今日のテーマは、ちょっと変わった音楽を作った作曲家ですよ。

なんかマミィは不思議な曲大好きだよねー

バレましたか笑?

変わった作曲家って?

エリック•サティです。風変わりな作風や素行で有名ですが、近代音楽、フランスの印象派に大きな影響を与えた方です。

サティはジムノペティ1番弾きました!

ゆったりとしたハーモニーとメロディが素敵な曲ですよね。今日はそのエリック・サティをテーマにします。

 

 

 

エリック•サティ(1866~1925)

 


 

 

パリ音楽院にて音楽を学ぶはずでしたが、あまり学校にも行かず、やる気も才能もない、と除籍処分されます。

その後、パリのカフェを拠点に音楽活動を行いました。お金もなく、演奏で稼いだお金はお酒へ。

部屋はピアノもなく荒れ放題、となかなかの生活でした。

カフェ「黒猫」、ここでピアニストとして日々演奏の仕事をします。

そこで多くの芸術家たち、ドビュッシー、ピカソやコクトーとの交流がされ、有名な楽曲ジムノペティ、ジュ◦トゥ・ヴが生まれました。

 

ジムノペティNo.1

 

サティの存在を日本で広めた、髙橋アキさんの演奏です。

 

みなさん、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。

ゆらりとした不思議な浮遊感が魅力の楽曲です。

 

 

 

サティの何が変わってる?!

 

1.これまでの当たり前を壊した

 

後期の楽曲では、なんとなく調性はあっても、あえて臨時記号のみだったり、

時には小節線や終止線もなくなります。

つまり、拍子や調性といった西洋音楽の大きい概念を打ち消したのです。

 

それら既存のルールの必要性を問い、ほらいらないでしょ?と軽やかに新たな音楽を見出していきました。

 

彼の作品の大きな特徴として一つのモチーフを繰り返す、ということが挙げられます。

この繰り返しによって、起承転結があるようなないような、浮遊したイメージが表現されています。

 

これらの楽曲はラヴェル、ドビュッシーにも大きく影響を与えたとのことです。

 

2.家具のような音楽のあり方

 

これまでロマン派以降作られた、クラシックでは当たり前とされていた形式や文化があります。

 

例えばピアニストが演奏していたら、聴衆はグッと集中して聴かねばいけない、という概念を180度変えようとしました。

サティは自分の音楽を「家具の音楽」と名づけ、その名の通り、部屋にただ存在している物のように音楽を作りました。

 

これはとても画期的なことで、現代のヒーリングミュージックや、カフェなどでのピアノ演奏(BGM)のルーツといっても良いかもしれません。

彼の楽曲がコンサートのプログラムのメインとして演奏されることは稀(サティの企画以外)です。

コンサートできちんと、というよりは、お茶を飲みながら、おしゃべりしながら、または絵や本を見ながら、リラックスして聴くのがピッタリくるのではないでしょうか。

 

実際に、サティがピアノ曲「家具の音楽」を初演した時に、「聴き入らず、おしゃべりを続けてください」と、聴衆に注文をしたとのことです。

ところが、聴衆が静かに聴いてしまったところ、サティは怒って「話をしていてと言ったではないか!」と会場を回ったとのこと。

にぎやかさの中で流れるピアノをイメージして作曲をしたということのようです。

想像するとニヤっとしてしまうエピソードです。

 

サティの音楽は、何気なく流れていて、なんとなく耳にのこる、その空間を彩るような音楽、と私は捉えています。

もちろん楽曲によりますが、音数が少なめ、シンプルな繰り返しの多いメロディ構成が多いです。

 

 

 

独創的なタイトル、楽譜

 

サティの楽曲は面白いタイトルのオンパレードです。

 

犬のためのぶよぶよした前奏曲

嫌らしい気取りやの3つの高雅なワルツ

官僚的なソナチネ

家具の音楽

梨の形をした3つの小品

 

いかがですか?

 

このなんともユニークなタイトルセンスは、クラシックの世界にはなかなかありません。ちょっとシニカルで、どこか貴族的な文化を面白おかしくパロディにしているような、そんな笑いのエッセンスもあります。

 

 

最後から2番目の思想

 

 

私が本気でサティに興味を持ったのは、ピアニスト髙橋アキさん監修の楽譜集(カラフルな装丁がとても素敵です)を手に取ってからですが、

タイトルのみならず、楽譜に書かれている指示のなんと面白いこと。

 

子供の頃から、そして音大生も、サティを意識的に弾いたり学ぶ機会はなかなかありません。

学習過程の学生や子供にこそ、奇想天外なイメージをどんな風に弾くか、とても興味が湧くのですが。

 

アートや文学、映画、演劇に興味のある方には、どこか引き込まれる世界ではないでしょうか。

 

マミィの演奏<最後から2番目の思想 第3番 瞑想>

この曲は、同じモチーフを持ったフレーズが繰り返し演奏され、そこにメロディが紡がれます。

映像や物語を想像させる言葉が、メロディの各所に散りばめられています。

 

