今回は西洋クラシックでも人気の高い、ロマン派の時代についてです。

愛や恋、また日常の中に生まれる感情を表現する音楽、美しく文学的な世界観に満ち溢れています。

 

クラシックのピアノ曲の中でも、ロマン派を代表するショパンが1番好きだという方も多いのではないでしょうか。この時代のクラシックには、ピアノという楽器を最大限に活かした名曲が多くあります。

 

ショパンって、みんな本当に大好きですよね。

そうですね。絶大な人気がありますね。ワルシャワで開催される、ショパンコンクールはとても有名ですよね。日本人ピアニストも最近話題になりました。

なんとなく繊細なイメージがあるなあ。

ロマンってつくとなんかちょっと恥ずかしい!

わかる!私も子供の頃そんな気持ちだった!笑

ロマン派とは?

ロマン派は19世紀に生まれ発展しました。

古典派が形式に沿った楽曲のスタイルだったのに対して、主に感情や主観を中心にした表現が特徴です。

 

ベートーヴェンの死去後、古典派は終わりを告げます。

ロマン派とは、古典派で構築された、和声(コード進行)が発展し、さらに自由になった音楽です。

文字通りロマンチックな世界観で表現されています。

 

大きな特徴としては、楽曲の形式の自由さ、複雑さ。

それまで行われていた楽章分けがなくなり、各曲のタイトルで曲の性質を決めていくようになりました。

 

ピアニストとして活躍していたショパン、シューマン、リストらが作曲家となったことで、

この時代にはピアノ曲が特に多く作曲されました。

ピアノという楽器が大きく進化したことも、ロマン派を強く推し進めた理由の一つです。

大きな変化としては、優しい音色を求めて、ソフトペダル(音色・音量をやわらかく抑えるペダル)が生まれました。

この時代を代表する作曲家、ピアノ楽曲をご紹介します。

 

 

ロマン派の作曲家 ① ロベルト・シューマン(1810 〜1856)

洗練された美しいメロディと、詩的な表現、シューマンはロマン派の流れを確立した作曲家です。

生い立ち

シューマンの父アウグストは、他国のものを含めた古典文学をドイツで初めて出版し、その功績は大きなものでした。シューマンの曲は、そんな父の影響を強く受けた影響か、文学への造詣が深い、詩的で繊細な曲が多く残っています。

 

彼の音楽を強く支援していた父親が亡くなったことで、音楽のサポートがなくなりました。

母や周りの勧めもあり、音楽よりも堅実な法律の大学まで進みますが、音楽への情熱を捨てられず、法律の道から音楽家へ。大きな人生の転機でした。

 

クララ・シューマン

シューマンの妻であり、名ピアニストであったクララ・シューマン。

 

クララの父でピアノ教師であったヴィークに、シューマンがピアノのレッスンを受けていたことをきっかけに、シューマンはクララと出会います。そして反対された中での結婚。8人もの子を授かります。

 

クララは、家計のためにも演奏活動を続け、人気ピアニストとなり、夫を支えました。

シューマンが精神的、経済的に追い込まれた時も、強く逞しく子供たちを育てあげます。

 

シューマンは精神障害により、病院で最後を迎えます。

優しく看取ったのはクララでした。

シューマンのピアノ作品

トロイメライ(子供の情景No.7)

 

ピアノでは「トロイメライ」がとても有名です。

トロイメライ、とはドイツ語で「夢想」を意味します。

優しく、たまらなくなるような切ないメロディは、いつ聴いても夢の中に入り込むような、

そしてどこか懐かしさを感じる楽曲です。

 

演奏は牛田智大さんです。

異国へ(子供の情景No.1)

こちらもトロイメライと同じく「子供の情景」からです。素直で温かいメロディが素敵な曲です。

このコラム用に、少しアレンジを加えてみました。ぜひゆったりとした気持ちでお聴きください。

 

 

 

スースー

あ、カール寝ちゃった

 

 

アベッグ変奏曲

 

テーマを軸に変化していく、初期の作品です。

 

この曲は、私がシューマンという作曲家を意識するようになった最初の曲でもあります。

どこか不安定で摩訶不思議な展開。トロイメライの甘いムードとは異なった、シューマンの二面性も感じられる作品です。

 

この曲のユニークなところは、言葉からテーマを着想している点です。

曲を伯爵令嬢パウリーネ・フォン・アベッグ (Mademoiselle Pauline Comtesse d’Abegg) に献呈

とされています。この女性はシューマンが生み出した架空の人物という説もあり謎が深まりますが、その名にある「Abegg 」を音にしました。

 

このABEGGは、音名でいうとラ、シ♭、ミ、ソ、ソ を示しています。(音名については第1回のコラム参照)

 

言葉を音に変える、というアイデアも、またそこから広がるイメージもとても面白く、

この楽曲が大好きでした。冒頭のメロディからABEGGの音でスタートします。

 

ピアニスト、ランランによる演奏です。

アシュケナージによる演奏です。

Abegg変奏曲

 

私はフィナーレ部分(5分半以降)のハーモニー、メロディのイメージが大好きで、

ここばかり繰り返し弾いていたのを思い出します。ジャズ的な響きもあったり、とても即興的です。

 

不安定なメロディやハーモニーが溢れでて、安定した音に行きつき、美しい瞬間を生み出します。

人の心のざわめきを音にするとこんな表現になるのか。という複雑で繊細な曲です。

 

優しい楽曲の多いシューマンですが、実は二面性を持っていること、

精神的に病的なほど繊細だったことをこの楽曲を通じて知ります。

 

