音の歴史を知るシリーズ、今回は古典派の時代の作曲家について。
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、と有名な作曲家が数多くこの時代に活躍しています。
今回は、みなさんもご存知のモーツァルトについて取り上げてみたいと思います。
世界中でなぜモーツァルトの音楽は特別と言われているのか、
またこの音楽がクラシックを勉強していない方々にも影響を与えている所以について、考えていきたいと思います。
そうそう。あの曲を作った人だよ。コハルちゃんの年の頃にはもう作曲もしてたんだって。
コハルも作曲したよ~
そうだね!モーツァルトはもっと長い曲を楽譜にしてるんだよ。
コハルちゃんもやってみる??
ええー!あんなにたくさんの音は無理だよ。カール助けて~
ぺろぺろ
安心して!コハルちゃんも十分すごいんだよ!
モーツァルトがものすごく特別なの。どうしてここまで歴史に残る人と言われているのか、紹介するね。
モーツァルトの何がすごい?
その1「楽曲の数」
モーツァルトは、35歳という若さで亡くなりましたが、断片的なものも含めると900曲以上の楽曲を作曲しました。
ものすごいスピードで作られたにもかかわらず、駄作や楽譜の書き直しが非常に少ない、
つまり精度の高い仕事を短期間で成し遂げたのです。
当時は修正テープのように一度書き入れたものを綺麗に直す手段もなく、全てインクで紙に書き記す必要があります。
そんな中で書き直しや誤記が非常に少ないということ。
これは頭の中に全ての音が仕上がった状態で、一気に書き記した、ということでしょう。
また同じ古典派のベートーヴェンのように苦悩に満ちた作曲、というよりは
軽やかに心に浮かぶ曲を残していった、まさに天才でした。
その2「神童」
天才児として演奏旅行で大成功を収めたり、5、6歳の頃にはすでに譜面を書き作曲していたという逸話が、星の数ほど残されています。一体どういった家庭環境からこのような天才が生まれたのでしょうか。
ザルツブルグに生まれたモーツァルト、両親とも音楽家をしており、家の中は常に音に溢れた環境でした。
幼少のモーツァルトは、コップに水を入れて音階を鳴らしてみたり、父親にクラビコードのレッスンを受けたいと駄々をこねたりと、音楽への思いがすでに溢れていたようです。
願いが叶ってレッスンを始めた後は、猛スピードで上達し、先にレッスンをしていた姉をあっという間に追い越したと言います。
またこんな逸話も。
14歳の頃、システィーナ礼拝堂で歌われていた曲は、門外不出の楽曲とされており、楽譜も出回っていませんでした。
それをモーツァルトは2日間通い詰め、外で聴きながら楽譜に起こしたということです。メロディのみならず、女性・男性の混声の複数パート全て。10分を超す楽曲です。驚異的な音感と集中力が必要でしょう。
そして大変な努力家であり、幼少の頃より父親レオポルトからの厳しいレッスンに耐え、
相当の時間を作曲に費やしたと言われています。
生まれ持った天性の性質に加え、音楽に対しての強い思いがあったため、辛い音楽のレッスンや勉強でも耐えられた、
これが天才を生み出した大きな理由と言えるのではないでしょうか。
その3「楽曲の幅広さ」
声楽、ピアノ、室内楽、協奏曲、オーケストラ、と作られた作品のジャンルがとても広いこと。
これはモーツァルトがどんな楽器であっても完璧に頭の中で響かせることができた証でしょう。
全てのパートを聞き分ける耳、どんな楽曲にもモーツァルト節に溢れて独創性を失わずにいることは、並大抵ではないでしょう。
モーツァルトの音のチカラ
モーツァルトの楽曲を聴くと、胎教に効果がある、頭が良くなる、お酒や豚や鶏の味が変わる、などなど。
様々な効果を伝える記事や噂を皆さんも聞いたことがあると思います。
人体に効果があると言われるモーツァルトの楽曲について、
音楽が与える健康や教育に関する研究を行っている、アメリカのドン・キャンベルは、それを「モーツァルト効果(Mozart effect)」という名で商標登録まで行っています。
この楽曲を聴くことにより、てんかん症状が和らいだとNatureに掲載されていた研究記事(英文)です。
Musical components important for the Mozart K448 effect in epilepsy
この研究記事が発表されたことで、様々な実験が行われました。
一例を挙げると、
・ラットに聴かせると、聴いていないグループよりも迷路をいち早く出ることができた。
・学生に聴かせたところ、空間認識テストにおいて、高い成績を残した。
この楽曲の持つ高周波、かつ聴き心地の良さのためか、被験者の脳、神経の活性化が確認されたとのことです。
2台のピアノのためのソナタ K.448
いかがでしょう。キラキラした気持ちの良い楽曲です。
そして確かに、高音で華やかな音が目立ちます。
音楽は耳だけでなく皮膚を含めた全身に行き渡ります。
それが人の何かに作用していく、それはこのコラムで繰り返し取り上げているのですが、
赤ちゃんや、病気の方が聴いた時に穏やかな気持ちになる音楽。楽曲の素晴らしさにプラスアルファの要因が重なった結果です。
どんなに高周波であっても、それが聴いていて不快な音であれば、この結果は生まれないということです。
余談ですが、先日、モーツァルトを聴かせて発酵した日本酒をいただきました。
モーツァルト ピアノソナタ K330を骨伝導スピーカーでもろみに聴かせたとか。
確かにどこかまろやかな優しい味わいで、美味しかったです!
