老化の原因のひとつとして考えられているのが、細胞内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の減少です。細胞内にはNAD+を作る酵素があるため、この酵素の活性を高めることができればNAD+の産生量が多くなり、加齢に伴うさまざまな老化症状を抑制できるかもしれません。この記事では、NAD+を作る酵素に注目し、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)との関係や、ある飲み物に含まれている成分が酵素活性を高めることを示した研究についてご紹介します。
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NAD+とNMNについて
ビタミンB3から合成されるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、ミトコンドリアでエネルギー産生などに使われる、生きていく上で欠かせない栄養素です。加齢に伴いNAD+が各組織で減少することがヒトでも知られるようになり、NAD+の減少が老化の一因として注目されるようになりました。
近年では、NAD+の減少を補う方法として、NAD+の前駆体であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)をサプリメントで経口摂取することが有効である可能性が考えられています。経口摂取したNMNは消化管を通じて吸収され、血中や各組織のNAD+を増加させると考えられています。
NMNからNAD+を作る酵素がある
NMNはNAD+の前駆体であり、NMNからNAD+が合成されます。NMNはNAM(ニコチンアミド)から作られるのですが、そのときに必要となる酵素がNAMPT(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)です。NAMPTは、NAD+を生産する工場に例えられます。
NAD+の役割やNAMからの合成経路について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
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こうして作られたNMNは、エネルギー通貨とよばれるATPと合わさってNAD+へと合成されます。この合成反応を担うのが、NMNAT(ニコチンアミドモノヌクレオチドアシルトランスフェラーゼ)という酵素です。体内でNAD+を作る工程を工場に例えるなら、工場で働く作業員がNMNATです。
NMNATには、3つの種類があることが知られています。NMNAT1は主に細胞の核に、NMNAT2は細胞質に、NMNAT3はミトコンドリアに存在しており、それぞれの場所でNMNからNAD+を作っていると考えられます。ただ、それぞれの種類によってなぜ存在する場所が異なるのかについては詳しくわかっていません。
網膜の神経細胞に多いNMNAT2の作用を高める物質について
2024年、スウェーデンにあるカロリンスカ研究所のJames R Tribble氏らの研究によって、3種類あるNMNATのうち細胞質に存在するNMNAT2を活性化する作用を有する物質が発見されました。※1
Tribble氏らの研究チームは、ヒトやマウス、ラットのさまざまな目の網膜の遺伝子発現データを用いて解析することで、網膜の神経細胞に多く発現するNMNAT2の重要性に着目しました。※1
加齢とともに眼圧が高くなってしまい、網膜の神経がダメージを負ってしまう緑内障という病気があります。緑内障は、高齢者の視力低下の大きな要因として問題となっています。この研究では、緑内障モデルマウスの網膜の神経細胞でNMNAT2の発現が低下してしまうことと、NAD+が低下することを見出しました。※1
さらに、このNMNAT2の低下を補うため、NMNAT2を活性化させることができる成分を探したところ、緑茶に含まれるカテキンの一種であるEGCG(エピガロカテキンガレート)がNMNAT2の作用を高めることがわかりました。EGCGはNMNAT2のはたらきを高めることで、NMNからNAD+を合成することを促進し、細胞内のNAD+量を増加させることが明らかとなったのです。EGCGの化学的な構造を変えることで、NMNAT2を標的とし、神経変性を回復させる治療薬ができる可能性が示されています。※1
カテキンを含む緑茶はNMNとの飲み合わせが良い飲み物
加齢に伴うNAD+の低下には、大きく分けて以下の3つの原因が考えられます。
- NAD+を使う機会が増えてしまうこと
- NAD+が壊されやすくなってしまうこと
- NAD+を作る力が弱くなること
これらの3つがすべて起こるのが、いわゆる老化です。このうち、③の「NAD+を作る力が弱くなること」に対しては、Tribble氏らが発表した論文で明らかとなったEGCGというカテキンの一種が有効である可能性が示されました。
EGCGは緑茶によく含まれるカテキンであり、熱いお湯で淹れた場合によく抽出されます。緑茶やカテキンの健康増進効果は昔から知られていますが、カテキンがNAD+を増加させるということが、緑茶がもつ健康増進効果のメカニズムのひとつなのかもしれません。これは、熱い緑茶とNMNを一緒に飲むことで、NMNのNAD+減少を補う力を高められる可能性を示しています。
今後もNMNとどういった組み合わせがより効果的なのか、身近なところで役に立ちそうな最新のNAD+研究情報をお届けしていきます。