妊活、妊娠・出産について考えるとき、年齢を気にされる方も多いことでしょう。赤ちゃんを産むための能力である妊孕能(にんようのう)は、多くの哺乳類において、加齢に伴い低下しやすいことがわかっています。結婚は、妊活の年齢やタイミングについて考えるきっかけのひとつかもしれません。
今回は、結婚年齢や妊孕能と年齢の関係など、妊活中の方やこれから妊活をしようと考えている方への情報をお届けします。
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妊活を始める時期とは?
妊活を始める時期の参考として、まずは日本の平均初婚年齢と平均出生時年齢の統計を見ていきましょう。
平均初婚年齢の推移
厚生労働省の統計によると、令和4年には50万4930組が婚姻し、前年よりも増加しているものの、婚姻率(人口千対)は前年と同率の4.1でした。※1
令和4年の平均初婚年齢を見てみると、夫31.1歳、妻29.7歳で夫婦どちらも前年より上昇しています(表1)。※2
年 | 夫 | 妻 |
---|---|---|
平成7(1995)年 | 28.5 | 26.3 |
平成17(2005)年 | 29.8 | 28.0 |
平成27(2015)年 | 31.1 | 29.4 |
令和元(2019)年 | 31.2 | 29.6 |
令和2(2020)年 | 31.0 | 29.4 |
令和3(2021)年 | 31.0 | 29.5 |
令和4(2022)年 | 31.1 | 29.7 |
引用:厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況. 結果の概要.
一方、初婚の妻の年齢の構成割合を10年ごとに比較してみると、平成14年には26歳でしたが、平成24年および令和4年には27歳とピークが上がっています(図1)。初婚年齢が高い人の割合が上がり、年齢が低い人の割合が下がる傾向も見てとれます。また、年齢(5歳階級)別に人口千対の初婚率を見てみると、令和4年における20~29歳の初婚率は43.25と前年より低下している一方で、30~39歳の初婚率は8.41と前年より上昇しています。※3
母親の平均出生時年齢の年次推移
令和4年の出生数は前年よりも4万863人減少し、77万759人でした。また、「1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数」に相当する合計特殊出生率は1.26と、いずれも過去最低でした。※1
出生数のピークは、第一次ベビーブームだった昭和24年の269万6638人で、昭和50年以降は減少傾向にありました。平成27年に5年ぶりに増加するも、翌年からは再び減少が続いています。※3
令和4年における第1子出生時の平均年齢は30.9歳でした(表2)。平成27年以降の横ばいから6年ぶりに上昇しましたが、令和3年に続いて同じ年齢となっています。※3
年 | 平均年齢 |
---|---|
昭和50(1975)年 | 25.7 |
昭和60(1980)年 | 26.7 |
平成7(1995)年 | 27.5 |
平成17(2005)年 | 29.1 |
平成27(2015)年 | 30.7 |
平成29(2017)年 | 30.7 |
平成30(2018)年 | 30.7 |
令和元(2019)年 | 30.7 |
令和2(2020)年 | 30.7 |
令和3(2021)年 | 30.9 |
令和4(2022)年 | 30.9 |
母の年齢別にみる出生数
母の年齢を5歳ごとに区分した5歳階級別の出生数をみると、45歳以上が前年より増加している一方で、その他すべての年齢階級では減少しています。※1
出生数が最も多いのは30~34歳で、第1子出生時の年齢はその7割近くが25~34歳に集中しています。※4
母の年齢(歳) | 出生数 | 前年増減 | 第1子 |
---|---|---|---|
総数 | 770,759 | △40,863 | 355,523 |
14歳以下 | 27 | △5 | 27 |
15~19歳 | 4,531 | △979 | 4,028 |
20~24歳 | 52,850 | △7,046 | 35,618 |
25~29歳 | 202,505 | △7,928 | 121,793 |
30~34歳 | 279,517 | △12,922 | 118,821 |
35~39歳 | 183,327 | △9,850 | 58,870 |
40~44歳 | 46,338 | △2,179 | 15,654 |
45~49歳 | 1,600 | 3 | 662 |
50歳以上 | 58 | 38 | 44 |
年齢別の自然妊娠の確率
