先日、母が入院中のサポートのため、東京に子どもを置いて弾丸帰省して、実家に1人で滞在する機会がありました。
ふだんの0歳3歳とのにぎやかすぎる生活から一変して、一軒家にひとり。
久しぶりの静寂に、やれやれと一息ついて安堵を覚えるとともに、これがずっとだったら寂しいだろうな。
たとえば、歳を重ねて、ひとりで暮らすことになったとき、私は寂しさに耐えられるだろうか?という心配が浮かんできました。
寿命が延びて、「人生100年時代」と呼ばれる中、ひとつの人生の中で、いろんなフェーズを経験できる素晴らしさがある反面、高齢になったとき、身体機能が衰えたり、病気をしたりして、ひとり寂しく過ごすことになったら……?という不安は、多くの人の頭のどこかにあるのではないでしょうか。
solitudeとは
今のうちから、「ひとりでいること」とのつきあい方を学んでおけるとよいのかもしれません。
この60年ほど進んできた孤立・孤独研究を振り返ると、「孤立」というのは、人間関係の数や役割の数が少ないことを指し、「孤独(感)」というのは、望んでいる人間関係が満たされないことによる苦痛をともなう主観的な体験と定義されています。
そして、それらとはまた別に、自ら選んでひとりでいることは「solitude(ソリチュード・選択された孤独)」と呼ばれています。
他者と過ごすことがかなわないために、ひとりで過ごすことを仕方なく受け入れるといった場合は、孤独感を感じるのに対して、solitudeは、孤独感とは関連を示さず、心理的ウェルビーイングの要素である自己成長や自己受容と関連することがわかっています。
また、くつろぎなどのポジティブな低覚醒感情が喚起されやすく、ストレスレベルが低いこと、創造性を高めることなど、肯定的な面が示されています。(肯定的な効果を示さない知見もあるので、これからまだまだ検討が必要な研究領域ではありますが。)
ひとりでいる状態は、自分の考えを深めたり、知的活動や創造性を高めるのにも必要なことです。
solitudeについての知見をヒントにすると、次のようなアクションが孤立や孤独への不安を和らげ、私たちが上手に「ひとりでいること」に役立つかもしれません。
①ひとりでいることの心地よい感覚を味わう
私たちの誰もが、ひとりになったときに「ほっとした」という感覚を感じたことがあるはずです。
ひとりでいることは、くつろげる、穏やかでいられる、リラックスできるなど、私たちに心地よさをもたらしてくれます。
ひとりになったときに、その心地よさに目を向けることで、ひとりでいることの良さを体感しやすくなります。
②内省する時間をもつ
思ったより早く打ち合わせが終わった、次の予定まで時間が空いた、など、ふとひとり時間ができたとき、なんとなくSNSや動画を見て過ごしたり、手持無沙汰でいるのではなく、自分を振り返る内省に時間を使ってみます。
この1週間の中で楽しかったことは?
今、興味のあることは?
最近の人間関係を振り返ってみると?
どれかひとつ最近の出来事を選んで、自分がどんなふうに考えて、行動したのか・しなかったのか、どんな気持ちになったのかをじっくり振り返ってみるというのもいいかもしれません。
③創造性を発揮できるような活動をする
絵を描く、詩をつくる、料理をする、俳句を詠む、陶芸、ガーデニング、花を飾る……などなど、創造性を発揮できることならば、なんでもOK。
ひとりでじっくり何かをつくる時間をもつのです。
この3つを試していけば、「ひとりでいること」のよさを存分に味わえるようになっていくでしょう。
誰かと過ごすことも楽しめるけれど、ひとりでいることも楽しめる、そんなスタイルを少しずつ身につけておけると、人生100年時代も前向きに生きていくことができそうです。
【参考文献】
Thomas, V., & Azmitia, M. (2019). Motivation matters: Development and validation of the Motivation for Solitude Scale-Short Form (MSS-SF). Journal of Adolescence, 70, 33–42.