うわー怖い顔、くるくるパーマ…

この人が有名なベートーヴェンだよ。当時はあまりかっこいいとは言われてなかったらしいね…笑

今生きてたら、人気者になっててびっくりするかもね。

そうだねー。当時も音楽家として有名だったみたいだけど、こんなに何百年もの間、自分の曲が愛されてるなんて、きっとびっくりするよね。

 

ベートーヴェンと聞いてまず思い浮かぶのは、この苦悩に満ちた表情です。

 

交響曲第5番「運命」の冒頭、デデデデーン、デデデデーン(ソソソミ♭ー、ファファファレー)のフレーズ。

また、年末の代名詞である「歓喜の歌」、ピアノ曲「エリーゼのために」などなど、、数々の名曲たち。

 

3年前の2020年、生誕250年を迎えたベートーヴェンは、ドイツに生まれ、幼い頃から父から虐待に近い音楽教育を受けます。才能に溢れてはいましたが、過酷な幼少期でした。

 

古典派の代表、モーツァルト、ハイドン、そしてベートーヴェンがその作風を引き継ぎつつ、新しい世界を築きます。そして次のロマン派への流れを作っていきます。まさに時代と時代をつなぐ存在だったのです。

 

そんなベートーヴェンの音楽や人となりを、その時代の状況などと照らしてご紹介したいと思います。

ベートーヴェンの何がすごい?

 

 

大作曲家なのはわかるけど、実際どんなところがすごいんだろう。

ベートーヴェンは私の大好きな作曲家です!それまでの作曲家の立ち位置や、芸術としての音楽の価値を高めた人なんですよ。

 

 

その1.音楽家の立場を変えた

 

モーツァルトなどバロック期以降の音楽家は、あくまでも雇われ音楽家、演奏家であり、演奏は貴族の社交場の為のものでした。

貴族が求めるままに作曲を行うしかない、音楽家の立場はとても低かったとのことです。

 

それを変えたのが、ベートーヴェンです。

 

彼は、食事の席を貴族と同じテーブルでできるように要求し、貴族と同等の待遇を求めました。

そして、作品の著作権も自身で管理し、作曲家としての確固たる評価を得ていきます。

まさに現代での音楽界での作曲家、音楽家としての立ち位置を構築したのです。

 

バッハとヘンデル、

ハイドンとモーツァルト

 

ベートーヴェン以前の作曲家は、曲の形式、音の印象がとても似ています。

彼らは貴族たちが喜ぶ流行りの楽曲スタイルでの作曲を行う必要があったからです。

 

ベートーヴェンが流行りに属さず、自身の作品へのこだわりを追求した結果、

それまでスポンサーであった貴族たちとの立場が変わります。

 

今では当たり前なことですが、自分で作品に番号をつける、ということもべートーヴェンが最初です。

それまでは、作曲家が残したいかどうかは関係なく、貴族に献上した楽曲にナンバーが振られ残されています。

 

そのため、作品番号がついた楽曲の数はとても膨大でした。

他の古典派時代の作曲家とで楽曲の数を比較するとその差は圧倒的です。

 

ハイドン 800曲

モーツァルト 626曲

ベートーヴェン138曲

 

ベートーヴェンは、自身が認めた楽曲にのみ、作品番号(「Op.1」と表記)を入れていました。

それまでの貴族主体での作品の持ち方ではなく、自分自身が作品の管理を行っています。

 

作品番号がついていない(ベートーヴェンが認めていない?)楽曲を含めると400曲ほど残っているそうです。

自身の判断で作品にナンバーを振ること、これは作曲家としての主体性を高め、

楽曲が作曲家のもの、と宣言した画期的な事だったと思います。

その2. 難聴を乗り越えて作曲をした

耳が聞こえないのに作曲をする、とはどういうことでしょうか。

彼の場合は、20代後半で難聴が悪化するまでは耳が聞こえており、40代で完全に聴力を失いました。

 

聴力を失う前にすでに絶対的な音感があったからこそ、頭でなっている音を楽譜に書き記すことが可能でした。

聴力を失った後は、割り箸のようなものを皮膚に当てて振動で音を感じていたという話もあります。

 

その影響なのか、どの楽曲にも極端な音量差を求めており、フォルテから突然ピアノ、という部分が多くみられます。

ベートーヴェンの表現においては、ダイナミックな音量差がどうしても必要だったということです。

 

彼が聴力を失わないままだったら、果たしてこれほどまでに絶望と歓喜を表現できたのか。

過酷な運命は、彼に与えられた使命であったのでは、と思わせるほどの大きな影響でした。

その3. 音楽を「芸術」に高めた

 

 

ベートーヴェンはカント、ヘーゲルの哲学の影響を強く受け、音楽は最高の芸術であり、常に進歩しつづけるもの、と考えていました。

「音楽が芸術である」という常識を作ったのです。

 

クラシックの場合、演奏中静かに聴く、という文化も、ベートーヴェンなくしては生まれませんでした。

 

もしベートーヴェンがいなかったら、クラシックってもっと気軽な音楽、ってことになったかも?!

