アメリカ、ヨーロッパ、アジアの情報はわりと多くみられるのですが、中東(*ここでいう中東とは、中東のイスラーム圏)に関しての情報はまだあまり知られてないことが多々あり、今回は中東におけるラマダーン月の断食と健康に関して学生時代、中東からの学生たちとの交流をきっかけに、15年以上中東と日本を橋渡しする仕事等に携わり、現在も現地と日本を行き来する筆者がご紹介したいと思います。
ムスリム(イスラーム教徒は)ラマダーン(イスラーム暦の9月の名称)中の夜明けから日没までの一か月間、断食(サウムとよばれる)を行います。

ラマダーンとは

ラマダーンと聞くと、断食のみのイメージを持つ方もいるかもしれませんが、ラマダーン月はクルアーン(啓典)が啓示されたとされる神聖な月であり、断食のほか、礼拝、啓典の読誦、喜捨などの善行をいつもより多く行います。日没までは飲食のほか、喫煙や夫婦間の性行為、悪い言葉や態度なども絶ちます。
場所や年(季節)にもよりますが、たいてい中東ではラマダーン中、一日に約12時間から16時間程度断食をすることとなります。これは偶然にも、アンチエイジングやダイエットのために最近はやりのプチ断食、IF断食と同程度の時間の長さです。

 

イスラーム信仰におけるラマダーン

ラマダーン月の断食はイスラームの信仰の柱の一つであり、健康である成人(イスラームでの成人とは、身体的に成人、または15歳以上という意味)にとっては義務となります。持病があり断食ができない人は代わりに貧しい人に食事を寄付します。

また、ラマダーン中に一時的な病になった人や、月経があった女性、旅行者などで断食ができなかった人等は、ラマダーンが終わった後、埋め合わせの断食(カダーと呼ばれる)を行います。

イスラームでは、ラマダーン月以外にも、義務ではありませんが推奨される断食があり、ラマダーン月の次の月のうちの6日間や、イスラーム暦の12月の9日間、巡礼の日々の3日間、また、毎月白い日々と呼ばれる満月を挟む13、14、15日(イスラーム暦)、月曜日と木曜日、または一日おきの断食等が任意の断食です。
イスラームの最後の預言者であるムハンマドﷺは、“人間にとって、胃ほど満たすのが悪いいれもの(臓器)はなく、背中をまっすぐさせるだけの少量の食べ物で十分であり、またそれができないのであれば、胃の三分の一を食べ物、三分の一を水分、そして三分の一は空気(息)で満たします。”と言っています。健康長寿のため、「腹八分目で医者いらず、腹六分目で老いを忘れ…」等といわれるのと似ていますね。

ラマダーン月の断食には、目には見えない神をいつも意識し崇拝行為を行う訓練、また、貧困で毎日の食事もままならない者がいることを常に思う、などの精神的な理由もあります。

ラマダーン中の食生活

中東のイスラーム圏といっても、国や、場所、個人によってさまざまな食生活の違いはありますが、日没後、まずなつめやしと水で断食を解き、ヨーグルトやスープ等を少し口にした後、日没の礼拝をし、その後イフタール(断食後の食事)と呼ばれる食事を、家族や友人などと囲むことが多いです。いつもの食事に、麦のスープや、サンブーサ(サモサ)と呼ばれる揚げ物、VIMTOというジュース、カターイフと呼ばれるパンケーキのようなスイーツ等々がプラスされ食卓に並ぶことがあります。イスラーム暦では、月の暦を採用しているため、毎年ラマダーン月も替わるのですが、ラマダーンが冬以外のときであれば、水分を多く含むスイカがよく出されます。

中東のスイカは、その暑い気候から、日本の1.5倍以上もある大きくて甘いものが地域によっては春先(3月ごろから)出回り始めます。
ラマダーン中は普段よりもより豪勢な食事をふるまわれることも多く、そのために、長時間キッチンに立ったり、またはラマダーン中崇拝行為に集中できるようにと、ラマダーン月の数週間前から食材を買い込み、下ごしらえをして冷凍したりなどして用意する主婦もいます。
特にラマダーン初日は、昼以降、頭痛やだるさを覚える人がいます。

これは、日ごろカフェインを多くとる人、また水を十分にとっていない人等に特に多くみられる症状と言えますが3日もすると、このような症状はかなり緩和されていきます。ラマダーンを機に、それまでの悪い習慣をやめ、運動や読書など良い習慣を始める人もいます。
夜の礼拝や睡眠を挟み、夜明け前には、スフールと呼ばれる軽い食事をとること、そしてここでもナツメヤシをとることが望ましいとされています。ナツメヤシは、灼熱の乾燥した砂漠地帯でもよく育ち、栄養分に富み、繊維が豊富でとても甘くかんじられますが、GI値は意外と低く、またビタミンやミネラルも豊富で、断食後に数個食べるだけで空腹が満たされ、長時間空っぽであった胃がこれからとる食事で負担がかからないようにする準備、また夜明け前にとることで、一日の断食にそなえるにも最適といえます。また、イスラームでは、ラマダーン中以外にも、朝食にナツメヤシを数個とることが推奨されています。

日中飲食を一切しないというと体にとっては過酷な断食のように感じますが、日没後のイフタールから日の出前までのスフールまで、十分な栄養と水分の補給が行いますので、体に負担がかかりすぎて筋肉の分解などを起こすようなこともなく、緩やかに30日間断食を行い続けることができるのです。

ラマダーンの効果・影響

模範である預言者ムハンマドの断食のやり方通りであれば、ラマダーン中、日中は普段通りの生活に断食に必要に応じて昼の短い仮眠、夜は適量の食事と長時間の礼拝、睡眠時間の変化等により、精神的にも肉体的にも訓練され強くなり、胃は休まり、また自ずと小さくなり、デトックスもしているのでこの場合は健康的に痩せることが多いのですが、中東では、ラマダーン中、仕事等の時間がフレックスもしくは短縮、休みになることも見られ、昼夜を逆転しただけの生活、つまり、日の出から昼頃まで睡眠をとり、数時間断食をするのみで夜明けまで起きているという、夜が中心の生活になるということも多々見られます。また、昼間断食している反動からか、夜に普段よりも多くカロリーをとる人もおり、また食べすぎや夜型中心の生活への移行などにより活動も少なくなることから、太ってしまう人が出ることもよく見受けられます。

ラマダーン中に太ってしまったという人は、このようなことが原因と考えられます。ここ数年、特に湾岸地域においては、スポーツジムが立ち並び、ダイエットやボディメイキングが大いにはやっていることもあり、ラマダーン中の日中であっても、ジムで運動する人や外でウォーキングをする人の姿を以前よりも多く見かけるようになりました。断食中の運動はさらに効果があることも知られています。

執筆

松浦 紀子

 

有名私大卒。学生時代に留学。中東からの学生たちとの交流をきっかけに、15年以上中東と日本を橋渡しする仕事に携わってきました。イスラームにも精通。得意の語学を生かし現在も現地と日本を行き来し、メディアで報道される中東だけではなく、住み、働き、交流し得た生の中東をご紹介できたらと思います。

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