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2021年3月22日現在、新型コロナに対する国策としての緊急事態宣言全面解除を受けて、何を思うだろうか。

同時に、フランス西部ブルターニュ地域圏で、PCR検査をすり抜けてしまう新型コロナの新たな変異株が確認されたことをどう捉えるだろうか。日本は、私たちは、この1年余りの経験を生かす判断ができているだろうか。今もなお毎日の数字に一喜一憂していないだろうか。

日本が、私たちが、忘れてしまっていること、知らなかったこと、誤解していること、これまでの経緯と、その解釈が満遍なく、事細かに、時系列で書かれている著書「新型コロナの科学」は、いまだおさまらない新型コロナと私たちが共生していくためにすべきことの本質に気づかせてくれる。

全貌が明らかになっていない新型コロナとの共生には、この1年余りの短い歴史から学び、同じ過ち、同じ苦しみを繰り返してはいけないという強いメッセージを感じとることができる。

新型コロナの誕生から今日に至るまで、日本が、世界が、どのようなタイミングで、どのような対策を講じてきたのか。そして今、世界が、日本が、そして私たち自身の判断は正しいのか。

あの時の、あの判断が、あの時の、あの決断のタイミングが、このパンデミックを引き起こしたことを私たちは忘れてはいけない。私たちは今こそ、あの時を振り返り、今に向き合うべきではないだろうか。私たちが忘れかけている重要なことを思い出し、今こそ世界を俯瞰してみなければならない。新型コロナの本質を理解した上で、根拠を持って正しく批判し、共生の未来を見据えている黒木登志夫氏の書くこの本は、今まさに読むべき1冊かもしれない。

新型コロナのずる賢さが、感染防止を難しくさせている

無症状感染者からの感染が多いことは、既に周知の事実であり、80%は軽症者だという。今も、街のどこに感染者がいるか分からず、自分が感染性しているかもわからない。SARSは症状が出てから、インフルエンザは潜伏期の終わりから感染がはじまることからも、新型コロナのずる賢さがよくわかる。

そして感染した人は悪くないということを忘れてはいけない。大阪大学の三浦麻子氏の調査によると、感染したのは自業自得と考える人が日本では欧米と比べて非常に多かったらしい。困難に直面したときに人の本性が見えると言うが、これには日本人としてショックを受けざるを得ない。

さらに新型コロナは後遺症もあるから、しつこく嫌な病気である。アメリカの調査では、感染者の35%は2-3週間後も何らかの症状を訴えており、50歳以上では47%が普段の健康状態に戻っていないらしい。18-34歳でも、19%が後遺症に苦しんでいるとのこと。ドイツの報告では、78%の患者に何らかの心臓の異常が報告されているから尚恐ろしい。

2019年12月1日、すべては武漢から始まった

東京の人口の8割ほどである武漢。その巨大都市の片隅で1人の患者が出てからわずか10カ月で世界中に広がり、400万人が感染し、110万人を超す人が死亡した(2020年10月19日時点)。この本では最初の2ヵ月を時系列にそって詳細に記載してくれている。
2020年1月のWHOと中国のやりとりでは、中国側がデータを出し渋り、ヒト・ヒト感染を認めたがらない様子、そして武漢封鎖の間、武漢で何が起こっていたのか。1年余りが過ぎた今、改めてあの時を振り返ると、今すべきことが見えてくるように思える。

第1波は、武漢帰国者、ダイヤモンド・プリンセス号、そして屋形船でのクラスターで思い起こされる武漢型ウイルス。ここからクラスター追跡が始まり、クラスター分析の中から「三密」という概念が生まれ、人々が行動を変える目安が作られた。これは、日本における新型コロナの数少ない成功例といっていいそうだ。
そしてヨーロッパ旅行が持ち込んだヨーロッパ型ウイルス。彼らが日本を出発したのが2月中旬から3月の初めくらいで、その頃ヨーロッパはすでにパンデミックに入ってきたときであるというから驚く。その頃に海外渡航自粛要請を出していればヨーロッパ型ウイルスの侵入は防げただろう、とのこと。

