デルタ株からオミクロン株へ変異を遂げ、日本でも過去最高の感染者数を更新し続けている新型コロナウイルス。今回はベトナムで生活を続けている日本人男性の生の声(第2報)を紹介します。

2020年6月と言えば、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、日本においても正に第2波の脅威に晒されている最中であった、あの頃である。そんな中、2020年6月に本サイトでベトナムにおけるコロナについての記事を掲載したのには理由があります。

日本でも感染者数18,850人、死亡者数697人という状況に陥る中、ベトナムでは何と、感染者数355人、死亡者数0人で、いわゆるコロナの封じ込めに成功していた国(前回記事時点での表現)です。

どう封じ込めたのか?という現地の声を形にしたのが前回の記事

前回記事:【新型コロナ感染者数355人、死者数0人】ベトナムで自宅隔離となった日本人男性の体験談

封じ込めから一転、感染者数が拡大。

一時は封じ込めに成功したベトナムだが、2022年1月21日午前9時時点の感染者数は2,094,802人、死亡者数は36,266人となっています。

次々と変異を遂げる新型コロナウイルスを封じ込め続けることがどんなに難しいか、、、同じ対策、戦略では彼らを制することはできません。ウイルスの変異とともに我々の対策、戦略、意識を変異させ必要があるのだと思い知らされると感じてしまいます。

<参照>

ベトナム大使館HP

https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_information.html

ベトナム在留日本人男性に聞くベトナムの今

前回から引き続き、同ベトナム在留日本人男性に現在の状況を聞くことができた(2022年1月6日時点)。

約1年半前の2020年6月のインタビュー時点ではCOVID-19の封じ込めに成功していたものの、2021年には全国的な感染拡大に直面したベトナム。その渦中で生活を送る男性のリアルな声を紹介します。


ベトナムの今について

他の東南アジア各国がピーク時を下回る水準で抑え込みに成功している中、ベトナムにおいては今夏のピークを突破し、勢いを増しているのは何故だと思いますか?

デルタ株がベトナム国内に入ってしまった中で、その感染力の強さがベトナムの公衆衛生対策を上回るものであったためソーシャルディスタンスや移動制限など様々な制限を課しましたが、貧困層中心に人口密集エリアや狭い居住スペースで共同生活を送る人達が感染拡大の要因となりました。現在はワクチン接種が進んだ(18歳以上の90%以上)ものの、住環境や労働環境などは大きく変わるわけではない中で、依然として彼らが感染拡大の要因となっているのと、人々の暮らしが元通りになる中でこれまで感染の中心であったホーチミンなどの南部の大都市から、全国へ人が移動することでウイルスが広がった結果、全国で感染爆発の状態となり、感染がなかなか収まらない状況です。

ベトナム政府が7月に実施し、世界的にも厳しいと言われたたロックダウンの期間、街はどのような様子でしたか?

1番厳しい時期だと一切の外出禁止(ライフラインやコロナ関連除く)であったため、交通量で平常時の98%減、昼間の主要幹線道路ですら1分間に数台程度の交通量になり、ゴーストタウンのような状態になりました。

現在、ホーチミン市ではどのような生活を送っていますか?

カラオケやクラブなどは営業停止中ですが、ロックダウンは解除されたため、ほぼ元通りの生活に戻っております。

年末年始については、感染リスクを減らすため、ホーチミン市内でゆっくりと過ごしました。周りの外国人の方々についても、もちろん国内のリゾート地などで休暇を過ごす人もいますが、例年と比べると少ない印象です。

医療について

日本での感染拡大ピーク時には医療崩壊が生じたことで在宅で亡くなる方も発生する悲惨な状況でした。ベトナムでの医療機関の状況はいかがでしょうか?

ホーチミン市に関しては医療崩壊したと言っても問題ないレベルかと思います。致死率が4%近い状態となり、世界的な致死率を遥かに上回る状況になってしまい、自宅で亡くなる方はもちろん、高度な医療ができないままに亡くなる方も多数発生してしまいました。途中からは臨床中であったモルヌピラビルが治験をかねて導入されたことにより重症化する人が減ったようですが、それまではコロナ用の薬の不足により、適切なタイミングで治療薬が投与できないために重症化した例も少なくないようです。医療従事者などに関してはボランティアや軍も投入しての総力戦で対応していましたが、人員以上に治療のためのリソース部分の不足による適切な治療が受けられないことによる重症化が目立ったようです。

約1年半前のインタビューで「医療者に対する差別どころか尊敬の念をもって接しられている」とあった医療従事者に対する支援(金銭的な補助など)は何かされていますか?