 

楽譜に書かれている文章は、音楽的な指示を表す表記なのか、

いえ、詩のようです。

とても謎めいていますが、なんとも魅力的です。

 

全文は以下です。

 

ーーー

詩人は古びた塔に閉じ込められている

風が吹く 詩人は瞑想する そんな素振りも見せずに

突然 彼はゾッとする なぜ? 悪魔がいるんだ

いや 悪魔なんかじゃないよ あれは風だよ 超人が通り過ぎた嵐なんだ

詩人は 風のことで頭がいっぱいになる

彼は いたずらっぽく笑ってみる

だけど 彼の心は柳のように泣いている

やっぱり 超人がいるんだ そこに!

彼奴は 気味のわるい目つきでこっちをみている ガラスの眼玉で

それで 詩人は ひどく見すぼらしくなり

顔を赤らめる

彼はもう 瞑想なんかできなくなる

彼は 消化不良を起こしているんだ

出来の悪い詩と ものすごい幻滅感との なんともひどい消化不良を

 

ーーー

 

この詩と演奏がリンクします。

舞台の伴奏のように、ゾクゾクしながら演奏しました。

ずっと繰り返されるパターンは風の音かな、と感じながら弾いています。

 

ぜひ詩を見ながら、どの部分が表現されているか想像してお聴きください。

 

 ♪ マミィの演奏 最後から2番目の思想「瞑想」

 

 

世界一長いピアノ曲

 

「ヴァクサシオン」という曲があります。

嫌がらせ、癪の種という意味のこのタイトルは、なんと1分間程度の曲を840回繰り返す指示があります。

 

楽譜にはサティ自身による記述があります。

 

「この曲を弾き切るためにはあらかじめ心の準備が必要だろう。最も深い沈黙と真剣な不動性の姿勢によって」

 

テンポにもよりますが、演奏時間は18時間から25時間とも言われています。

そして、何人もの猛者が挑んでいます。

かつて、「トリビアの泉」というテレビ番組で、実際に3人の奏者が各50回ずつ演奏する、ということをやっていました。全て弾き終わるのに18時間18分かかったとのことです!

 

やってみる人が本当にいるのか、と天国からサティがニヤニヤみているような気がします。

 

 

 

 

—-

 

エリック・サティという作曲家は、おもちゃ箱のような存在でした。

彼のもつ純度の高い子供のような感性に、心を踊らされ、演奏すると、

今もなお新しい気づきを感じます。

 

ドビュッシー、ラヴェル、シェーンベルグ、メシアンなど多数の作曲家や演奏者に強い影響を与えました。パリがとてもよく似合う、変わった作曲家。唯一無二の存在です。

 

 

 

ーーー

 

今回でこの「ピアノと音の研究所」は終了となります。

長期に渡り購読いただき、本当にありがとうございました。

 

 

音楽と健康には関連性があるのかないのか

皆さんはいかがお考えでしょうか。

 

生き生きと過ごすことができれば、間違いなく心身ともに健康に近づけるはずです。

そのために本当に音楽が必要なのか、と問われたら、必ずしも音楽でなくてもいいかもしれない。

ですが、私は音楽しか持っていない力、効果をお伝えしていきたい。

 

音が耳から脳を通り、感覚に伝わり、感情が溢れる。

そこには間違いなく強い「効能」「力」があると考えています。

 

このコラムの目標としていたこと、それがその力をお伝えすることでした。

少しでも音楽に、ピアノに興味が沸いてくださった方がいらっしゃれば、本当に嬉しく思います。

 

またいずれ、お会いできる日を楽しみにしています。

 

 

 

<🎶今日の即興>

 

みなさんの日常の中で、ふと隣を見た時に幸せがここにあった、と気づけるように。

 

そんな願いを込めた即興演奏です。

 

 

 

 

<参考文献>

エリックサティピアノ全集 髙橋アキ

エリックサティ アンヌ・レエ著

執筆

ピアノ講師、ピアニスト、作曲家

東 真未

 

7才よりピアノを始める。洗足学園大学ピアノ学科卒業 。 ドビュッシー、サティ、バルトークなどの作曲家に影響を受け、幼少の頃より即興演奏に親しむ。近現代の作品を多く演奏し、卒業後はピアノ講師として5才から80才まで幅広く講師を行う。 自身がリーダーを務めるグループにて即興音楽を行い、数多くのセッション、バンドにキーボード として参加。作曲、アレンジ、ライブ活動、劇団や創作童話への楽曲提供及び演奏を行っている。ピアノを使った老化防止や心のケアを研究中。---マミィのピアノ教室、生徒募集中!!(※立川市、日野市にて実施)さまざまな用途、ご要望にお応えします。詳細はメールでお問い合わせください。また、本コラムへのご感想、質問などもぜひどうぞ!アドレス→ piano.mammyhiga@gmail.com

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