新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)から身を守る治療薬やワクチン。国内外で研究・開発が進み、すでに臨床試験に入った事例もあります。

世界各地で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束が見出されない中、治療薬やワクチンがいつ完成するかという展望は経済活動における意思決定をする上で重要な要因になるでしょう。そこで治療薬やワクチンとは何かについておさらいし、これらがいつ完成するのかについて解説していきましょう。

 

治療薬・ワクチンとは?

「レムデシビルが国内で特例承認された」

「新型コロナウイルスのワクチンの開発には18ヶ月以上かかる見込みだ」

等の言説がニュースや新聞等のメディアに散見されます。そのため治療薬やワクチンの知識に関して混乱を招くかもしれません。

 

現在、研究・開発されようとしている治療薬やワクチンは、新型コロナウイルスを直接標的としたものです。治療薬の役割は、患者の体内に侵入したウイルスの増殖や拡散を抑えることです。他方ワクチンの役割は病気の予防です。天然痘ワクチンのように元来、弱毒化した病原体を接種するのが主要でしたが、近年ではウイルスの成分を遺伝子組み換えなどによって人工的に製造したワクチンなど幅広いものが存在しています。

 

新型コロナウイルスと同様に呼吸器系疾患を引き起こすインフルエンザウイルスの場合、ウイルスそのものを標的とした治療薬がすでに開発されています。他方新型コロナウイルスを直接標的とした治療薬やワクチンは現状では開発されていません。

そこで、解熱や酸素投与等の対症療法によって自然免疫力を高め、症状を和らげることが行われています。

 

ただ新型コロナウイルス感染症の場合、患者が重症化し死に至るケースも多く確認されており、対症療法だけでは限界があります。そこで登場するのが、ほかのウイルスを標的とした抗ウイルス薬です。

一例としてアビガンやレムデシビルが挙げられます。

 

レムデシビルは米ギリアド・サイエンシズが開発したエボラ出血熱用の抗ウイルス薬で、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルスや新型コロナウイルスに対する効果が確認されています。

他方、富士フイルムが開発したアビガンはインフルエンザ用の抗ウイルス薬ですが、インフルエンザウイルス同様にRNAウイルスである新型コロナウイルスに対しても効果が期待されています。

ただしこれらの抗ウイルス薬は新型コロナウイルスを直接標的とした治療薬ではありません。そのため効果は限定的であり、治療薬やワクチンの開発が待たれています。

承認されるまでのプロセス

製薬会社が薬を販売するためには、医薬品を管轄する各国の機関による承認が必要です。薬が承認されるまでのプロセスは各国で異なります。薬の候補となる物質の安全性や有効性を動物やヒト細胞等を用いて確認するのが、非臨床試験です。これをパスすると、安全性や有効性を人で実験します。これが臨床試験(治験)です。

同意を得た健康な人による治験(フェーズI)から多数の患者による治験(フェーズIII)まで3段階に分かれ、データを収集し薬として認められるかを判断します。安全性や有効性などが証明されてようやく、厚生労働省に承認のための申請を行います。

引用:医薬品の承認審査の概要(医薬品医療機器総合機構)

 

承認のプロセスや審査にかかる期間は異なりますが、別の国で承認されている薬が日本では承認されていないケースがあります。かつては承認までにかかる期間の遅れ(ドラッグ・ラグ)が問題視されてきましたが、十数年前までは2年以上あったドラッグ・ラグも審査体制の強化などにより1年程にまで短縮されています。

 

<参照>

ドラッグ・ラグはどこまで解消したか(日本薬剤師研修センター)

ドラッグ・ラグの試算について(医薬品医療機器総合機構)

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックにより、治療薬やワクチンの素早い承認が求められます。米国で薬の承認を行う食品医薬品局(FDA)は新型コロナウイルスに対し特例で承認手続きの簡素化や審査期間の短縮が可能になりました。また日本でも、海外で承認されている医薬品に限り承認手続きが簡素化される特例承認制度があります。新型コロナウイルス感染症への対応として特例承認制度はさらに改正され、抗ウイルス薬のレムデシビルが異例のスピードで承認されました。

 

<参照>

FDA Takes New Actions to Accelerate Development of Novel Prevention, Treatment Options for COVID-19(FDA)

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令 の一部を改正する政令の施行について(厚生労働省)

 

治療薬やワクチンはいつ完成?

新型コロナウイルスに対する治療薬やワクチンの完成時期はいつになると予想されているのでしょうか。

 

FDAによると、10品目が臨床試験を実施し、15品目が計画段階にあります。世界各地で臨床試験が実施される中で注目されているのが、英オックスフォード大学によるチームです。中国当局が新型コロナウイルスの完全なゲノム情報を公開したのが110日。その3ヶ月後には健康な人に対する臨床試験(フェーズI)の実施を開始しています。同大学ジェンナー研究所のエイドリアン・ヒル教授によると、2020年秋までに100万人分のワクチンを用意する予定だといいます。量産化の実現のために、イギリスやEU諸国、インドや中国の企業と契約が締結されました。

<参照>

UK scientists to make a million potential COVID-19 vaccines before proof(Reuters)

Oxford COVID-19 vaccine begins human trial stage(University of Oxford)

 

また新型コロナウイルス用のワクチン開発のために複数の研究機関に資金援助を実施しているビル&メリンダ・ゲイツ財団によると、ワクチンが開発されるまでに要する期間は1218ヶ月だと予想しています。

引用:What you need to know about the COVID-19 vaccine(ビル・ゲイツ氏のブログ)

 

新型コロナウイルスに対するワクチンが開発されても、人々に行き渡るのには時間がかかります。そのため、臨床実験開始と同時に有望なワクチンの製造を始めることが求められます。ビル&メリンダ・ゲイツ財団はワクチンの大量生産する準備が整っているといいます。計画通りに進めば、ワクチンの承認とともにすぐに販売体制に移ることも可能です。

 

<参照>

A COVID-19 vaccine might be ready within 18 months. But what happens then?(Bill & Melinda Gates Foundation)

What you need to know about the COVID-19 vaccine(Bill Gates)

Bill Gates explains how the United States can safely ease coronavirus restrictions(CNN)

 

ただし注意が必要なのは、新型コロナウイルスと同様に世界で感染症を流行させたMERSウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスといったコロナウイルスについては、現状でも直接標的としたワクチンや治療薬がないことです。これは新型コロナウイルスに対しても当てはまる可能性があります。

 

ビル・ゲイツ氏は、100%有効なワクチンや治療薬が完成するかは未定ですが、70%でも効果があれば感染の予防に役立つだろうと語っています。治療薬やワクチンの早期開発により、新型コロナウイルス感染症の抑制が期待されます。

執筆

LIFE IS LONG JOURNAL編集部

 

LIFE IS LONG JOURNAL編集部。 ”LIFE IS LONG JOURNAL”は「人生100年時代」を迎え、すべての人が自分らしく充実した人生を歩んでいくための「健康寿命」を伸ばすために役立つ情報を発信するメディアです。

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