最新の報告では、COVID-19の患者の特徴としてNK細胞および キラーT細胞の総数が著しく減少していることが報告されています。重要なことに、治療後に回復した患者ではNK細胞および キラーT細胞数が回復しました。これらの結果は、感染することで早期に免疫が破壊される可能性を示しています。
また免疫系が弱っている人では、より重症化することが研究で示唆されています。キラーT細胞およびNK細胞は、ウイルスに対する効果的な免疫応答を形成するために必要であり、これらの機能が減弱することで病状の進行を早めてしまいます。特に重度の感染者では有意に免疫系の血球が減少していたことを報告しています。
免疫には自然免疫と獲得免疫の2種類があります。自然免疫は、異物の侵入に対して真っ先に反応し異物を排除するシステムです。自然免疫を担当する細胞のひとつであるナチュラルキラー (NK) 細胞は、自己の細胞か異物またはがんのもとになるような異常な細胞を見分けて、それらに非常に強い細胞障害性を発揮します。
感染細胞やがん細胞と認識するとパーフォリンを放出して標的細胞に穴をあけ、グランザイムにより細胞死 (アポトーシス) を引き起こします。さらにNK細胞は抗ウイルス活性を持ち、他の免疫系を導入するインターフェロン – ガンマ (IFN-γ) などを放出します。
獲得免疫は、自然免疫で対応できない場合に働きます。病原体や病原体が出す毒素などの異物を認識してT細胞に伝達します。
その情報をもとに、キラーT細胞が増殖し感染細胞を殺し、形質細胞が異物に特異的に作用する抗体を作りだします。抗体は効率よく病原菌を排除するのに役に立ちます。またこの情報は記憶され次に同じ異物が侵入した際に即座に反応することができます。ワクチンは弱毒化させた病原体や毒素または病原体を接種することで感染せずに免疫の記憶を作り、病原体が侵入しても即座に排除することができます。
<参考>
Med Hypotheses:2020 Apr 22
基本的に感染症に対する免疫の重要性に関しては主に獲得免疫に重きを当てて研究されています。
しかしCOVID-19の患者の中には軽症でほとんど症状が出ない人の中に、新型コロナウイルスに対する抗体をほとんど持たない人がいます。つまりCOVID-19はある程度、自然免疫で抑えることができる可能性があり、獲得免疫はもとより自然免疫も感染防御に重要であることを示唆している研究者もいます。
一般的に免疫を高めるには良質な睡眠や適度な運動、十分な栄養、腸内環境を整えること、笑ったりすることが挙げられます。ここでは2018年Journal of Immunology Researchに報告されたNK細胞を活性化させる天然化合物の中から一部の内容を紹介いたします。
NK細胞の活性化をウイルス感染細胞だけでなくがん細胞に対する攻撃性で示している報告も多いですが、おそらくウイルス感染にも同様に有用であると考えられます。
<参考>
J Immunol Res:2018 Dec 25
Effect of Natural Compounds on NK Cell Activation
まずはビタミン類についての報告です。日本人の平均的な食事内容からビタミンの中では特にビタミンA、B1、B2、B6が不足していると厚生労働省の「日本人の食事摂取基準 (2015)」において報告されています。
また食事の偏りによって不足する可能性も十分あります。
ビタミンA
ビタミンAはレチノール、レチナール、レチノイン酸(RA)の総称です。野菜などに含まれるカロテノイドは、体のなかでレチノイン酸に変換されます。レチノイン酸は、レチノイン酸初期誘導型1 (RAE-1) の発現を増加させます。
ウイルス感染細胞に発現しているRAE-1はNK細胞による殺傷能力を増加させます。さらに動物実験でビタミンAを欠乏させるとIFN-γ産生の減少することも報告されています。
ビタミンB群
ビタミンB1、B2、B5は評価されていないため、残りのビタミンに関する知見のみを記載します。ニコチンアミド (ビタミンB群の一種) はNK細胞表面のL-セレクチンの発現を増加させます。L-セレクチンにはNK細胞などをウイルスや細菌と戦うために骨髄やリンパ節に移行させる重要な役割があります。
