厚生労働省の調査によると、便秘の自覚症状がある人は咳や胃もたれを感じている人よりも多く、高齢になるほど便秘に悩む人は多くなるそうです。便秘の原因は、食生活や心身の状態、体質、有病歴などさまざまです。この記事では、便秘の定義と原因を紹介し、便秘を解消する方法として食事と運動の具体的な取り組み方を解説します。自分に合った便秘解消法を探してみましょう。

便秘とは

まず、便秘の定義と原因について解説します。

便秘の定義

『便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症』によると、便秘とは「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。さらに、便秘の状態が慢性的に続くことによって、学業や就労、睡眠といった日常生活に影響を及ぼす症状をきたし、検査、食事・生活指導または薬物治療が必要となった状態を「慢性便秘症」といいます。※1

慢性便秘症は、糞便が大腸内に滞った状態の「排便回数減少型」と直腸にある糞便が快適に排泄できない状態の「排便困難型」に分けられます。なお、「慢性」がどのくらいの期間を意味するかについては、『慢性便秘症診療ガイドライン2017』で定義された「6ヶ月以上前から各症状が発症し、最近3ヶ月間はその症状が持続している」という記述に準拠しています。ただし、日常診療においては具体的な期間を区切らず、医師の判断に委ねられています。※1

便秘の原因

便秘の自覚症状がある人は非常に多く、2022(令和4)年の「国民生活基礎調査」によると、便秘の有訴者率は全体の35.9%となっています。これは、かゆみや咳や痰、胃もたれの自覚症状がある人の割合よりも多い結果です。便秘症の有訴者数は男性より女性に多く、特に若年世代ではその差は大きくなっていますが、その有訴者率は加齢とともに上がる傾向にあります。70歳以上になると71.2%が便秘の自覚症状を訴えるようになり、男女差も小さくなっていきます。※2
このことから、性別や加齢が便秘の原因のひとつであることがわかります。

便秘の要因や原因としては、次のようなことが挙げられます。※1、3、4

食事や栄養摂取に関するもの

  • 水分不足
  • 食物繊維や脂質などの摂取不足
  • 不規則な食事
  • ビタミン欠乏症
  • 低栄養

生活習慣に関するもの

  • 不規則な生活リズム
  • 便意を抑制する習慣
  • 運動不足

心身の状態や疾患、病歴に関するもの

  • 精神的要因
  • 神経障害
  • 下剤や浣腸の乱用
  • 全身衰弱
  • 腹部手術歴
  • 糖尿病、甲状腺機能低下症、うつ病などの精神疾患、パーキンソン病、膠原病など
  • 薬の副作用

その他

  • 職業性
  • 体質
  • 女性
  • 身体活動の低下
  • 加齢

生まれ持った性別や体質、加齢に伴う変化などはなかなか変えられるものではありませんが、便秘の原因のうち、食事や運動などの生活習慣は見直して改善することができます。続いて、便秘改善のためにできることを解説していきます。

便秘を改善するためには生活習慣の見直しが重要

生活習慣

便秘は生活習慣と密接に関連していることから、便秘を改善するには生活習慣を見直すことが重要です。というのも、口から摂取したものを消化吸収する消化管(胃・小腸・大腸など)は自律神経によってコントロールされているからです。自律神経の乱れが便通の乱れにつながる反面、自律神経を整えれば排便習慣も整うことになります。具体的には、規則正しい生活を送ることで自律神経が整い、その結果、排便習慣が整います。※5

また、食生活も重要です。規則正しく3食を摂ること、特に朝食をきちんと食べることが胃腸を刺激し、排便習慣を規則正しく整えてくれます。さらに自律神経を乱す原因として、ストレスが挙げられます。強いストレスは消化管のはたらきを弱め、消化液の異常な分泌を引き起こし便秘につながります。つまり、ストレスフルな生活を改善することで便秘を改善できるといえます。また、適度な運動は腸の活動を促進するので、便秘改善につながります。※5

このように、生活習慣、特に食習慣と運動習慣を見直すことによって便秘が改善する可能性があります。それぞれの具体的な取り組み方について詳しく解説します。

食事で便秘を改善する

食事で便秘を改善する

便秘を改善するための食生活のポイントとして、次の6つを意識してみましょう。

①水分を摂る

食事などを通して口から入る水分は1日2リットル程度で、その他に消化に利用される消化液の分泌によって大腸にはかなり大量の水分が流れこみます。しかし、その大半は大腸を通過する際に吸収されてしまいます。便の硬さは含まれる水分量で変わるため、便を適度な軟らかさにするためにも適度な水分を摂りましょう。具体的には、朝起きたらまず1杯の水を飲む習慣をつけるとよいでしょう。※3、5、6