ターニングポイントが2020年3月であったものの、動きが遅れたのにはいくつか理由があったらしい。

WHOのパンデミック宣言が2020年3月11日まで遅れたこと、習近平主席の国賓来日が予定されていたこと、そして最大の要因はオリンピック開催らしい。
民間臨調によると、官邸は、2020年3月初めにヨーロッパ旅行を止める必要性を感じていたものの、「一斉休校要請に対する世論の反発と批判の大きさに安倍首相はかなり参っていた」ため、新たな提案ができなかったというのである。抜本的対策をとらない政府に対して、専門家会議が2020年3月17日に要望書を出している。そしてオリンピック開催延期が決まると、政府は遅すぎる規制に動き出している。
この本に書かれている他国の対策や決断のタイミングと比較するとなお、日本の決断の遅れや、するべき対策、費用を使う場所など、多くの疑問を持たずにはいられない。また判断の遅れを生み出したオリンピックの行く末は、しかと見届けなければならないことの1つである。

そして平穏だった2020年5月中旬から2020年6月を経て、2020年7月に訪れた第2波、ゲノム変異。さらに「ファクターX」として多くのメディアで取り上げられた日本の特徴と不思議についても書かれている。なかでも、ネアンデルタール人の遺伝子が関連している可能性があるというのは面白い。他にも紹介したい内容が多く書かれているが、詳細は実際に本を読んでいただくことをお勧めしたい。

■書籍リンク

新型コロナの科学

 

「泥縄だったけれど結果オーライだった」日本の対応の問題はどこにあったのか

PCR検査に反対し、中途半端な行動規制、それでも感染者数、死亡者数が最小限に留まったと言われている「日本モデル」は何がよかったのか、どこに問題があったのかを、冷静に、厳しく検証している第7章は見所であり、このパンデミックに直面した日本人として知っておくべき内容で溢れている。

章の最後に挙げられている黒木氏の独断に基づいた日本の対応ベスト10、ワースト10によると、大きな問題はPCR検査である。また厚労省の政治工作には憤りを感じずにはいられない。一方で、要請レベルにも関わらず感染対策や行動自粛に努めた国民、三密対策、医療従事者、保健所職員、介護施設の対応など、誇るべき点も挙げられている。
国や政策を動かすことはできないものの、個人レベルでできる有効な対策は、今後も積極的に続けていきたいと改めて感じることができた。

われわれも、コロナと共に生き続けるほかはない

どうやら、ここまで来てしまうとコロナは簡単に収まらず、収まったと思っても、どこかに隠れているウイルスが、いつ顔を出してもおかしくないらしい。しかも、今世紀も来世紀も新型コロナは生き続けると。これを示しているカミュの『ペスト』の一文が最終章で紹介されている。

「人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼びさまし、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろう」

1947年に書かれたこの一文からは、ウイルスとの戦いこそが人類の宿命なのだと思い知らされるとともに、この歴史的パンデミックを正しく理解し、向き合いっていくことが、いま現代に生きる私たちの運命であり、使命であると考えざるを得ない。

そして新型コロナとの共生には、病院、介護施設、保健所の体制、PCR検査の充足といった医療システムの確立が欠かせず、日本版のCDC(政府から独立した感染症の専門家集団)が必要であるとのこと。官邸スタッフが言った、日本のコロナ対策は「泥縄」であった原因は、司令塔となるべきCDCがなかったことが大きいらしい。一国民として1日も早いCDCの設立を願うばかりである。

また社会システムについては、こう問いかけている。
「われわれは、この機会によく考えるべきである。新型コロナが収束したとき、何を元通りにしたいのか。元のようになってほしくないのは何か。変えるべきことは何か。」
ここで、無意識に新型コロナ前に戻ることを願っていた自分に気付き、少しハッとする。
黒木氏は、官僚制度、デジタル化、働き方改革、教育、グローバル化、環境問題などについて述べており、非常に興味深く読むことができる。

それから新型コロナと経済の関係が、とかく、トレードオフのように言われていることについて。2020年秋にフィナンシャルタイムズやオクスフォード大学が出した、新型コロナによる死亡者数とGDPの相関図からわかることは、「コロナをコントロールできない国は、経済の痛みも大きい」ということ。経済とコロナ対策の間には単純なトレードオフの関係は存在せず、コロナをコントロールできる国は経済のダメージも少ないことがわかっている。日本がコロナをコントロールできる国であってほしいと切に願う。

新型コロナのパンデミックの渦中にいる今、改めてこれまでの軌跡を振り返ることが、新型コロナとの共生の未来を創るのだと、そう信じることのできるこの本は、今、手に取ることをお勧めしたい1冊である。

執筆

大西安季

 

理学療法士。筑波大学大学院人間総合科学研究群在籍。理学療法士として、就労世代から高齢者まで、幅広い世代の健康づくり・健康教育に関わっています。介護予防、疾病予防、健康寿命延伸といった取組みに特に興味があり、世の中にある沢山の情報を多くの人と共有し、より良い生活の一助となることを目指して活動中です。

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