前述の通り、現在の日本では結婚年齢・出産年齢ともに上昇しています。では、妊娠、特に自然妊娠は何歳くらいまで可能で、どのくらいの確率で妊娠できるものなのでしょうか。
欧米諸国などの女性を対象に「年齢と出生数」を調査した研究
17~20世紀のまだ避妊法が確立されていない時代のデータをもとに、欧米諸国などの女性を対象に「年齢と出生数」を調査した研究があります。その結果、出産数は30歳から少しずつ減少し始め、35歳以降は減少傾向がはっきりし、40歳以降は急減していたことがわかりました。※5
実は、女性がまだ胎児のときに作られる卵子は、生まれた後に新しく作られることはありません。女性が年齢を重ねれば重ねるほど卵子も年数を経ることになり、その質は低下するとみられています。したがって、年齢が若いほど妊孕能は高いといえます。※6
日本人の妊活期間に関する調査
第1子を望む健康な23~34歳の日本人女性80人を対象とした研究では、6ヶ月以内に44%が自然妊娠するという結果となりました。2年間の追跡調査では、50%が自然妊娠となりました。この研究において6ヶ月以内の自然妊娠確率と関連づけられた項目は性交頻度のみであり、適切なタイミングで頻繁な性交があれば自然妊娠の確立が高くなる可能性があると結論付けられました。なお、追跡調査においては生殖補助医療を受けた上での妊娠も24%確認されており、自然妊娠を合わせると、2年間での累積妊娠率は74%という結果でした。※7
上記から、妊活期間の目安としては、まず6ヶ月を最初の目標期間として特に意識的に取り組むことが考えられます。6ヶ月以内に妊娠しない場合でも、2年以内には約半数以上の女性が自然妊娠する可能性があり、生殖補助医療も含めるとその確率はさらに高まります。
不妊治療を行っている35歳以上の女性を対象とした海外の研究
不妊治療を行っている35歳以上の女性を対象とした海外の研究では、年齢、避妊解除後の不妊期間、妊娠歴有無に対して、6ヶ月または12ヶ月にわたる自然妊娠の確率(いずれも95%信頼限界)が示されています。※8
不妊期間(年) | 6ヶ月にわたる自然妊娠の 予測確率 |
12ヶ月にわたる自然妊娠の 予測確率 |
---|---|---|
1 | 0.18 | 0.29 |
2 | 0.15 | 0.24 |
3 | 0.08 | 0.14 |
4 | 0.06 | 0.09 |
5 | 0.05 | 0.08 |
6 | 0.05 | 0.08 |
不妊期間(年) | 6ヶ月にわたる自然妊娠の 予測確率 |
12ヶ月にわたる自然妊娠の 予測確率 |
---|---|---|
1 | 0.13 | 0.22 |
2 | 0.11 | 0.18 |
3 | 0.06 | 0.10 |
4 | 0.04 | 0.07 |
5 | 0.03 | 0.06 |
6 | 0.03 | 0.06 |
加齢による流産リスクの増加
望むような妊娠に至っても避けられないのは流産のリスクであり、その割合は年齢とともに上昇することがわかっています。1回の妊娠において流産となってしまう頻度は平均で15%とされていますが、40歳以上では妊娠の約半数が流産しています。その原因の多くは染色体異常です。通常、卵子(および精子)は成熟に至るまでに染色体の減数分裂を行います。卵子の場合、胎児期に作られた卵母細胞は減数分裂の途中でいったん止まった状態となり、排卵直前に再び減数分裂が行われて成熟します。年齢が高くなると排卵までの期間が長くなることから、染色体分配にエラーが起こります。エラーのある卵子が受精すると染色体数的異常が発生することがあり、結果的に流産となります。年齢を重ねると流産のリスクが高まるのは、このようなメカニズムによるものなのです。※9
不妊治療をした場合の妊娠の確率
初婚年齢が高くなってきた近年、不妊治療はそれほど珍しいことではなくなりました。体外受精により誕生した新生児数は2017年には56,000人とされ、同年に誕生した全新生児の約6%にあたるといいます。※10
2021年3月には、厚生労働省より「不妊治療の実態に関する調査研究」の最終報告が公表されました(現在はこども家庭庁により公開)。この調査は、希望する人が誰でも安心・安全な不妊治療を受けられる環境整備に向けた政策推進の助けとすることを目的としており、特定不妊治療助成の制度改正の基となることが期待されています。※10
