サウナは2019年頃からブームになり始めて、4年が経過しました。巷には、「いかにととのうか」のノウハウやサウナグッズ、一風変わったサウナ施設や最新のサウナトピックなど、さまざまなサウナ情報が溢れています。
サウナに入って、身体も心もスッキリ。それ以外にも、サウナには老化抑制効果が期待できるものなのか?今回は、2023年にアップデートされたAging Hallmarks に沿って、サウナが老化を抑制する可能性について考察します。
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サウナで「ととのう」とは? マインドフルネスや深部体温の上昇、HSPにも効果
多くのサウナ愛好家は、サウナの目的のひとつに「ととのう」ということを挙げます。「ととのう」とは、どういう状態を指すのでしょうか。
「ととのう」ことに関する記載が、慶應義塾大学医学部 加藤容崇先生の著書『究極にととのう サウナ大全』(ダイヤモンド社)にあります。※1
本書は、サウナに関する知識や方法を体系的にまとめたものです。この本によると、「ととのう」という状態は、副交感神経と交感神経が共に活性化する「身体のバグ」のような状態で、ととのうことで「マインドフルネス」の効果が得られるとのことです。
「マインドフルネス」は、Googleでも取り入れられている、精神状態を良い状態に保つ効果的な方法です。本来は訓練が必要な方法ですが、サウナでととのうだけでこのマインドフルネスが手に入るなら、効率的な健康維持の手段といえるでしょう。
また、サウナは身体の深部体温を高めるのにとても有効的な方法です。昔から湯治に身体の治療効果があるとされていたように、サウナにも身体の傷の治りを促進する効果があるといわれています。そのメカニズムは、血流の促進や体温上昇による免疫活性効果の他に、HSP(ヒートショックプロテイン)の寄与が考えられます。
HSPは熱ショックタンパク質ともよばれる、身体の中すべてに存在する普遍的なタンパク質です。HSPの役割は、タンパク質の品質コントロールの司令塔です。傷ついたタンパク質を修復させたり、修復が難しいときには分解させる方向へもっていったりと、タンパク質の品質管理をしています。※2
実はこのHSPは、熱により産生量が増えるタンパク質であり、サウナを含む温浴刺激によっても細胞内で多く産生されます。昔から湯治が病気の治療に使われていたのも、血行改善や身体を休める以外に、HSPによるタンパク質品質管理の分子機構がはたらいているのかもしれません。
Aging Hallmarks 2023の「タンパク質恒常性の崩壊」とは
HSPは、Proteostasisとよばれるタンパク質の恒常性を司る重要な因子として知られています。タンパク質の恒常性とは、生体全体が一定の状態を保つようにする恒常性(ホメオスタシス)の中でもタンパク質に注目した、タンパク質の存在量や品質を一定に保つ性質や仕組みのことです。※3
こうしたタンパク質の恒常性や品質管理は、老化を考える上でとても重要な要素です。Aging Hallmarksにも、no.4「タンパク質の恒常性の喪失(Loss of proteostasis)」という項目があります。以下、Aging Hallmarks 2023の論文をもとに解説します。※4
タンパク質恒常性と生産過程、折りたたみ
そもそもタンパク質とは、アミノ酸が数十個から数百個つながったものです。アミノ酸をどの順番でつなげるかは、DNAの中に遺伝子情報としてコードされています。まず、DNAの遺伝子情報はRNAに転写されます。そして、RNAの塩基配列に従ってアミノ酸の鎖が作られる翻訳という過程を経ます。そのアミノ酸の鎖が正しく折りたたまれることで、タンパク質としての機能を発揮するようになります。しかし、アミノ酸の順番や数を間違えたり、タンパク質の折りたたみが間違っていたり、または不完全なタンパク質が増えたりすると、細胞内のタンパク質の恒常性が妨害されることがあります。
リボソームタンパク質RPS23を遺伝子操作することによって、RNAからタンパク質への翻訳の正確性を上げると、酵母や線虫、ハエの寿命が延びます。一方、タンパク質への翻訳を間違えやすいRPS9の変異は、マウスの早期老化を引き起こすことが知られています。
タンパク質恒常性の崩壊を促進する別のメカニズムは、タンパク質の翻訳が遅れてしまうことで引き起こされる酸化的ダメージの蓄積にあります。これにより、健全なタンパク質の折りたたみに必要なシャペロン分子が分散し、細胞の適応力に必要な健全なタンパク質の折りたたみが妨げられます。
さらに、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やアルツハイマー病を含む多くの老化関連の神経変性疾患では、特定のタンパク質の折りたたみ不全や凝集が観察されます。この現象は、ある一定の立体構造に偏りやすい傾向を示すタンパク質の変異によって引き起こされることがあると考えられています。これにより、健康な状態を維持するために必要なタンパク質の修復、排除、および転換のメカニズムが飽和します。