コハルちゃんには前のスタイルの方が楽しめたかもね。

 

人々がホールで音楽を聴くようになった理由は、ヨーロッパ文化の変化が大きいです。

フランス革命以降、音楽が貴族だけのものから、大衆がホールで聴くものに変化していったのです。

音楽を聴く場所も聴衆も変化する時でした。オーケストラなど大規模の演奏形態が確立したのも、一つの理由です。

 

確かにクラシックが高尚なイメージとなってしまい、堅苦しい印象となったことは否めませんが、

それ以上に音楽を芸術に高め、真摯な態度で挑む、素晴らしい文化とした功績はとても大きいです。

ベートーヴェンの楽曲の特徴

古典派の楽曲は、ある程度先が読める形式を持ちますが、ロマン派は逆に先の読めない新しさに満ちたものです。

ベートーヴェンはその両方を合わせ持った作曲家でした。

 

楽曲の大きな特徴として、強弱の変化が独特である、ということがいえます。

 

弱い音から強い音へ、通常は一つのモチーフ中にだんだんと強くしていく、など段階性を持っていますが、

ベートーヴェンの場合は、フォルテ(強く)が唐突に現れるのです。

その変化は、静寂の中でいきなり車が激突してくるような、衝撃を感じます。

悲劇から歓喜、を表していると言われています。

それは次の展開が予測できない、そんなロマン派以降の性質を持っています。

 

ドラマに満ち満ちた構成、悲しみのハーモニーに現れる救い、これこそがベートーヴェンの大きな魅力でしょう。

 

有名な、交響曲第9番の四楽章(合唱付き)をお聴きください。
歌詞がついていて、とてもわかりやすい動画です。

 

有名なメロディは中間13分頃に登場しますが、何度聴いてもびっくりするのは静寂から突然登場する歓喜の合唱です。

 

 

 

迷いと哀愁に溢れたピアノソナタ第8番「悲愴」

 

ピアノソナタNo8「悲愴」の第一楽章、冒頭部分を例にご紹介いたします。

 

 

楽譜の赤で囲った部分が、「強く(フォルテ)」、赤い四角の後ろは即座に「弱く(ピアノ)」の記号です。

この一ページだけで、8箇所もの指定があります。

 

こういった指示(突如雷鳴のように鳴らし、すぐさま静寂)、がベートーヴェンの楽曲には溢れているのです。

この「悲愴」の冒頭部分はまさに突然嵐、すぐさま静寂の連続であり、

ベートーヴェンの楽曲の特徴を表しています。

 

冒頭部分を弾いてみました。

楽譜と見比べながら聴いてみてください。

 

 

 

突然の雷鳴のような激しい和音、その後の嘆きのような静寂。

安堵はなかなかおとずれないまま、繰り返される第2、第3の雷鳴。

こんなにショッキングな瞬間が短時間に現れては消え…私は、ベートーヴェンの強い迷いを感じてしまいます。

 

迷って迷って、本当の喜びに至るのはいつになるのか。

 

スリリングに突き進む、壮大な物語の始まりです。

この後、この「悲愴ソナタ」は、スピードをあげ、新たなモチーフが登場します。まさにジェットコースターのような展開の嵐なのです。

 

ドイツの石の建物のような厳かさの中に、揺れる心情を感じます。

 

 

ハイリゲンシュタットの遺書

 

人生の崖っぷちに立った時、自分だったら一体何ができるだろう、

時折、数々の歴史人物に自分を当てはめることがあります。

 

音楽家として重要な聴力を失うこと、

これはピアニストであれば手を失うことにも匹敵しますが、羽をもがれるような思いです。

 

自分が生きていく道を見つけるまでにどれほどの苦しみがあったか、彼はその時に有名な遺書「ハイリゲンシュタットの遺書」を綴りました。

これは、弟カールとヨハンに宛てて書いたものです。

 

その内容は、聴覚を失った事がとても辛く、人々に毛嫌いされている現実に向き合うことがとても難しいこと。

また自身の死後についても触れており、遺書として残されています。

家族に苦しみを伝えたい想いに溢れており、家族からの救いを強く求めていたことが見えてきます。

 

実際は、友人、知人から多くの手助けを受け、このあと25年もの間、ベートーヴェンは作曲を続けました。

 

自分を死の間際から引き留めたのは「芸術」である、と書かれています。

 

それをさせたのは一体彼だけの力なのか、困難を与えて本来の作曲家としての才能を開花させる天からの力なのか、

時代の天才を救ったのは、音楽という強い衝動だったわけです。という事実に、強い感動を覚えてしまいます。

 

ーーー

 

今回は古典派の代表格、ベートーヴェンを取り上げました。

 

以前から、ベートーヴェンには強く惹かれていました。

ピアノを通じて自分自身を投影しやすく、弾いていてとても刺激的なハーモニーと展開。

彼の壮絶な人生から生まれるドラマティックなメロディにも魅力を感じます。

 

皆さんの生き方となぞって楽曲を聴いてみると、新たな発見があるかもしれません。

 

 

🎶今日の即興

 

今日ご紹介するのは、「風に吹かれ」という即興ピアノです。

 

風という存在は、髪をゆらしたり、看板を飛ばしたり、自由で強い存在です。

風がない日はなんとなく寂しくも感じます。

 

そんな、風をテーマにピアノを弾きました。

 

 

 

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参考文献:

 

平野 昭 ベートーヴェン (作曲家・人と作品)

三枝成彰 ベートーヴェンは凄い!交響曲全9曲連続演奏会の記録

執筆

ピアノ講師、ピアニスト、作曲家

東 真未

 

7才よりピアノを始める。洗足学園大学ピアノ学科卒業 。 ドビュッシー、サティ、バルトークなどの作曲家に影響を受け、幼少の頃より即興演奏に親しむ。近現代の作品を多く演奏し、卒業後はピアノ講師として5才から80才まで幅広く講師を行う。 自身がリーダーを務めるグループにて即興音楽を行い、数多くのセッション、バンドにキーボード として参加。作曲、アレンジ、ライブ活動、劇団や創作童話への楽曲提供及び演奏を行っている。ピアノを使った老化防止や心のケアを研究中。---マミィのピアノ教室、生徒募集中!!(※立川市、日野市にて実施)さまざまな用途、ご要望にお応えします。詳細はメールでお問い合わせください。また、本コラムへのご感想、質問などもぜひどうぞ!アドレス→ piano.mammyhiga@gmail.com

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