この最終報告のなかでは、生殖補助医療(ART)の治療法別成績が掲載されています。新鮮胚(卵)を用いた治療では、採卵で卵子を採取してIVFと顕微授精(ICSI)の両方で受精を試みるSplit法が約25%、体外に取り出した卵子と精子を受精させ、受精卵(胚)を子宮内に移植するIVF-ET方が約22%となっています。続いて、細いガラス管を用い、顕微鏡下で1個の卵子に直接1個の精子を注入するICSI(射出精子)が約20%、無精子症の患者の精巣から外科的に精子を回収して顕微授精を行うICSI(TESE精子)が約16%となっています。凍結胚(卵)を用いた治療では、採卵で得た受精卵(胚)を凍結保存し、移植当日に融解して子宮内に移植する融解胚子宮内移植(FET)が約35%、あらかじめ採卵し凍結しておいた未授精の状態の卵子を用いる未受精凍結融解卵による移植が約22%となっています。
なお、いずれの治療法においても妊娠から出産に至った割合は71~72%で、治療法による差はほとんどないとしています。※10
次に、年齢別の妊娠率について見てみます。下記のグラフは年齢別の妊娠率(妊娠周期/移植周期)を5歳階級別に示したものですが、加齢に伴い妊娠率が下がっていくことがわかります。
人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)
日本のみならず世界中において広く実施されている不妊治療のひとつが、人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)です。人工授精(AIH)には、調整精子懸濁液約0.2~0.5mlを子宮腔内に注入する子宮腔内人工授精(IUI)のほか、注入する位置によって、頸管内注入(ICI)、腹腔内注入(DIPI)、卵管内注入(FSP)があります。卵子と精子が受精する場は卵管膨大部であり、そこに近いほど妊娠率が高くなると考えられます。実際に、頸管内に注入するICIに比べ、子宮腔内に注入するIUIの方が、生産率は約2倍高かったという報告もあります。※11
人工授精は自然妊娠に近い不妊治療法ですが、妊娠率はさほど高くなく、1周期あたり5~10%とされています。2009年に行われた23ヶ国における約16万周期もの人工授精を集計した報告によると、人工授精による妊娠率は対周期あたりで8.3%でした。
また、人工授精を4周期以上行った場合の累積妊娠率を年齢別にみると、40歳未満で約20%、40歳以上10~15%です。これらの妊娠例では、その88%が4周期以内に妊娠しています。人工授精を3~4周期実施しても妊娠に至らない場合は、次の治療法を検討する方がよいとされています。※11
妊活に関する世論調査
医学論文や研究調査以外に、妊活の当事者に対して行われた実態調査の結果も公表されています。
現代日本における子どもをもつことに関する世論調査
日本医療政策機構が実施した「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査」です。注目すべき結果として、第1子妊活中の群は子どもがいる群に比べ、不妊の原因となる子宮内膜症や子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群などの婦人科系疾患の治療や診断を受けた割合が高いことがわかりました。ただし、統計学上有意差があったのは、子宮内膜症でした。また、婦人科の初診受診の平均年齢については、第1子妊活中の群の方が高く、若年からの定期的な受診が妊娠・出産にとって重要であることが示されたといえます。※12
妊活白書2023
製薬会社による調査結果「妊活白書」が2018年から公開されています。2023年の妊活白書によると、子どもをもつことに対する意向について、18~29歳の未婚男女のうち「今も将来も子どもが欲しくない」と回答した人が男女ともに過半数を超えていました。ただし、将来子どもは欲しくないと考えている女性の25.5%は、考えが変わったときに備えて子どもを授かれる可能性を残しておきたいと回答しており、そのうち20.0%が卵子凍結に興味があると回答しています。その一方で、実際に妊活に取り組み子どもを授かった(妊娠中含む)女性の68.8%は、想像していたよりも妊娠しづらいと回答しており、58.4%はもっと早くから妊活を開始すべきだったと回答しています。妊活を開始してから妊娠するまでにかかった期間は、出産時もしくは妊娠中である現在の年齢が18~24歳の人で6.7ヶ月ですが、30~34歳の人は14.6ヶ月、40~44歳の人は19.5ヶ月と、年齢とともに長くなるという結果が出ています。※13
加齢に伴い、体だけでなく卵子も老化する
第1子妊娠・出産の年齢が上昇し、40代での出産もいまや珍しいことではなくなりました。加齢に伴い出産が難しくなることは、生物学的にも医学的にも、また実態調査からも明らかになっています。加齢による妊孕能の低下は、人間に限らず哺乳類の幅広い種にみられるといいます。
女性の加齢と卵子の老化の関係性について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:卵子の老化に関連するAging Hallmarks
