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「アンチエイジング」という言葉の広まりとともに、加齢はマイナスのものだというイメージが強まった。しかし、誰もが避けて通れない加齢は、本当に『アンチ』と名指して、抗うべきものなのだろうか?

加齢と向き合うことは、つまり人生と向き合うことだ。今の自分としっかり向き合って、そしてこれからを考える。そのプロセスを「よりよく自分らしい人生を実現するため」だと明るい顔で語るのは、美容家の吉川千明さん。女性の心身の変化を通じて、加齢とずっと向き合ってきた彼女が今伝えたいエイジングのあり方には、人生100年時代を健康に生きるためのヒントが詰まっている。

オンライン取材で明るい声を届けてくれた美容家の吉川千明さん

「戦略的に年を重ねること」が私にとってのプロダクティブ・エイジング

 

社会における老年期のあり方を刷新し、ピューリッツァー賞を受賞した“老年学の父“ロバート・バトラー博士の概念に、『プロダクティブ・エイジング』がある。「生まれてから最後の日まで、歳を重ねることに前向きで、自分を取り巻く様々なことに可能な限り繋がりながら自分らしい人生を全うしていくこと」という考えは、すでに加齢が忌避されていた1970年代のアメリカに驚きを持って受け入れられた。

 

自分の年齢を聞かれることが全く苦ではないという吉川さん。昨年還暦を迎えた彼女の考える加齢のあり方も、バトラー博士のプロダクティブ・エイジングに近い。「私も眉間のシワを見て、やだなぁって思うことありますよ(笑) でも年齢を重ねていくうちに、身体は弱くなり、できることが少なくなる。これは避けられないことです。その一方でやりたいことはまだまだたくさんあって、まだまだ自分の人生を作り上げていきたい。そのためにどういう戦略、プランを立てて人生を実現させていくかが大事だと思っています」

 

その戦略の実現にあたって、核となるのが健康だ。むしろ、健康でいることこそが前向きに歳を重ねる戦略と言えるかもしれない。更年期の女性の身体とメンタルの変化に長らく向き合ってきた吉川さんは、「健康は一番のファイナンシャルプラン」だと考えている。

 

「年齢を重ねる上で、病気や疾患が出やすくなってきます。だから症状が出る前から時間やお金を健康に投資することが大事。健康の『健』の字を使う健診ですね。もし不調が出てきたら、検査の『検』の字の検診でしっかりと把握して、対策を立てる。健康だからこそできることもありますから、そのための自己管理は大切です。日常のルーティーン、毎日の『ねばならない』で土台を作っておきたいですね。

 

大事なのは、食べる・寝る・運動すること

 

新型コロナウイルスにより、人々の暮らし方も変化を強いられる現在、吉川さんは改めて、毎日の暮らしが生きる土台となることを感じている。『ねばならない』こととして食事、睡眠、運動の大切さを語る吉川さんだが、その口ぶりはむしろこれらを楽しんでいるように弾む。

 

「外に出られない毎日ですから、自分を飽きさせないようにタラノメや竹の子といった季節のものを取り入れて毎日料理しています。生野菜は身体を冷やすので、火を通した野菜を摂るように意識して。3食作るから、学校給食の献立のようにやっていますよ(笑)」

 

運動も「小学校の時間割みたいに自分に課して」やっている。「加齢とともに、骨は弱くなり筋肉も痩せてくるので、特に今この状況では大切です」

 

この取材も、1時間半の散歩から帰宅した後に行われた。足裏に石の凹凸を感じながら河原を歩いてきたそう。自粛要請につき最近は行えていないが、週に1回、パーソナルトレーナーの指導を受けての加圧トレーニングはしばらく続けている。

 

「何年か前にホノルルマラソンの10kmラン&ウォークに出ることになって、そのために始めたトレーニングでしたが、今も続けています。トレーニングは自分への投資です。コロナのこともあって、ネットサービスのサブスクリプションは軒並み解約しましたが、運動はやめません(笑)」

 

吉川さんはどんな時でも7時間は寝るように努めているという。睡眠の大切さは美容家としても強く実感するところだ。「日中に太陽光線を浴びるとセロトニンが生成されて、睡眠を助けるメラトニンを生むというサイクル。身体を冷やさないように気をつけて、運動をしていればバッチリ眠れるはずです」

 

コロナ禍にあって、吉川さんのところには、睡眠に関する問い合わせが引きも切らないという。「みんな不安な気持ちを抱えているんだと思います。でも、心配しすぎは良くないです。免疫が落ちちゃいますから」

 

いま増している免疫の重要性

 

ウイルスの感染が毎日のニュースとなり、免疫への関心が高まる一方だ。免疫力を上げることと加齢に伴う健康のあり方は、強く結びついていると吉川さんはこれまでも語ってきた。

 

「身体を冷やさないことは、免疫力を保つ上でとても大事です。寝る前にお風呂に入る、冷たいものを食べすぎない……いま体温が35℃台の人が増えていますが、本来人間の体温はもっと高いんです。それでいろんな菌が入ってきても重症化せず排除できる。低体温は日常的な免疫、バリアが張れていない状態です」

 

