世界中で、多くの研究者が老化の原因の究明を試みています。2023年1月には、「Hallmarks of aging(Aging Hallmarks/老化の特徴)」の最新版の論文が発表されました。この論文中で紹介された12の老化の原因を、私たちNOMONでは「Aging Hallmarks」とよんでいます。Aging Hallmarksは形式上12に分類されていますが、お互いに完全に独立しているわけではなく、それぞれが密接に絡み合っていると考えられています。※1

また、この論文中で、多くの老化の原因に関係するとして注目されているが NAD+の低下です。今回は、このNAD+の低下とAging Hallmarksのひとつに取り上げられている細胞老化との意外な関係について詳しく紹介します。

Aging Hallmarks 2023の「細胞老化」とは

Aging Hallmarks

細胞には、がん細胞にならないように⾃分⾃⾝で増殖をストップさせる機能があります。細胞増殖が完全に止まった細胞のことを⽼化細胞とよびます。この⽼化細胞は、免疫系による細胞除去機能から逃れるような性質があり、加齢に伴い⾝体の各組織で蓄積していくことで⽼化が促進されます。⽼化細胞の蓄積は、組織の機能低下を引き起こしたり、周囲の正常組織に悪影響を及ぼしたりすることが知られています。

Aging Hallmarksにも、No.8「細胞⽼化(Cellular senescence)」という項目があります。※1

Aging Hallmarksについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:老化を止めることができるのか?Aging HallmarksとNMNの関連性

NAD+の役割

NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、生きる上で欠かせない生体内成分です。NAD+が使われる場面や主な役割は、以下のとおりです。

  • 生きるために必要なエネルギー通過であるATPをミトコンドリアで作る際に使われる
  • 壊れたDNAゲノム(遺伝子)を修復する
  • 肝臓でアルコールを分解する
  • 筋肉に溜まった疲労の原因である乳酸を分解する

このように非常に重要な役割を果たしているNAD+ですが、これまでの研究によると、加齢に伴い各組織のNAD+の量が減少することがわかってきました。2023年に発表されたAging Hallmarksの最新の論文にも取り上げられており、ゲノム安定性やオートファジーの機能低下など複数のAging Hallmarksとの関連が指摘されています。※1

NAD+の減少は、老化の原因として急速に注目されるようになりました。マウスなどの実験動物だけでなく、ヒトの組織でもNAD+の低下が報告されています。NAD+が低下する詳細なメカニズムについても研究が進んでいます。

細胞老化などの図

NAD+はどう作られるのか?

まずは、NAD+がどのように作られるのかを見ていきましょう。
NAD+の細胞内の合成経路の中で一番重要な酵素がNAMPTです。NAMPTは、別名ナイアシンアミドとよばれるNAM(ニコチンアミド)から、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を作る酵素です。

ナイアシンアミドについて詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:最近話題のナイアシンアミドとは? 肌のアンチエイジングにも用いられる今注目の成分

多くの細胞で、NAMPTはNAD+合成において律速酵素となっています。※2
律速酵素とは、合成経路において一番能力が制限されている部分です。律速酵素を工場に例えて考えてみましょう。

細胞老化の図

こちらの図の上半分をご覧ください。
NAD+生産工場において、律速酵素であるNAMPTはボトルネック工程にあたります。NAMPTの生産能力が、工場で作られるNAD+量全体の量を決定します。
この状況では、材料であるNAMをどれだけ多く工場に注ぎ込んでも、材料を注ぎ込んだ分だけNAD+の出荷量が増えるということはありません。なぜなら工場であるNAMPTの生産能力には限りがあり、一定以上のNAMを処理できないため、NMNの出荷量にも上限があるということです。NAD+生産能力を高めるには、ボトルネック工程にあたるNAMPTの生産能力を増やすか、あるいはボトルネック工程を迂回する必要があります。

NAMPTはNAMからNMNを合成します。合成されたNMNとエネルギー通貨であるATPを合わせることで、NAD+が作られています。このNAMPTのはたらきが年とともに低下することが、NAD+の減少の一因と考えられています。NAMPTのはたらきが不十分な場合は、NAMを取り込んでもNAD+が効率的に補えないことが想定されます。

続いて、先ほどの図の下半分をご覧ください。
細胞で作られたNAD+はミトコンドリアに運ばれ、大量のエネルギーを産生する際に使用されます。その他にも、核に存在するNAD+は損傷した遺伝子情報のゲノムDNAを修復するのに使用されます。細胞質に存在するNAD+は、お酒に含まれるアルコールを肝臓で分解する際にも消費されています。

このように、NAD+は私たちの生命活動の維持にはなくてはならない物質です。その一方で、体内にはNAD+を分解するCD38という分子が存在しています。先ほどの図でも示したように、NAD+やその前駆体であるNMNはこのCD38によって絶えず分解されていることが、最近の研究結果により判明しました。CD38については、後ほど詳しく解説します。