NMNは妊活の味方となるか
年齢を重ねた妊娠・出産に関わるリスクは先のとおり、卵子の質の低下やホルモンバランスの乱れが生じることによるとされています。このようなリスクに対抗できる可能性のひとつとして、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)という物質が示されています。現在、NMNの有効性についていくつもの研究が進められており、近い将来、加齢や老化、不妊治療の新しい扉が開けるかもしれません。
加齢に伴う卵子の質の低下にNMNが与える影響について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:NMNが卵子の質や卵巣の加齢性変化の改善に与える影響に関する論⽂情報
妊活に関する情報を知り夫婦で話し合いながら妊活を
2022年4月より、人工受精などの一般不妊治療や、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療が保険適用となりました。こういった制度についての情報や本記事でご紹介した統計を知り、かかりつけ医とも相談しながら不妊治療を検討したり次のステップへ進んだりするのがよいでしょう。不妊治療だけでなく、加齢に伴う変化に対抗する手段を含めて必要な情報を集めながら、夫婦で話し合って妊活に取り組みましょう。
参考資料
※1 厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況. 結果の概要.
※2 総務省統計局. 政府統計の総合窓口e-Stat. 人口動態調査 人口動態統計 確定数 婚姻(9-11) .全婚姻-初婚別にみた年次別夫妻の平均婚姻年齢及び夫妻の年齢差.
※3 厚生労働省.令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況.
※4 厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況. 第4表 母の年齢(5歳階級)・出生順位別にみた出生数.
※5一般社団法人 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A. Q22.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?.
※6 一般社団法人 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A. Q21.女性の妊娠・分娩に最適な年齢はいくつくらいですか?.
※7 Shoko Konishi, et al. (2020) Coital Frequency and the Probability of Pregnancy in Couples Trying to Conceive Their First Child: A Prospective Cohort Study in Japan. Int J Environ Res Public Health. 17(14): 4985.
※8 S J Chua, at al. (2020) Age-related natural fertility outcomes in women over 35 years: a systematic review and individual participant data meta-analysis. Human Reproduction. 35(8). 1808–1820.
※9 一般社団法人 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A. Q23.女性の加齢は流産にどんな影響を与えるのですか?.
※10 こども家庭庁.令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書. 野村総合研究所.
※11 公益社団法人 日本産婦人科医会. 産婦人科ゼミナール 栗林先生・杉山先生の開業医のための不妊ワンポイントレッスン 10.人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband’s semen)
※12 日本医療政策機構. (2022) 現代日本における子どもをもつことに関する世論調査 ~妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現を目指して~.
※13 ロート製薬. 妊活白書2023 みんなの妊活.