2020年4月上旬、SARS-CoV-2に感染した妊婦が北里大学病院で出産をしたとのニュースがありました。
感染した妊婦の出産は国内初めてであり、生まれた赤ちゃんの陰性が確認されています。
このケースでは妊婦から赤ちゃんへのSARS-CoV-2の母子感染は認められなかったといます。
ただ、海外の報告では母子感染が否定できないケースもあり、引き続き感染妊婦の出産に関して情報を追う必要があるでしょう。
今回の記事では、感染妊婦の国内出産例をもとに、妊婦がSARS-CoV-2の感染や疑いがある場合にどうすればいいのかを含め現時点でわかっていることを解説していきます。
Index
国内初、SARS-CoV-2感染妊婦の出産
SARS-CoV-2感染妊婦の国内初の出産について、詳しく見てみます。
相模原市にある北里病院は、SARS-CoV-2に感染して軽度〜中等度の肺炎を起こした妊婦が4月上旬に無事出産したことを4月27日に発表しました。
SARS-CoV-2の感染が理由ではないものの、医師の判断により妊娠38週での帝王切開分娩となっています。
出産直後より赤ちゃんは母親とは対面せずに別室に移され、その後の検査で陰性が確認されました。
母親も出産が終わってからは肺炎の治療を続け、複数回の検査により陰性となっています。
今回の出産に関わった医療従事者への感染もありませんでした。
SARS-CoV-2に感染した妊婦から生まれた赤ちゃんには感染が見られなかったことで、母子感染なく出産に至ることがわかったといえます。
海外はどうなっている?SARS-CoV-2陽性妊婦の出産
国内では北里病院での出産が初となっていますが、海外ではどうなっているのでしょうか。
海外の報告は、主に中国の武漢市や武漢市以外での報告が現時点では中心となっており、ある一定の頻度において母子感染が起きている可能性も否定できないとの報告があります。
3月上旬までの論文報告では母子感染が起きる証拠はないというものが多かったものの、3月下旬になると母子感染が起きないとは言い切れないケースも出てきたのです。
SARS-CoV-2陽性の妊婦から生まれた赤ちゃんに、無症状から発熱・肺炎といった早発型COVID-19感染症の様子が見られたとう報告がありました。
海外におけるSARS-CoV-2陽性の妊婦の出産では、もともと一定のケースにおいて早産になると言われていましたが、ほかにも母子感染が起こる可能性も否定できない状況であることがわかります。
SARS-CoV-2陽性妊婦の出産、国内学会の反応は?
日本では、これまでのところ妊婦がSARS-CoV-2に感染して症状が重くなる、母子感染するなどのはっきりとしたデータはないようです。
一方で国内の関連学会では、感染した妊婦の分娩管理に対して、いくつか考慮すべき問題があると指摘があります。
たとえば、感染妊婦の分娩管理として、施設によっては必要なときは帝王切開を考慮することも止むを得ないとしています。
これは出産時間を短くして医療従事者へ感染する機会を減らすため対策です。
さらに、分娩時には個室管理として分娩時に使用する胎児心拍モニターも感染妊婦専用にするなど、感染予防対策を十分おこなうことが示されています。
また、里帰り分娩や父親が妊婦に付き添い分娩も推奨できないとしています。
これらのことから、SARS-CoV-2陽性妊婦の母子感染は現時点では確証は得られないものの、分娩に関しては感染拡大防止を最大限考慮した対応を医療機関に求めているといえます。
何が問題?SARS-CoV-2陽性妊婦や赤ちゃんへの影響とは
妊婦がSARS-CoV-2感染した場合、妊娠していない人と比べて感染してからの経過や重症の度合いは変わらないと言われてます。
ただし、SARS-CoV-2感染に関わらず妊婦が肺炎にかかると症状が重くなりやすいことには変わりません。
そのため、妊婦の感染予防対策はしっかりとおこなう必要があります。
最も気になるのが赤ちゃんにも感染するのかということです。
ここまで見てきたように母子感染が起こるかは、まだはっきりと分かっていないのが現状です。
