今回は、アメリカのロバート・ハイゼンガ医師が2020年9月にSSRN(世界有数のプレプリントサーバーで初期段階の研究プラットフォーム)で報告した「Dramatic clinical improvement in nine consecutive acutely ill elderly COVID-19 patients treated with a nicotinamide mononucleotide cocktail: A retrospective case series」というCOVID-19の症状が迅速かつ劇的に改善した9例のレポートをご紹介します。

<参考>

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SSRN,14 Sep 2020

Dramatic Clinical Improvement in Nine Consecutive Acutely Ill Elderly COVID-19 Patients Treated with a Nicotinamide Mononucleotide Cocktail: A Case Series

この報告では、市販されているニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)の摂取が高齢のCOVID-19患者の症状改善に寄与したことや、NMNが在宅でも安全に治療できることなどから、NMN治療の今後の可能性を示唆しています。

 

Nicotinamide mononucleotide(ニコチンアミドモノヌクレオチド:NMN)

補酵素NAD+の中間代謝産物で、糖尿病、神経変性疾患、心疾患など、加齢に伴った疾患の予防への応用が期待されており、血中のNAD +レベルを上げることがわかっています。

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide: NAD+)

NAD+は、人体のすべての細胞に見られる補酵素で、還元酸化(レドックス)反応における役割でよく知られています。特に、抗ウイルスシステムや炎症抑制など、免疫機能においても主要な役割を果たしている「サーチュイン遺伝子」の基質としての役割を通じて、概日リズム、エネルギー代謝、DNA修復、細胞の生存に至るまで、何百もの重要なプロセスを制御していると言われています。
残念なことに、加齢とともに細胞内のNAD+レベルは低下し、NAD+が枯渇することもわかっています。そしてこの枯渇が、抗ウイルスシステムを低下させ、感染中にさらに枯渇し、COVID-19感染を悪化させる要因の1つと考えられています。

方法

・50歳以上の急性期COVID-19感染患者10名:鼻咽頭NAT(核酸増幅検査)陽性8名、1人は臨床所見に基づいてCOVID-19と診断1名、陰性にて除外1名
・市販のNMN(EGA®)を摂取( NMN83ccと水400ccを混ぜる/朝・夕の食前)
・治療は最低6日連続を推奨
・全ての症例は、臨床評価、体温、酸素飽和度(O2 sat、room air)レベルで観察
炎症性サイトカイン測定と胸部X線は、7/9名で実施

結果

9名の症例は平均65歳で基礎疾患(糖尿病、糖尿病予備軍、心臓病(CAD)、高血圧、肥満)を有し、全ての患者が発熱、咳、倦怠感を呈していました。嗅覚障害は6名、5名は発症時に下痢症状を訴えました(詳細は後述)。

4名はNMN治療開始後2〜3日で解熱、胸部X線の急速な改善、炎症マーカーであるCRP(C-reactive protein)の劇的な低下が得られ(症例1、4、7、10)、NMN使用と症状改善に強い時間的相関が認められました(症例2、3、5、8)。1名は治療後に発熱と症状が解消されたものの、早期のNMN中止により、発熱および肺浸潤が再発しましたが(症例6)、9例全員が完全に回復しました。

観察された副作用

7名の症例に副作用はみられませんでした。2名の症例がカフェインのような過敏症状を訴えましたが、NMNの反復使用(症例1)、3日間のNMN中止(症例2)によって低減しました。

それぞれの経過

症例1:白人女性、55歳

7日間の筋肉痛、胸部痛、息切れ、咳、高熱(38.9度)、酸素飽和度93-95%、※CXRは正常。8日目に体温が39.2度に上昇し、HCQ、AZ、Znを処方。11日目に症状が悪化(安静時呼吸困難、体温39.4度、酸素飽和度90%)したものの、PCR検査で検出されたウイルスは僅か。レミデシビルもトシリズマブも利用できず、12日目にNMN治療開始。開始後12時間後に症状が悪化(酸素飽和度84%)したものの、リンパ球は291から540まで増加。治療開始から36時間後(14日目)に症状が劇的に改善(倦怠感、息切れ、咳、胸部痛が2~3日で75%改善、2週間後に解熱)、炎症所見の回復(CRPとIL-6が80%低下、リンパ球250%増加)、酸素飽和度が96%まで回復、CXRがほぼ正常化。

