年齢を重ねても若々しく、健康な生活を送りたい——そんな願いをお持ちではありませんか? 日本人の平均寿命は大きく延びていますが、その一方で健康寿命との間に約10年の差があるといわれています。この期間、多くの人が介護や支援を必要としています。最新の科学研究で注目を集める「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」という物質が、老化を抑制し、健康寿命を延ばす鍵として期待されています。今回は、40歳以上のみなさまが、これからの人生をより充実させるためのヒントとして、老化の現状と課題、NMNの基本からその効果的な取り入れ方、そして最新の研究成果を詳しく解説します。
なお、本記事はYouTubeで公開されている「【老化研究者兼CEOが解説】『老化とNMN』セミナー後編:NMNについて」 (2020年11月23日開催)の内容を基に作成されています。最新の情報や個別の状況については、専門家にご相談ください。※1
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老化を抑える鍵「NMN」とは?
現在、日本人の平均寿命と健康寿命との間には約10年の差があり、この期間に介護や支援を必要とする人が増えています。また、統計データによると、75歳を超えると身体的なフレイル(虚弱)の有病率が急増し、自立度も急激に低下する傾向があります。超高齢社会において、個々人が老化を抑制し、健康寿命を延ばすことは、社会全体の課題解決にもつながります。
健康寿命と介護の課題や、フレイル予防の重要性について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:老化は避けられない?最新科学が明かす健康長寿の秘訣とNMNの可能性
一方で、最新の科学研究は、老化が必然ではなく抑制可能であることを示しています。特に最近注目されている「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」について解説します。
NMNの基本構造と役割
NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、ビタミンBの一種であるニコチンアミドにヌクレオチド構造が1つ付いた物質です。この構造はDNAなどの核酸にも共通しており、NMNはビタミンBの親戚ともいえる存在です。
NMNは私たち全員の体内で自然に作られ、すべての細胞で利用されています。生まれたばかりの赤ちゃんから高齢者まで、誰もが持っている物質です。ブロッコリー、枝豆、アボカドなどの食品にも微量ながら含まれているほか、母乳の初乳などにも含まれています。
年齢とともに減少するNMN
NMNを作る能力は加齢によって低下し、体内のNMN量もまた年齢とともに減少することがわかっています。NMNを前駆体として体内で作られるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)について、年代ごとの血漿中の量を見ると、50歳で20歳の値の約半分、80歳以降ではさらに減少します。このNMNの減少が、体力や健康状態の低下と関連していると考えられています。※2
NMNがもたらす健康効果とは
NMNは、老化に対抗するいわゆる「老化ビタミン」のような役割を果たします。NMNがもたらす主な健康効果を2つご紹介します。
NAD+の前駆体として細胞のエネルギー生産をサポート
NMNは、体内で「NAD+」という物質に変換されます。NAD+はすべての細胞で必要とされ、エネルギー生産の要となるミトコンドリアにおいて、ATP(アデノシン三リン酸)生成を助けます。このNAD+が不足すると、細胞はエネルギー不足に陥り、機能が低下します。NAD+を作る材料となるNMNを補うことで、NAD+のレベルを維持・向上させ、細胞レベルでのエネルギー不足を改善できるのです。
NMNとNAD+の関係性について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:NAD+低下のメカニズムと細胞老化の関係
老化抑制に関わるサーチュインの活性化
NMNには、老化を抑制する「サーチュイン」という酵素群を活性化するはたらきもあります。サーチュインは7種類存在し、細胞の老化を遅らせ、寿命を延ばすはたらきがあります。これらの酵素はNAD+を必要とするため、NMNの補給によってNAD+レベルが上がると、サーチュインの活性も高まります。
動物実験での有望な結果
ただし、NAD+自体は経口摂取してもほとんど吸収されません。そのため、NAD+が作られる1つ前の段階であるNMNを摂取することで効率よく吸収され、細胞内でNAD+に作り替えられることでこれらの健康効果がもたらされると考えられています。近年、NMNを補うことでNAD+を維持し、老化を抑制できるかどうかという点に注目が集まっています。