実際の差はわからないので、聴かせないで醸造した同じお酒と飲み比べしてみたいですね。
モーツァルトの心の抑圧
モーツァルトというと、曲調も素直で明るいものが多く、明るい人物像を浮かべてしまいます。
映画「アマデウス」で描かれている彼の人となりは、非常に無邪気、陽気すぎるほどの人物でした。
幼少期の天才がそのまま大きくなり、簡単に作曲をやっていた印象を持ってしまいがちですが、心に闇も持っています。
彼の楽曲がほぼ長調(明るい調性)だった理由、それは、その父親の存在であった、とのことです。
幼少期の頃に、完璧な音楽教育を施した音楽家レオポルトですが、
すでに音楽家として活躍していた頃、モーツァルトへの支配ぶりは相当のものだったようです。
演奏や作曲の仕事も父親が全て完璧にマネージメントし、
その要求で売れる明るい音楽ばかりを求められていたようです。
彼が逃げるように父親から離れ、その父親が亡くなってようやく、短調(悲しい調性)の楽曲が生まれます。
父親から離れた後も、父親に宛てた手紙が残されていたようです。
その手紙には、自分が独立してからの活動や、それが絶賛されていることが書かれていたとか。
やはり、父親に認めてもらいたい、という思いが強かったのでしょう。
その思いを考えると、天才ではなく、一人の人間モーツァルトを感じます。
有名な楽曲ですので、聴いたことがある方もいらっしゃると思います。
人間のドラマを感じる、強い思いを感じる第一楽章、
穏やかでほっとする第二楽章も、ただ明るいだけではない、どこか悲しみに満ちています。
そして、軽やかに一気にクライマックスへと、突き抜けるような第三楽章。
ピアノ協奏曲20 番 K.466 です。
モーツァルトを演奏するということ
実は、私は個人的にはあまりモーツァルトは弾きません。
が、ピアノ講師である以上、当然避けては通れません。
もちろん学生まではいくつか弾いてきていますが、今改めて弾くには勇気が必要です。
なぜこれほどまでの巨匠の音楽を弾きたいと思わないのか、
自分でも大変興味があり、今回の執筆に踏み切りました。
前回の23回目コラムでも触れましたが、
その時代に作曲家が残した楽譜に書かれている指示に従い、演奏すること、これは鉄則です。
そして大変に難しいことです。
モーツァルトは特に細かいフレーズが多い、スピードが早い、そしてそのフレーズや進行が意外と素直ではない。
シンプルで素直に聞こえますが、実際、正確な細かい動きを演奏するには、相当のテクニックが必要です。
今回、このコラムを通じて色々と再認識がありました。
ドラマティックな後期の作品は、改めて勉強してみたいと思います。
今回は西洋音楽、古典派の時代でモーツァルトを取り上げました。
耳と脳、神経、全てを解放して、楽曲をお楽しみください。
そして、聴くときはスマホや本などを見ながらの「ながら聞き」をせず、
音の粒を感じながら聴いてみませんか?
きっと、モーツァルト効果が実感できるのでは?
🎶今日の即興
今日ご紹介するのは、滝の流れをイメージした「Water Fall」というタイトルのピアノ即興です。
梅雨の季節はどうしても鬱々としますが、
気持ちの良い滝の流れを思いながら、気持ちよく乗り切りたいですね。
モーツァルト、知ってる!マミィが前に「トルコ行進曲」弾いてくれたよね。