症例2:男性、56歳

15日間連続の発熱、咳、胸部圧迫感、呼吸困難、下痢、頭痛で、HCQ、AZ、Znを処方、6日間のコース修了後、体温、胸部圧迫感、頭痛が改善したが、咳と不眠症が継続。3日後、発熱、頭痛、胸部圧迫感が再発し、NMN治療を開始。治療開始後24時間以内に解熱、2~3日後に咳、頭痛、胸痛が改善、3日で炎症所見の回復(CRPが2.6から検出不能まで低下、リンパ球が1100から1300に増加)。副作用として、手が震える感覚があったが、NMNを1~2日休んだ後に解消。

症例3:女性、72歳

発熱、倦怠感、喉の痛み、咳、頭痛、嗅覚障害、下痢を訴え、3日目にHCQ、AZ、Znを処方。酸素飽和度が96%から94%に低下し、症状が悪化。NMN治療開始後、14日間続いた発熱、咳、倦怠感、頭痛が2~3日で改善。

症例4:男性、79歳、ビジネスマン、レミデシビル禁忌

発症22日目に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、腎不全、糖尿病、心筋炎、肝不全、肺塞栓症の疑いで入院(ICU)し、高流量酸素療法、抗生物質療法、抗凝固薬投与を開始、24日目に回復期血漿を使用し、27日目にICUから一般病床へ移動。その後6日間で発熱と炎症マーカーが悪化し、トリシズマブの使用が検討された。基礎疾患などから副作用のリスクを考慮し、NMN治療を選択。治療開始8日後、症状が改善(解熱、5週間の寝たきり状態からの回復)、炎症所見の回復(CRPが-43%、IL-6が-67%、Dダイマーが-24%)、酸素飽和度が4日間で74%から90%に回復、CXRが10日でほぼ正常化。

症例5:女性、52歳、シェフ

10日間の持続的な発熱、息切れ、頭痛、嗅覚障害、味覚障害で来院、CXRで両側性肺炎を確認。すぐにNMN治療を開始し、48時間以内に解熱、症状(咳、息切れ、頭痛)が3日で90%改善、炎症所見の回復(6日でCRPが-49%、IL-6が-90%)、酸素飽和度が95%から97%に回復、10日間でCXRの混濁が減少。

症例6:ラテン系男性、78歳、重労働、高血圧、心臓病、糖尿病、喫煙歴あり

5日間の発熱、咳、疼痛で来院。基礎疾患を考慮し、NMN治療を選択。2日で解熱したが、咳、頭痛、吐き気、身体機能低下(歩行時杖が必要)が持続。酸素飽和度は3日で95~97%に回復、炎症所見は一部回復(IL-6が-49%、リンパ球8%増加)したが、8日目に起立性低血圧、11日目に発熱、持続性の吐き気、めまい、炎症マーカー増加がみられ、NMNを中止。その後、持続性の吐き気を除いて症状軽快。15日目も吐き気とめまいの訴えはあったが、身体機能が向上(歩行可能に)したものの、CXRにて新規の混濁があり。メトホルミン(糖尿病薬)を中止し、その1~2日後に吐き気が改善。21日目にフルタイムで復職。

症例7:女性、61歳

5日間の発熱、息切れ、咳、痙攣、吐き気、下痢の症状で来院。CXRは正常だが、胸部CTに混濁あり。在宅待機となり、その後症状が悪化。7日目(38.9度、酸素飽和度95%、CXRで混濁あり)にNMN治療開始。3日後に解熱、症状(咳、胸部圧迫感、息切れ、吐き気)が著しく改善、酸素飽和度95~98%、6日後に下痢が消失。NMN開始後3日でCRPとIL-6が増加したが、17日目には著しく減少。

症例8:男性、60歳、運転手

10日間の発熱、倦怠感、咳、胸部圧迫感で来院。CXRで両側性肺炎を確認したが、NAAテスト陰性。NMN治療を早期に開始し、48時間以内に解熱、2~3日で症状が75%改善、炎症所見の改善(CRPが-60%、IL-6が-41%、リンパ球36%増加)、酸素飽和度93~94%に回復、10日間でCXR概ね改善。

症例9:男性、62歳、ビジネスマン

症状出現後14日目で、40度の発熱、酸素飽和度92~93%、両側性肺炎にて入院したが、治療の必要性がないとの判断で退院。症状は継続し、NMN治療開始。開始後48時間以内に17日間継続した発熱が解消、2~3日で咳と胸痛が75%改善、酸素飽和度96%に回復。19日目(NMN摂取3日後)のCXRで浸潤の進行が確認。

9日間の加療後、CRPはベースラインから50%低下したが、IL-6は59から269に増加。酸素飽和度は98%に改善。33日目に完全に無症候性となり、CXRもほぼ正常化。