またビタミンB6やビオチン、葉酸、ビタミンB12(コバラミン)が欠乏することでNK細胞またはT細胞の活性が減少する可能性を示す論文が報告されています。
ビタミンC
ビタミンC (アスコルビン酸) は、初期の1985年の研究では抗酸化活性によりNK細胞の活性を阻害する物質であると報告されました。対照的な報告もあり経口で投与することで、NK細胞の活性化がみられ24時間その効果が続き48時間後に消失することを示した論文があります。
最近の論文では、アスコルビン酸はNK細胞のPKCを活性化させることが報告されています。PKCの活性化はIFN-γやグランザイムの放出を促進させます。さらにアスコルビン酸はNK細胞の成熟にも関わることが示唆されています。しかしビタミンCの詳細な分子基盤は不明のためさらなる研究の進展が必要です。
ビタミンD
ビタミンDはステロイド化合物に属する脂溶性の物質です。ヒトでは、1,25-ジヒドロキシビタミンD (1,25D) はビタミンDの最も活性の高い形態です。ビタミンDがNK細胞に与える影響を示す論文がいくつかあります。
しかし、実験条件が様々であり、NK細胞を活性化する論文もあれば抑制する論文もあり、その結果は一貫しておりません。ビタミンDには免疫を調整する意味合いが強い可能性があるようです。
関連記事:ビタミンD不足が新型コロナウイルスの重症化に関与しているかもしれないという論文が発表
ビタミンE
ビタミンEは、トコフェロールとトコトリエノールからなる脂溶性の抗酸化物質です。1999年に報告された論文でビタミンEの有用性が注目されました。老化マウスの研究から得られたデータによると、加齢と共に減少したNK細胞の活性をビタミンEが回復させる可能性が報告させました。
マウスで行われた別の研究では、トコフェロールを補給することでNK細胞の活性が増加ました。またNK細胞を直接トコフェロール処理することで腫瘍に対する障害性が増強することを示しています。
さらに、エイズに罹患したマウスに対してビタミンE処理の効果を調べた実験ではビタミンE投与によりNK細胞毒性とIFN-γレベルが上昇しました。このようにNK細胞の活性にビタミンEが働きかけていることが報告されていますが、どのような分子機構なのかは明らかではありません。
ファイトケミカル
ゲニステイン
大豆および大豆加工食品に豊富に含まれるゲニステインは抗酸化作用だけでなくエストロゲン受容体にも作用し女性ホルモン用作用も示します。ゲニステインは、ある程度の濃度範囲 (0.1〜0.5μmol/l) ではNK細胞活性を増加させますが、それ以上では逆に活性は低下することが示されています。
他の研究チームによってもゲニステインが引き金となってNK細胞を刺激する効果があることを確認されています。また上気道炎モデルマウスを用いた研究では、イソフラボン処理後にNK細胞の脱顆粒 (パーフォリンなどの放出) が増加することが示されています。
クルクミン
クルクミンはウコンの根に含まれる有効成分です。抗炎症作用や抗酸化作用、コレステロール値を低下させるなど幅広い効果が知られています。実験動物のラットをクルクミンで処理すると投与量を増やしていくことで、NK細胞の殺菌に働くNO (一酸化窒素) 産生が上昇し、腫瘍細胞にアポトーシスを引き起こすことが示されました。これらの報告より現在、抗がん剤として世界的に研究されています。
高麗人参
高麗人参は漢方薬に広く使用されており、免疫調節作用や抗酸化作用があることが知られています。1987年に高麗人参がNK細胞に与える研究が報告されています。
抽出物を用いた研究では、NK細胞のグランザイムBの発現の増加および活性増加がみられました。しかし、NK細胞数およびNK細胞の機能的な変化には有意な変化はありませんでした。別の実験では、高麗人参抽出物をマウスに経口投与した後、腫瘍細胞に対してIFN-γ依存的にNK細胞を活性化させることが明らかになっています。高麗人参の抽出物は、健康な人とAIDS患者どちらもNK細胞の機能を高めることを明らかにしました。