タンパク質の品質管理の重要性
タンパク質恒常性は、品質管理を保証するメカニズムが失敗した場合にも崩壊します。例えば、タンパク質を細胞内で輸送・貯蔵する細胞内小器官である小胞体の折りたたみの安定性が損なわれたり、プロテアソーム(細かくタンパク質を分解する機構)またはリソソーム(大きくタンパク質を分解する機構)によるタンパク質の分解メカニズムが不十分になったりすると、タンパク質恒常性は崩壊します。プロテアソームの活性低下は、短命な魚卵生メダカ(Nothobranchius furzeri)の脳を含む老化した臓器で観察されています。さらに、ハエ、マウス、サル、ヒトの老化組織では、プロテアソームが分解するターゲットの目印となるユビキチン化されたタンパク質の蓄積が見られます。これは、プロテアソームの活性低下を意味するものと考えられます。
異常なタンパク質の分解
タンパク質凝集体は、オートファジーによっても除去されます。オートファジーはタンパク質以外の構造物も含む大きな分子を除去する仕組みで、日本の大隈良典先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことでも有名です。絶食により活性化することでも知られており、オートファジーを活性化することは細胞内タンパク質凝集体の除去のための有効な戦略となります。
もうひとつ、物質を分解する場所として、内部が酸性の膜に包まれた細胞小器官であるリソソームがあります。リソソームによる不要なタンパク質の分解は、シャペロン介在オートファジー(CMA)という特別なオートファジーの方法で行われることがあります。CMAでは、タンパク質がまず熱ショックタンパク質HSC70に結合し、次にリソソーム関連膜タンパク質2A(LAMP2A)に結合します。これにより、タンパク質がリソソームの腔内に移行することが容易になります。ネズミでは、肝臓のLAMP2Aの産生量は年齢とともに低下しますが、遺伝子組換えによってLAMP2Aの産生量を増やすと、肝臓の老化を抑制します。
タンパク質恒常性の崩壊と老化
タンパク質恒常性の崩壊は老化を加速させます。例えば、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)に、終末糖化産物であるAGEや、共有結合されたタンパク質、糖、および脂質の凝集体であるリポフスシンを与えると、AGE修飾およびカルボニル化されたタンパク質が蓄積し、健康寿命と最大寿命が減少します。プロテアーゼZMPSTE24の喪失は、核膜を構成する成分の前駆体であるプレラミンAの正常なタンパク質の成熟過程を阻害し、マウスで早老症候群を引き起こします。
ZMPSTE24の機能を喪失する変異を有するヒトでも、同じような症状を見られることが知られています。マウスでは、シャペロン介在オートファジーの必須要素であるLAMP2Aの遺伝子欠損マウスにおいて神経細胞のタンパク質の産生パターンに深刻な影響を与え、アルツハイマー病患者で見られるのと似た変化をもたらします。実際、マウスでシャペロン介在オートファジーを阻害すると実験的なアルツハイマー病が悪化し、シャペロン介在オートファジーを薬剤によって活性化すると病理学的な組織異常を軽減できます。
タンパク質恒常性を改善するとどうなる?
タンパク質恒常性を実験的に改善すると、老化プロセスを遅らせることができます。マウス実験では、ヒトHSP70タンパク質の鼻腔内投与は、プロテアソーム活性を高め、脳のリポフスシンレベルを低下させ、認知機能を向上させ、寿命を延ばす効果があることが確認されています。同様に、化学シャペロンである4-フェニル酪酸を高齢マウスに投与すると、脳の小胞体ストレスが減少し、認知機能が改善します。線虫やハエでは、単離されたプロテアソームサブユニットの遺伝子導入によりタンパク質恒常性が改善し、寿命が延びます。マウスでは、LAMP2a HSCの遺伝子導入によるシャペロン介在オートファジーCMAの刺激は、対象細胞集団の生存を改善します。この観察結果は、CMAの薬理的な活性化がアルツハイマー病や動脈硬化の病理を緩和することを示しています。したがって、CMAの活性化は老化プロセスを遅らせるための有効な戦略となります。
高血圧治療薬グアナベンズのALSを対象とした第3相臨床試験では、最近のALS診断を受けた患者に対して、グアナベンズを投与すると、命に関わる喉頭段階への進行が抑制されることが明らかになりました。グアナベンズは、ユーカリオティック翻訳開始因子2a(eIF2a)のリン酸化を刺激し、タンパク質の合成を減少させることでタンパク質恒常性を促進します。グアナベンズは、細胞内の異常なタンパク質凝集体を減少させることにより、神経細胞のストレス応答と生存を改善する可能性が示されています。