そして、余談ですが、音大の受験の際にはシューマンのソナタ第1番を弾くことに。

個人的な思い入れのある作曲家です。

ロマン派の作曲家②フレデリック・ショパン(1809または1810〜1849)

 

知らない方はいない!ピアノの世界の代表、と言っても過言ではない存在です。

「ピアノの詩人」と呼ばれ、作曲の大半をピアノ曲が占めています。

 

人気があるのはノクターンや、幻想即興曲、子犬のワルツなどなど

ピアノを弾きたい方が一度は憧れる作曲家です。

生い立ち

ワルシャワにて優しく文学に造詣の深い父親、芸術を愛する母の間に産まれました。

幼少期に母のピアノを聴いて涙したという逸話もあります。

小さい頃から、聴いた曲を再現したり、メロディを作ったりと、音楽への才能が滲んでいました。

そして、8歳にして、演奏会で大絶賛を受けます。まさに天才児。

15歳から本格的に音楽家として活躍を始めます。

作曲家としても、ピアノ教師としてもサロンで大人気の存在でした。

ジョルジュ・サンド、永遠の別れ

ショパンの周りには多くの女性の影がありました。

その中でも、ジョルジュ・サンドとの出会いはとても大きいものでした。

彼女は、当時としては珍しく、男女の平等、結婚制度への指摘、女性の身分の向上などなど作家として世に問いかける女性でした。男装をしたり葉巻を吸ったり、スキャンダラスな存在で、当初ショパンは嫌悪感を表していたとのことです。

数年を経て再会、その後は共に暮らすようになり、9年間を一緒に過ごしますが、最後はサンドの家族とうまくいかず、長女の結婚問題が原因で決裂してしまいます。

 

長期に渡り、ショパンの音楽と体調を長く支えた人物です。また一番のショパンのファンでもありました。最後は決別したまま会うことなく、ショパンは病いの悪化によりパリで亡くなります。

39歳という若さでした。

ショパンの作品

およそ250曲を超えるピアノ曲を生み出しています。

今回はその中から、練習曲(エチュード)をご紹介いたします。

 

練習曲の範疇を超え、作品としての美しさに溢れた楽曲たちです。作品10、作品25の二種類でそれぞれ12曲ずつあります。

 

ショパンはをこのエチュードを23歳の時に作っており、自身のピアノレッスンで生徒の必要に応じた曲を選び、課題として出していたそうです。

サロンで生徒が披露する時にも聴き映えすると大好評で、生徒たちは目に見えて上達していきました。

 

練習曲というだけあってどの曲にもテクニックを高めるための要素が入っています。

が、それ以上に、テクニックとは何のために必要なのか、深く考えさせられます。

この練習曲の目的は、指を鍛えることはもちろん、フレーズの作り方、リズム、そして音楽的に弾くことです。

これまであった練習曲の概念を破る、画期的な作品といえます。

 

2曲ご紹介します。

 

エチュード Op.10-3「別れの曲」

 

え?!別れの曲って練習曲?!と驚かれると思いますが、中間部で登場する複雑な和音の動き。

冒頭の柔らかさとは大違いです。

有名な冒頭のメロディは、あのリストも「この世で最も美しい旋律」と大絶賛したとのことです。

 

ピアニスト仲道郁代さんの演奏です。

 

ショパン エチュード0p.10-3「別れの曲」

 

もう一曲、こちらも有名な「革命」です。

 

左手の怒涛のフレーズに雷鳴のような右手の和音。

圧倒的にパワフルかつドラマティックな曲です。

 

この曲は、ショパンの祖国ポーランドが政治的に不穏な状態の時、ロシア軍が攻め入ってくるため、国外に逃亡を余儀なくされたことがきっかけで生まれました。

ポーランドに残した家族たちへの不安と、怒りの感情をむき出しにぶつけて作曲された曲です。

 

その怒り、悲しみが乗り移ったかのように、激しいメロディと叩きつけるようなエンディングにその想いが溢れています。

 

こちらも日本人ピアニスト、辻井伸行さんの演奏です。

 

ショパン エチュード0p.10-12「革命」

 

 

ーー

ロマン派、というと優雅で気品あふれた印象が強いですが、

実はとても力強く、激しいものも多くあります。

ピアノの表現力は、我々の複雑な心の動きと重なり、強く揺さぶってきます。

 

人が生きていく上で、避けて通れない問題や、深い悩み、

そういった葛藤にあふれた人生とリンクして、心と一緒に波打つものです。

 

感情を豊かに音にした、「表現」の時代と私は捉えています。

ーーー

 

<参考>

・シューマン 藤本一子著

・シューマンの結婚:語られなかった真実 ピート・ワッキー・エイステン著

・ショパン 小坂裕子著

・ショパンとサンド 小沼ますみ著

 

執筆

ピアノ講師、ピアニスト、作曲家

東 真未

 

7才よりピアノを始める。洗足学園大学ピアノ学科卒業 。 ドビュッシー、サティ、バルトークなどの作曲家に影響を受け、幼少の頃より即興演奏に親しむ。近現代の作品を多く演奏し、卒業後はピアノ講師として5才から80才まで幅広く講師を行う。 自身がリーダーを務めるグループにて即興音楽を行い、数多くのセッション、バンドにキーボード として参加。作曲、アレンジ、ライブ活動、劇団や創作童話への楽曲提供及び演奏を行っている。ピアノを使った老化防止や心のケアを研究中。---マミィのピアノ教室、生徒募集中!!(※立川市、日野市にて実施)さまざまな用途、ご要望にお応えします。詳細はメールでお問い合わせください。また、本コラムへのご感想、質問などもぜひどうぞ!アドレス→ piano.mammyhiga@gmail.com

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