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皆さんは、燃え尽きた経験があるでしょうか?

私は、博士論文を書き上げて、就職した!というタイミングで燃え尽きた苦い経験があります。

せっかく就職したのに、朝起き上がるエネルギーがなく……裁量労働制の就職先でなければ、仕事を辞めなければならなくなっていたかもしれません。

今振り返ってみると、就職する前、博士論文を出すまでが過酷でした。

所属していた研究室の教授は、私が博士課程を終える年で定年退職することになっており、提出が間に合わなかった場合には、卒業が1年延びるだけでなく、新たに別の先生に指導教官をお願いしなければならず、絶対遅れられない状況。

また、博士論文を提出するには、査読つきの論文2本が受理されていなければいけないのですが、論文を投稿してから、査読者が決まり、査読してもらってその結果に合わせて修正をして、何度かやりとりを繰り返し、ようやく受理される……という手続きは、自分のペースで進むものではありません。

当時は、自分でもやりすぎだったと思うくらいの頻度で、論文を投稿した雑誌の事務局に「いつ査読結果が返ってきますか?!」と問い合わせをしていました。

自分がどうあがいてもコントロールできない状況の中で、絶対に延ばせない締め切りが迫ってくる……かなりストレスフルな状況でした。

自分なりに精一杯のエネルギーをつぎ込んで、なんとか博士課程を修了、就職にこぎつけたわけですが、そこで私のエネルギーは尽きてしまいました。

ただ、いざ働き始めてみると、こういったストレスフルな状況は珍しいわけではありません。

熱意をもって仕事をしている中でも、期限に追われ、限られた裁量の中でどうにかしなければいけない。

誰しもがバーンアウトのリスクを背負っているとも言えます。

 

バーンアウトは3つの特徴から定義されます。

1つ目は、情緒的消耗感と呼ばれ、仕事への熱意や意欲などの情緒的な資源が枯渇してしまうことを指します。忙しくしているとき、私たちは、身体の疲労には気づくかもしれませんが、心の消耗には気がつきにくいものです。

2つ目は、脱人格化と呼ばれ、消耗した状態から自分を守るために、職場で悪口など言ったことのない人が、同僚や取引先を非難したり、責めるような行動をとることを指します。

3つ目は個人的達成感の低下と呼ばれ、情緒的消耗感や脱人格化によって仕事の質が低下することによって引き起こされます。仕事の質が下がることは、仕事に熱意や使命感をもって取り組んできた人にとっては特にこたえるものです。

そして、バーンアウトした結果、職場に行くことや、仕事のことを考えることすら苦痛になり、休職や離職につながることも少なくありません。

再び働き始めたとしても、元のように目的意識と熱意をもって仕事に取り組むことができなくなり、働きがいを感じられず、働き方や仕事とのつきあい方がすっかり変わってしまうこともあります。

 

では、バーンアウトしないために、どのような手が打てるのでしょうか。

働く時間を減らせばいいのでは?と思われるかもしれませんが、実は、バーンアウトと労働負荷との間に有意な相関はないという報告もあります。

むしろ、労働時間を一律に制限することは、限られた時間で同じ量の仕事をしなければならないというプレッシャーが強まるだけです。

 

バーンアウトしないために役に立つと思われる視点を3つ挙げたいと思います。

ひとつは、仕事を有意義に感じられるような、仕事の質的な側面を改善していくことが挙げられます。

ジョブ・クラフティングの3つの工夫のうち、「仕事や役割に対する捉え方」への工夫を活用したり(詳細は、「ジョブ・クラフティングで自分の仕事をデザインする

職場全体で、意義の感じられる仕事に時間を割けるよう、働き方やツールを見直すことも役に立つでしょう。

ふたつ目としては、バーンアウトのリスク要因とされている「役割が曖昧であること」への対策も有用です。

仕事の目的や目標が明確でなかったり、メンバーそれぞれの担当範囲が不明瞭な状態だと、どこまでやればゴールなのかがはっきりせず、達成感が得られにくくなってしまいます。

組織レベル・チームレベルで仕事の目的や目標を明確に共有すること、上司と部下との1対1の面談の機会で役割を明確に伝えたり、フィードバックすることで、曖昧さを減らすことができます。

そして、最後は、私の個人的な経験からなのですが、仲間と一緒に「チームで働いている」と感じられることも大事ではないかと思っています。

一生懸命やっていても、なんだか孤独感を感じる、孤軍奮闘しているという状態ではなく、大変だけれど、苦しいときもあるけれど、同じ目的や目標に向かって、一緒に進んでいく仲間がいて、助け合えるというのは、大きな力になります。

燃え尽きそうなときも、仕事から少し離れたあとも、この一体感や連帯の経験があると、また戻ってきやすくなるような気がしています。

 

仕事に熱意をもっている人ほど注意が必要なバーンアウト。

「働く」とよい関係を持ち続けるためにも、仕事の意義(働きがい)、役割の明確さ(曖昧でないこと)、一体感の3つに注目した対策を取り入れてみてはいかがでしょうか。

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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