完璧主義と先延ばし、というと、遠いイメージがあるかもしれません。
完璧主義は、何でも物事を完璧にやり遂げる人のことで、先延ばしをするのは、だらしない人がすることだ、と。
けれど、心理学の研究では、完璧主義と先延ばしは関連することがわかっています。

完璧を追い求めると、先延ばしにつながる

完璧を追い求めるあまり、失敗に対して過敏になることから、先延ばしにつながることが指摘されているのです。

「最初の1回で正確にやらなければいけない」
「チャンスは2度と来ないから、完璧にやり遂げなければいけない」
「絶対に失敗してはいけない」

こんな風に、完璧を求めて自分を追い込めば追い込むほど、私たちは足を踏み出せなくなります。
結果として、先延ばししてしまうことになり、時間がどんどん足りなくなることから、失敗のリスクが上がり、さらに踏み出せなくなり、ドロップアウト、となる場合もあります。

完璧主義は、不安や怒り、バーンアウトや体調不良の要因となることもわかっています。
完璧にやり遂げられるかという不安が常につきまとい、少し足りないところやうまくいかないところがあると苛立ち、それらにエネルギーを費やしているうちに、燃え尽きたり、体調を崩してしまうのです。

私自身、多少なりとも身に覚えがあります。
原稿になかなか手がつけられないのは、最初から完璧な文章を書こうと意気込むからだったり、クローゼットの整理など気になりつつも手を出せないのは、手を出した結果、中途半端で終わったらどうしようと心配だからだったりします。

そんなときは、「最初は6割の完成度でも、まず一通り書いてみる」と要求水準を調整したり、「まずはクローゼットの中の小物のエリアだけ整理する」とひとつのタスクのサイズを小さくすると、一歩踏み出しやすくなります。

実際に、行動を始めてみると、意外とスムーズに書けたり、整理が進んでスッキリしたりするものです。

完璧主義は成功したとしても満足できず、不満が続いてしまう

もうひとつの完璧主義の難しいところは、たとえ成功したとしても満足できず、不満が続いてしまうことです。

高い基準を自分に課すので、達成可能な範囲を超えた期待をもちます。
そのため、どれほど成功したとしても、「もっとうまくできたはず」と考えて、成功を喜ぶことができず、満足感が得られません。

どんなに頑張っても、喜びや満足感が得られないと、頑張っても、頑張ってもご褒美はなく、さらなる高みを目指して走り続けなければいけないだけ、その果てしない道のりに、いつしか疲れてしまうのも無理ありません。

振り返りの時間をもつ

おすすめしたいのは、次の方法で1日の終わりに振り返りの時間をもつことです。

その日1日の自分の仕事を振り返って、【自分が成長したところ(どんなに小さいことでもOK)】と【自分がやりがいを感じた瞬間】を記録していくのです。
その日直面した難しい問題にどう対応したかを振り返ったり、新しく学んだことや身につけたことを思い出したり、喜びやちょっとした達成感を感じた瞬間や職場の上司や同僚とのやりとりがヒントになることもあります。

1週間記録したら、それを眺めてみます。
これまでにない満足感や喜びを少しでも感じることができたら、ぜひじっくり味わってみてください。

 
【参考文献】
Hewitt, P. L., & Flett, G. L. (1991). Perfectionism in the self and social contexts: Conceptualization, assessment, and association with psychopathology. Journal of Personality and Social Psychology, 60(3), 456.
Neff, K. D. (2003). The development and validation of a scale to measure self-compassion. Self and Identity, 2(3), 223-250.

執筆

博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

関屋 裕希(せきや ゆき)

 

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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