考察

NMNは、枯渇したNAD +レベルを高め、それによって抗ウイルスシステムを強化し、細胞の炎症および損傷を軽減する可能性があります。今回報告した9名の症例全てが、炎症マーカーが有意に減少し、NMN摂取と症状改善との間に強い時間的関係を示しました。

4例の症例で、HCQ、AZ、Znを処方しましたが、症状改善は1例のみでした。アジスロマイシン(免疫調節および抗ウイルス特性を持つ抗生物質)は、最初の3例に使用しましたが、効果的であったことを示唆する証拠はえられませんでした。症例1と10の急速な悪化は、HCQが好酸球性肺炎を引き起こした可能性が考えられます。

入院したCOVID-19患者は、治療の選択肢が限られています。レムデシビルは、平均入院期間(13〜9日)を短縮することが実証されていますが、生存の保証はされていません。

デキサメタゾンは酸素療法が必要な患者の致死率を低下させるのに効果的であるように見えますが、酸素療法を必要としない段階の患者への使用は有害である可能性があります。

トシリズマブはIL-6受容体阻害剤ですが、1回の投与が約3,000ドル(約31万)で、IL-6機能の全範囲を阻害するため、投与のタイミングが難しく、副作用のリスクも高いと考えます。

回復期血漿療法は症例4の一時的な改善と関連していましたが、その後の発熱、炎症マーカーの上昇、CXRおよび酸素飽和度の低下は、すべてNMN治療によって好転しました。

今回報告された全ての患者において,一般用医薬品で経口摂取の出来るNMNとNAD+阻害に対抗する3種類の物質を組み合わせることで、サーチュイン酵素作用を最適にし、サイトカインレベルの低下を観察することができました。

【NMNと組み合わせた3種類の物質】

➀ニコチンアミド(NAM)によるNAD+阻害に対抗するベタイン(=NAMフィードバックブロッカー)

②NMN吸収を強化する塩化ナトリウム(=吸収促進剤)

③Nrf2(酸化ストレスなどから細胞を保護する転写因子)の機能を促進させる亜鉛(Zn)(=Nef2作動薬)

現在ワクチンの開発が急速に進んでいますが、最も脆弱な患者(基礎疾患のある高齢者)は、ワクチン接種に対する免疫反応が弱いことが多く、ワクチンの摂取量は少ないことが予測されます。よって、NMNと、ニコチンアミド(NAM)フィードバックループブロッカー、吸収促進剤、およびNrf2作動薬を使用した治療が、そのような脆弱な患者に対する有望な治療アプローチの1つになると考えます。

まとめ

今回報告した症例の高齢患者は、NAD +中間代謝産物投与(NMN)と症状改善との間に説得力のある関係を示しました。注目すべきことは、これらの症例は高齢のCOVID-19患者、特に複数の基礎疾患、低酸素血症、ARDS、サイトカインストームが悪化している患者に通常予測される結果とは異なり、迅速かつ顕著に症状の改善がみられたことです。

この治療の成功が強い根拠を持つことに加え、デキサメタゾンが禁忌かつレムデシビルの効果が十分でない患者に対して安全に経口摂取ができることからも、ワクチンの有無に関わらず、COVID-19高齢患者に対するNMNの研究が進むことが期待されます。

【用語の解説】

・CXR…胸部単純X線

・HCQ…ヒドロキシクロロキン。長い間、抗マラリヤ薬として使用されてきた抗炎症剤。

・AZ…アジスロマイシン。マクロライド系抗生物質で、主に呼吸器系、腸管系、泌尿生殖器系の細菌感染症の治療に使用される。

・Zn…亜鉛。生命の維持や細胞の正常な分化に深く関わっている。

・レムデシビル…もともとはエボラ出血熱の治療のために開発を進めていた薬で、点滴静脈注射により最長10日間投与する。

・トシリズマブ…炎症をおこす要因となるIL-6の働きを抑え、過剰な炎症反応などを抑える作用がある点滴静脈注射。

・Dダイマー…血栓形成のマーカーとして知られており、Dダイマー上昇とCOVID-19の重要度は相関があると言われている。

NAAテスト(NATテスト)…COVID-19を診断する核酸増幅テスト(Nucleic acid Amplification Test)。検出したい特定のウイルスの遺伝子を高感度に検出できる検査方法。

執筆

大西安季

 

理学療法士。筑波大学大学院人間総合科学研究群在籍。理学療法士として、就労世代から高齢者まで、幅広い世代の健康づくり・健康教育に関わっています。介護予防、疾病予防、健康寿命延伸といった取組みに特に興味があり、世の中にある沢山の情報を多くの人と共有し、より良い生活の一助となることを目指して活動中です。

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