同時に、免疫はメンタルのあり方とも強く結びついている。

 

「免疫を上げるのに一番大切なことは“悩まないこと”。延々と続く心配事や終わりのないストレスは、心身をともに蝕んで免疫力を落とします。免疫力と自律神経は連動しているので、ちゃんとお日様の光を浴びて日中一生懸命仕事して、ああ今日はよく働いた!ってなればよく眠れます」

 

 

では、免疫を上げるにはどんなメンタルでいればいいのだろう。吉川さんから返ってきた言葉は、そのまま『プロダクティブ・エイジング』のあり方と結びつくものだった。

 

「心配するのをやめた方がいい。『なるようになる』です。心配して身体を壊したら負けですよ。いつも楽しいことを考えて、ポジティブな言葉を使うようにして。心配だって思った途端に脳がそう思い込んじゃいますから」

 

歳を重ねることに前向きに、目の前の事象に対してもポジティブでいること。ある種の達観は、経験を重ねた年長者だからこそたどり着ける心境かもしれない。

 

「加齢とともに身体には弱いところも出てきて、できることも少なくなってどんどんネガティブになりがちですが、いかに生き切るか、ですよ。歳を重ねると出てくる味があると思うんです。お洋服で言えば、若さはまっさらな生地の状態。歳をとるというのは、そこにシワや折り目がついていくこと。そうやって味が出て、服として完成されていく」

 

前向きに歳を重ねるには、視野を広くしておくこともポイントになりそうだ。「興味が無くなることは老化のサイン」と言う吉川さんは、とにかく興味のあることにチャレンジし続けてきた。これまでたくさんの資格や免状を取得してきたが、それらは資格のために勉強したのではなく、興味が湧いたものに取り組んできただけだと笑う。

 

「資格マニアなんてことは全くないんですよ。最近取ったオイルソムリエの資格も、知り合いが『すごく勉強になった』と言っているのを聞いて興味を持って。世界が広がりそうだと思って始めたんです。歳をとる上で一番気を付けたいのは、頭が硬くなることと、人に対して了見が狭くなること。人って自分が知らないことに偏見を持ったり否定的になったりしますが、これが一番曲者です。コロナが終わったらまたいろんなところへ行って、いろんなことへの理解を深めたいですね。音楽や映画は家でも鑑賞できる時代ですから、時間もある今のうちにもどんどん吸収していきたい」

 

すべて書き変えた目標

 

毎年1月、吉川さんはその年になにをやるか目標をボードに書き記している。しかしつい先日、それを全て消して新しくしたという。新型コロナウイルスの影響を受けて、やるべきことが変わったと感じたからだ。

 

これまで講演やイベントで美容や健康を伝えてきた吉川さんにとって、今は従来の仕事が無い状態だ。それでもやり方にとらわれず、伝えることを続けていく。事務所からでも発信はできると気持ちを新たにしている。

 

「アンダーコロナの状況で私ができることは、美容や植物といった切り口で、確かで安全な、その人の生き方が強く美しくなる情報を伝えることです。私は力仕事はできませんが、女性の活躍を応援することはできる。女性の健康に関してはボランティアでも情報を発信していきます」

 

講演やイベントで伝えてきた女性の健康と加齢を、引き続き発信していく

 

その使命を全うしても、まだまだやりたいことはたくさんある。免疫力を上げるものとして温泉の良さを広げること、自分で果物や野菜を採って暮らす第一次産業に近いライフスタイルの提唱、それに世界中を旅するという夢も持っている。

 

「ボードのアフターコロナの欄には『英語を勉強する』って書いて貼っています。ちなみに『スペイン語を勉強する』もあります。英語もできないのにね」

 

そういってからからと笑ってみせる吉川さん。これからの生き方にとことん前向きなその姿勢に、「プロダクティブ・エイジング」の実例があった。

 

吉川千明(よしかわちあき) 美容家

「目指すのは自然体でエレガント」「科学的にナチュラルに」をモットーに、ジュリークショップ青山、ビオパスカルなど数々のスパやショプの運営に携わる。

1990年代よりコスメのみならず、食、女性医療、漢方、植物療法、ファッション、インテリア、旅とナチュラルでヘルシーな女性のライフステイルを提案。オーガニックコスメと植物美容を日本に広げたナチュラルビューティの第一人者。著書に「美しくなれる自然療法」(主婦の友社)「オトナのための女性ホルモンの話」(宝島社)「これからの美しさの磨き方」(KADOKAWA)などがある。


 

 J-WAVE NOMON YOUR WELLNESS

「ココロとカラダがよろこぶ日曜日。」がテーマのJ-WAVE MAKE MY DAY』にて毎週日曜日 AM7:05-7:15にお届けしているヘルスケアプログラム。毎月ひとつのテーマに沿ったヘルスケア情報を、専門家のコメントでご紹介。20205月は、美容家の吉川千明さんを迎えてお届けしています。

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執筆

onyourmark

 

WEBメディア「onyourmark」と、講談社より発売されるその雑誌版『mark』とは、スポーツやワークアウトを始めたい、続けたい⼈の“やる気を刺激するスポーツライフスタイルマガジンです。 URL:https://mag.onyourmark.jp/

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