ニンニク
ニンニクは風味付けに世界中で使用されています。また、古くから自然療法として利用されてきたことから、ニンニク抽出物とNK細胞活性との関連性に注目した研究がいくつか行われてきました。ニンニクエキスを使った実験では、腫瘍を形成したマウスに投与すると、これらの動物のNK細胞活性が増加し腫瘍の成長を有意に減少さることを示しています。また、がんの患者を対象に、熟成ニンニクエキスを投与した研究もあります。
投与群でNK細胞数とNK細胞活性の両方が有意に増加することが示されたが、患者の症状に優位な改善はなかったことが報告されています。熟成ニンニクエキスは免疫機能に影響を与えることを示す論文は他に報告されています。しかし、ニンニクエキス中の活性化合物は未だ同定されていません。効果を裏付けるのにさらなる研究の進展が必要です。
レスベラトロール
レスベラトロールは、フェノール性化合物でブドウやブルーベリー、ラズベリーなどの特定の果物の皮に含まれる抗酸化物質です。いくつかの研究成果をまとめたレビューがあります。
<参考>
Crit Rev Food Sci Nutr:2018 Jun
Resveratrol as an Anti-Cancer Agent: A Review
ラットを用いた研究では以下のことが示されました。3日間のレスベラトロール前処理でNK 細胞活性が有意に増加し、レスベラトールの量依存的にパーフォリンの発現量が増加しました。
さらにこの結果を裏付ける研究も報告されています。またレスベラトロールはINF-γの分泌を刺激することも明らかになっています。
金柑
金柑は、シトラス属の小さなオレンジ色の果実です。2015年に金柑のNK細胞に与える影響を初めて報告されました。金柑果皮の抽出物でNK細胞を刺激することでIFN-γ産生とNK細胞の細胞傷害性を示しました。さらにマウスを用いた実験でもNK細胞の毒性とIFN-γ産生の上昇が認められました。金柑果皮に含まれる活性分子を探索したところカロテノイドの一種のβ–クリプトキサンチンを同定しました。まだ報告数が少ないためさらなる研究が必要です。
レクチン
レクチンは、糖鎖に結合できるタンパク質群のひとつです。
糖鎖は細胞の表面にあり、病原菌の認識などにも用いられることから免疫に関わります。レクチンはいろいろな食べ物や植物などに含まれますが、レクチンを含むヤドリギ抽出物が広く研究されてきました。いくつかの研究でヤドリギ抽出物がNK細胞を活性化させる効果が示されています。
多糖類
さまざまな多糖類のNK細胞への影響に関する数多くの研究が実施されています。ひとつは海藻に含まれる硫酸化多糖類の効果です。硫酸化多糖類はNK細胞の増殖を増加させ、がん細胞への細胞傷害性が増加しました。
さらに、グランザイムBを含むIFN-γやパーフォリンの分泌も増加することが示されています。しかし硫酸化多糖類がどのようにNK細胞を活性化させるかその機構はまだ明確ではありません。別の研究では、緑茶の葉から単離された多糖類や牡蠣由来の多糖類を用いた研究でも、同様にNK細胞を刺激することが報告されています。また乳酸菌が産生する多糖類が免疫を刺激することも知られています。
NK細胞の治療への応用
NK細胞は、COVID-19の治療の観点でも着目されています。アメリカのセルラリティ社は、がん治療薬と開発していたヒト胎盤由来の免疫原性を抑えたNK細胞をCOVID-19感染症に対する免疫療法のヒト試験を開始することをFDAの承認を得ました。この薬によって抗ウイルス薬では対応できない可能性があるような重篤化した際にもウイルスに感染した細胞を死滅させ、免疫系による炎症にも対応できると同社は期待しています。
COVID-19に対して上記の天然化合物の有効性を示す知見はまだありませんが、ワクチンがなく明確な治療方針が確立していない現在では予防が大切です。NK細胞の活性化は免疫力に直結し、さらにがんの予防になる可能性も期待されます。