2016年に行われたワシントン大学の今井眞一郎教授らの研究では、老齢マウスにNMNを投与すると、体重増加の抑制、エネルギー代謝の改善、糖代謝の向上、骨密度の維持など、多くの老化関連指標が改善されることが報告されました。※3
これにより、NMNはいわゆる「ピンピンコロリ」を実現する可能性があるとして、大きな注目を集めました。
健康寿命を延ばすための基本習慣
健康寿命を延ばし、介護や支援が要らない生活を起こるために、基本的な健康習慣を今日から始めることが大切です。最先端の老化研究では、「食べ過ぎないこと」「適度な運動」「良質な睡眠」が重要とされています。
食べ過ぎないこと
過食は、体内で老化関連物質の増加を招きます。最新の老化研究でも、食事制限が老化抑制に効果的であることが示されています。適度な食事量を守り、栄養バランスの良い食事を心がけることで、老化の進行を遅らせることが可能です。
適度な運動
運動は、筋力維持と代謝向上に不可欠です。特に有酸素運動や筋力トレーニングは、サルコペニア(筋肉減少症)の予防に効果的です。
良質な睡眠
睡眠は、細胞の修復と回復に重要な役割を果たします。睡眠不足は老化を促進するため、十分な睡眠時間を確保し、睡眠の質を高める工夫が必要です。
今日から始めるプロダクティブ・エイジング
老化抑制は待ったなしです。例えば、高齢になってから骨折する要因がいつ決まっているかを考える場合、若いうちの骨密度に注目する必要があります。今の行動が未来の自分の健康を左右するということは、フレイルの有病率が急増し、自立度が低下する75歳を過ぎてから老化対策を始めるのではなく、40歳頃から積極的に取り組むことが重要なのです。
毎日、前向きに歳を重ねることを、NOMONでは「プロダクティブ・エイジング」とよんでいます。NMNの摂取や生活習慣の見直しは、未来の自分への最高の投資といえるでしょう。
老化抑制のヒントをまとめた参考書籍
近年、老化抑制に関する情報は注目を集めています。老化抑制のヒントを得るのにおすすめの書籍を2冊ご紹介します。
『LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界』デビッド・A・シンクレア (著), マシュー・D・ラプラント (著), 梶山 あゆみ (翻訳), 東洋経済新報社, 2020年
ハーバード大学のデビッド・A・シンクレア教授の著書です。老化に関するメカニズムなども含め、分子生物学および遺伝子学についてまとめた専門的な内容で、ベストセラーとなっています。
関連記事:LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界 の原著『Lifespan:Why We Age – and Why We Don’t Have to』の要約と感想
『老化はこうして制御する 「100年ライフ」のサイエンス』樂木 宏実 (監修), 日経BP, 2020年
老化抑制に関するトップ研究者10名が解説しており、日本人のデータも豊富に含まれています。さまざまな分野で日常的に取り組めるファクトが詰まった、いわゆる「老化版ファクトフルネス」といえます。
関連記事:老化はこうして制御する「100年ライフ」のサイエンスを読んで
NMNを日常生活に取り入れよう
NMNは、老化を抑制し健康寿命を延ばす可能性を秘めた物質として大きな注目を集めています。年齢とともに減少するNMNを補うことで、細胞レベルでのエネルギー不足を改善し、若々しさを保つことが期待できます。
NMNを含む食品を積極的に摂取することで、NMNを自然に補給できますが、いずれも含有量は微量であり、食品だけでは十分な量を摂取するのは難しいのが現状です。そのため、サプリメントを活用して効率的にNMNを補給するのもおすすめです。サプリメントを選ぶ際は信頼できるメーカーの製品を選び、適切な摂取量を守るようにしましょう。
また、NMNだけに頼るのではなく、適度な食事、運動、睡眠などの基本的な生活習慣を整えることも重要です。これらを組み合わせることで、40歳以上のみなさまも充実した毎日を過ごし、前向きに歳を重ねることができるでしょう。
参考資料
※1 YouTube. NOMON研究所. 【老化研究者兼CEOが解説】『老化とNMN』セミナー後編:NMNについて (2020年11月23日開催)
※2 James Clement, et al. (2019) The Plasma NAD+ Metabolome Is Dysregulated in “Normal” Aging. Rejuvenation Res. Apr;22(2). 121-130.
※3 Kathryn F. Mills, et al. (2016) Long-Term Administration of Nicotinamide Mononucleotide Mitigates Age-Associated Physiological Decline in Mice. Cell Metabolism. 24(6), 795-806.