自分に対する肯定的な感情のことを「自尊感情」と呼びます。
(一般的な用語としては、自己肯定感という言葉で語られることもあります。)
自尊感情は、心理学の中では「自己」に関する研究テーマの中でも、中心的な位置づけで、多くの研究がされています。

自尊感情の研究

この「自尊感情」研究は、これまで紆余曲折をたどってきました。
初期は、自尊感情を高低という軸でとらえて、自尊感情が高いことは、よいことだと考えられていました。
ただ、一概に自尊感情が高ければいいかというと、そうでもないことがわかってきます。

安定-不安定

そして、新たに「安定-不安定」という軸が加わりました。
自尊感情が不安定で高い人は、怒りや敵意を経験する傾向がもっとも高く、自尊感情が安定して高い人は、そういった経験がもっとも低いことがわかり、自尊感情はただ高ければいいというわけではなく、安定性も大事だということが明らかになったのです。

随伴性

そしてさらに、「随伴性」という考え方が出てきます。
随伴性自尊感情とは、「優れているというある一定の基準を満たすこと、あるいは対人的期待または精神的期待に沿うことの結果として生じる、実際、それ次第で決まるような自分自身に関する感覚」とされています。
言ってみれば、自己肯定の基準が、他者の評価や、社会的に優れているとされるかなど、外的なものにあったり、自分の中でも、「この価値基準を満たしていれば肯定できる」といった「条件つき」の自尊感情のことといえます。
自尊感情は、もともと何らかの物事に随伴しているものだととらえ、随伴する対象として、他者からの承認、外見、競争、学業的有能さ、家族の支え、美徳、神の愛の7つを挙げる研究もあります。
(外的な基準か内的な基準かという分類では、他者からの評価や外見、競争、学業的有能さが外的な基準、美徳と神の愛が内的な基準とされています。)

随伴性自尊感情の時代

インターネットが普及して、さまざまなSNSが使われるようになった、この15年ほどは、まさに、外的な基準による随伴性自尊感情の時代だったのではないかと思います。

FacebookやInstagramなどでは、他者からの承認を得るために、きらびやかな投稿がされてきました。
また、さまざまな補正アプリなどでは、肌や体型、目の大きさなど、外見を外的もしくは内的な価値基準に沿って補正するツールがあふれています。
「マウンティング」という言葉がうまれ、他者と競い合い、少しでも自分の優位性を示そうとし、それが一瞬の満足につながってきました。
ただ、そろそろ多くの人が、その空しさに気づき、疲れてきたのではないかと思います。
外的な基準に振り回され、自分を取り繕って表現しなければいけない世界に。

少しずつ、SNSの様相も変化してきています。
補正アプリを使わないこと、すっぴんの顔や、何かで失敗したこと、うまくいかないことをそのまま載せる投稿が増えてきています。
(「いいね」を獲得するために、そういった投稿をしているのであれば、本末転倒ですが…)

本来感(Sense of Authenticity)の時代

「真の自尊感情」とも呼ばれる本来感(Sense of Authenticity)は、「自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの感覚の程度」と定義されています。
次のような項目で表される感覚です。

「いつも自分らしくいられる」
「いつでも揺るがない『自分』をもっている」
「人前でもありのままの自分が出せる」
「他人と自分を比べて落ち込むことが少ない」
「自分のやりたいことをやることができる」
「これが自分だ、と実感できるものがある」
「いつも自分を見失わないでいられる」

外的な基準や社会的な評価も関係なく、自分の中で何か条件つきでないと受け入れられないわけでもなく、ありのままの自分を存分に感じられる。
そんなAuthenticityが大切にされる時代がやってくるのではないかと思っています。

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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