尊敬の念を持って接しているのは事実ですが、決して満足できる給与などが支払われていたかというと政府自体にお金が無いのもあり難しかったようです。

日本では必要回数のワクチン接種が完了した割合は78%以上と報告されていますが(2021年12月時点)、ベトナムの接種状況はいかがでしょうか?

ベトナムでは既に18歳以上のワクチン接種率が86%(2021年12月28日時点)となっており、他国と比べてもかなり高い状況となっております。義務とはなっていないですが、政府からもワクチン接種は国民の務めだというような呼びかけもあり、高齢者や病弱者など一部のワクチン接種が難しい人を除きほぼ接種済みの状況です。

ベトナムでの接種証明書アプリなどの取り組み状況はいかがでしょうか?

2021年9月より接種証明アプリが導入され、ショッピングセンター入店時などはそのアプリでQRコードをスキャンしたりしないと入店できないことになっております。

生活への影響について

約1年半前のインタビュー時と比べて社会的交流はどのように変化しましたか?

今は感染がある程度収まったので徐々に元に戻りつつありますが、この半年間くらいは出来る限り人との交流を避ける生活が続いておりました。特に7~9月に関してはほぼ外出が不可能な状態であり、家族や一部の隣人以外はほぼ交流が無い状況でした。現在でも職場内のような特定の人とのみ接し、他の人との交流は出来る限り避けるような生活が続いているのは事実です。

前回のインタビューでは、失業者が140万人以上にもなると言われているとのことでしたが、現在の失業状況はいかがでしょうか?

手元に統計が無いですが、それ以上の状況だと思います。ワーカークラスの労働者はコロナのタイミングで工場が操業停止したりしたので田舎に帰ってしまった労働者が130万人程度で、そのうち戻ってきていない人が半分近くという発表も出ており、都市に残った失業者も含めると南部の労働者3分1程度が失業したとも言われています。ただ現在は、ロックダウン後の経済復興によりストップしていた業務を行うために企業が人員確保に苦労しているのも事実です。

失業の影響による犯罪増加も懸念されているとのことでしたが、実際の状況はいかがでしょうか?

バイク窃盗に関しては頻繁に聞きます。特にこれからの季節、テト(旧正月)を迎えるにあたり窃盗等の軽犯罪は増加しやすい時期なので、皆さん用心しているところです。

日本では貧困者や生活困窮者が増加している現状がありますが、ベトナムでの貧困の状況はいかがでしょうか?

ベトナムでも貧困層が一番厳しい状況です。その日暮らしの生活をしている人も少なくなく、ロックダウン下では完全に収入が断たれてしまった貧困層の人たちに政府からは数回にわたり現金支給などが行われましたが相当厳しい状況だったようです。

教育機関はどのような対応をしていますか?

ベトナムでは5月以降都市部ではほぼ全ての学校がリモートのみとなっており、12月頃から一部の学年や地域では対面授業を再開させているものの、依然としてリモート授業のみの状態が続いている状況です。2022年1月以降再開が予定されていますが、今後の流行次第では再びリモートに戻ることも予想されます。

また貧富の差がある中で1人1台パソコンが用意できない家庭も少なくなく、さらにネット環境などの問題からも学習環境に大きく差が出てしまっているようです。この状況が半年以上続いてしまった中で、相当な学力差などに繋がっているものと思われます。

超高齢社会の日本においては高齢者に活動性制限が課せられることでの不利益(筋力の低下や、閉じこもり、高齢うつ、認知機能低下など)が懸念されましたが、ベトナムの高齢者の方々の状況はいかがでしょうか?