②規則正しい食事

食事には栄養摂取の役割だけでなく、体内にたまった老廃物や有害なものを体外に排出する役割もあります。決められた時間に食事を摂ることで排便時間が定まっていき、規則的な排便習慣につながります。特に、朝食後に便意を催すように、朝食をしっかり食べることが大切です。※3、4、5、6

③食物繊維を摂る

食物繊維の適正摂取により便秘が改善されることが多く、便量と食物繊維摂取量も関連があることがわかっています。※3、4、5、6

食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。果物、ニンジンやキャベツなど繊維の柔らかい野菜、海藻などに含まれる水溶性食物繊維は、便中に溶け込むことで便を軟らかくします。さらに、水溶性食物繊維には善玉菌を増やすはたらきもあり、腸内環境を整えることにより便が腸内をうまく通過できるようになります。※4、5、6

一方、きのこ類、根菜類、タケノコなど繊維がかたい野菜に多く含まれる不溶性食物繊維は、便量を増やし、便を排出するときの腸管の動き(蠕動運動)を活発にするはたらきがあるため、スムーズな排便が期待できます。ただし、根菜類はたくさん摂りすぎると便が硬くなったりお腹が張ったりして逆効果になることもあるため注意しましょう。※4、5、6

食物繊維には、便秘のリスク要因にも挙げられていた生活習慣病(糖尿病、肥満、動脈硬化など)の予防にも役立つことがわかっています。※6

食物繊維について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:食物繊維とは?種類やメリット・効果、1日の推奨摂取量、食物繊維を多く含む食品について解説

④ビフィズス菌で腸の働きを活発にする

腸内環境を整えることは、便秘改善の効果が期待できます。
なかでも、乳酸菌飲料やヨーグルトなどに含まれるビフィズス菌は効果的です。このような腸内細菌を「プロバイオティクス」とよびます。プロバイオティクスは「適正量を摂取することにより宿主の健康に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されており、国内外でさまざまな臨床試験が実施されています。実際に、慢性便秘症患者がプロバイオティクスを摂取すると排便回数が有意に増加するという研究成果が見られており、慢性便秘症改善の効果が評価されています。排便回数の増加以外にも、便秘による腹部症状が改善したり、腸通過時間が短くなったりといった複数の効果が認められています。※1

そのため、ビフィズス菌を体内で増やすはたらきがあるオリゴ糖や、納豆やみそなどの発酵食品も摂ることも効果的です。オリゴ糖はタマネギ、ニンニク、ゴボウ、アスパラガス、バナナ、ライ麦などに多く含まれています。※6
腸内細菌のエサとなり、善玉菌を増やすこれらの食品成分を「プレバイオティクス」とよびます。

腸内環境を整える「腸活」について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:腸活とは?腸活のメリットや食事、睡眠、運動の具体的な方法について解説

⑤腸を刺激する食品を活用する

腸が刺激されると排便が促されるため、炭酸飲料、果物、香辛料、適度のアルコール飲料、酢などを適量摂取するのもおすすめです。ただし、摂りすぎには気をつけましょう。※6

前述の「①水分を摂る」でも紹介したように、起床後に1杯の水を飲むことも、胃腸を刺激し排便を促す効果があります。体調に応じて冷たい水や牛乳を摂るのもよいでしょう。※3、6

⑥食事量を確保する

特に高齢者に多いのが、便の材料となる食事量が少ないために便秘になることです。1日3食を規則正しく、量もしっかりと食べるようにしましょう。※3

運動で便秘を改善する

運動で便秘を改善する

先にも触れたとおり、腸の蠕動運動と自律神経は密接に関わっています。

私たちが生きるために必要な体のはたらきは、自律神経が支えています。自律神経には交感神経と副交感神経の2つがあり、活動時は交感神経優位、安静時は副交感神経優位といろいろな局面で切り替わっています。心身が健康な状態であれば自律神経は問題なく切り替わりますが、切り替えがうまくいかない状態になると体調にさまざまな変化が現れます。つまり、自律神経が乱れることで睡眠がうまく取れなくなったり、体調を崩したりといった症状が現れるということです。