このように、タンパク質恒常性の崩壊は、老化プロセスおよび老化関連疾患の重要な要素であり、その修復および維持を促進することは、健康寿命を延ばすための重要な戦略となります。現在、タンパク質恒常性の改善を目指すさまざまなアプローチが研究されており、将来的にはこの分野での進展が期待されています。
関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性
COFFEE BREAK サウナの楽しみ方とおすすめサウナ3選
最後に、NOMON社のメンバーのサウナの楽しみ方と、おすすめサウナを3つご紹介します。参考になれば幸いです。
①とあるNOMON研究員のサウナの入り方
1セット目:Apple Watchで心拍数をモニターしながらサウナへ(目安は120から130
くらい)。
最初は7分くらい、短め→水風呂1分→外気浴7分
2セット目:サウナ10分→水風呂1分→外気浴7分
3セット目:サウナ12分→水風呂1分→外気浴 Endless。
おすすめのサウナ:カンデオホテルズ大阪岸辺・スカイスパのサウナ
近くの国立研究機関で実験していたときによく立ち寄った場所です。
最上階にSPAエリアがあり、水風呂の温度も適温で、外気浴スペースまでの動線もスムーズです。サウナ室からは大阪の街の情景が見え、テレビほど意識をもっていかれることもなく、視覚的にちょうどいい感じでサウナに集中できます。外気浴スペースでは近くの岸辺駅の電車の音などの喧騒がビルの高さでほどよく間引かれ、ほどよい風と共に心地よい音として耳に入ってきます。とてもととのいやすい場所だと思います。
②とあるNOMON CEOのサウナの入り方
『究極にととのう サウナ大全』の著者である慶應義塾大学医学部 加藤容崇先生から直々に教わった方法。
心拍数をモニターしてサウナに入っている間隔を決める(目安は120から130くらい)。何分入るかは決めない。サウナの後、水風呂には「そーっ」とはいることで、衣を壊さない。サウナ→水風呂→外気浴の3セットを繰り返す。
サウナの効果は、スマートウォッチGarminによって安静時心拍が下がり睡眠の質が上がっていることからわかる。
おすすめのサウナスポット:神戸サウナ&スパ
関西屈指の名サウナスポットで、男性も女性も本格的なサウナサービスが受けられるおすすめの施設です。ドライサウナだけでなくミストサウナや塩サウナもあります。水風呂も、初心者に優しい23℃から11.7℃と非常に冷たいものまで用意されています。ロウリュの回数も日本トップクラスで、平日は30分おき、休日は20分おきにロウリュサービスを受けられます。ビルの吹き抜けに休憩スペースがあり、六甲おろしがサウナ後の身体を心地よく冷ましてくれます。
③とあるNOMON COOのサウナの入り方
はじめの1セット目はサウナ7分、水風呂1分半、外気浴7分。
その後、サウナは時間を測らず感覚で、水風呂は1分半、外気浴は満足いくまで。時間のあるときは3セット行うが、2セットでも満足することが多い。
「サウナや入浴によって深部体温が一過的に上昇し、その後の睡眠の質が上がるということが報告されています。深部体温の変化値(デルタ値)が重要らしく、 深部体温を測定できるデバイスを用いて、自分のサウナの入り方を探してみたいと思っています」とのこと。
おすすめのサウナスポット:天然温泉 岩木桜の湯 ドーミーイン弘前
屋上に露天風呂や外気浴スペースがあり、岩木山を眺めながら整う時間は最高です。夜も幻想的な雰囲気があり、ぜひ試していただきたいです。
サウナを取り入れ、Well beingを実現しよう
みなさまのおすすめのサウナはどこでしょうか?サウナの科学的な効果に思いを馳せつつ習慣として取り入れていくことが、身体にとっては老化抑制や健康増進を、精神にとっては「マインドフルネス」をもたらしてくれることにつながるかもしれません。Well beingを実現する手段として、サウナをうまく生活の中に取り入れてみてください。
高血圧、心臓疾患、運動制限を課せられている人や服薬中の人は、サウナの利用にあたって医師等の指示に従いましょう。また、飲酒後や体調不良のときは利用を控え、過度に利用しないよう気を付けましょう。サウナの利用中は、こまめな水分補給を心がけてください。
参考資料
※1 加藤 容崇(著). (2023). 医者が教える 究極にととのう サウナ大全 超絶リラックスとパフォーマンスアップに効く科学的な方法. ダイヤモンド社.
※2 Rina Rosenzweig et al.(2019) The Hsp70 chaperone network. Nature Reviews Molecular Cell Biology, 20, p665–680.
※3 厚生労働省. プロテオスタシスの理解と医療応用
※4 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278