老化の原因となる細胞老化とは

私たちヒトの身体は、おおよそ37兆個の細胞から構成されているといわれています。※3
さまざまな種類の細胞があり、いくつかの細胞は元の細胞から新たな細胞へと分裂し増殖する増殖能を持っています。ほとんどの正常な細胞では、この増殖の回数があらかじめ決まっており、増殖の回数の限界を迎えた細胞は細胞増殖を停止します。1960年代の古くから明らかとなっていたこの現象は、ヘイフリック限界と名付けられています。

ヘイフリック限界に到達した細胞は増殖が不可逆的に停止し、炎症性サイトカインを分泌することから、身体に悪さをする老化細胞として注目されるようになりました。2011年にはマウスを用いた実験によって、この細胞老化という現象が細胞だけでなく、私たちの身体全体の老化の原因である可能性が明らかにされました。※4

イギリスの著名な科学誌『Nature』に発表されたこの論文が皮切りとなり、身体中からいかに老化細胞を取り除くのか、国内外のさまざまな研究機関で研究が行われるようになりました。

細胞老化は、細胞をがん化から守るという、もともと細胞に備わった防御手段です。細胞老化は遺伝子のゲノムDNAの損傷や慢性炎症、紫外線や放射線、抗がん剤などさまざまな刺激で引き起こされます。細胞老化を引き起こした老化細胞が私たちの免疫系から逃れ、組織に蓄積していき、加齢とともに増えてしまうことが問題となっています。この老化細胞は組織の機能を低下させるような炎症の原因となる物質を分泌し、健康な組織の機能を低下させます。近年、老化細胞を除去したり細胞老化を止めたりする方法がさまざまな疾患や老化を止める方法としても活用できる可能性が注目され、世界中で盛んに研究がされています。

細胞老化による活性化したCD38がNAD+の低下を引き起こす

CD38は、NAD+やNMNの分解を促進する分解酵素のひとつです。分解を促進する分解酵素のはたらきを抑えると、NAD+量とNMN量が増大することは明らかとなっています。

2020年には、細胞老化によりCD38のはたらきが活性化すること、そしてCD38の活性化がNAD+の減少を引き起こす可能性が明らかとなりました。2つのグループが、『Nature Metabolism』という学術誌に同時に論文を発表しています。これらの報告によると、老化によって細胞から分泌される炎症性サイトカインがCD38のはたらきを活性化することで、NAD+の分解を促進してしまう可能性があるとのことです。※5、6

裏を返せば、CD38のはたらきを抑えることでNAD+の分化を抑制できるはずです。したがって、CD38のブロックは加齢に伴うNAD+の低下を改善する上で有効な手段と考えられています。

CD38のブロックによるアンチエイジング効果も期待されている

老化の根本的な原因は細胞老化であり、老化細胞が組織に蓄積してしまうことです。細胞老化を抑えられる薬やサプリメントなどで、蓄積した老化細胞を効率的に除去し、NAD+低下の根本的な原因を断ち切る必要があります。しかしながら、現状では老化細胞を除去する手段はまだ開発中であり、今すぐの実現は難しいと考えられます。

ここまでに述べてきたように、CD38のはたらきを抑えることでNAD+の分解を抑え、加齢に伴うNAD+の低下を改善できる可能性が示唆されています。NAD+を壊す役割を担っているCD38というタンパク質をブロックすることで、まずはNAD+を分解から守ります。そこにNMNを投下することで、より多くのNAD+を作る環境を整えます。このように両面から対策することで、NAD+が長期的に増加することになり、NMNの効果が持続するのではないかという可能性を私たちは考えています。アンチエイジング(抗老化)の有効な手段のひとつとして、これらの研究が進むことが期待されます。

参考資料

※1 Carlos López-Otín. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186, ISSUE 2, p.243-278
※2 Yumeng Zhu, et al. (2022) From Rate-Limiting Enzyme to Therapeutic Target: The Promise of NAMPT in Neurodegenerative Diseases. Neuropharmacology. 13.
※3 Eva Bianconi, et al. (2013) An estimation of the number of cells in the human body. Annals of Human Biology. 40(6). 463-471.
※4 Darren J. Baker, et al. (2011) Clearance of p16Ink4a-positive senescent cells delays ageing-associated disorders. Nature. 479. 232–236.
※5 Anthony J. Covarrubias, et al. (2020) Senescent cells promote tissue NAD+ decline during ageing via the activation of CD38+ macrophages. Nature Metabolism. 2. 1265–1283.
※6 Claudia C. S. Chini, et al. (2020) CD38 ecto-enzyme in immune cells is induced during aging and regulates NAD+ and NMN levels. Nature Metabolism. 2. 1284–1304.

※NOMONではHallmarks of AgingをAging Hallmarksと記載しています。

執筆

主任研究員 / 博士(獣医学) / 獣医師 / 中小企業診断士

中村 克行

NOMON株式会社

筋疾患、ゲノム編集/遺伝子改変技術、老化を専門としている。2011年 東京大学農学部獣医学課程卒、2015年 東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。博士課程卒業時に農学生命科学研究科長賞を受賞。2015年に帝人に入社し、筋疾患創薬に従事。その後、老化研究のための米国留学を経て、NOMON事業に参画。現在は、新たな老化研究に加え、さらにNMNを生活の中に役立たせるためにライフスタイルや生活者ニーズにマッチした製品の企画開発を行っている。

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