ベトナムの高齢者は元々日本の高齢者と比べアクティブではないため、行動制限による不利益という部分では日本とはやや異なるのですが、疾病などの治療が行いにくい環境となってしまっていたため、症状の悪化などが起きていることは予想されますが、具体的な統計などで出てきている状況ではないです。

この1年半における生活の変化について教えてください。

大きく変化したことといえばEC利用、ネット決済(オンラインバンク含む)の普及です。データとしてはまだそれほど出てきていませんが、ロックダウン時期などオンラインでの売買や決済なしでは何も手に入れることができない状況が続いた中で、これまでECやオンライン決済の浸透度の低かった比較的年齢の高い層や外国人などへも進んだ印象です。

ベトナムの経済状況について

前回インタビュー時には、外国人観光客向けエリアの廃業店が多くありましたが、その後の経済状況や出稼ぎ労働者が都市部から疎開する「コロナ疎開」の現状を教えてください。

2021年は2020年のコロナ第1波以上に甚大な影響が出ております。ベトナムは休業補償などが無いため、大家さんが一部家賃の減免に応じてくれたりはしますが、それ以上のサポートは無く、全従業員をいったん解雇して費用をできる限り減らすなどの企業努力はされていますが、それでも資金ショートなどで廃業される店舗が多数あります。

また、ロックダウンに伴い130万人ほどの労働者がホーチミンなどの大都市から離れ、まだ半分近い労働者が元に戻っていない状況です。調査などによるとテト(旧正月)明けには大多数が戻ると予想されていますが、1割程度はこのまま戻ってこない状況のようです。

7-9月期の国内総生産(GDP)が過去最大の落ち込みを記録したベトナムですが、景気の冷え込みは体感しますか?

近隣の飲食店やお店などに聞いていても例年比で1~2割程度は売り上げが落ち込んでいるようです。また、弊社業務自体には直接とまではいかないですが、お客様の関係で求人募集を行うと、通常よりも2倍近い応募があったり、毎年旧正月前に渡されるボーナスが出ない企業のニュースを見かけたりするので、決して景気が良くない状況は続いているようです。

日本ではGo toキャンペーンや、企業・個人事業主への補助金・助成金、18歳未満の子供への給付金(10万円)などの経済政策がありましたが、ベトナムでの経済政策はどのようなものがありますか?

個人へは貧困層向けの現金給付(1回につき7~8000円程度)があったのと、ダメージの大きい業種向けに一部の税の減免措置があった程度で、日本の手厚い支援とは比較にならないレベルです。

日本ではリモートワークが少しずつ浸透しつつありますが、ベトナムではインターネットを活用した勤務形態の変化などはありますか?

ITなどの職種に関してはリモートが進んだ印象ですが、ベトナムはまだまだ製造業が中心のため、ロックダウン後は元通りの勤務体系に戻したところも多いです。

【最後に】ベトナム在留日本人男性が今、思うこととは

感染封じ込めから一転、感染拡大の渦中のベトナムにおられることを踏まえ、ベトナムのいい点や悪い点、今後の展望などはいかがでしょうか。

ベトナムは厳格な入国規制を敷いた関係で2020年のコロナ対策においては世界でも有数のコロナ対策が上手くいった国となりました。ベトナムは社会主義国であり、政府が国民の権利を制限してでも防疫に取組むことができる中で、それがまさに上手く作用した状態になりました。ただ、それはデルタ種という感染力の強い変異種の前では無力であり、逆に発展途上国ならではの貧困層がコロナ感染拡大の温床となってしまい、また発展途上国が故に医療リソースも限られている中で、コロナにより国内が甚大な影響を受けてしまうという脆さを露呈した2021年でした。ただ、発展途上の国であるため経済の回復も早く、コロナによる影響が景気循環の一種のような形になりそうであり、国としては甚大な影響は出ましたし、多くの人の生活にも影響が出ましたが、中長期で見ると経済の過熱を抑える安定した経済成長に欠かせない景気調整だったと数年後には振り返ることとなっていそうです。

政治体制、経済発展基準、宗教に関係なく、わたしたちは地球規模で新型コロナウイスルと戦っています。

いま日本はどうなのか、そして世界がどうなのか、国境を越えた情報共有が新型コロナウイルスによる死者数を減らし、共存していく世界へ導いてくれると信じています、そしてこのベトナムの第1報、第2報がわずかでもその一端になることを願っています。

執筆

LIFE IS LONG JOURNAL編集部

 

LIFE IS LONG JOURNAL編集部。 ”LIFE IS LONG JOURNAL”は「人生100年時代」を迎え、すべての人が自分らしく充実した人生を歩んでいくための「健康寿命」を伸ばすために役立つ情報を発信するメディアです。

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