自律神経を整えるために役立つのが運動です。活動と安静(休養)が適度に切り替わることで自律神経が整えられ、腸の蠕動運動にも良い効果が期待できます。

運動が便の通過時間や便秘症状にもたらす効果についての研究

便秘は腸管内に便が長くとどまっていることなので、腸管内の通過時間を短くすることができれば、便秘改善につながると考えられます。

名古屋大学の近藤孝晴氏らによる、平均年齢71歳の運動習慣のある健康な男性10名を対象とした研究報告があります。2週間の安静期間の後に、1日10,000歩以上歩いてもらうという運動期間を2週間設け、小腸と大腸の通過時間を測定し比較したものです。なお、全期間中の食事は、栄養士が作成した1週間分の献立レシピを被験者が調理する形で、全員が毎週同じ内容のものを摂取しています。また、安静期間はすべての運動を休止させています。※7

この研究報告では、排便回数、全腸通過時間、小腸通過時間に差はみられませんでしたが、大腸通過時間には違いがありました。大腸通過時間は、安静期間に比べて運動期間で有意に短縮し、特に左側・右側結腸において有意差があったとしています。この研究の対象となった被験者は、潜在的に消化管機能低下が考えられる年齢層であることから、特に高齢者の大腸機能に対しては運動の有効性があるのではないかと結んでいます。※7

また、被験者にはもともと運動習慣があったこととも関連付けられています。食事内容が全期間変わらなかったことから、安静期間の腸管通過時間が長くなっていることに注目し、もともと運動習慣がある人の場合は安静によって腸管運動が低下すると考えられるとしています。※7

さらに、大腸肛門病センター高野病院の高野正太氏の論文によると、健康な若年男性を対象とした別の研究報告においても、運動量や身体活動の低下が便秘症状を引き起こしたり悪化させたりする可能性が示唆されています。また、有酸素運動が便秘を改善する、ランニングやウォーキング、筋トレが結腸通過時間を短縮するといった報告もあります。※8

このように、運動は自律神経を整えるという意味でも、便の通過時間や便秘症状に対する効果という点でも、便秘改善におすすめの方法といえます。続いて、便秘改善に効果的な運動を、5つご紹介します。

①体をひねる運動

体を前後左右にひねる動きは、腸に刺激を与えてそのはたらきを改善させます。立ち姿勢で行う場合は、足を肩幅に開き、体を前後左右にひねります。このとき、水を入れたペットボトルを両手に持って行うのもよいでしょう。椅子や便座に座っているときや、寝転がっているときに体をひねるのもおすすめです。※9、10

②腹式呼吸

横隔膜や腹横筋を収縮させることで腸を刺激し腸の活動を活発にさせます。自律神経を整える効果も期待されます。鼻から息を吸い(このときにお腹が膨らむ)、ゆっくり吐き出す(このときにお腹がへこむ)呼吸法です。座った状態で行う場合は、両かかとを床から上げ、お腹の膨らみとへこみを意識して行いましょう。※9、10

③つま先立ち

つま先で立つことで下腹部に力が入り、便を排出する際に使う筋肉を鍛えます。お腹をへこませた状態でかかとを上げ、つま先立ちの状態で1分間キープします。キープしている間はお尻を締めることを意識しましょう。※10

④お腹のマッサージ

大腸の形状をイメージしながらマッサージをすることで、大腸から肛門への流れを助けます。具体的には、おへそから「の」の字を描くようにゆっくり優しくマッサージします。左右の脇腹やS状結腸部分を揉んだり、横行結腸を引き上げるように上下に揉んだりするのがおすすめです。※4、8、9、10

腹部のマッサージを1日15分、週5回続けることが慢性便秘の症状改善に有効であるというランダム化比較試験の報告もあります。※8

⑤腹筋運動

腹筋運動により、腸に刺激を与えたり、便を押し出す力を高めたりします。※4、10
仰向けに寝転び、足幅を少し開いて両ひざを立てます。両手を頭の後ろで組み、ゆっくりと頭を起こします。おへそが見える位置で10秒間キープしたら、ゆっくりと元の位置に戻します。これを5~10回繰り返します。※10

ただし、便秘解消のためであったとしても運動を控えた方がよい場合があります。以下に当てはまる場合は運動を控え、運動以外の方法を取り入れるようにしましょう。※9

執筆

看護師

岡部 美由紀

 

埼玉県内総合病院手術室(6年)、眼科クリニック(半年)勤務、IT関連企業(10年)勤務、都内総合病院手術室(1年半)、千葉県内眼科クリニック(1年)勤務。2011年よりヘルスケアライターとして活動。 現在は、一般向け疾患啓発サイト、医療従事者向け情報サイト等での執筆、 医療従事者への取材、記事作成などを行う。一般向けおよび医療従事者向け書籍の執筆・編集協力:看護の現場ですぐに役立つICU看護のキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ 人工呼吸ケアのキホン (ナースのためのスキルアップノート)、看護の現場ですぐに役立つ ドレーン管理のキホン (ナースのためのスキルアップノート)他

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