ただし、これまで重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が流行した際に、ある一定の頻度で流早産や赤ちゃんの成長が遅くなるといった報告もあったということは念頭に入れておくべきでしょう。
生まれた赤ちゃんが感染した場合も症状が重くなるかも分かっていません。
国内初のケースのように感染した母親の出産の場合は、赤ちゃんへの感染を防ぐためにお互いが検査でSARS-CoV-2が陰性になるまで接触は避けることが必要となります。
母乳にSARS-CoV-2が含有されるという報告もありませんが、母乳をあげるときの接触・飛沫感染を避けるために、人工栄養を赤ちゃんにあげることも推奨されています。
妊婦が感染した場合は、妊娠していない人に比べてより重症になるとはいえず、母子感染も起こるとの確証は現時点ではないものの、妊婦の肺炎は重くなりやすいことやまだ免疫機能が十分確率していない赤ちゃんへの影響は十分に考慮すべきでしょう。
やはり感染は避けたい!妊婦が気をつける日頃の感染予防
SARS-CoV-2感染による妊婦の影響や母子感染も明確に分かっていませんが、やはり、妊婦が感染しないよう日頃からの感染予防対策が重要です。
妊娠していない人と同じく、以下のことを十分注意して行動する必要があります。
- 人混みなど、いわゆる「3密」は避ける
- こまめに石鹸を使った手洗いやアルコール消毒をおこなう
- 不要な外出を避ける
- 家族の中で感染疑いの人がいたら、接触を避けて別室で過ごす
妊婦は肺炎が重くなりやすいことや母子感染もあることも否定できないとを踏まえて、できるだけの感染予防対策をすることが大切です。
万が一妊婦の感染が疑われる場合は、かかりつけ医や国の帰国者・接触者相談センターに相談して対応します。
感染が確認された場合は、妊娠の経過に問題がなければ、妊婦健診の日程が遅れる可能性などもあることを考慮します。
さらに、感染症に有用な可能性がある抗HIV薬などは原則妊婦には使うことはできないということも、妊婦の感染予防対策が大事であることの裏付けになるでしょう。
まとめ
SARS-CoV-2感染妊婦の出産は、国内での症例も少ないものの、国内初の出産となった北里大学病院のケースでは母子感染は認められませんでした。
しかし、妊婦の感染や出産、赤ちゃんに影響があるかどうかの情報は限られており、今後も情報を追っていく必要があります。
過度な不安や心配は必要ありませんが、妊婦が今できることとして日頃の感染予防対策の徹底が重要だといえるでしょう。
参考資料
朝日新聞DIGITAL 「新型コロナに感染の妊婦が無事出産、国内初 北里大病院」
東京都福祉保健局「母子感染について〜妊娠中・これから妊娠を考えている方へ〜」
日本産婦人科感染症学会「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について 妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ(2020/04/17更新)」
日本新生児成育医学会 感染対策予防接種委員会「新型コロナウイルス感染症における新生児に関連する文献紹介 第1報」
厚生労働省「 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策〜妊婦の方へ〜」
厚生労働省 厚生労働省子ども家庭局母子保健課「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い出産に不安を抱える妊産婦の方々への配慮について」
公益社団法人日本産科婦人科学会 公益社団法人日本産婦人科医会 一般社団法人日本産婦人科感染症学会 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版)」
日本新生児成育医学会「新型コロナウイルス感染症に対する出生後早期の新生児への対応につて」
YAHOO!ニュース「妊娠中に新型コロナに感染するとどうなる?最新のエビデンスと注意すべきポイント」
東京新聞Web「<新型コロナ>妊婦さんのリスクは?母子感染の可能性「低い」大事なのは「手洗い」」
株式会社クリエイティヴ・リンク AFPBB News「新型コロナ、妊娠中の母子感染「まれだが起こり得る」中国研究」