long-term treatment of Nicotinamide mononucleotide
improved age-related diminished ovary reserve through
enhancing the mitophagy level of granulosa cells in mice
著者 Pan Huang, Yan Zhou, Weihong Tang, et al.
掲載誌 The Journal of Nutritional Biochemistry, 101, 2022, 108911
DOI https://doi.org/10.1016/j.jnutbio.2021.108911

この論文では、次のようなことが明らかになりました。
・40週齢から20週間NMNを飲⽔投与すると、対照群ではすべての個体で性周期が異常であったのに対し、NMN投与群では3割程度のマウスで性周期が正常化
・老齢メスマウスに20週間NMNを投与したところ、女性ホルモンのバランスが正常化
・卵子と卵子を取り囲む卵胞というものの数が、通常は12週齢から60週齢にかけて劇的に減少するところ、NMN投与により40週齢から60週齢の間では卵胞数の減少が防止
・NMN投与により卵巣での細胞⽼化が抑制され、卵巣機能を回復させた可能性

論文紹介④ 卵巣機能に関わる代謝経路を調べた論文

これまでは、⽼齢マウスにNMNを投与したときに⽼齢マウスの妊孕能がどのように変化するかについて触れてきました。続いてご紹介する論⽂では、NMN以外のNAD合成経路であるde novo合成経路に着⽬し、卵巣の加齢とNAD合成についてマウスを⽤いて研究を⾏っています。

論文タイトル Deletion of enzymes for de novo NAD+ biosynthesis
accelerated ovarian aging
著者 Qingling Yang, Hui Li, Huan Wang, Wenhui Chen, et al.
掲載誌 Aging Cell, 22(9), 2023
DOI https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/acel.13904
出典:Qingling Yang et al. (2023). Deletion of enzymes for de novo NAD+ biosynthesis
accelerated ovarian aging. Aging Cell, 22(9), 2023.
002_2
出典:Qingling Yang et al. (2023). Deletion of enzymes for de novo NAD+ biosynthesis
accelerated ovarian aging. Aging Cell, 22(9), 2023.
出典:Qingling Yang et al. (2023). Deletion of enzymes for de novo NAD+ biosynthesis
accelerated ovarian aging. Aging Cell, 22(9), 2023.

この論文では次のようなことがわかりました。
・de novo合成経路を遮断すると卵巣の加齢に伴うNAD+低下速度が加速し、卵巣の老化が進んだこと
・de novo合成経路が卵巣の機能維持に重要である可能性が明らかに
・NMNの前駆体であるNR(ニコチンアミドリボシド)を投与したところ、加齢に伴う卵巣のNAD+低下が回復、産仔数も増加し、卵巣の機能が回復した可能性が示された

NMNは卵巣の加齢性変化を改善し、妊孕能を向上させる可能性がある

異なる4つのグループから、⽼齢マウスの卵巣(卵⼦)の加齢性変化をNMNが改善する可能性が相次いで報告されました。

マウスの実験で⼀般的に使⽤されているNMNの⽤量は300mg/kgや500mg/kgですが、125mg/kgという⽐較的少ない量であっても効果が⾒えているのが印象的です。飲⽔投与や腹腔内投与それぞれに報告があることから、ヒトに対して注射剤(マウスでの腹腔内投与と類似の投与形態)やサプリメント(マウスへの飲⽔投与と類似の投与形態)の形態でも同じような現象が⾒られる可能性が期待できます。
また、シャーレ上の受精卵や、卵⼦の体外培養でも卵⼦の発⽣能を改善する報告もあることから、NMNが試薬として体外受精前後の培養中に添加されることで効果が発揮される可能性も考えられます。

まだマウスにおける基礎的な検討ではありますが、NMNのような⽼化に効果があるといわれている物質が、加齢による不妊に対して有効性を発揮する可能性も期待できます。NMNの可能性についてさらなる研究が進むことで、不妊治療にも新たな未来が開けていくことでしょう。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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